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鎧鋼凰記  作者: 一一
第一章 愚者の檻
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友と言う名の道標

予告通り、連日投下します。

ストック分は尽きたのでまたしばらく間が

空くと思いますが、次は1か月も開かない……

といいなぁ……

 二人が機体の簡単な操作確認と、着替や模擬戦闘の申請手続きをしている間に、イクスフェスは中断していた鍛錬の続きを行った。本当はこの後に書庫で座学を行う予定であったが、それは断念する。愛機を貸しっぱなしと言うのも問題であるし、やはり立ち会うのが一番だろう。


 それに、二人に言った通り、他人が自機をどう扱うか見たいというのが強い。

 この施設では、模擬戦闘の申請は時間帯で決められており、一回の申請で一時間と決まっている。しかし一度の模擬戦は最長で三十分。つまり最低でも二回は対戦する事になるが、実際は大体十分程度で模擬戦闘に決着がつき、機体の損耗が軽微である場合は直ぐに次の模擬戦が行われる。損耗が激しい場合は残りの時間で機体整備を行い、次の模擬戦を行うのが通例だ。


 つまり、大体の場合は三~四回は戦える。参加人数も偶数人と決まっているので、必ず誰かと対戦出来るようになっている。勿論、時間内であれば対戦相手を交換しても良い。


 先ずイクスフェスの愛機に乗って現れたのは、約束通りメイリーンだ。初めて乗ったのだが、訓練所でも使用されているグランツ機体と言う事で、問題なく操縦出来ているようだ。


 彼女の対戦相手は、別部隊に配属された訓練所同期だ。基本対戦相手も配属期間や機体搭乗時間が近い者が割り当てられる為、同期同士で当たる事が圧倒的に多い。


 無論、同じ時間に同期が居ない場合やどこぞの猛獣の様に新人機士を名指しで指名してくればその限りではないが。


 メイリーン操るイクスフェスの愛機が割り当てられた模擬戦場で相手と向かい合う。相手の機体もグランツ機体だ。互いに機体に礼をさせると、武器を構え模擬戦が始まる。


 最初の頃こそ多少のぎこちなさがあった物の、直ぐに動きは様になり、メイリーンは激しく対戦相手と剣戟の応酬をする。


 武装も相手と全く同じ、片手剣と盾。機体も同じ型となれば、ものを言うのは操縦技術だ。

 互いに一歩も譲らない戦いを見ながら、イクスフェスは、


「凄いな。最近はあまり鎧鋼機兵に乗れていないとの事だったが……中々どうして、良く動くなメイリーンは……」


 彼女の操縦に感嘆の声を上げる。アルスタの様な、目を見張るような技量こそないが、模擬戦場を縦横無尽に掛けながら戦うメイリーンの操縦技術は侮れない物がある。


「しかし良く走らせるな、メイリーンは……私でもあそこまで走らせた事は無いぞ」


 近距離での剣の応酬でラチが開かないと見たメイリーンは、距離を取ると走りながら霊洸弾(プラズムショット)を牽制で放ち、相手を翻弄し、怯んだ所を一気に駆け寄り斬撃を浴びせてすぐさま距離を取る、一撃離脱戦法を取っている。


 自分の機体が、操縦者が変われば動きもここまで変わる物なのか、と妙な関心をする。咄嗟の時に四肢の駆動が怪しくなる事もあるが、イクスフェスはどちらかと言えばあまり移動をせず、相手の攻撃を受け止めて反撃するスタイルである為、自分の機体がココまで走り込めるというのは初めて知る思いだ。


「アレ、多分今の部隊に配属されてからの癖じゃない?ほら、メイちゃんの機体は獣型だから。訓練所時代はあそこまで走り回る事は無かったンじゃない?」


 後手となった為に、イクスフェスと同じ場所で、やはり見学していたトーニャが眼前の戦闘に目を向けたまま言ってくる。


「なるほど……言われてみれば、あそこまで走らせる所は見たことが無いな」

「獣型は走ってナンボだし。機動力主体の戦い方が性に合っちゃったンじゃないかな」


 グランツ機体は重量機寄りの機体で、機動力に難があると思われがちだが、それでも中量機の部類に入る。ある程度の機動力は有るので、やろうと思えばあれ位は十分走れるだろう。


「やはり、自分以外の人間の操縦を見るものだな。自分ならあの機体であんな戦法を取ろうなどと思いもしなかった」


 二人が見ている間にも戦闘は続き、八分ほどの時間でメイリーンの勝利で幕を閉じた。その後、十五分程かけて機体整備――初めて乗った機体なので慎重を期した様だ――をした後、同じ相手と再戦をする事にした様だ。


 メイリーンは今度も走り回る戦法を取ったが、相手も流石に対策を練った用で、先の模擬戦よりも時間が掛かり、結局一五分程戦闘を続けたが今度は負けてしまった。


 上手くすればもう一試合出来そうだったが、メイリーンは一勝一敗のこのままで終わりにする様だ。トーニャがと入れ替わりでイクスフェスの元に戻って来た彼女は、引き分けの戦績の割にはサバサバとした表情をしている。


「いやーっ、アンタの機体、思わず目一杯走り回しちゃったけど、随分と素直で操縦しやすくてビックリしたさ!ウチの部隊の機体よりも扱い易いさね!」

「どこの機体も似たような物だろう?訓練所もあんな感じで動かせたではないか」

「そりゃぁさ、アソコの機体は新人用だからさ。扱いやすい事()()が特徴さね。でもその扱いやすさは、簡易型鎧格(エコノミーフレーム)を使って、意図的に可動範囲とか反応速度とかを絞ってあるからさ。軍用の鎧格(フレーム)を使用していて、あのクセの無さと操縦のしやすさは、ちょっと無いさね」


 鎧鋼機兵は同一の機体であっても鎧核(コア)自体に微妙な差があり、更に使う鎧格の精度や相性により性能に差が生まれる。なので、同一種の機体でも操作感覚はどうしても変わる。


 しかし、訓練所の機体は簡易型鎧格を使う事で、可動範囲や出力を限定し意図的にパワーダウンさせる事でその辺りの差が出るのを抑えて操縦しやすい様に調節されている。


 加えて、簡易型鎧格は使用素材が安価で部品点数も少ない為コストダウンにもなっている。代わりに鎧格の耐久性能が落ちているが元々訓練用であるため壊れるのが前提であるので、そこまで問題視されていない。


「ふぅむ……そんな物なのか……言われてみれば卒所してから直ぐにあの機体を宛がわれたから、他の機体の事は意識してなかったな」


 どうにも彼女には実感の湧かない事だ。精々が、訓練機よりも総合的な性能が向上しているだけの、他は大差のない特徴の無い機体と言うのが彼女が自機に対して抱いていたイメージだ。

 そんな話をしている間に、整備が終了したグランツ機体が模擬戦場に現れる。操縦している勿論トーニャだ。


「ほう……槍か」

「ああ、あの子はアレの方が得意だったからね」


 トーニャが乗るグランツ機体は、メイリーンの時とは違い両手持ちの(ロングスピアー)を一本抱えている。盾は持っていない。代わりに、なのか腰部に小振りの(ショートソード)を二本マウントしている。


 彼女の相手は、今回丁度いい同期が居なかったのか、先輩の機士だが、使用機体はグランツで、やはり条件は対等と言える。


 模擬戦が始まると、トーニャはその場から動かず槍を構えさせる。練習用の槍なので穂先は潰され、ただの鉄板が付けられているだけで殺傷力は低いが、それでもリーチの長さは健在だ。


 対する相手の装備はスタンダードに剣と盾。相手は如何に槍を掻い潜り懐に飛び込むか、トーニャは如何に槍の距離に釘付けにして近寄らせないか。そういう解り易い戦闘の運びになるだろうとイクスフェスとメイリーンは予想する。


 模擬戦開始早々、トーニャが槍で鋭い突きを放つ。離れた場所から見ていても、彼女が狙いすまして突く場所は間接部分や装甲の継ぎ目等の急所となりえる部分で、先輩機士は防戦一方となり、数分で盾を飛ばされた時点で終了となった。


「何と言うか、普段の言動からは想像が付かない位に堅実な戦い振りだな。訓練所時代とは戦い方が違うな。あの頃はあまり槍は使ってなかったと思うが」

「訓練所時代から、あの子は堅実な戦い方を好んで居たさ。アソコの機体だと動作が鈍いからすぐに間合いを詰められて槍は不利だ、とかで大体腰の短剣を使っていたさね」


 やがて、互いの機体自体にはダメージが無かった為、数分の間をあけて模擬戦が再開される。

 今度も先にトーニャが仕掛ける。やはり槍のリーチの長さを生かす戦い方を主軸とする様だ。しかし、相手はまがいなりにも先達の機士。二度目ともなれば槍筋を見極められるようで、盾を使い最小限の動きで捌き、距離を詰めていく。


 剣が届く距離まで詰められ、流石に槍では不利になる。と、見た瞬間、トーニャは即座に槍を放棄し、腰にマウントした二本の短剣を引き抜き、撃ち込まれた剣戟を往なす。


 それまでの極端に動きの少ない突き主体の槍捌きとは打って変わり、両手の短剣を器用に操り、相手を追い詰めて行く。


「ああ、やっぱり近づかれたらああなるのさね」

「思い出した。あの動き、あれこそ訓練所で良く見せていた動きだ」


 トーニャは、訓練所では主に短剣を双剣として扱い、左右からの細かい動きで、まるで追い詰める様に攻撃を重ねていくスタイルを得意としていた。


「槍の時はどちらかと言えばその場から動かずに攻撃するスタイルで、近づけば縦横に動くスタイルか。しかも短剣でも的確に急所を狙っているな」


 彼女とは訓練所時代と、その後の配属後も何度も模擬戦闘を行っている。しかし、練兵場での対戦ではここまでの動きは出来ていなかった様に思う。


 二回目の模擬戦も、そのままトーニャが押し切り連勝する。まだ時間が残っているので、調子に乗った彼女は、そのまま三戦目に突入する。

 だが、流石に三連勝は無理だったようだ。手の内を読まれ、あっという間に操縦席に剣を突き付けられてしまった。


「うぅン、残念。このまま連勝して一気に戦績を上げれるチャンスだったのになぁ」

 機体を駐機場に戻したトーニャが、ブツブツと言いながら二人の所へ帰ってくる。


「しかし、イクちゃンの機体、良いね!クセが少ないし、レスポンスも良いし!とっても素直で扱いやすい機体だったよ!」


 どうやら二人が操縦しても、イクスフェスが感じていた急激な動作をした時の関節部の遅延は感じていないようだ。


「むぅ……トーニャもか。メイリーンも同じ様な感想だったが……他の部隊の機体は、そんなに癖が強い物なのか?」


 やはりこれは、自分の操縦方法に癖があるという証左であろう、と考えながら、彼女が唸るように言うと、二人は互いに顔を見合わせ苦笑する。


「アタイの部隊のは三人で乗り回しさね。それも正規操縦士だけでさ。アタイらが訓練で借りるのも入れたら五人で交代さね。それだけの人間が使っていたらどうしてもクセが付くさね」

「メイちゃンの所はまだマシな方よ。アタシの所なんか二機しかないのに、一機が実質隊長専用だから一機を全員で乗り回しだよ。操縦系統の調整なんて有って無い様なもンよ」

「大人数で乗り回していると、どうしてもその辺の調整は適当になるからね。ウチの機体は操縦グリッドの遊びが多いから変な挙動になるさね」

「アタシの所は操縦シートの固定がガバガバだよ。警邏で移動が多いのに毎回座席位置が変わってさ。足回りの調整だけ優先させていて他が適当だから扱い難いったら無いよ」


 と、二人で愚痴りだす。


「新人で自由に鎧鋼機兵を動かせるのは、他に機士が居ないっていうイクスみたいな特殊な例外か、アソコに居る、我らが同期の自慢の『無敗の男』位さね」


 メイリーンがそう言って顎で指示した先には、模擬戦闘を終えたのか、駐機場に向けて移動中のゼルファ機体――ヴェグスと名付けられたアルスタの愛機の姿があった。


「流石に王位継承者様の直属部隊だもンね。アソコは機士一人に一機ずつ配備されているって話だもンね。一機位回して欲しいなぁ」

「次期親衛隊も兼ねてるって言われていて、配備されている機体はゼルファやヘイルードばかりだって話さね。鎧格も特別調整機体(カスタムメイド)用並に良い物で揃えているらしいさね」


 トーニャもメイリーンも、羨ましそうに言う。ヘイルードは普及型(コモンタイプ)鎧核の機体だが、ゼルファと同じくグランツよりも個体数が少なく、中量級ど真ん中の性能で汎用性に富む。


 装甲こそ若干劣る物のその他はグランツより上回る機種で、ゼスター王国では主に熟練機士や隊長クラスに支給されてる機体として知られている。


 機動性の高いゼルファも操縦が難しく、やはり熟練者や技量の高い者に充てられる。つまりあの機体に乗るアルスタはそういう機体を宛がわれる程の技量の持ち主として認められている、と言う事だ。


「専用機があるってだけで羨ましいのに、更に高性能機体ってんだから、贅沢な話さ」

「そうだね。アルちゃンの実力なら当然だと思うよ。でもさ、ただでさえ勝てないのにあんな機体に乗られたら余計に勝てなくなるよね」


 彼女達がぼやくのも無理はない。正直イクスフェスも同じ思いだ。ゼルファ機体に乗ってからのアルスタは、益々手強くなっている。


「でも、イクスはこの前惜しい所まで行ってたじゃないさ」

「……見てたのか?」

「ウンウン!私も丁度訓練で来ていて見てた!あと一歩の所で残念だったよね!」

「全くさ。しかし、あれで同期の中でアルに土を付けられる可能性が一番高くなったさね」


 口々に言う二人に、イクスフェスは困った顔をする。彼女自身の中であの模擬戦闘は、実力に寄らずに戦った結果、勝利に手が届きそうになったに過ぎない。


「あの戦闘は忘れてくれ。あれはただの気の迷いだ。次からはいつも通りにすぐ負けるだろう」

「……『ただの偶然』じゃなくて『ただの気の迷い』?何さそれ?」

「何か良く分からないよイクちゃン?」


 不思議そうな顔の二人に、イクスフェスは一人晴れやかな顔になる。


『やはり、機体の出力を変えても変えなくても、あの違和感は起る。しかし、この二人はそれを感じる事は無く、むしろ扱いやすい機体だと考えている』


 その事は彼女にとって大いなる収穫だった。


『つまりは私の操縦法に問題があり、それは改善できると言う事だ』

 親友でもある二人の同期機士。彼女達の操縦方なら関節の異常は起らない。特別な調整など必要無いのだ。それを彼女達が証明してくれたと言う事。

 それはこれから自分がが進もうとする道の、大いなる指針になる物だとイクスフェスは思った。

宜しければ評価、ご感想などを頂けると嬉しいな~と思ったりします。


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