実力とプライドと。
時間予約の日付を一日間違えていました……
そして、ストック分はこれで終了です。なので
次回からの更新は恐らく数日おきになると思います。
m(__)m
イクスフェスがノーヴァンに一泡吹かせた試合から一週間が経った。
今日も今日とて練兵場通いの彼女は、因縁の相手であるアルスタと模擬戦闘中だ。だが――
「ええい……忌々しい!」
この日もイクスフェスの機嫌は最高に悪かった。
この頃には既に鬼より怖いと噂される『濃紺の魔獣』は王都での用事を済ませて自領に帰っており、魔獣との連続模擬戦闘からは解放されている。代わりに彼女がノーヴァン相手に善戦したという噂を聞きつけた機士達から代わる代わる模擬戦闘を申し込まれるようになっている。
模擬戦を申し込んでくる者の多くが古参の機士で、実力は遥かにイクスフェスより上だ。
彼らに勝てないから彼女の機嫌が悪い――訳では無い。この一週間の勝率は六割と、むしろ勝っている。現に今対戦しているアルスタとも、彼女の方が優位に立っている。
そう、勝っている。それこそが彼女の機嫌が悪い原因だ。
軽量機体であるアルスタのゼルファ機(ヴェグスとアルスタは名付けている)は、彼女のグランツ機より機動性に優れており、速度を生かした戦法を得意としている。
今回もアルスタは速度に物を言わせた変則的な機動でイクスフェスを翻弄しようとするが彼女は自ら動こうとはせず、普段使用している物よりも一回り大型の盾を機体前面に構えたまま常にヴェグスと正対し、アルスタが近づくのを待ち続けている。
盾を構えたまま動かず常に正面を見せるイクスフェスの操縦は、同期で負け無しを誇るアルスタをして相当に遣り難いらしく、普段に比べて手数が圧倒的に少ない。
「チッ、何時もより動きが鈍いではないか、アルスタ……?迷うなどお前らしくもない」
舌打ちと共に、益々不機嫌な声でイクスフェスが一人ボヤく。
何時もよりも大きい盾に守られた彼女の機体は極端に露出部分が少ないため、アルスタがどこを攻撃して来るか限定しやすく、また、常に正対しているために僅かに盾を持った手を動かすだけで、容易に防ぐ事が出来た。
結果、果敢な連続攻撃を常とするアルスタの攻撃は単発の斬撃が増え、攻撃を防いだ隙にイクスフェスが反撃を行う、といった単調な戦闘が既に五分以上繰り返されている。
堅牢な盾に守られた彼女の機体はほぼ無傷だが、アルスタのヴェグスには――致命的な物こそないが――装甲に数か所の切傷が入っていた。
地味な攻防の応酬に終始しているが、これまで一方的な攻勢に押し切られ一度も勝てていない相手だと考えれば、彼の攻撃をここまで封じ込めたイクスフェスの快挙と言ってよい。
ましてやアルスタのヴェグスにここまで傷らしい傷を負わせたのは、同期には一人もいない。
「お前をここまで抑えられるとは我が事ながら……実に忌々しい!」
にも拘らず、何処までもイクスフェスの顔には不機嫌の色が浮かんでいる。無敗を誇る相手に優位に立てているからこそ、彼女の機嫌はどんどんと悪くなっていたのだった。
確かに、連日の『濃紺の魔獣』との模擬戦で、イクスフェスの操縦技術は大分底上げされた。加えて、他の機士に比べ圧倒的に訓練に裂ける時間が長い。
以前に比べれば勝率は段違いに良い。だがそれでも、同期随一の技量を誇るアルスタをして手こずらせる程の、急激な成長を彼女が果たした訳では決して無い。
全てはあの男――マルストールの助言に因る物だ。
『高速戦闘が得意な者にとって、苦手な相手とは何だと思うね、機士殿?それは動かない相手だ。常に同じ距離を保ち、常に同じ向きでいられる事ほど厄介なことは無いだろう』
ノーヴァンとの模擬戦で的確な助言と驚異的な予測を見せたマルストールに興味を惹かれたイクスフェスは、面会の度に鎧鋼機兵の操縦について質問をする様になっていた。
最も、もっぱらイクスフェスが模擬戦に勝てない事の愚痴を言い、それを聞いたマルストールが本を読みながら、ボソボソとアドバイスじみた事を言う、と言った感じの物だが。
『機士殿の話から推察するに、そのアルスタと言う機士は軽量機体の特性を最大限に引き出した戦法を得意とするのだろう。だが、どんなに早く動こうとも動かない相手に攻撃すれば、どうしても自分の動きも止まってしまうからな』
ましてや軽量機、動きの止まった所に反撃を受ければ確実にダメージを与えられるだろう、とマルストールは何時もの様に本に視線を落としたまま、それが質問――と言うか愚痴――に答える時の癖になったのか、例の爺口調で、さして興味無さそうに言う。
『機士殿は、大盾でも装備すれば防御力でもそのアルスタ君より優位に立てるだろう。後はひたすら彼の機体を正面に捉え、攻撃を防ぎ反撃を与え続ければ十分勝機が有る、と思うがね。最も、模擬戦の様に一対一で、しかも行動範囲が制限される試合場でしか使えない手だがね』
先日の面会の折に、アルスタに勝てない事を愚痴った所、このような言葉が返ってきた。
そんなに上手く思い道理に動いてくれる物か、と思いつつも言われた通りの戦法を取ってみた所、これが見事にはまっている。
「クソッ!こんな方法で……あのアルスタをここまで追い詰められるとは!」
距離を開けてゆっくりと右回りに旋回していたヴェグスが弾かれた様に急接近し、斬撃を繰り出すのを大盾で受け止めながらイクスフェスは苦々しく吐き捨てる。
過去に一度も勝てなかった相手に対し大健闘――どころか圧倒的優位な戦況にありながら、彼女の内心は不愉快で彩られる。
今回の模擬戦は実に単調な展開だ。以前の様な激しい剣技の応酬もなければ鎧技を織り交ぜた手の内の読み合いもなく、ただ機械的に盾で受け止めた剣を弾き返しつつ反撃を入れる。
ただそれだけしかしていないにも関わらず、ヴェグスの装甲にはまた一つ傷が増える。
無論、言う程楽な事では無い。機動性に優れたヴェグスを常に正面に捉え続けるには、結構な集中力を必要とする。油断すればあっと言う間に背後に回られかねない。
しかし とイクスフェスは思う。自分は何もしていない。ただあの男――マルストールの助言通りにしているだけだ。
「ただそれだけで……」
あのアルスタに勝てるかもしれない。現状を見るに、ここまでダメージ差がついてしまえば、引っくり返すには強引な手段でゴリ押すしかない。
しかし、彼女の機体、グランツ機はラルヴァ機体に機動性は劣るが出力は勝る。元から装甲がラルヴァ機体よりも厚い上に、今は大盾を装備している。
重量が増した分、機動力は更に下がってしまったが、正面に構えれば機体の大部分が盾に隠れ、攻撃を受ける面積が少ない状況を作り出せている。つまり、装甲が厚く守りが固いという長所が極端に強調されている、と言う事だ。しかし、同時に更にヴェグスとの機動性に差が出る事になる訳でもあるのだが――
「戦闘場所が限定されていている練習場、しかも一対一の状況では一方向だけに注意を向けることができる……多少動きが鈍くても十分対応できる、か。クソ、これもアイツの言う通りだ」
再び距離を詰めたヴェグスの、地面を掠めるような下方向からの斬撃を、冷静に盾で防ぎつつイクスフェスは悪態を吐く。
耳障りな音と共にヴェグスの剣がグランツ機体の盾の装甲を削る。これまで何度か繰り返された攻防の形だ。しかしこれまではイクスフェスの反撃を警戒しすぐ距離を開けていたのが、直後に二撃目が上方行から襲ってくる。無論それも難無く防げたが、ヴェグスは止まらず三撃目、四撃目と、次々と流れるような動きで斬撃を繰り出し、彼女に反撃の隙を与えない。
「クッ……何時になく苛烈な攻撃じゃないかアルスタ……勝負に出てきたか?」
流石に防ぐのに手一杯になったイクスフェスは、盾の向こうの、まるで演舞の様に流麗な動きで攻撃を繰り出すヴェグスに向けて呟く。
アルスタがこれまでイクスフェスとの模擬戦でこれ程の攻撃をしてきたことは初めてだ。いや、同期全
員含めても初めてであろう。彼女が知る限り、アルスタがこれ程の激しい攻め手を見せたのは訓練所時代に『濃紺の魔獣』ことノーヴァン相手の時だけだ。
同期無敗の男が、ノーヴァンと戦うときと同じ様な攻撃を見せてくる。それは彼女にとって同等の相手と認められた、と感じることができる事柄だ。
普段の彼女であったなら。
攻撃が激しくなればなる程――今の彼女の気分は暗く沈む。不愉快な思いが増していく。
「この猛攻はただの布石……ここまでのダメージ差で戦況をひっくり返すには、まず私の守りを崩す必要がどうしてもあるのだからな。」
先が読めるからだ。それも二年以上も何度も対戦して手の内を知り尽くしているから、ではない。一度も本人と相対したことがなく、ここにいない筈の、「あの男」に言われたからだ。
「前面の攻撃に目を向けさせておいての、横から変則的な一撃。それも鎧技を私の盾に打ち込み体制を崩させる。冷静沈着でなお前が一か八かの賭け的な攻撃はしないと考えるからな!」
操縦席で呟いたイクスフェスの声が聞こえた訳も無いが――盾越しにアルスタの操るヴェグスの右手甲の鎧晶が淡く輝き、その光が手にした剣を覆っていくのが見える。同時に左脚部の鎧晶も輝いているのが目に映る。
「っ……?霊洸斬と霊洸脚が同時……?応用鎧技で来るつもり、か!」
鎧鋼機兵の特徴である鎧技による攻撃方法は、基本鎧技である四つの他にも幾つか存在し、基本鎧技の組み合わせ、あるいは同時使用する攻撃方は応用鎧技と呼ばれ、威力は基本鎧技よりも一ランク上だとされているが、その分生体エネルギーの消耗が激しい。
「剣と脚と言う事は……お前の得意な『豪速斬』か。それを私相手に使うとは……!」
霊洸脚と霊洸斬を同時に使用するこの技は、高速移動をしながら大打撃を与えられるという、アルスタが最も得意とする鎧技だ。イクスフェスがノーヴァンと模擬戦で似たような事をしていたが、単純に霊洸盾と霊洸脚を別々に出しただけであり、応用鎧技とは似て異なる物だ。
「だが、私相手に出した事は一度もない……本気になった……?あのアルスタが、この私相手に……本来格下である私相手になりふり構わない、お前のそう言う所は嫌いじゃない」
言葉とは裏腹に、イクスフェスは淡々と呟く。本来、彼女は本気をむき出しにしてくる相手と戦うのは好きだ。鎧鋼機士となったからには、本気と本気をぶつけ合う――血が沸騰するような戦いこそ望む所だ。機士冥利に尽きる、と言う物だ。しかし。
「だが私はお前がそうして来る事をもう知っている」
応用鎧技を使用して来たのは予想外だったが、大盾を狙って強烈な一撃を放って来る事は、既に解っていた事だ。
だから彼女はずかさず自機を後方へ跳躍させた。元々重量機寄りの機体であり、大盾の重量も加わり大した跳躍距離ではなかった。が、それでも迅速と苛烈を誇る一撃を避けるには十分な距離だった。前面への攻撃から横方向への攻撃に切り替わっていた事も大きい。
「幾ら応用鎧技を使おうとも、予め解っていれば私でも避ける事は出来るんだぞアルスタ!」
鎧技、その上位である応用鎧技の攻撃は威力も速度も基本鎧技を遥かに上回る。しかしその分、この様に攻撃をすかされると、その威力に振り回されどうしても機体が釣られる。結果として、横方向の攻撃に切り替えたヴェグスは無防備な上体側部を彼女の眼前に晒す事となる。
「……急所が丸見えだぞ……その体制で反撃を受ければお前でも防げまい!」
アルスタと行って来た数多くの模擬戦の中で、初めて見せた――大きすぎる隙。いくら実力に差があるとは言え、彼女も厳しい訓練を積んできた鎧鋼機士。見逃す筈がない。
操縦グリットを強く握り、生体エネルギーを流し込み脚部の鎧晶と反応させる。基本鎧技の霊洸脚。機動力が落ちた状態でも数歩分の距離を一瞬で詰められる鎧技。
何時もの彼女であったのなら。迷う事なく操縦グリッドを押し込んでいただろう。相手はアルスタ。一度も勝てなかった、遥かな格上相手に余計な事を考えている余裕など本来は無い。
『勝てる……このまま行けば間違いなく勝てる……だが本当に勝っていいのか!?』
しかし、この時のイクスフェスはそんな事を考えられる余裕があってしまった。
「これは私自身の力ではない……あの男の予測通りに動いただけの、戦いとは呼べない物だ!」
そんな思いが頭を過ってしまった。この思いこそ、この模擬戦の間中イクスフェスに言い知れぬ不愉快さを与えていた理由だ。それを自覚するだけの余裕、つまりそれは雑念だ。
結果から言えば。イクスフェスがアルスタに勝つ事は今回もできなかった。
「……なに?」
ガクンと、機体の右脚部から違和感が生じ、ほんの僅かに機体が沈み込む。
「馬鹿な……何故こんな時に!」
かつて頻繁に起きていた、一瞬だけ力が抜ける感覚。かつて彼女を悩ませた、急激な負荷による関節部の作動不良だ。再調整後に一度も起こらなかった現象がなぜ今、とイクスフェスは苦々しく考えるが、半ば反射的にそのまま鎧技を発動させる。
時間にすればほんの一瞬の停滞。だが同期で随一の技量を誇る男にとっては、その刹那的な空白でも充分であったようだ。
空振りした豪速斬の慣性をそのまま回転運動に変え、イクスフェスの機体が飛び出す前に、独楽の様に機体を一回転させながら突進し、彼女の機体を大盾ごと吹き飛ばしていた。
☆☆☆
「え?何、イクちー『また』負けたの?うっそーん」
アルスタとの模擬戦の翌日。この日も臨時の面会と言う名の荷物運びでマルストールの元へ訪れたイクスフェスは、半ば習慣と化した床に転がっている生ゴミ男を蹴り起こすという手順を経て、何時もの如く内容のばらつきが激しい本の束を渡した後、彼が本を読む間の暇つぶしの会話で、模擬戦の顛末を話した所、先の様な言葉が返ってきた。
「おっかしぃなぁ。いくらイクちーがヨワヨワな機士でも勝てる筈の作戦だったんだけどなぁ。アルスタ君とやらの技量を読み損ねたかな……それとも想像以上にイクちーがヘボいか……」
珍しく完全に本を読むのを止め、顎のあたりを右人差し指でコリコリと書きながら、ウンウン考え出したマルストールに、何時もの椅子に腰かけたイクスフェスは不快な表情になる。が、
「別に貴様の読み違いではない。貴様の姑息(、、)な作戦通りに進めていたら勝てていた筈だ。勝てなかったのは単に私がヨワヨワでヘボ機士であったというだけの事だ」
「ほう…………?」
素直に己の力不足を認める発言に、マルストールは興味深そうにイクスフェスを覗き込む。
「…………何か言いたそうだな?」
「いや別に。ただ、機士殿にしては随分と含みがある言い方だと思うのだよ。まるで己が負けた理由がわかっているような言い方ではないかね?」
普段のからかう様な子供じみた口調ではなく、年寄口調で言ってくるマルストールに、イクスフェスは顔をしかめる。ここ何回かこの口調の時に相談を受けていた為、なんとなく内心が見透かされているような気がし、彼女は吐き捨てるように内心を吐露した。
「貴様に教えられた作戦は見事に嵌った。あのアルスタを相手にあそこまで追い詰める事が出来たのは、ひとえに貴様に教えられた戦法のお蔭だ。正直に言えば勝てていた模擬戦だ」
これは掛け値なしに本音だ。だが同時に、こうも思う。
「しかし、本当に勝っていたとしても、それは私がアルスタに勝ったことにはならない。貴様の読みと作戦が、アルスタよりも優れていただけに過ぎない」
要は、そんな勝ち方をした所で、結局は「自分の実力」ではないのだ。
「アルスタは訓練所時代から今に至るまで一度も勝てなかった男だ。他人の力で勝っては意味が無い。私自身の力で、正面からぶつかって勝利して、初めて意味があるのだ」
アルスタの時の様に、予め自分が有利になる装備を整えたり、ノーヴァンの時の様に、一回の勝利の為にその前の試合を捨てるなどの戦い方は、そもそも好きになれない。
「機士は普段から修練を重ね、その修練の成果をぶつけ合うのが模擬戦闘だ。ただ勝てれば良いと言う考え方は好かん。より修練を積んだ方が結果的に勝利を掴む。それでこそ模擬戦闘に意味がある。策を弄する勝ち方では己の実力とは言えない。そうではないか?」
それまで黙って聞いていたマルストールは、まるで興味を無くしたかのようにイクスフェスから視線を外し手元の本に戻し、
「ふぅん。じゃ、実力で勝てるように修練しないとねー。がんばってー」
と、何時もの、大して関心が無さそうな子供口調で言う。
「……随分と淡泊な言い方だな。私はお前の策を無にしたのだぞ?」
「んー?別にそれはどうでもいいよ。聞かれたから取敢えず答えただけだし。前にも言ったと思うけど、意見を聞くのも聞かないのも、イクチーの自由じゃない?」
「相変わらず他人事の様に言うな……いや、他人事か。ともかく、今回の事で良く解った。私が望んでいるのは安易な勝利ではない。そこには実力が伴わない。私が欲しいのは己の実力に裏付けされて初めて得られる本当の勝利だ」
「ま、練習に練習を重ねてこそ、って考えも真面目なイクちーらしいし、いいんじゃない?」
ページを捲りながら、やはり関心無さそうな声で言うマルストールの態度は、流石のイクスフェスでも不愉快に感じた。だから何か言おうと口を開いたが――結局は何も言わずに口を閉ざし、「フンッ」と鼻を鳴らして、何時もの本棚の前の椅子に深く腰を下ろした。
『別に関心が無いならそれでいい。そもそもこの男は大罪人だ。そんな男にアドバイスをもらい、その通りにしようとしていた自分がどうかしていたのだ』
と、イクスフェスは本に目を向けたままのマルストールを睨みつけながら考える。
この男に教わった戦い方は確かに有効であった。だが彼女の感覚からすれば小細工が過ぎるし、その様な策を簡単に考え出せる『大罪人』にこれ以上借りを作るのは危険に思えた。
『この男の立てる作戦に頼らず、自らの鍛錬によって勝つ道を選んだ以上、これ以上は深く関わるのは止めるべきだ。これ程頭が回るとなると、何処で付け込まれるか解った物では無い』
イクスフェスはそう心に誓うと、この日はそれ以降マルストールに話しかける事は無く、彼が本を読み終わるまで視線を向ける事は無かった。だから――
「しかし、実力が付く前に戦場で戦う事になったら……その時はどうする気なのだろうね」
と、『大罪人』が発した小さな呟きを、イクスフェスは聞くことが出来なかった。




