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39. こんなボクでもいいのなら

誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、

ご指摘くださると幸いです。

 晩餐の席とはいえ、公式なものではないので、身支度の調えは軽くに留めて食堂へ向かう。長期休暇のたびにお世話になっているが、さほど大きさはないもののシンプルで趣味のいいテーブルや椅子が配置された食堂だ。


 ボクたちが食堂に入った直後、ウェド様も、フィア様も、王妃様も陛下もまるで合わせたかのようにやってきた。

 時間も合わせて侍従や侍女が迎えに出ているので当然かもしれないのだけど、しっかりタイミングを計って、しかも立場が上の人ほど少しずつ後になるように調整されているのに、大きく時間もずれないのは、ひとつの職人技なのかもなんて思ってしまう。


 エルさまが、王妃様に近寄って、小さな声で何か一言二言王妃様に話をしたみたいだけど、ボクを含む他の人にはよく聞こえなかった。ボクに関係ない話であればいいのだけど、何か不安だ……。


    ◇◆◇


 そして、やっとボクだけが妙に居心地の悪さを感じる晩餐が終わった。この後、しばらくの時間をおいてからウェド様の部屋を訪問する約束を取り付けている。


 何のためにという話はあの場ではしていないが、エルさまたち三人に加えて王妃様は、すごく嬉しそうに晩餐後にウェド様に話しかけるボクを見ていた。

 あれはきっと話が王妃様まで行っているとみて間違いなさそうだ。エルさまが王妃様に話しかけていたあれがきっとそうなのだろう。

 晩餐の最中もちらちらボクとウェド様をエルさまたちは観察している雰囲気がしていたし、おかげでとても居心地の悪い空間だった。退室の順番とかそういう礼儀とか気にする余裕もなく、話が終わってから礼をして、すぐに部屋に戻らせてもらってしまった。


 返事をするタイミングについては、エルさまたちに強引に話を進められた感がある。それでも、このようなことは一生に一度の舞台だ。

 普段より丁寧に湯あみを済ませ、これまた普段より綺麗な、それでいて時間にそぐわないと思われないような衣を纏う。

 ボクは普段からほとんど化粧の類はしないし、そこは眠る前の時間ということで勘弁して貰ってもいいだろう。フォナに全身を見て確認して貰い、自らの装いに問題のないことを確認する。

 見世物にされるのが既にわかっていた御前試合の時よりもずっと緊張してしまうのはしょうがないことなのだろうか。


 これまで何度も訪問したことのある部屋だというのに、酷く緊張感を感じつつ足を向ける。


 夜という時間であるのに相変わらず王室の居住区画への訪問は顔パスだ。

 普通なら名前と訪問予定くらい聞かれてもいいと思うのだが、騎士たちの職務怠慢じゃないのだろうかなどと無駄なことを考えながら歩いていると、とうとうウェド様の部屋の前まで到着してしまった。


 扉を三回ノックすると、待ち構えていたかのように即座にドアが開く。いつも通り、侍従が出迎えてくれる。訪問予定も聞いているらしく、即座にウェド様の居室へ通される。


「ウェド様、このような夜分遅くのご訪問をお許しいただきまして、どうもありがとうございます」

「僕相手にそんな畏まった言い方なんてしなくてもいいのにね。今夜はどうしたのかな、シア」


 ウェド様は笑顔で迎え入れつつ、いつものように椅子を勧めてくれる。しかしながら、大切な返事に来た身としては、軽々しく椅子に座ることなどできない。そもそもウェド様の前に立つことでこんなに緊張したのはいつ以来だろうか。

 まっすぐウェド様に向き直り、姿勢を正し、一息深呼吸をして話しかける。


「席をお勧めいただいたところ申し訳ありませんが、大切なお話がございます。

 お伝えさせていただいてもよろしいでしょうか」


 ボクの普段より硬くなった発言を聞いて、ウェド様も身を正してこちらをまっすぐ見てくれた。


「じゃあ今は立ったままで話そう。

 夜着というにはしっかりした服での訪問だよね。それとも関係ある話なのかな」


 話を促され、更に深呼吸をする。これまでにない緊張を感じてガチガチになりそうだ。失礼ながらまっすぐウェド様を見られない。


「…………。はい、ウェド様。

 あの、今回は以前からお話を受けていた、婚約の件で……、お返事に参りました。

 えっと、エルさまの方が何年も先に婚約を先にされている身ですし、ボクとしても、婚約を発表した順で、婚姻を上げた方が、あの、良いのではないかという気持ちもありますので、その、未だしばらくの間はできれば、広く公にはせずにいただきたいと考えております。

 それゆえに内々の話になってしまう点は、その、申し訳ありません。

 ですが、ウェド様とボクの婚約のお話、お受けさせていただきたいと思います」


 言葉に詰まりながらも全てを言い終えて、視線を上げたボクの目に映ったのは、ぼうぜんとした表情でボクを見つめるウェド様の姿だった。


「…………、そうか、いいのだな?

 本当に僕でいいのだな、シア?」


 驚きと緊張に満ちた面持ちでボクの目を見つめながら、重ねて確認をしてくるウェド様。なんでこんな表情でも絵になるんだろう。やっぱりこの人かっこよすぎるでしょう……。なんか悔しいと思う。


「……はい、多くの令嬢たちから考えると、例外的な部分の多いボクですけど……」


 返事をすると、途端に花が綻ぶような笑顔――成人男性にこの表現を使うのも如何なものかと思わなくもないが――でボクに歩み寄ってきて、即座に抱きしめられてしまった。


「シア、ありがとう、本当にありがとう」

「いえっ、あのっ、お返事まで多くの時間をいただいてしまい申し訳ありませんでした」


 ウェド様の体温が、脈拍が衣越しに伝わってきて、妙にドキドキする。


「もしかして今夜の晩餐の時に普段と雰囲気がちがって見えたのは……」

「その時には既に今夜お返事することを決めていましたから、そうなのかもしれません」


 火照った顔を見られないように軽く背けながら返事をする。いつまでこの人はボクを抱きしめているつもりなのだろうか。


「あの、そろそろ離し「もう少しだけ許してくれ」」



 それからボクがウェド様の腕の中から解放されたのは、侍従の方の淹れてくれたお茶が完全に冷め切って、再度の淹れなおしを行ってくれるまでの時間が経ってからだった。

 緊張と羞恥で耳まで真っ赤になっているであろうことが自分でもわかるくらい顔が火照っている。

 ウェド様も赤い顔をしてはいたけど、だからと言って、こんなに長時間抱きしめていなくても……。


「そういえば、返事を決意してくれた理由って今聞いても大丈夫なものなのかな」


 尋ねながらも微笑んでカップを持つ姿ですら、いや、もういいか、王子様なんだから少しくらい許容しないと心が疲れてしまう。


「学院の同級生の方とお話をして考えたのです。過去のいろいろな家の婚姻や婚約についても聞きました。

 そして、自分自身の将来を考えたときに、他の方の隣に立つことは全く想像できなくても、ウェド様の隣に居るボクのことは、なんとなくですが想像できたのですよ。

 それに気づいたとき、ウェド様とこれまで普通に友人のように接してきたのが妙に気恥ずかしくなって、宮廷からも足が遠のいてしまいました。笑っちゃいますよね。

 今日、宮廷にやってきて、エルさまたちに囲まれて、今の話を白状させられたのです。

 そうしたら、もう今夜中に内々でもいいから返事をしなさいって言われてしまいまして……。それで今の状況があります」


 話し終えてボクも淹れられたお茶で喉を潤す。驚くほど喉がカラカラになっていたことにその時気が付いた。こんなボクでもここまで緊張するものなんだなと今夜のことを思い出して実感する。


「そうなのだね、でも、きっかけはどうであれ、心に決めてくれて、受けてくれて、よかった。

 これからもよろしく、シア」

「はい、ウェド様」

「せっかくだから、"様"はつけないで呼んでほしいな」

「わかりました、ウェド」


 そんなこんなで、長らく話を伸ばし続けたたった一人の婚約者候補は、ようやく婚約者として立場を受け入れました。だからと言って、まだこの先にもボクの気がかりが残っています。

 ちゃんとゲームの期間も終わって、皆が幸せにくらせないことにはハッピーエンドで終われません。

いろいろ私的にごたごたがありまして、

執筆に手間取ってしまった上に

妙に難産な回になってしまいました。

更新までお時間かかってしまいまして、

お読みいただいている方々には申し訳ありません。


もしよろしければ、これに愛想をつかさず、

これからもお読みいただけますと幸いです。


それでは、ご読了どうもありがとうございました。

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