38. ガールズトーク
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与えられた居室に着いて早々にフォナが勝手知った部屋の中でお茶の用意をしてくれている。ボクたちは部屋の中に用意されている丸い机を囲み座る。荷物の片づけは、まあ後でいいかな。
三人に揃って注目されると慣れ親しんだ仲間のはずなのに妙に緊張するなと考えていると、エルさまが口火を切った。
「シアさん、単刀直入に聞かせていただきますが、兄上と何かありましたか?」
「何かって……特に何もなかったはずですが……」
「ではなんで先ほどあんなに兄上に対して緊張していたのでしょうか。以前はもう少し打ち解けていたと思うのですけれど」
エルさまの言葉は正論だけになかなか反論の糸口が見つからない。目を泳がせて返答を考えていると、ミリーさまが横から話す。
「ウェド殿下と直接何かなくても、印象に影響を与える何かがあったとかじゃありませんこと?」
「印象に影響か……、シアさまの中でウェド殿下に対する思いの変化とかがあったってことかな」
リーネさまもミリーさまの発言に乗って、楽しそうに笑顔を見せてくる。なんなのだこの包囲網は……。
「そういえば、先日グロシェリア侯爵令嬢たちとお茶をしたという後から妙に上の空というか、考えてること増えたよね。その時の話で何かがあったんじゃないかな?」
「そうなのよね、リーネさま。確かにあの日を境に雰囲気が変わったところがある気がするわ」
リーネさまとミリーさまが包囲網を狭めてきている。元々逃げられる気はしなかったけど、追い詰めてくるのが早すぎないだろうか。そして詳しく状況を知らなかったらしいエルさままで目を光らせている。
「あら、そんなこともあったのね。それは話を聞かせて欲しいわ。どんな話をしたのかしら?」
そこまで気にされるともう追及の手は緩まないだろうから、話した方がいいだろう。
「あー、もう……、わかりました、お答えしますよ。彼女たちには婚約について話をしたのです」
「婚約ですか?」
ミリーさまが相槌を打ってきたのでボクは頷いて続きに入る。
「そうです。他所の国は知らないですけれど、この国では王室の方以外はあまり大々的に婚約者を発表したりしないですよね。そしてボクはウェド様の候補扱いで発表されてしまっているので、他の王室が絡まない家の婚約事情とかどうなっているのかなと気になって話を聞かせて貰ったのですよ」
「その話だけではウェド殿下には関係しない気がするけど、本当にそれだけなのかい?」
「いえ、ついでと言ってはなんですが、ボクがベルサフィア家で一人娘なためにウェド様との話が出る前は申し込もうとした家もあったらしいという話を聞かせて貰っただけですよ」
リーネさまの疑問に対して補足して答える。やはり気になるのかエルさまも問いかけてきた。
「その程度の話では兄上に対する印象が変わるようなことにはならない気がしますけど……、本当にそれだけですの?」
「そう、それだけだよ。もう少し話に紆余曲折はあったけれど、大まかにはそんなところだね」
ボクの話に納得がいっていないのか、三人が疑いの目でこちらを見てくる。
「疑いの目で見てもダメだよ。話したのは本当にそれだけだからね」
「では他の家から申し込まれていたかもしれないということがシアさまに何かを考えさせたのかしら」
「他所の婚約事情はさすがに関係なさそうだしね」
「私が言うのもどうかという話ですが、兄上は国内随一の優良物件だと思いますわ。そういう意味では兄上と他の家の方を比較してみたりしてしまったのではないですか?」
ミリーさま、リーネさま、エルさまがそれぞれで話ながら推理をしてきた。もう降参しようか。
「中らずと雖も遠からず、でしょうか。容姿や能力はあまり気にしてはいなかったのですが、親しみやすさ、そして伴に過ごすことを考えた時に……、ウェド様がやっぱり他の人とは大きく違うのかなって思ってしまったのですよ」
ボクの告白のような状況になっているが、話を聞いた三人は花が咲いたような笑顔でボクを見てきている。
「ところでどうしてそんなに皆さん笑顔なんですか!?」
思わずトーンの上がった声でボクは三人に聞いてしまう。
「それは、ミリーさん、リーネさん、決まっているじゃない、ねえ?」
「そうですわ、シアさまの心が決まってきているということですもの」
「そうだね、後はいつウェド殿下からの婚約を受け入れるかといったところかな?」
まるで自分のことのように嬉しそうにエルさまもミリーさまもリーネさまも話している。
「受け入れ……、えっ、婚約?」
「他の方と結ばれるより兄上の方がいいのでしょう?」
「それはウェド殿下との婚約を受け入れるということに他なりませんわよ」
「そこまで話しておいて婚約しないなんてさすがにないよね」
あれ、ボクって墓穴を掘ってしまった……のかな。確かに他の人とよりは殿下の方が、いや、そうじゃなくてさ。
「ボクが一生結婚しないという案は……」
「「「却下です!」」」
見事に三人が唱和して否定されてしまった。このままではすぐに婚約させられてしまう……?
「わかりました。ウェド様と婚約は受け入れたいと思います。でも、先にエルさまに幸せになって欲しいということもありますの。だから、学院を卒業して、エルさまがアズベルト様に嫁ぐ頃に婚約を受け入れるという形で許して貰えませんか」
「そんな時期までウェド殿下を焦らすのかい」
「婚約をするくらいはいいと思うのですが」
リーネさまとミリーさまは不満がありそうだけど、エルさまはわかってくれたのかな。
「せっかくですから、私たちと一緒に婚姻の義を行ってもいいと思うのですが、シアさんがどうしてもと言うのでしたら公には学院卒業後の婚約にして、返事だけでも先にしてあげてくださいな」
「返事だけでも先に、ですか?」
「答えの決まった返事をいつまでも焦らすのはさすがに兄上とはいえかわいそうですもの……」
「うっ……、了解しました。ですから、お願いです。涙目でボクを見ないでください……」
やっぱりエルさまには逆らえる気がしないので素直に従おう。でも、返事をしたら陛下も王妃様も公表してしまいそうな気がするのは気のせいだろうか。
「じゃあ今日の晩餐後にウェド様にお返事させてもらいます。けれども、お願いですからお三方とも触れ回らないでくださいね」
やっぱり気になるので釘を刺させてもらう。三人は笑顔で頷いてくれているけど大丈夫だろうか。
「答えがわかっただけでも十分だわ、兄上もずっと気にしていたみたいだから喜ぶわね」
「くれぐれも、内々のお返事ということにしておいてください……、何だろうこの不安」
話もひと段落したので気を落ちつかせるためにお茶を飲もうとしたらフォナがすぐに淹れなおしてくれた。暖かいお茶を飲んで気を休める。
思わぬところで婚約の返事をすることになってしまったけれど、エルさまもミリーさまもリーネさまもずっと気にしてくれていたのかな。我が事のように喜んでくれているのはボクとしても複雑な気分だけど嬉しくはある。
それに、ウェド様なら一緒の時間を過ごすことについては不思議と戸惑いはない。まあ、その先についてはまだまだ受け入れられる気はしないけれど、心構えができてから追々といったところだろうか。
結婚なんて絶対に嫌だとか思っていたはずなのに、だんだんそれもいいのかな、なんて思い始めているボク自身には未だ違和感がなくはない。この違和感もいつか薄れていくのだろうか。
今の状況ならミリーさまもリーネさまもアズベルトに何か思うところはなさそうだし、無事エルさまとアズベルトが結ばれてくれればそれでいいかな。
ご読了どうもありがとうございました。




