37. 悩める登城
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学院も三年目が無事終わった。終わってしまった。さすがに昨年のように直接学院から宮廷に向かうことは例外といえども、一旦帰省してから準備を整えて登城することはもう決まってしまっている。
優秀な我が侍女であるフォナは準備を実家についてすぐに済ませてくれてしまったので、既にいつでも宮廷へ向かって出発することができる。だというのに、ボクは帰省後一週が過ぎても実家で悩んでいた。
問題はただひとつ。気まずいのだ。
ボク自身としてはウェド様とは単なる友人のつもりだった。でも、グロシェリア様たちとの話を通した結果ボクの中で、ウェド様と他の男性に対して実は許容できる範囲が大きく違うのではないかということを自覚してしまった。
男性と結婚をして生涯の伴侶とすることを考えることすら以前は嫌だったはずだ。けれども、気づけば他の男性はともかく、ウェド様ならそういう事を考えても嫌悪感やそれに類するものを感じないことを知ってしまった。
これは、相対的に考えると、他の男性よりもウェド様のことを好きということになるのではないだろうか。
例えば仲のいい他の男性だとどうだろう、エルさまの婚約者であることを度外視してアズベルトは……と考えた場合、やはりそういう意味では受け入れられないと思う。どんなに仲が良かろうと友人は友人だ。
じゃあ、何故、ウェド様ならいいのだろう。
どうしようもないことに、このようなことを帰省中の道程から延々と考え続けてしまった結果、結論すら出せず、それどころかウェド様にどんな顔で今まで会っていたのかということすら思い出せなくなってしまったのだ。
なんだろう、この……、ボクがボクじゃなくなるような感覚は……。
エルさま辺りにこの気持ちを知られてしまえば笑い飛ばされてしまいそうではあるが、悩みに悩み続けてしまい、気づけば時間だけが過ぎゆく状況となり、『約束しているのでしょう、行かなくてもいいのかしら』と母様に言われてから暦を見て、思わず顔面蒼白になってしまったりもした。
◇◆◇
宮廷に向かいながらも考え込み続けていると、フォナがポツリとボクに漏らす。
「シア様、学院から戻るときからですが、お一人でずっとお悩みですよね。差し出がましいようですが、話して楽になるようなことであればお話をお聞きしますが、いかがいたしましょうか」
「それは話を聞いて貰いたいし、聞いて貰えば少しは楽になりそうなんだけどさ、前提となるところから話すにはちょっとキツくて……」
いくら信頼しているフォナとはいえ、前世だの男だっただの、そんなことから話さないと理解の成立しない悩みなんて相談できるはずがないではないか……。
「それにこれはボク自身で答えを出さないといけない問題だから、大丈夫。心配してくれてありがとね、フォナ」
「いえ、勿体ない言葉ありがとうございます」
ボクの対面に座りながらもフォナが頭を深々と下げる。律儀なことだ。一人の移動の際には馬車に乗るのがボクだけというのは勿体ないからフォナに乗ってもらうようになって随分経つが、やっぱりいつも近くにいるというのもいいものだな。
「そういえば、今どの辺りまで来ているのかな、わかる?」
「もうじき王都が見えてくるところまで来ていますよ。夕刻には宮廷に到着できます」
「そう……か。悩んでいてもしょうがないかな。開き直るのも大切かも」
悩んだ顔のまま登城する訳にもいかないし、エルさまたちには元気な顔を見せなきゃ。少しでも元気を取り戻せるようにちょっと仮眠しようかな。
「寝不足もあるので少し仮眠するから王都に到着したら教えてね」
「承知しました」
返事と同時に窓のカーテンを引いてくれたのがありがたい。少しだけ横に……。
肩が揺すられる、眠い……、もう少し……。
「シア様、もう王都に入りましたよ。お目覚めください。衣装の少し崩れた部分を直しますから」
「ん……んん……」
ぼーっと目を開けるとフォナの顔がボクを覗きこんでいた。眠気に沈みそうになる頭を何とか引き起こして状況を思い出す。
「シア様、宮廷についてしまいます」
「あ、うん……ありがと、フォナ」
起き上がって座りなおすとすぐにフォナは服の歪んでいた部分や横になって癖がつきかけていた髪を整えてくれる。ボクだけだと結構気にせず動くことがあるのでこの細やかさには助かってるなと感じる。
身支度を整えてもらって、喉を潤したところで宮廷に到着したらしく、馬車の揺れが一瞬だけ大きくなってから止まり、扉が開けられる。
エルさまたちの姿が見える。どうやら出迎えに来てくれているようだ。立ち上がり、外に出ようとしたところで、不意にウェド様の姿が視界に入った。
突然のことに考えていたことが飛んでしまう。なんで、いや、確かに宮廷に居るから可能性はあるだろうけど、今まで一度も出迎えなんて……。
「あら、シアさん、どうしたの」
「い、いえ、なんでもないのです」
訝しむ様に動きを止めたボクに声を掛けたエルさまに返事をして馬車を降り切ると、皆に礼をする。
「わざわざご足労ありがとうございます、皆様。そして到着遅くなりまして申し訳ありません」
「体調が優れなかったと聞いていますが、もう大丈夫ですか」
身に覚えのないエルさまの話に一瞬フォナを見ると頷かれる、どうやら家に閉じこもって悩み続けている期間はそういうことになっているらしい。
「はい、もう大丈夫です。ウェド様もわざわざご足労いただき申し訳ありません」
「ここしばらくからなかなか顔を見せてくれなかったじゃないか。寂しかったから出てきてしまったよ」
「あ、それは申し「いや、こうして顔を見ることができて嬉しく思う。謝らなくてもいいさ」」
ボクはこの人なら好きになれるのかな……。つい見上げてぼーっと考えてしまう。
「シアさま、ボーっとしてないで」
「そうですわ、ずっとここにいる訳には参りませんもの、そろそろ移動いたしましょう」
リーネさまだけでなくミリーさままでもがウェド様を見上げて固まっていたボクにしびれを切らしたのか移動を促してきた。ミリーさまに至っては腕まで掴んでいる。
「そうね。ここにいてもしょうがないわ、シアさんの部屋に行きましょうか」
「僕もご一緒してもいいかな」
ウェド様まで来たがるなんてと思った瞬間ビクッとしてしまった。それに気付いたエルさまが牽制を出してくれる。幸いウェド様はエルさまの方を見ていたおかげか気取られなかったようだ。
「晩餐の時間までくらい遠慮してくださいな、兄上」
「そうか、しょうがない。じゃあ女の子同士仲良くしておいで」
言い残すとウェド様は手をひらひら振って宮廷の奥に消えていった。ボクらは相変わらず一番前を歩くエルさまの後をついて客室に向かって歩いていく。そういえばボクたちの滞在は学友という立場が決まって以降ずっと同じ部屋だなと到着して思う。
「エルさま、先ほどはありがとうございました」
「あら、どうしたの」
すべてお見通しという笑顔で尋ねられると全部わかっていますというのがまるわかりでちょっと困惑してしまう。
「そんな意地悪な顔をしなくてもいいじゃないですか」
「そうね、わかっているわよ。ちゃんと気持ちは整理しておきなさいよ」
「ありがとうございます」
それにしてもここでこの四人で過ごすのも久しぶりだ。
「そういえば今年は四人で宮廷に来ることがなかったですね」
「だってエルさまがずっとアズベルト様にご執心だったし」
茶化すようにリーネさまが言う。まあそれも間違ってないけど、ボクもしばらくは足が遠のいていた。それを知っているエルさまはボクの方を見て笑う。
「あら、私だけじゃないわよ。ねえ、シアさん」
「え、ええ。ボクも宮廷は久しぶりですね」
「そんなことはいいですわ。久しぶりに四人揃ったのですからお茶にいたしましょう」
唐突なウェド様との再会もあったけれど、エルさまたちの機転のおかげで話をするのは先延ばしにできたし、気持ちの整理をしてからウェド様に会ってみよう。
ご読了どうもありがとうございました。




