36. 進展宣言……?
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ウェド様に対するボク自身の微妙な気持ちを自覚して以降、なんとなく宮廷から足が遠のいてしまっている。幸いにもエルさまはアズベルトと過ごすことが幸せなのかボクにその件で絡んでくることはほぼ無いので、無理矢理宮廷に連れていかれることも昨年に比べてすっかり減った。
班分けではなく、通常の形で行われる講義も学友ということもあり席はすぐ近くに陣取るが、当然講義中の私語は厳禁であるのでおしゃべりに興じることもできないし、班単位の講義の前後はエルさまもすぐにアズベルトのところに行ってしまうので、必然的によく話すのは夜の茶会の時間が主なものになってきている。
三年目も早くも半分が過ぎようとしており、本格的に卒業まで続ける研究を選択する時期が近づいていた。ボクとミリーさまとリーネさまはこのまま一緒に続ける形になりそうだけど、エルさまは
「エルさまはどんな方面の研究に進むことにしたんですか」
「わたしたちは三人共同で行う形になりそうですが、エルさまはアズベルト様と行われるのですよね」
「ええ、そうね。アズと一緒に理学系の研究をすることになると思うわ」
「苦手なはずの理学を選ぶなんて、アズベルト様と随分仲良くなってるんですね、妬けちゃうな」
「こらこら、リーネさまは茶化さないの。それにしても理学系ですか、確かに意外ですね。文芸をやりたかったと言っていた記憶がありますが」
軽く視線を伏せつつ、恥ずかしそうに答えるエルさまをリーネさまが茶化すのでそれを窘めつつも、確かにボクも意外に思った。
「私自身でも意外だと思うわよ。でも、彼と一緒に学ぶのは楽しいの。
それに、教導員の方々でも難解な理論をしっかり筋道立てて理解されているし、もしかしたら新しい理論の確立もアズならできるかもって思うと、少しでもお手伝いをしてあげたくて……」
「それはすごいですわね。そこまでの成果を出せそうですの」
「確かにアズベルトは頭の回転も速いし、着眼点も先鋭的だから何かしらやってくれるかもしれないね」
「そう、そうなのです。シアさんもわかってくださるのね」
アズベルトの話題なのにここまで自分のことのように喜ぶエルさまを見ると心から惹かれているんだなって感じる。叶うならアズベルトの方も浮気なんて考えないくらいエルさまに惹かれていてくれれば……。
「二年目後半ではエルさまに軽く嫉妬されつつ一緒にやっていましたからね、多少はわかりますよ」
「もう、そんなこと思い出さないでくださいな。ところで皆さんはどのようなことをされますの」
恥ずかしがりながらも話題を少し逸らしてボクたちのことを聞いてくるエルさま。まあ一方的に聞くだけというのもずるいので答えることにする。
「ボクたちは得意科目がバラバラだったのもあって迷いましたけど、せっかくなので多くの分野の情報を持ち寄って、後進の教育に関する研究をしようかと考えています」
「学院入学前の貴族の子供のことは勿論、最低限の水準しか教育が受けられない平民にも何かができないかって思ってね」
「わたしたちはエルさまの学友に選んでいただけたということもありますから、わたしたち三人のこれまでの学習方法や内容を持ち寄って分析すれば何かの役に立たないかなと思いましたの」
「まあ、それはステキですね。大きな実が結ぶことを祈っておりますわ」
三人の口からそれぞれ順番に三人で考えたことをエルさまに伝えると、嬉しそうに応援されてしまった。まあ、何かしら成果は結実させたいところなので、応援して貰えるのは嬉しいことだけど。
「皆良い成果が出せるといいですよね」
「そうね」
◇◆◇
各学生の研究内容も大枠が定まり、講義の時間と研究の時間が半々となった学院生活後半戦。驚くほどに平穏な生活が続いている。
エルさまとアズベルトも充実した生活を送っているようだし、ボクたちもアズベルトとはそれなりに仲良くなれている、あくまでも友人としてだけど。
何しろエルさまのアズベルト大好き空間があまりに濃厚で割り込もうなんて思える状況ではない。前世の記憶に無い範囲でもこうだったのだろうか。だとしたらそこから浮気してエルさま以外のヒロインに手を出してしまうアズベルトもだが、これを知ってアズベルトに惹かれてしまうのもある種の問題な気がしてしまう。
まあそんなことはともかくとして、早くも三年目も年末が近づいてきている。年末が近づくということは宮廷で過ごす時期も近づいてきているということだ。
さすがにウェド様に会うのが気まずいからなんて理由で訪問しないなんてことはできない……よね。
「シアさま、なんか悩みでもあるのかい」
「えっ、どうして」
「確かに最近溜息が増えていますけど、もしかして自分で気づいてなかったのですか」
「そう……なのかな。ごめんね」
記憶を探ってみてもそんなに溜息をついていた記憶が出てこない。嫌な思いをさせたかもしれないと思い謝ると、二人して呆れた顔で見てくる。
「重症だね、これは」
「そうですわね、本人に自覚がないとなると困りものです。もしわたしで良ければお話をと思ったのですが」
心配そうな顔をされると心苦しいので少しだけ話をしてみようか。
「心当たりがなくもないんだけどさ」
「そうなのかい(ですの)」
「うん、でもこれはボク自身で答えを出さなきゃいけない話だからさ」
「ちなみにどんな話なのか聞いてもいいのかな」
「ウェド様との婚約をどうするかって話」
二人して『あー、納得』って顔しないでくださいよ。表情でそれくらいわかりますからね。
「それは……、確かに他の人が安易に意見できるものでもないですわね」
「そうしてくれると助かるかな。受けてもいいのかなって思い始めてはいるんだけど踏ん切りがつかなくてね」
「心を決めたら教えてくださいね、是非お祝いしたいですもの。ちょっと殿下に嫉妬してしまいますけど」
「それはどうなのリーネさま……、いや、ちょっと気持ちはわかるけどね。シアさまの気持ちを射止める人がいるとは思わなかったから」
「二人ともボクにどんな印象持ってたのさ……」
「男嫌い、かな」
「ですわね。シアさまを変な目で見る男性には制裁が下るなんて噂も一部ではあるらしいですわ」
「男嫌いは多分あっているかな、なんか他の人と……と考えるのと殿下だったらって考えるのとでやっぱり違う部分があるかなと思ってしまうところもあるよ。けど制裁って何それ、初めて聞くんだけど」
「噂でしかないですから詳しくは知りませんが」
「そういう話が一部であるみたいだね」
確かにそこらの男に変な目を向けられるのは嫌いだったけど、制裁とかそんな面倒なことボクはしないし、どこからそんな噂が出たのだろうかって気になる。
「困らないからまあいいのかな……、何か問題があったら対処しようか」
「それでいいと思いますわ」
「でも、シアさまの溜息の原因が殿下ってことは年末の休みが近づいてきているからかな」
「溜息の自覚はなかったけど、それだと思う。ここのところしばらく宮廷に行っていなかったからちょっと気まずくて」
「エルさまもアズベルト様に夢中だったから宮廷に戻ることしてなかったしね」
「ほとんどの学生が学院のある街から帰省時以外出てもいないのですから、そこまで気にすることでもないのではないでしょうか」
「そう言ってもらえると心強いかな。今年も休みは宮廷で過ごすんだよね」
「ええ、そのつもりですわ。エルさまも言っていましたもの。今年は一度実家に戻ってからにしようと思いますけど」
「そうだね。あたしも一旦家に顔を見せてから向かわせてもらうよ」
「じゃあ休みに入ったら宮廷でまた会うまで、だね」
ウェド様なら受け入れてもいいかなっていうこのボクの思考が前世の記憶がはっきりしてきてから初めての気持ちだ。身体に引きずられているのか、それとも別の何かの要因があるのかわからない。
あと少しに迫る年末に気まずさを覚えつつも、また宮廷で過ごせる時期がやってくる。エルさまとアズベルトに対することもそうだけど、プロローグまでの生活も悔いの無い選択ができるように……。
一気に踏み込めるようならまた話も変わってきそうですが、
シアの変なところで消極的なヘタレな迷い症という点が
作者から反映されていたりします……。
ご読了どうもありがとうございました。




