35. 周りに聞くに聞けなくて
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、
ご指摘くださると幸いです。
将来を考えるにあたってのボクの指針は間違いなく前世の記憶とゲームの展開だったはずなのに、ここ最近の自分の気持ちのままならなさはいったい何だというのだろうか。
目指すべき目標であるエルさまとアズベルトの仲に問題はない。あの時願った方針がずれた訳でも、思った先から展開がずれている訳でもない。それはボク自身でもわかってはいるのだけど、それ以外の部分での変化が大きすぎるのだ。
現世の記憶と混ざってしまいいろいろなものが薄れつつある前世の記憶だが、強く思いが向いているだけにこの世界の記憶だけはまだ結構覚えている。けれども、どれだけ浚ってみても作中にてボクたちの中に婚約者がいたのはエルさまだけだった。
ヒロインたちについてはあくまでも主人公であるアズベルトから見た視点しか描かれていなかったが、彼女たちに思いを寄せた相手がいるとか、婚約者がいるとか、そのような話は描かれていなかった。そんな相手がいればそもそも浮気相手として成立しないからという気もしないでもない。
だけど、実際ミリーさまとリーネさまは婚約相手やそのような話は未だ居ないし、話も少なくとも表面上は出ていない。ボクがウェド様に突然見初められて候補になっているのも状況を考えるとイレギュラーだ。
その辺のことについてこの国での常識がどうなっているのか、実はよく知らないことに気付いたはいいが、話を聞ける相手なんているだろうか。
そんな折に見かけたのが、学院初年度に解決した(といっていいのかわからないが)リーネさまに対する嫌がらせ事件の際に出会った三人の令嬢だった。
三年目の学科分けで彼女たちは特別学科に進まなかったため出会う機会はすっかり減っていたのだが、食事の時間が偶々重なり久しぶりに顔を合わせた。
話をしてみたいことがあるのでお茶会でもどうかと伝えてみたところ、幸いにも了承を貰えたので、フォナにお茶請けを用意してもらい、さっそく彼女たちを招く運びとなった。
夕刻、支度を整えて令嬢たちの訪問を居室で待っていると、訪問を告げるノッカーの音が部屋に響いたのでフォナに出迎えをさせる。
「ようこそいらっしゃいました、グロシェリア様、スフェーニア様、スオリアティス様」
「こちらこそお招きいただきましてありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
どうやら示し合わせて三人同時に来てくれたようだが、まとめて来てくれて助かった。バラバラに訪問されたら揃うまでどうしていいかわからなくなるところだったよ……。
「早速ですが、どうぞ席におかけになって、まずお茶をどうぞ」
以前母様から教わったこともあって自分でお茶を淹れることが好きになっていたので、カップとお湯の用意はフォナに任せたが、茶葉の選択と用意については久しぶりに自分でやることにした。
四つのカップにティーポットからお茶を注ぎ、飲んでみせる。自分としては合格点のつもりだったけれど、彼女らの表情を見る限りでは問題はなさそうだ。
「今回はお招きに応じていただきありがとうございます。
さっそくですが、皆様方にお話したいというか、お聞きしてみたいことがあるのですがよろしいでしょうか」
「ベルサフィア様の望むお答えができるかどうかはわかりませんが」
「ええ、せっかくお招きしていただいたのですもの」
「なんでもお聞きになってくださいませ」
そんなに身構えられるとボクも話すのに身構えてしまうけど、せっかく訪問して貰った訳だし、目的の話をしない訳にもいかない。
「他愛もない話かもしれませんが、皆様はご婚約などされておりますか」
「婚約……ですか」
「はい。エルさまは八歳の園遊会の際にアズベルト様と引き合わされていることをボクも同席していたので知ってはいるのですが、それ以外の方々の話は何も知らないので、ウェド様……、ウェドルーク殿下の婚約者候補としてボクは今話をいただいていますが、何歳ぐらいで婚約をするのが一般的なのか誰にも聞くに聞けなくて……」
「なるほど、そういうことですの」
納得した顔でグロシェリア様が相槌を打つ。
「おおよそ家同士の結びつきのために行う結婚の場合は家格が釣り合う方からの申し込みを受けて婚約という流れになるようですね。
女性の学院在学中から遅くてもデビュタント後数年のうちに、申し込む側の男性の家と、受ける側の女性の家の間で話だけは取りまとめて、デビュタント以降で婚約を男性側から申し込むものらしいですわ」
「私もそう聞いていますわ。話だけはいくつかあがっているらしいですが、両親の方に来ている話を全部聞かされている訳ではないので、伝聞の曖昧な話になってしまい申し訳ないですが」
「お互い愛し合っての結婚の場合も大きくは違わないでしょう。直接思いを告げることができたとしても、結婚は家同士の話になりますから、女性の両親に話を持っていくのか男性側の両親か男性本人かの違いくらいではないでしょうか」
スフェーニア様もスオリアティス様も話だけは知っているらしい。ボクが知らないのは両親が話をしてくれなかったからなのだろうか。
「そうなのですか。では王室にエルさまは特別早かったのと、ウェドルーク殿下の場合も特殊な状況と考えてもいいのでしょうか」
「それで問題ないと思いますわ」
「でも素敵ですわ、王子殿下から結婚を申し込まれるなんて……」
「せっかくですからそのお話を聞かせていただきたいのですが、大丈夫かしら」
憧れるような目で見られても現実を知ったら幻滅してしまうのではないかと思ったが、家族と学友以外に知られたくない話でもないし、少しくらい問題ないだろう。
「聞いてしまうとそんなものかと思う話かもしれませんが、では少しだけ。
学院二年目が始まる前の休みの話になりますが、ボクが武術の訓練を騎士たちと受けているということをウェド様がお知りになったのがきっかけだと思います。手合わせをしてみたいと話をされました。
その手合わせの場は陛下が作った余興のような場になってしまったのですが、とにかくボクとウェド様との勝負の場が設けられました。
その勝負の日の晩でしたね。突然ウェド様がボクのお借りしている部屋にやってきたかと思うと、陛下がせっかくの場を余興にしてしまったお詫びとともに強さを称えられてしまい、将来自分の元に来てほしいと告げられたのです。
恋愛感情とかそういうことは一切関係ないところで突然そのような話が出されたので、学院で少し噂が広まった時には事実との格差に驚きはしましたが、これが真実になります」
話し終えて彼女らを見ると、ボクの予想とは違う表情をしていた。呆れてしまいそうな話に思ったのだけど違ったのだろうか。
「ステキな話だと思いますわ。なかなかお目にかかれない出会い方ですもの」
「そうですわね。王子殿下から求婚したという話はお聞きしていましたが、ベルサフィア様の愛らしさではなく、強さに惚れこんだのですね」
「見た目だけで判断しようとする殿方はたくさん居ると思いますけど、そうでない部分から見初めるということが素晴らしいと思いますわ。さすが殿下ですわね」
そういう話の問題なのだろうか……。思った流れとは違う方向に話が持っていかれてしまい驚きを隠せない。
「そのような解釈もできるのですね。ウェド様がボクに何を求めているのか最初に話を出されたときにはさっぱりわからず混乱してしまったものですが」
「ベルサフィア様は見目がよろしい方ですし、家柄も良いですからどうやら婚約を申し込もうとしていた男性は結構いらっしゃったらしいですよ」
「王子殿下の話が出たために諦めたという話は幾つかありましたわね」
「さすがに対抗しようとする方はいらっしゃらないわよね」
……、知らない方がいいこともあるものなのだなとせっかく話をしてくれたのに思ってしまったが、それはしょうがないことだろう。
見た目と家柄だけで見ず知らずの男性に迫られるのは勘弁して欲しい。その点は今でも変わらないから、ウェド様を許容してもいいかなという思いは自分の中では実は特別なものなのかもしれない。
彼女たちとは久しぶりの歓談ということもあり、この後しばらく話をして解散となったのだけど、学友以外と過ごすことについてはこれで新鮮なものだと思う。
少しずつ内堀も埋まっていっておりますが、
このまま進むのかは私でもよく分かっていません。
ご読了どうもありがとうございました。
体調を崩すと投稿が遅れてしまうのは
どうにかしたいところですね……。




