34. 環境と意識の変化
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、
ご指摘くださると幸いです。
ボクの学院生活は順調と言える……のだろうかと最近思うことが増えた。傍目に見れば講義の理解度も、教導員からの覚えも全く問題はないので順調に思えることだろう。
けど、第二王女であるエルさまの学友としてはどうだろう。食事はいつも供にしているし、定期的なお茶会も開いてはいるが、それは講義外の時間の話になる。
講義中の時間には今エルさまに一番近く、一番多くの時間を一緒に居るのはアズベルトになりつつある。それが悪いという訳ではない。彼はエルさまの婚約者である訳だし、エルさまが彼と正しく結ばれてくれることがボクの目的だったはずだ。
そう、何の問題もない。全くもって順調すぎるくらいに進んでいる。そのはずだったのに、八歳のあの日に学友として選ばれて、十歳で学院に入った時からエルさまと生活のほとんどをご一緒してきた身としては、どうも一緒に過ごす時間が減ったことでそこはかとない寂しさを感じてしまう。
「そんなことをシアさまは思っていたのかい」
「お気持ちはわからないでもないですわ。でもエルさまとは今も十分ご一緒させていただいていますし、わたしたちより近い立場が全く無関係な方ならともかくとして、婚約者であるアズベルトさまなのですから問題はないのではないかしら」
「そうなんだよね。問題ないとボクも思うんだけど、何故か気になってしまうんだ」
二人はボクほど今の状況を心配していないらしい。結構考えて相談したはずなのに、想像以上にあっさりとした答えが返ってきた。
「気持ちはわからなくもないけど、きっと考えすぎだよ。それにエルさまもアズベルトさまといるとき幸せそうだからいいんじゃないかな」
「そもそも今まで意識していなかったけど、学友ってなんだろうね」
「そのようなことまで考えていたら疲れてしまいますよ」
「ちょっと考えと気持ちを整理してみた方がいいかな」
「それもいいかもしれないよ。三年目になってからあまり殿下のところにも行っていないみたいだし、たまには行ってみたらどうだろう」
さすがに言えないこともあるとはいえ、思っていることの一部だけでもミリーさまやリーネさまに話をしてみたところ、どうやら心配されてしまったみたいだ。
せっかく二人が勧めてくれたことだし、学友としての在り方もよくわからなくなってきたこともある。一度良き相談相手であるウェド様のところに行こうかということで、一度エルさまに話をしてみよう。
「エルさま、次の休みに宮廷に顔を出そうと思うのですけど、如何ですか」
「あら、シアさんどうかなさったの」
「少し思うところがありまして、お話に行こうかなと」
「そうなの……、でも私はアズとお約束していまいましたからシアさん一人で行ってはどうかしら」
「いいのでしょうか」
「そんなこと気にしなくていいわよ。もしかしたらあなたが一番気にしているのではないかしらってくらいよ。シアさんだったら私が一緒でなくても大丈夫だと思うから安心していいわよ」
アズベルトとの約束があることを少しはにかみながら話すエルさまは恋する乙女という表現がぴったりな雰囲気を纏っていて、ずっと一緒に居たらこれは当てられてしまいそうだった。
そしてよくわからないお墨付きをエルさまから貰ってしまったが、いいのだろうか……。
不安に思いながらも初めてエルさまの居ない状態での宮廷訪問が決まった。
◇◆◇
せっかくの一人での訪問だったので馬車ではなく馬で行こうとしたのだが、フォナが強く反対して着飾らせたがったので渋々馬車での行程となってしまった。
今回はエルさまと一緒ではないので学院の馬車にボクの家の紋章と吊ったものだったが、何故こんなにボク相手の警備が緩いのだろう。楽なのはありがたいけどどこか不安になる。
爵位も影響があるらしいけれど、場合によっては侯爵家に属する家の馬車よりも優先して通してもらっているようで居た堪れない。これも話が終わって時間があったら聞いてみようかな。
王都に入り、寄り道をすることなく宮廷に向かうが、宮廷の城門は王都の入場門以上に緩い気がする……。
とりあえず勝手を知った他人の城。知らない間に随分慣れてしまった回廊を通り、訪問を伝えてあったウェド様の部屋へ向かう。
「ウェド様、本日もお時間いただきありがとうございます」
「そんな畏まらなくてもいいのに。さ、座って座って」
挨拶だけでもしっかりと思ったボクの話をすぐに止めて椅子を勧めるウェド様。色々な面で緩くて本当にこれでいいのか不安になってきたことが表情に出たのだろうか。
「今日は何かいつもと雰囲気が違うね。相談があると連絡は受けていたけど、何か重大なことでもあったのかい」
心配そうに尋ねてくれるウェド様についつい恐縮してしまい、ますます顔色が変わったみたい。ウェド様はボクを見て心配そうにしている。
「いや、心配事は相談とはまた別の話なので、また後で時間があれば話させてもらいます」
「あ、そうなのかい。じゃあ相談からだね。今日はどのような話なのかな」
侍従が淹れてくれたお茶を飲みながら話を促される。
「その、ボクたちってエルさまの学友じゃないですか」
「うん、そうだね」
「でも最近ですね。学院でエルさまの婚約者のアズベルトさまが、エルさまと一緒に居る時間が増えてきて、以前ほどボクたちがエルさまと一緒に居る時間が、その、なくなってしまったので、大丈夫なのだろうか、学友ってどこまでの存在なのだろうかと思ってしまいまして……」
「そんなことで相談に来てくれたのかい」
俯きながら気になることをぽつぽつと話すと、ウェド様は苦笑交じりで聞き返してくる。結構真剣なんだけどな、ボク。
「そんなことって……」
「ああ、いや、すまない。そこまで気にするようなことでもないと思うよ。むしろそんなことまで気にしてくれる学友を持ててエルは幸せだなと思うし、シアが真面目すぎて心配になるくらいだ」
「気にするほどでもない……のでしょうか」
「学友はあくまでも学院生活を円滑に進める手助けをする立場のようなものだからね。ボクや姉上は学院時代に婚約者は居なかったから確かに五年間ずっと学友たちと過ごすことが多かったけど、エルの場合はまた違うから。
エルが婚約者くんと一緒に居たいと思っているようなら、それを尊重してあげればいいと思うし、そうでないときに側にいてあげれば大丈夫さ。例えば食事を取るときは一緒だったりするのだろう」
さらっと言ってのける様は自信に満ちていて間違いないことを確信しているようだ。でも本当にいいのかな。
「そういうものでしょうか」
「重く考える必要はないって。それともエルと過ごす時間が減って寂しいのかな」
「それは……その……、そういう部分がないとは言えませんが……」
「じゃあ、その分僕と過ごすかい」
そう真顔でボクに告げるウェド様は、思わず見惚れてしまうほどかっこよくて、突然のことにボクはどう返していいかわからなくなってしまう。
「……えっ、ウェド様、何を」
「いや、さすがに教職かお付きでもなければ卒業生とはいえ学院には入れないからね。冗談だよ」
「あ、それはそうですよね」
「だけどそこで戸惑ってくれるということは、以前よりは僕のことを意識してくれていると自惚れてもいいのかな」
「あー……、突然のことに驚いただけです」
「そうか、残念。でもたまには考えてくれると嬉しいな」
「はい、善処させていただきます……」
思わぬところで噛みつかれたようなダメージを心に負ってしまったけど。もしかするともしかするだけに覚悟はしておいた方がいいのだろうか。変な男と結婚するくらいならウェド様は十分すぎるくらいに優良物件ではあるし……。
ちなみに心配になって聞いてみた検問の甘さや警備については特定の人物に限った話であるらしい。本当にそれでいいのか。
帰る間際にたまたま出会った王妃様にも同様のことをちょっと話してみたところ、ウェド様同様に、エルさまの方から何か言い出さないうちは放っておいても問題ないと言われてしまったのできっと大丈夫だろう。
ついでと言ってはなんだけど、ウェド様と婚約する気になったかと最後にこっそり聞かれてしまったのを答えられずに逃げてしまったのはさっきのウェド様のせいだから。
ご読了どうもありがとうございました。




