29. 不自然への追及
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予定されていた日程よりも随分早い訪問であるにもかかわらず、王室の方々はボクとミリーさまを快く迎え入れてくれた。
エルさまはどうしてこんなに訪問が早くなったのかという理由を問いただしたいようで、時折そわそわとした素振りを見せていたが深く聞くことは今のところはしないようだ。
昨年と同じ客室に滞在させてもらうことになり、滞在用の着替えなどの荷物も王都のボクやミリーさまの家の屋敷から取り寄せられた。
屋敷からの荷物が届くころ、早くもボクらの荷物を積んだ馬車に乗ったフォナも王都までやってきたらしい。
ボクの荷物はフォナが全部やってくれるようなので、ミリーさまのものを宮廷の使用人の方に運び込んでもらいながら客室で話をしていた。
「ふふっ、昨年はわたしが一番後の到着でしたが、今年はリーネさまが最後になりましたわね」
「今日はずっとミリーさまの機嫌がよろしいのですね」
「ええ、今日はわたしのいろんな初めてをシアさまに体験させていただきましたから」
まさに花の咲くようなという表現がピッタリな笑顔でエルさまに答えるミリーさま。ボクとしては単なる移動手段としてしか考えていなかったので、この喜び方は意外なものだった。
「ぜひまた後ろに乗せてくださいね。馬に乗るということがあんなに楽しいことだとは思っていませんでしたわ」
「そこまで喜んでもらえたのは望外ですが、そういうことであればまた乗りましょうか」
「その口振りだとミリーさんは乗馬をしたことがなかったのかしら」
「初めて馬上を体験したということもありますけれど、これまで乗っていた馬車では到底感じることのできない速さで王都まで駆けてきましたの。まるで空を飛んでいるみたいでしたわ」
「それはステキね。私も乗馬はしますけど、あまり速く走るのは危険だからとやらせてもらえないのよ。シアさん、今度は私もお願いしたいわ」
楽しそうに語るミリーさまにあてられたのか、エルさままで妙に乗り気になってしまっている様子。断るに断れないけど一人ではちょっと……と思ったところに浮かんだのはエルさまの兄君だ。
「エルさまはウェド様にお願いしてみてはどうでしょうか。ボク一人でお二人というのは少々難しい部分もありますが、ウェド様であれば騎士教練で馬の扱いも嗜んでいることでしょうし……」
「あら、シアさまはミリーさまを後ろに乗せるのは良くても、私の乗せるのは嫌なのですね」
わかりやすい泣き真似をする仕草でこちらを見るエルさま。冗談でやっているのが簡単にわかるような仕草をわざとやっているからこそ乾いた笑いが出そうになってしまった。
「ミリーさまの立場を考えたなら、殿下とはいえ婚約者でもない男性につかまって馬に乗るのもどうかと思いますから」
「確かにご兄妹であれば、婚約者だとかそのようなことは関係ありませんからね」
「兄上に頼むのが一番早いと思うけど、さっきのミリーさまの話を聞くと興味が出てしまうのはしようがないじゃない」
やっぱり興味が抜けきらないエルさまの心を揺さぶるにはあの名前を出すしかないか。
「では、アルに頼んでみては如何ですか」
「えっ、いや、だって、突然そんなこと頼んで変な子だと思われたら嫌じゃない……。わかったわよ。シアさんがそこまで言うなら諦めるわ」
残念そうにしているが、エルさまもアルの名前を出されると弱いらしいが、満更でもなさそうだ。
そのうちアルにはエルさまを遠乗りにでも誘ってやってくれるようにこっそり頼んでみようか。
◇◆◇
晩餐の時間はミリーさまにとっては他愛のない話で終始した。けれども、ボクとウェド殿下の話をそこまで熱心にしなくてもと思う。
ボクとしては良き相談相手として頼れる友人としてウェド殿下に接しているつもりだし、ウェド殿下としても実際にボクと接している以上は関係に進展はないことを自覚しているはずだ。
だが、実際にボクら二人の会っている場にいない方々はボクらの言い分を聞いても、ただ恥ずかしがっているだけのように見えるらしく、妙に生暖かい目で見守られるような状況になってしまった。
このままだとそのうちありもしない既成事実が作られてしまう気がしてしまい恐怖を覚えた。
ボクにとっては居た堪れない晩餐も終わって個々の部屋に戻ったところで、エルさまの訪問があった。予想通りといえばそうなのだけど、どうやら昼間聞けなかったことを尋ねに来たようだ。
「さて、この時間なら邪魔は入らないでしょうからいろいろ聞かせてもらいます」
「今日の訪問の件ですよね」
「そうね。二人ともそう簡単に予定を崩すようなことはこれまでしていなかったと思うのだけど、どうしてこんなことになっているのしら」
やっぱりある程度長い付き合いがあるだけに、今回の訪問については不自然な点を感じたのだろう。明らかに疑うような視線をボクに向けてきている。
「あまり大っぴらに話すことではないのですけどね……」
「別にいいわよ。私だって聞いたからといっても誰彼構わず吹聴するようなことはしないわ」
「じゃあ聞いても変な行動を起こさないでくださいね」
「シアさんはいったい私を何だと思っているのよ」
「自分が当事者じゃなければ興味を持ったことに喜んで首を突っ込んでいくじゃないですか。今回のことに首を突っ込むのは勘弁してくださいよ」
「……どうしてもなの」
「どうしてもです。そんな目で見ても駄目ですから」
「わかったわよ、不用意に動かないから教えてちょうだい」
こうなったら止まらないことがわかっているのでこちらが諦めることになってしまう。本当にエルさまが変に動かなければいいのだが。
「まったくもう……、デリケートな話なのですから、本当は解決するまでは話したくなかったのですけど」
「前置きはいいわ、ミリーさんに何があったの」
「ボクもそこまで詳しい状況を把握できている訳ではないのですけどね。どうやらミリーさまがご両親の束縛を随分重荷に感じているようなのです。何をするにしてもご両親の許可がいるとか、ご両親に指定されたことをばかりをしている状況になっているとか、そういう状況らしいのですよ。
そのうち溜め込んだ感情が爆発してしまっても危ないと思ったので、今回はボクが無理矢理連れ出したことにしてこちらに連れてきました。
ロスエメルダ家の迎えにはフォナを学院にしばらく残して言付けを頼んでおきましたから、数日のうちにご両親には伝わるでしょうね」
ボクの説明を黙って聞いていたエルさまだが、話終わった途端に溜息を吐かれてしまった。
「無茶をしたものね。下手するとロスエメルダ伯夫妻に睨まれるわよ」
「まあそうですね……。でもミリーさまを悲しませるよりはそっちの方がいいです」
「確かにミリーさんを悲しませるよりはと思わないでもないけれど、あなた一人で泥を被るような真似をしなくてもいいじゃない」
「だからと言ってエルさまが動けば大事になってしまいますし、リーネさまを巻き込むとリーネさまの家にも迷惑がかかりそうですから」
「仕方がないわね。手に負えなくなる前にちゃんと相談してくださいね」
「ありがとうございます。エルさま」
とりあえず今夜のところは引き下がってもらえたことに安堵する。エルさまにも話したけど、さすがに王室の人間が一家族の中の問題に口を出すのは大事になってしまう。
だからといってボクが関わっても良いことではないけれど、ボクが勝手に連れ出したことにしておけば一番角が立たないだろう。あとは数日のうちにやってきそうなミリーさまのご両親をどう説得するかを考えておかないといけないな。
ご読了どうもありがとうございました。




