30. すれ違いの解消を
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、
ご指摘くださると幸いです。
リーネさまが当初の予定通りにやってきて数日、ロスエメルダ伯夫妻が年末の訪問にしては随分早い時期に王都へやってきた。
予定していた帰省をせずに王都にやってきた娘を一旦屋敷に連れて行って咎めようとしたようだが、そこにボクが割り込んでやった。
「ロスエメルダ伯、ミリーさまを咎めるのはおやめください。今回彼女が実家への帰省をせずに王都にやってきたのはボクが学院から彼女を連れ出したからであり、彼女自身に非があることではありません」
ボクたちの滞在していた部屋へやってきて、ミリーさまを連れ帰ろうとする伯はボクを振り返り、表情を変える。
「ではうちの娘を連れ出した貴女に全面的に非があると、そういう事でいいのかな」
「少なくとも王都への訪問に関してはそれで間違いありません」
「ならば、どうしてそのようなことをしたのか聞かせてはくれまいか。理由次第ではベルサフィア家へ正式に抗議を申し入れなければならんからな」
温和な顔のロスエメルダ伯ではあるが、笑っていない目でこちらをしっかりと見据えてきている。
「ミリーさまを檻から解放して差し上げたかったということが理由では駄目でしょうか」
ボクの言葉を聞いたミリーさまがこちらを見た。その顔から色が消えるのがわかる。ミリーさまの目を見『ボクに任せて』という気持ちで微笑む。
「檻とはどういうことかね」
「先日のことですが、二人でお話をさせていただく機会がありました。その際にミリーさまよりお聞きした話から、彼女はご両親という檻に囚われているのではないかと感じたものですから」
「ほう、私たちが娘の檻か、酷いことを言ってくれるな。親が子供のためにできることをするのは当然だろう、違うかね」
「庇護という範囲を超えていると思われましたからね。この年齢にもなって親が子供のすべてを決めてしまうというのはやりすぎでしょう。王女たるエルフィリシーナ殿下でもご自身の意志で既に道を歩まれておりますから」
エルさまは場に引き出されたことをどう思っているのか、溜息をつきながらも補足してくれた。
「そうね。私も幼いころは父上や母上の決めた通りに歩んでいたけれど、学院で学ぶようになってからは基本的には自身の意志で物事を決めるようにさせていただいているわ。
勿論私だけでは判断しきれないことについては父上に相談することもあるけれどね」
これでいいかしらという顔でエルさまはボクを見るので、軽く頷いてロスエメルダ伯へ向き直る。
「ボクやシルヴィリネ嬢は学院に在学するよりも前にある程度の自由裁量は与えられていましたが、それは家風や状況もあってのことでしょう。ただ、この年齢になって両親が深く子供に干渉している家はそうはないようですね」
「我が家の方針が間違っているとでも言いたいのですかな」
「子供を大切に思う気持ちや案じる気持ちはわからないでもありません。しかし、全てを親が決め、子供の意見を全く取り入れないのは如何なものかと」
「娘は今まで私らの考えに意見など述べる事はなかったからな、全て納得の上でのことだと判断していたのだが、違ったのかね」
ロスエメルダ伯とボクの話が始まってからは気配を潜めていたミリーさまだが、突然話を父親から振られてビクッとしつつ姿勢をただし、おずおずと言葉を紡ぎはじめた。
「その、お父様とお母様がわたしのことを思うゆえに、色々と決めてくださっていると思っておりましたので、わたしが口を挟むものではないのかと考えておりました。
申し伝えられたことに、そう……、違和感を抱くことも時折ございましたが、わたしのためと考えてくださっていることであれば反目するのも良いことではないと思っておりましたので、お父様の決められた通りになるようにと、心掛けていたのです」
娘の素直な意見を初めて聞いたのか、ロスエメルダ伯の顔色が変わっている。
「では、私たちの決めたことに不自由を感じることがあったのかね。叱りはしないから答えておくれ」
「エルさまのご学友に選ばれ、シアさまやリーネさまともご一緒させていただく機会が増えてからは度々不自由さを感じておりました。
何をするにもまずお父様やお母様にお伺いを立てなければならないわたしと、ご自身で方針を決めた上で、ご両親に相談をする皆様との違いも感じておりましたが、家風の違いもあると考えて表には出さないように心掛けていました。しかしながら、先日の話がシアさまから持ち掛けられたこともありますから、どうやらシアさまは感じていらっしゃったようですね」
「そうだったのか……」
「お互いの良かれと思う気持ちと、考え方のすれ違いがあったのでしょう。せっかく気持ちがわかったのですから、一度親子でしっかりと話し合ってみては如何でしょうか」
これまで娘のためと考えてきたことが娘を縛っていた事実を知ったためか随分と表情が変わってしまったロスエメルダ伯と、それを心配そうに見るミリーさまを見て、しっかり話し合いができればこの親子のわだかまりはなんとかなりそうだと感じた。
「ミリーさまもご自分の意見をしっかりと両親に伝えることで変わるところがあると思いますから、今日は宮廷ではなく屋敷の方で過ごしてみてはどうですか」
「そうですね。シアさまの言う通りだと思います。今日はお暇させていただきますわ」
自分を取り巻く環境を今まで変えようとしていなかったミリーさまだが、今日からは少しずつ変わっていけるといいなと思わせてくれる笑顔を見せてくれた。
◇◆◇
ミリーさまに関する状況が改善したことを相談相手にしていたウェド様にも話しておくべきだろうということで、ウェド様の部屋までやってきた。
相変わらず王室専用区画への訪問が顔パス状態なのだけど、本当にここの警備はこれでいいのだろうか。
ウェド様の部屋の扉を叩くと顔見知りになった側使えが中へ通してくれる。区画に入る直前に専任の伝令に訪問可否だけは確認を取っているので誰何すらない。
「ウェド様、訪問許可ありがとうございます」
「シアの訪問を僕が断る訳じゃないじゃないか。欲を言えば何の緊張感もなく訪問されるよりは、もう少し異性として認識して欲しいところだけどね」
「あははは……、それはまあボクの心持ちが変わればということで……。
その、以前相談させていただいていた件が何とかなりそうになったので、相談した以上は報告しておいたほうがいいかなと思って参りました」
「ああ、あの学友の子の話だね」
「ええ、今日宮廷にミリーさまを一度連れ戻しに来た彼女の両親と直接話す機会に恵まれました。その時にミリーさまの本音も聞くことができましたし、ご両親との気持ちのすれ違いもあったようなので、しっかり親子で話し合ってくれればもう大丈夫そうです」
「それはよかったな」
ウェド様笑顔で頷くと自分のことのようによろこんでくれる。こんなにいい人が何故ボクに惚れるのか未だにわからない。
「相談させていただいたお礼も兼ねて甘味を作ってきましたので食べませんか」
「シアが作ってくれたのかい」
「ウェド様にお持ちすることは伝えたので監視を兼ねたお手伝いの方が宮廷側から出されましたが、一応ほとんどボクが作りましたよ」
「ありがたいな。よし、じゃあお茶にしようか」
すぐさま茶器が用意され、持ってきたケーキが取り分けられる。
相談のお礼の後、そのまま雑談に興じて、話が終わってからボクが客室に戻ったのは日も沈むような時間帯のことだった。
ご読了どうもありがとうございました。




