28. お悩み相談を
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ウェド殿下に相談をすることで方針については決まったもののミリーさまと二人で話す機会に恵まれることなく、学院の二年目も終盤を迎えてしまった。
悩みを抱えつつも表にほとんど出すことないまま、卒なく生活を送ることのできる学友たちが恨めしい。悩む素振りを見せてくれればどうしたのかと堂々と聞けるのに、これではなかなか踏み込めないではないかと思う。
ボクがミリーさまと二人きりで話す機会に恵まれたのは、二年目の講義も一通り終わって、学院の皆が帰省を始める時期だった。
何の偶然かボクの家の迎えもミリーさまの家の迎えも年末の休みの初日には来れないということが手紙で分かっていたため、エルさまとリーネさまを二人で見送った夜のことだ。
せっかくだからお茶でも飲もうとボクの部屋にミリーさまを誘って、他愛もない話をしつつタイミングを見て問いかける。
「ミリーさま、ここのところずっと気になっていたのですが、何かお悩みをお抱えですか」
「突然どうしたのですか、シアさま。わたしがいったいどのような悩みを抱えているというのでしょうか」
「詳しくは存じ上げません。ですが、ボクたちが出合った頃に比べると、どことなく影があるように感じたものですから」
「そのようなことは……、無いとは言えないかもしれませんわね」
一旦否定するそぶりを見せるも、何か諦めたような顔で微笑むミリーさまに思わず引き込まれそうになった。
「もしよろしければお話いただけないでしょうか。話すだけでも心の持ち方が楽になることもありますから」
「そうですわね、その前にひとつお尋ねしてもよろしいかしら」
「ええ、どのようなことですか」
「このことに気付いていたのはシアさまだけですか」
「そうですね、今のところはそうだと思います。確証はないものの、なんとなくそんな気がするというだけではエルさまもリーネさまも巻き込むわけには参りませんから」
「そうですか、それはよかったです」
心配そうな顔で尋ねてきたが、この状況を知るのがボクだけだと知ると安堵のため息を漏らすミリーさま。何故そんなに色っぽいのだ。本当にボクと同い年なのかと不安になってしまう。
「では、話していただいてもよろしいでしょうか。ボクで何か力になれればいいのですが」
「たいした悩みではないのかもしれないのですよ。ただ、わたしが両親の人形みたいだと思っているだけなのですから」
「人形……、ですか」
「そうですの、幼いころからずっとお父様とお母様にお伺いを立てて、言われるままに育ってきました。言われるままに言葉を、礼節を、勉学を身に着けてきました。何をするにもお許しが必要でしたから。
けれども、ご学友としてエルさまやシアさま、リーネさまと知り合って、学院でいろいろな家の方と知り合うことで、わたしはもしかしたら何一つ自分で選ぶことができない人形なのではないかと、そう考えてしまっていたのがきっとシアさまの言ったわたしの悩みなのかもしれませんわ」
語りながら少しずつ寂し気な表情に変わるのを見ていられなくて、思わず椅子から立ち上がってミリーさまに駆け寄って、抱きしめてしまった。
「ミリーさま、なんか無理に聞き出したみたいになってしまってごめんね。こんな悲しそうな顔をするミリーさまは初めてで、聞かなければよかったかもだなんて思ってしまった」
強く抱きしめすぎてしまったのか、腕の中でもがくミリーさまの様子に力を弱めて顔を見つめる。
「それはありませんわ。わたしのことを心配してお聞きになったのでしょう。シアさまが優しい方であるのは、級友であればご学友でなくても存じていることですわ」
「そんなことはないと思うけど、でもミリーさまは人形なんかじゃないよ。学院で一緒に過ごしてきたボクたちはそう思っているからさ。
そうだ。いっそのこと帰省せずにそのまま明日馬車が来る前に宮廷に向かっちゃおうか」
「えっ、そのようなことは……」
「大丈夫だよ、エルさまもきっと許してくれるし、ボクが強引に連れて行ったことにすればご両親も無茶は言わないって。
ボクのところの迎えと一緒にミリーさまの家の迎えにも言付けをお願いしたいけど、いいかな、フォナ」
両親に何を言われることを想像したのかオドオドとしてしまうミリーさまに笑いながらいたずらをするように持ち掛けてみる。そして部屋に控えているフォナに言付けをお願いすると、一礼して承知する様子が見て取れた。
「ほら、帰省の代わりにさっさと宮廷に行ってしまおう。ね」
「で、でも……」
「でもとかないから、決まりだよ」
「はい……」
心配そうな顔をしながらも、ボクの腕に抱かれたままのミリーさまは渋々承諾したのだった。
◇◆◇
翌日、迎えが来るよりも先に出てしまいたいという理由で、最低限のお金と身分を証明するものだけを持って、ボクとミリーさまは学院を出発した。
「ひゃっ……、シアさま、本当に大丈夫ですの」
「問題ないよ、でもちゃんと掴まっていてね」
「はい。よろしくお願いします」
おずおずとボクにしがみつくミリーさまが妙に可愛くて困る。何故ボクに彼女がしがみついているかというと、今ボクたちは馬上にいるからだ。
丁度いい馬車がなかったのもあるが、馬車よりも単騎駆けの方が早いと判断して、言付けと一緒に荷物もフォナにお願いしてから馬で移動することにしてしまった。
「馬は久しぶりだけど、身体は忘れてないみたいでよかった。ミリーさまは馬に乗るのは初めてだったっけ」
「ええ、そうですわ。でも風が気持ちいですわ。怖くて乗馬は習いませんでしたが、習っていればよかったかしら」
手綱を握って前を見ているだけにミリーさまの表情はわからないが、昨夜に比べると穏やかな雰囲気になっていることが言葉からもわかる。これだけでも連れ出した甲斐はあったかもしれない。
「これだけ風を感じて走れるのは早駆けならではだから乗馬だけだとそうはいかないかも」
「そうなのですか」
「もしよかったらまた一緒に乗ってみるかな」
「よろしければ是非」
その後はあまり会話をすることはなかったけど、信頼してボクにしがみついてくれていることは伝わってくる温かさからよくわかった。やっぱりリーネさまのときもそうだったけど彼女たちに涙は似合わないと思うし、涙を流させるような状況は早々に拭い去ってしまいたい。
そんなことを考えていると、王都の外壁が見えてきた。
さすがに今日は王室の馬車じゃないこともあって、入場列に並ぶ。久しぶりの王都の外門はやっぱり大きかった。
「ミリーさま、まとめて受付しちゃうから身分証出してもらってもいいかな」
「あ、はい。シアさま、ありがとうございます」
「お礼なんて要らないって、ボクが勝手に連れ出してきちゃったんだからね」
二人で話をしていると長い待ち時間もすぐに感じてしまう。馬で貴族の子供だけがやってくることは珍しいのか警備の兵士には驚かれたが、無事に王都へと入場することができた。
さすがに王都内では早駆けはできないけれど、宮廷に向かうのは馬ならそんなに時間はかからない。大通りを抜けて城門までやってくると、もう後は勝手を知った宮廷だ。
城門で馬を預けて手続きを行うと、徒歩で庭園を抜けて宮廷へ向かう。手続きの間に先触れでも通されたのか、宮廷に入ってすぐのところでエルさまに出会った。
「今回は二人とも随分と早いお越しね」
「ははは、ミリーさまを連れて馬で学院から来ちゃいました」
「その……、はい。シアさまの後ろに乗せてもらいまして、初めて両親の承諾なく行動してしまいました」
「どうしてこんなことになったのか、ちゃんと後で話してもらいますからね」
ミリーさまに聞こえないようにこっそり耳打ちをされてしまったが、突然の来訪にも関わらず笑顔で迎え入れてくれるエルさまがありがたい。ミリーさまも少し顔を赤くしながらも、どことなくすっきりとした顔をしていた。
久しぶりに少年らしさを見せるシアを出すことができた気がします。
他から見た少年らしさ、少女らしさ、どちらも本当の姿ではありますが、少女らしさは何割くらいが周囲の勘違いでしょうか。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




