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27. 相談相手に選ぶのは

誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、ご指摘ください。

 ミリーさまの家庭の事情に口を出すわけにもいかず、それでいてミリーさまが家庭にストレスを感じていることが少しずつ察する事ができるようになってきた。

 事情を知らない人には普段より少し大人しいようにしか見えないかもしれないくらいには上手く隠しているけれど、溜め息が増えたと思う。


 何か対策を打てないかと考えるものの、他家の話にデビュタントも迎えていない子供が一人で何かできる訳でもない。だからと言って、ミリーさまだけ除いてエルさまとリーネさまに相談して変に誤解を生む訳にもいかないし……。


 悩んだ末に相談相手として選んだのはウェド殿下だった。彼ならそれなりに立場もあるし、エルさまを通してミリーさまの事も知っている。何よりもボクの話もちゃんと聞いてくれる人だと思ったからだ。

 そんなことも考えて、ある週末の夕食後にエルさまに話を持ち掛けてみた。


「エルさま、明日宮廷に行きませんか」

「あら、シアさん。普段だと(わたくし)が誘わないと行こうとしないのに珍しいですね」

「え、ええ。ちょっと思うところがありまして……、ウェド殿下とお話をさせていただきたいな、と」

「珍しいついでに理由を教えてくださいますか」


 問いかけてくるエルさまの目がキラキラ輝いているように見え、少し圧倒されてしまう。でも今はまだミリーさまのことで相談に行きたいなんて話すことはできない。余計な心配をかけてしまうかもしれないし……。


「ボクの心の持ち方や方向がしっかり決まってからで良ければお話させていただきますが、今はちょっと」

「そうですか、わかりました。でもそのうち話してくださいね」

「はい、それは必ず。では宮廷に向かう準備もありますので部屋に戻ります」

「そうね。じゃあまた明日、シアさん」


 エルさまと話をつけて自室に戻り、フォナとも話しをして、翌日の準備を行う。準備と言ってもその日の内に行き来できる場所なので大げさなことはないはずなのだけど、フォナはボクを着飾らせたがるところがある。

 幸いにして告白の返事に行ったときのようにドレスを持ち出されることはなくなったのだが、いつの間に用意したのかある程度の動きやすさを考慮したパンツルックのはずなのに可愛らしい雰囲気のある服が揃っていた。


「フォナ」

「なんでしょうシア様」

「いつの間にこんな服取り揃えたのですか」

「シア様がドレスを嫌がるという話を旦那様と奥様にお手紙でお伝えしたところ、先日ご実家から送られてきました。どうやらシア様専用に専門家まで雇ったとか」

「……、ドレスが嫌いなんじゃなくて着飾るのが嫌いなんですけど」

「そこは旦那様方のご指示ですのでシア様には残念ながら拒否権はございませんよ」

「それは残念ですね……」


 舌戦で父様はともかく母様に勝てる気はしないし、変なことをフォナから実家に報告されても困るのでこれはされるままになるしかないのだろうか。着てしまえば自分の目には映らないから関係ないと割り切るしかないのか。


    ◇◆◇


 翌日、妙に笑顔が輝かしいエルさまとそれを不思議そうな顔で見るミリーさまやリーネさまと共に宮廷に向かう。


「エルさま、どうしてそんなにご機嫌なの」

「それはねー、ふふっ……、今回の訪問はシアさんが宮廷に行きたいって初めて自分から言ってくれたからよ」

「あら、そうなのですか」

「どういった風の吹き回しかな」


 エルさまの発言にミリーさまもリーネさまも驚いた顔でこちらを見た。でも本当の理由を全部は話せないし、一部だけでなんとかなるかな。


「ちょっとウェド殿下にお話したいことがあって、それでお願いしたのです」

「どんなことを話したいのかは(わたくし)にも教えてくれなかったのだけどね」

「さすがにエルさまにでもお話しづらいことはありますから……」


 不思議といつもよりも追及が緩かった気がしたが、雑談に興じていると馬車は無事に宮廷に到着した。今回は込み入った話があるためボクだけがウェド殿下のところに向かう。三人は庭園でお茶でもするらしい。

 何度も通ったために勝手も知った宮廷の中、近衛の方にも顔を覚えられたのか会釈だけで通れるようになってしまった。

 殿下の部屋の前に立ち、扉をノックすると入室を促す声がする。


「殿下、お時間いただきましてありがとうございます」

「いや、寧ろ毎回足を運ばせてすまないね。ところで今日は始めて見る服だけど、新しく仕立てたのかな」

「ええ、実家の両親がドレスを嫌がるボクのためにどうやら職人を雇ってまで作ったらしく、先日送られてきたらしいのです」

「とてもシアに似合っていると思うよ。それはちゃんと茶会用に見えるし、仕立て次第ではそのまま夜会にも出られそうだ。

 何より今までになく新しい。もしその姿を見たご婦人がいたら問い合わせが来るかもしれないくらいだね」

「お褒めいただきありがとうございます」

「さて、今回は前回の訪問からあまり間隔がなかった気がするけど、何かあったのかな。今日に限って普段は一緒のエルたちも居ないし」


 ウェド殿下は笑顔でボクの装いを褒めた後、普段との違いに気付いたようでその点について問いかけてきた。もちろん話さなければ相談にならないことなので着座のままとはいえ姿勢を正して話を切り出す。


「実は折り入ってご相談させていただきたいことがありまして」

「僕にってことは、エルたちには話しづらいことなのかな」

「ええ、ちょっと……」

「どれだけ力になれるかどうかはわからないが、どんなことなのかな」

「学友のミリーさまのことなのです。ご実家のロスエメルダ伯夫妻の過保護さというか過干渉というか、エルさまやリーネさま、そしてボクに比べて両親によって制限されていることがどうやら非常に多いようで、ボクたちとご自身を比較してストレスをため込んでいるように見えまして、ご家族の不和の種になりそうで心配なのです。

 ミリーさまがその件について悩む素振りはお見かけすることはあってもお話いただけてはおりませんし、エルさまが知るとロスエメルダ家に乗り込んで行ってしまいそうで、失礼ながらご相談できそうなお方を考えた末に殿下のところへ来てしまいました」


 話を聞き終えた殿下は軽く考え込んだ後、ボクの目を見て話し始める。


「そうなのか……、相談相手として選んでもらえたことは光栄だけど、これはちょっと難しいかもしれないな」

「やはり殿下でもそう思われますか」

「家の中の問題は基本的にその中で解決するものだしね。何よりミリティディア嬢はまだ誰にも相談していないのだろう」

「ええ、でも相談されるのが先か、不和が起こるのが先かといった感じに見えまして」

「なるほど、状況がある程度シアにも掴めているようならだけど、寮の部屋で直接話をしてしまう方がいいかな。きっかけさえあれば悩みを打ち明けてもらえるかもしれないからね。

 でもエルがいるところではダメだよ。二人だけで話せる機会を作るといいと思う」

「直接聞きだしてしまうというわけですか、確かにそれがいいかもしれませんね。話すことで溜まっているストレスも少しは緩和できるかもしれないですね」

「一人で悩むのは何よりも良くないからね。悩み続けるといつか負荷に耐えられなくなってしまうから」

「やっぱり相談に来てよかった。ありがとうございます」


 自分自身の悩みでもあったために、道がひとつ示されただけでも随分気が楽になり、笑顔でお礼を言うと、後は取り留めのない話題や日々の訓練をどうしているかなどの話で過ごした。


 相談の合間にもお茶をしたり別の話も挟んだりしたので随分長い時間殿下の部屋に滞在してしまった。学院に戻る時間が迫っている。

 馬車のところに行くと、既にエルさまたちが待っていた。


「お待たせして申し訳ありません」

「少しくらい問題ないわ、兄上との話はどうだったの」

「はい、とても有意義な時間を過ごさせていただきました」


 最近こちらもミリーさまのことばかり考えて笑顔を見せることが少なかったせいか、三人は呆気にとられた顔でボクを見たが、口々にそれはよかったと喜んでくれた。

 この日相談を持ち掛けた殿下以外には、ボクのことはどうやら好きな人に会いに行く少女にしか見えていなかったらしい。大いなる誤解を振りまいてしまったことに気付くのはもっとずっと後の話。

 エルさまやリーネさまに相談するとミリーさま不在で話さなければならないという先入観にとらわれた結果、相談相手に浮かんだのはウェド殿下でした。

 でも、詳しく状況を回りに説明せず、自分から婚約者候補に会いに行きたがったり、合ってきたら笑顔だったり、どう考えも誤解招きますよね。知らぬは本人ばかりなりといいますか、周りからは順調に仲を深めているようにしか見えませんよね。


それでは、ご読了どうもありがとうございました。

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