26. それぞれの事情
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、ご指摘ください。
演習講義を通してアズベルトと妙に仲良くなってしまった気がする。最初は警戒していたはずなのに、気づけば会話を交わすことにだんだん抵抗がなくなってきてしまった。
何しろ素で接しても変な顔をされない上にボクとしては精神的には同性だと思っている。それに加えてエルさまの婚約者という立場があるために、下手な相手とは違って親しく話していても距離を詰められすぎることがないのは気が楽だ。
まあウェド殿下の婚約者候補という噂が学院に広まってしまってからはボクに興味本位で声を掛けてくる相手も減ったのだが、やはり必要な分だけを話して後は静か過ごせる相手の方が楽でいい。
以前は長い髪を後ろで一纏めにして男性用の制服を着ている少女というだけで十二分に目立っていたのか、一人でいるときには学年問わず話しかけてくる相手もいた。ただ、友達付き合いができる相手は一握りでボクに変な気を起こそうとする輩がいたのも苦い記憶だ。そういう輩は正当防衛として杖で打ち据えてやったりもしたのだが、一人で静かな時間を過ごすのも大切にしている身としては偶にあるのんびりとした時間を潰されてしまうのは嫌だった。
二年の後期も始まった当初は、エルさまの学友の中でもボクだけがアズベルトとの接点が多くなったためにエルさまに多少の嫉妬は受けたけど、誤解もしっかり解いてボクたちの会話に彼が混ざるようになってからはそれもなくなった……、はずだ。
折角トゥルーエンドを目指しているはずなのにボク自身がエルさまとアズベルトの間を別つ楔になってはいけないと久しぶりに気を使って動いてしまった。
それでも演習の内容がペア単位で異なっている現状ではそのことにまで踏み込んで話せるのがボクだけということもあって会話の頻度だけはボクが高い気がするが、そこはまあ妥協してもらう点だと思う。
ただ、演習のペアがあることをいいことに、それ以外の科目でもペア作業の際には相手をわざわざ選定するのが面倒な教導員が多いのか演習の時の物が適用されると、かわいくも恨みがましい視線がこっそりエルさまから向けられることがある。でも、これは不可抗力なのだと断じて言いたい。
前世で言う実験を行う科目もそんな中のひとつだ。
やっていることははっきりと化学とも言えないお遊びみたいなものだと思うけど、専門的な知識の無い身としては理屈をはっきり説明できるほどのものでもなく、この世界もそのうちいろいろな学問が発展して行くのだろうかなんて漠然と思ってしまう。
「アズベルト、こっちは反応が終わったみたいだけど、そっちは結果出たかな」
「そろそろだな。しかし、なぜリューティミシアはそんなに手際がいいのだ、こんな薬品実験に使うような器具は貴族家といえどもそうそう学ぶのに使えるものじゃないだろう」
「なぜなのかと聞かれてもね、説明のしようがないのだけどね。でもアズベルトも他の面々と比べたら抜群に手際がいいじゃないか、家庭教師の学習で使ったりしたのかい」
「いや、それはないのだが……な」
まさか記憶にある前世にも似たような器具が存在して、おかげで扱いに恐怖心などないのだなんて説明はできない。
そもそもアズベルトの手際こそ、他の学生と同条件とするならば隔絶していると思うのだけど、こっちこそどう説明するのだろう。
おかげで他のペアが手間取っている間にボクたちだけ教導員が予定していた部分まで終わってしまい、暇を持て余すことになってしまった。
「今回も申し訳ないくらい早く終わってしまったな……」
「自由な時間が多く取れるのはありがたいけど、ボクはこうして二人だけで早々に実験室を出るのは他の学生の視線が気になるというか、なんとかならないかな」
他の学生というか、主にエルさまの視線なんだけどね。ボクらの間に何もないとわかっていてもやっぱり気になるものは気になる性分らしく、ボクと二人で宮廷に向かう際にもしっかりとボクの気持ちをウェド殿下に向けようとしているみたい。
「だからと言ってわざわざゆっくりやる必要も無いだろう、それよりも最近気になっていたことがあるのだがひとついいか」
「ん、何かな、アズベルト」
「そう、それだ。リューティミシアは身近な相手は学友に限らず使用人も愛称で呼んでいるのだろう、そろそろ俺にもそうしてくれてもいいんじゃないか」
「そんなこと言われてもエルさまがどう思うか……」
「そのエルも最近は俺のことをアズと呼んでくれているからな。それとも俺は仲間として認めてくれないのか」
「いや、そういう訳ではないのだけど……」
少し寂しそうな顔をするアズベルトの雰囲気が実家にいるシェディの寂しそうにしている時のものと重なって見えてしまいついつい気を許してしまいそうになる。仲良くしなければと思わせる何かがあるように思えて仕方がない。
おいおい、キミはいつからわんこ属性になったんだ。ゲーム中と性格違いすぎないかと思いつつも、エルさまの顔を思い浮かべながら答えを濁す。
どう返事をしたものか困っていると他の面々も実験が無事に終わったのか講義室に戻ってきたようで声をかけられる。
「お二人だけで何の話をされているのかな」
「ああ、皆も実験終わったんだね」
「それはもういいわ、二人で何を話していたのか教えてくれないかしら」
エルさまがやっぱり気になるのか質問をしてきた。まあしょうがないよね。
視線をアズベルトに向けると、内容を話すことに了承をしたつもりか頷いて見せたので説明をする。
「いや、ボクが仲良くさせてもらっている相手を愛称で呼ぶのなら、そろそろ自分も愛称で呼んだらいいじゃないかってアズベルトが言ってきてね」
「だってそうだろう。ほとんど接点がなかった時ならともかく、今は皆と話す機会も増えたし別に問題はないだろうと思ったのだ」
「だそうです。エルさまどう思われます」
「別にいいのではないかしら」
「あれ、もう少し渋るものかと思ったのですが」
あっさりと承諾してみせたので驚いてしまうも、エルさまは顔を背けながら言い放つ。
「あなたが嫌ならともかく、そこは私が止めるところじゃないわよ。アズさまも私たちと話すようになってしばらく経ちますし、なにより私の婚約者と学友たちの仲がよろしくないなんて思いたくもないでしょう」
「まあそれもそうですかね。エルさまから何も言われないならボクとしては問題ありませんよ。じゃあボクのこともシアと呼んでください」
「ああ。シア、わかったよ。他のお二人はどうしようか」
「あたしは別に問題ないけど、ミリーさまは……」
「申し訳ありません。名前で呼ぶのはともかく、愛称は家族以外の男性には呼ばせるなと父上が申しておりまして……、わたしの一存で決められないのです」
「まあ事情があるならしようがないな、無理強いするつもりはないから気にしなくていいさ」
今回のところはエルさまも素直に話を聞いてくれたし、問題となるようなことはなかったけれど、昨年末の宮廷への訪問の時も少しそんな雰囲気はあったけど、このままミリーさまだけちょっとした不自由を感じる瞬間が積み重なることで不満が溜まっていってしまって、ゲームにもあったミリーさまが実家の両親による締め付けに耐えられなくなってしまう方向に話が進みそうな気がする。
ボクの家やリーネさまの家が緩いと言っては誤解を招くかもしれないが、ミリーさまの両親は過保護すぎるきらいがあるからな。
でもこれは学院の中での学生の問題であった去年のリーネさまのいじめの時とは違って、ミリーさまの家庭の話も入ってくるから子供なボクだけでは対応が難しいかもしれない。だからと言ってエルさまにも相談できない。
けど、放置していてアズが解決してしまうのはありがたい話かもしれないけれど、好ましい話ではない。どうにかいい案はないものだろうか。
自分は気安く感じていても相手がどう思っているかなんてわからないのに、シアは罪作りですよね。
今回の終わりにミリーさまの反抗期的なものを匂わせましたが、実際に反発してしまうのはいつかは未だわかりません。
シアは現状が既に根本からずれてしまっているとはいえ、ゲームのシナリオが記憶にあるから先読みして暗躍しようとします。それがまたどういう結果を生むことになるのか……。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




