25. 彼の扱いはどうしたものか
誤字、脱字、不備等の気になる点がありましたら、ご指摘ください。
ボクの成長期もどうやら始まったはずだし、これでボクもゲーム通りの身長に……と実は結構な期待をしているものの、何週間経ってもなかなか体つきには変化が出てこずやきもきしている。こんなことで焦ってもしょうがないのだけど、やっぱりいつまでもちびっこ扱いされることがあるのだけは勘弁して欲しい。
平穏ないつも通りともいえる日々が続く中で、新しい習慣になったのは数週間に一度宮廷に顔を出してはウェド殿下と会い、ついでというかこちらが個人的には本命なのだが、ダイナスピア団長に頼んで近衛たちと訓練を受けさせてもらったりをしていた。
順調な日常と言えるかはわからないが、問題はほとんどない日々だったと思う。ひとつ贅沢を言えるのならば、不敬にならずに実家にも迷惑をかけない方法でなんとかウェド殿下に幻滅される手段はないだろうかと考えたものの、さっぱり方法が思い浮かばないことだけはどうにかしたかったが……。
そんな生活を過ごしつつも学院二年目後半に入ると、二年目当初に説明を受けた通り、最上級生との共同での演習講義が出てきた。演習と言っても、やっていることは学院の施設を利用して実験や実習をしたり学院外に出ての実習をしたりという表現の方が正しい気がする。
演習という言葉だけ聞いてどんなことをするんだろうと期待していたボクの心を返して欲しい。とはいえ、講義棟の中に引きこもって教導員の話を元に進める講義よりも興味深く、屋外ならではの講義などもあると知って、演習講義に意欲を盛り上げていたのは皆同じみたいだ。
講義棟でのそれが知識を蓄えることが目的であったのに対して演習講義は成果を求める内容が主体であったこと。また、最上級生の成果の追実習という意味も含めているらしく教導員は監督者としての立場となること。
同級生の二人ペアに対して指導と説明を行う最上級生一人という組み合わせの教科が二つ、二年の後半にはあることなどが、後期の開始時に説明された。
講義を行うに当たってペアは、公平を期すため籤で決められることとなった。が、何の因果かボクのペアはどこか苦手意識が付きまとう金髪碧眼の少年になってしまったのだ……。
ちなみにエルさまはミリーさまとご一緒に、リーネさまはボク同様に別の少年と組むことになったようだ。
「ベルサフィア、いくら学友と一緒になれなかったとはいえ、そんなに残念そうな顔をしなくてもいいじゃないか」
「エルさまたちの誰かと一緒になれなかったから残念だと思っている訳ではないのですよ」
「ではなんでそのような顔をする」
「それはちょっとお答えできません」
「じゃあ表面上でも普通にして欲しいものなのだが」
「これでよろしいでしょうか」
表面上笑顔で取り繕って見せたが、それはそれで不本意そうな顔を見せるアズベルト。こっちだって方向性は違うけど不本意なんだから許して欲しい。
「無理矢理笑顔を作らなくてもいいから普通にしてくれ」
「承知しました」
彼が皆と比較的良好な関係を築いているのはこの一年半見ていてわかっているが、ボクやミリーさま、リーネさまが真っ当な人生から道を踏み外す鍵となる人物でもあるのだから、警戒だけは怠ることができないと思っている。
この前世の秘密の知識をこっそり学友たちに話せたらと思わなくもないのだが、そんなことをしても理由の説明に困るだけなので難しい。
「俺は何か君にしただろうか。どこか学院に入学した頃から距離を置かれていたように感じていたのだが」
「特にクリンベルさまに何かされた覚えはないですね……」
「ならせっかく後期の演習講義を共にするのだから、少しくらい仲良くしようじゃないか。ほら、俺を名前で呼んでくれていいからさ。その代わり俺も名前で呼ばせてもらうぞ、リューティミシア」
「……、しょうがないですね。わかりました、アズベルトさま」
渋々態度を軟化させるかと考えるも、やはり気に入らない。彼に取り込まれないように気をつけないと。
婚約者であるエルさまの学友という事もあるのか、ボクがあんなに冷たい態度であったにも関わらず、好意的な態度で接してくれていることが不思議でならない。
更には通常の講義の合間にも演習講義について話しかけてくるようになったのは誤算だった。
◇◆◇
そんな後期の講義が開始されてしばらくたった頃、何気ない雑談の中でその話題はエルさまから振られた。
「シアさん、演習の時の話をお伺いしたいんですが」
「演習ですか、何かあったでしょうか」
「エルさまは婚約者のクリンベルさまが気になっているのですわ」
「ああ、なるほど」
「ミリーさんっ……、まあそういうことなのですが」
少し慌ててミリーさまを押さえながらも肯定する姿勢を見せるエルさま。少しはにかんだ顔がかわいらしい。
「良い方だとは思いますよ。上級生の指示漏れについても確実に確認して的確に演習を進められていますし、しっかりした侯爵家の教育を受けてきているだけあって頭の回転も速い方だと思います」
「学習以外の面はどうでしょうか」
「学習以外の面、ですか」
「シアさんへの態度ですとか、その」
「変な輩だったらシアさまが叩きのめしてくれるでしょ」
しれっとそんなことをいうリーネさま。いや、頼まれれば考えますけどさすがに勝手にそんなことはできません。家同士の問題になっても嫌ですし……。
「ああ、そちらですね。好ましい方ですよ。演習に関すること以外はほとんど話すことは無いですけど、若干言葉遣いがぶっきらぼうなところはありますが、紳士的な態度で居ることが多いですし、物腰も柔らかいと思います。
そうですね、エルさまの婚約者としてどうかという話をボクがしても良いならですが、エルさまの将来をお任せしても悪くないのではないでしょうか」
「将来をお任せだなんて」
赤面しながらもまんざらではなさそうなエルさまが微笑ましい。
伝えきれていないことを一つ上げるなら、欠点が見当たらな過ぎて少々不気味さがあるというものがあるが、私的な状況での姿を見ていないのもあるししょうがないことだろう。
「リューティミシア、ちょっと時間いいか」
噂をすればというべきか、話は聞こえていなかっただろうにアズベルトがやってきた。知識に対して貪欲なところがあるのか彼は演習の予習に余念がなく、それにペアであるボクまで付きあわせてくる。
「アズベルトさま、また演習の話ですか」
「ああ、話しているところに付きあわせてすまないが、次回に行う予定のこれなんだが意見を聞かせて欲しくてね」
「どれどれ…………、ああこれですね。先輩も前回の説明でここは不安そうにされていましたけど、以前の演習で得た結果からすると多分これで大丈夫じゃないでしょうか」
「ん、俺が考えていたのと同じだな、それなら多分大丈夫だろう。じゃあまた次回も頼む」
「ええ、またよろしく」
意見を求められた箇所に対して書き込みを加えて伝えてみると、同意を示される。あんまり仲良くしているつもりはないのだけど、これじゃ普通に仲の良い相手に見えてしまうではないか。
「シアさん、アズベルトさまとは随分と馴染まれたのですね」
「エルさま、ボクとしてはそこまで仲良くしているつもりはないというか、演習のペアとして以外はほとんどお相手しているつもりはないのですが」
「やっぱり話す機会が少ないのは羨ましいんだな」
「それはそうですわ。将来結婚する間柄とはいえ、どんな方なのか知っておきたいですし、せっかく同じ学年で学院に所属しているのですからもっと仲良くしたいです」
「では、お話したらいいじゃないですか。ボクをウェド殿下の元まで引っ張って行った時みたいに積極的に行けばいいんですよ」
「私自身のこととなると恥ずかしくて行動に移せないんです」
「ボクの時はあんなに強引だったのに……」
ボクをウェド殿下の部屋にまで連れて行った時の積極性はどこかに置き忘れたかのように恥ずかしがるエルさまに何か理不尽なものを感じながらも、そのかわいらしさに許してしまいそうになるから困ったものだ。
アズベルトとシアが仲良くなるとエルさま嫉妬しそうになってます。
でもシアとしてはあまりアズベルト仲良くなる気はないのです。
そして、自分以外の時と自分の時で積極性の全然違うエルさま。
あなたの周囲にもこういう人って居たりしませんか?
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




