21. なんでそんなに勧めるの?
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学院も二年目の生活が始まり、今年も結構な量の新入生が入ってきたようだ。伝聞でしかわからないのは、昨年のボクたち同様に一年目の学生はほぼ一年生と過ごすしかない上に他学年と会う機会も講義の時間の関係で皆無なのでしようがない。
二年目に入ったからと言っても、前半は講義の内容が一年目に比べて発展的なものになったりする程度だ。
後半に入ると三年目からの準備も兼ねての最上級生と共同で行う演習のようなものが少しずつ入ってくるらしいということだが、その直前にならなければ説明されないという状況であるためにまだよくわかっていない。
担当教導員も二年目まではアトメリアル教導員から変わらないことだし、生活に特別変化を感じるものでもない。来年からは担当教導員は一名に絞られず、選択した内容に応じて教導員の元に所属する形になるらしいが、前世でいう大学のゼミみたいなものだろうか。
説明が無いものを考えてもどうにもならないし、すぐさまやることが大きく変わる訳ではないので結局一年目とあまり変わらない日々を過ごしている。
講義の時間が少し長くなったために、お茶会ができるのが休みの日でなければ夕食後しかないのは少し問題だと思うけど……。
夕食が終わり、湯浴みも終わった時間。そんな時間にお茶だけ飲みながら雑談をするお茶会も少しずつ普通になってきた
「はぁ……」
「どうしたのですか、シアさま。いきなりそんな溜息ついてさ」
「そうですわ、何かあったのでしょうか」
「実はですね。ボク、非公式な場の話ですが、この間の休み中に告白されてしまいまったのです。予定では次々週末の休みの日にでもお返事に行くことにしているのですが、未だにお返事が決まっていなくて、ずっと悩んでいるのです」
「あら、それは素敵な話ね。ちなみにどなたかしら」
「そうだね、それは気になる。シアさまに心を射貫かれてしまった殿方はどちらのお方なのかな」
皆一斉に身を乗り出すようにこちらに視線を定めてきた。やっぱり恋の話は食いつきがいいものなのだろうか。
「その……。ウェド殿下です……」
「えっ、シアさまは殿下から告白されたのか」
「そんな話聞いてないわよ、シアさんが宮廷から帰ったのなんてもう随分と前なのに……。兄上ったらずっと秘密にしていたのね」
「まあまあ、誰にだってそういうことはあるからさ」
「いつ、どこでの話なの」
「年明けの模擬戦の日の夜、お借りしている部屋で、ですね」
突然部屋にやってきて告白されたこと、返事はゆっくりでいいと部屋を出ていった当時の状況を時折質問が挟まれながらも説明をしてみた。
「あら、想像以上に大胆ですわね……、シアさまは殿下のことはどう思っていらっしゃるのかしら」
「好ましい方だとは思います。でもお付き合いをさせていただくとか、結婚させていただくとなるとどうしていいのかがよくわからないのです」
人としては好いていること、ただ異性、特に結婚相手としてはどう考えてよいのかわからない状況であることを答えると、エルさまから思いもよらない言葉が寄せられる。
「シアさんが兄上と結婚したら……か。想像してみたのだけれど、私としては見知らぬ方が兄上のところに嫁いでくるよりも、気心知れたあなたの方がいいのかもって考えてしまう部分はあるわね」
「そ、そんなことを言われても、まだお返事も決まっていないし、そもそも非公式な話の段階なのですから」
「ご両親には相談なさったのかしら」
「母様にだけ相談しましたが、非公式な場のものであればそこまで気にせずにいてもいいのではないかと言われました。断ってしまっても大丈夫だから、自分の気持ちで素直にお返事しなさいって。
もしも相手が本気だったならば、非公式の場の話を一度断ってしまっても、公式に双方の親を通してからまた話が来るだろうって言っていました」
「シアさまの家族ってご両親だけだったっけ」
「そうですけど」
「じゃあ辺境伯家を継がないといけない訳だし、王室に嫁ぐ訳にはいかないよね」
「では兄上はシアさんと結ばれるためにはベルサフィア家に婿入りする覚悟でもあるのでしょうか。気になりますわ」
「さすがに由緒ある辺境伯家を失うわけにもいかないって陛下も考えるんじゃないかな」
「ボクとしては今までは誰かと結婚するとか考えたこともなくて、漠然と将来は養子でも取ればいいかなって思っていたのだけど」
「せっかくの婚姻を考える機会なのですから、前向きにも考えて見たらどうかと思いますわ」
驚くべきことに学友三人は思いのほか乗り気なようで、積極的な話を振ってくる。確かに話としてはこれ以上ないものではあるのだが、ボクとしては殿下を友人以上に見ることができる気がしない。
男女の仲などというものを意識したことが前世も現世も全くないし、そもそも身体が女であることは自覚しているが男と結ばれることなど想像したこともないのだ。
「お返事に行く時までに答えを出そうかなと」
「私は反対をしませんよ。シアさんとはずっと仲良くしていきたいし、義理とはいえ姉妹になれるなら歓迎するわ。何よりずっと私だけ婚約者がいる状態だったし、そろそろあなたたちも婚約してもいいじゃない」
「あれっ、エルさまそんなことも思っていたのですか」
「別にいいじゃない、アズベルトさまもいい人ではあるのだけどね。もう少し積極性があってもいいかなって思うの」
「そういう意味ではウェド殿下は先ほどの話にしても突然模擬戦を申し込んできたことも含めて積極性には溢れていますね」
「結局シアさんは返事をどうするの。お断りする気かしら」
「はい。ありがたい話ではありますが、結ばれる未来が想像できないのもありますし、辺境伯家で留まらせておくのも申し訳ないお方ですから、お断りさせていただこうかと」
「残念ね。せっかくシアさんと姉妹になれるかと思ったのに」
エルさまはかなり乗り気だっただけにちょっと拗ね気味だ。ちょっとしたことならすぐに水に流してくれるのだけど、この件はいつまで引っ張るだろうか。
◇◆◇
その後、宮廷に向かうと決めた日までに数度ボクたちはお茶会を開いたが、その都度エルさまはその話を引っ張り出してきた。今までに無い執着を見せたと思う。
挙句、宮廷に向かう際には『私も行きますから』と言い出してしまい、リーネさまもミリーさまもさすがに告白の返事に行くのについていかなくてもと止めたのだけれど、聞いてもらえなかったようだ。
学院は王都とは別の街にあるとはいえ、王家直轄地内であるため宮廷までは馬車を使えば一日で往復できる距離だ。
明日に宮廷に向かう休みが迫った夜。講義も終わって寮の部屋に戻ると、学院で生活を送るのに必要のないような量のドレスを並べたフォナが難しい顔をしていた。
「フォナ、あなた一体何をしているの」
「あっ、シア様。おかえりなさいませ。明日宮廷に来ていくドレスの候補を絞っておりました」
「そんな事わざわざしなくても手前から選べばいいのに」
「お断りするにしても王子殿下に大切な話をお伝えする場になるのですから、しっかりとした勝負服で臨むべきかと思います」
「はぁ……、そもそもボクはドレスが「嫌いだと言うのはわかっておりますが、こんな場でもないと着る機会がありませんから」……、わかったよ」
フォナに押し切られて、ドレスで宮廷に向かうことになってしまった。この間の年末年始に宮廷に向かった時には女性物は夜着しか着なかったのに。まあいいか、今は明日を無事終えることだけを考えることにしよう。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。