20. 返事はどうしよう
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領地に戻ってきた日の夜。晩餐後、母様に折り入って話があることを伝え、屋敷のサロンへやってきた。やっぱりボクの中では、ウェド殿下からの告白に対する回答は出せずにいる。さすがに自意識に男の部分があるために受けられませんとは言えない訳だが……。
「母様、お時間を取らせてしまってごめんなさい」
「あら、可愛いシアちゃんのためだもの、そんな事気にしなくてもいいのよ」
サロンにある小さなテーブルの1つに向かい合って座るボクと母様。ちゃっかりフォナはボクについてきて、お茶の準備をしてくれている。
「単刀直入にお話します。相談というのは、ウェド殿下のことなのです」
「殿下の……、王都滞在中に何かあったのかしら、それとも模擬戦のことかしら」
「両方なのかもしれません。模擬戦の日の夜、ウェド殿下がボクの滞在している部屋を訪れて……、その、結婚を申し込まれてしまいました」
「あらあらあら、そんな事があったのね。じゃあ相談というのは」
「はい。返事を急がなくていいとは言われたものの、どうお答えをしたものか悩んでいて」
娘から初めて出た色恋の話がいきなりプロポーズされた話というのもどうなのだろうと思いつつも、母様の顔色を窺ってみると楽しそうにしている。
「そんなに難しく考えなくていいわ。相手が王室の方だからと言っても、普通のお返事でいいのよ」
「その普通がわからないのです」
「シアちゃん自身の気持ちとしてはお受けしてもいいと思っているの」
「そこもよくわからないのですよ。良いお話だとは思うのですが、結婚とかそういう話になるとさっぱりなんです」
「そうなのね、じゃあとりあえずお断りしてしまいましょう」
「……っ、いいのですか」
「諦めきれなかったら、正式な形でまた申し込んでもらえばいいわよ。貴女は我が家の唯一の子なのですし、いくら王室とはいえ、今の状態で嫁がせる訳にもいかないわ」
「今の状態……ですか」
「ああ、それは気にしなくてもいいのよ。断っても問題になることはないことだけ分かればいいわ。何より非公式のものだったのでしょう」
誤魔化すような微笑みを浮かべながらもちゃんと必要なことは伝えてくれているようだ。
「そうですね、口頭のみのものですし、その場にいたのはボクと殿下、後はフォナだけでした」
「じゃあお断りしても何の問題もないわよ。本気で考えているのであれば、改めて話が来ることでしょう」
軽々しく考えてもいいものなのかと思ったが、それを聞くと『正式に婚姻の申込みをしたい場合はちゃんと両家の親に話を通して申し込むもの』らしく、非公式の場でのそれは、公式の場に向けての内々のものである事が多いらしい。だから気にしなくても良いのだとか。
返事についてもすぐに出すものではなく、しばらくは考えさせてもらっても失礼には当たらないらしく、ゆっくり考えてから条件付きで返すこともあるらしいので、断ることも踏まえてもう少し考えてみればいいとのことだった。
断る前提で考えても良いと言われたことは気持ちが非常に楽になったが、やはり軽々しく割り切れてしまうものでもないという考えが頭に残ってしまう。しかも、私に直接伝えられたことなのだから、やはりお返事をするのも私自身でやった方がよいということに間違いはないらしく、タイミングを見計らって王都に行かねばならないことがプレッシャーになっている。
こういう時に気分を変えるにはやはり訓練に限ると思う。我ながら脳筋的思考に呆れてしまうが、身体を思いっきり動かすことで、屋内で考え込んでいる時とは違う気持ちになれるのは間違いない。
だが、どうしてこんなイベントが発生してしまったのだろうか、こんな話は記憶にはなかったと思う。そもそも殿下と婚約してしまえばアズベルトに現を抜かしている暇などないのではないだろうか。
アズベルトは確かに貴族社会が舞台となるゲームでの主人公然とした美男子ではあるが、ゲームではスチルの無かったウェド殿下も容姿では決して負けてはいないのだが、あの世界ではこの婚約話は持ち上がらなかったのだろうか。
殿下も強さも込みでボクを好いてくれているようなことを言っていたし、訓練をしていなかったゲームの世界の自分にあのような感情を持つとは限らないかもしれない。
考えれば考えるほど今の状況がわからなくなってくるけど、前世の記憶などという話、誰にも相談できることではない。下手したら正気を疑われてしまう。
悩ましいけど、良い例え話が浮かんだらエルさまたちにでも話をしてみようかな……。
◇◆◇
翌日、基礎的な鍛錬はもうほぼ身体が覚えていることもありしっかりした気分転換にならなかったので、シェディを相手に模擬戦をしよう。
「シェディ、ちょっと付き合ってください」
「シア様どうされましたか」
「基礎鍛錬も区切りがいいので模擬戦でもと思いまして、ボクの相手をしてください」
「わかりました。では木剣を取ってきますね」
快く了承してくれたシェディが準備をする傍で、ボクは常に持つようにしている携帯用の杖の状態を確認する。比較的細身ではあるが持ちやすいし携帯の邪魔にもならない。シルビノア先生から学院の入学祝ということで貰いうけたものだけど、本当に素晴らしいものをいただいたものだ。
「じゃあシェディ、よろしく」
「はいシア様、よろしくお願いします」
シェディも殿下と同じように片手剣を使う。嫌でも殿下を思い出すが、今は目の前のことに集中だ。あの時とは違い、比較的短い距離からの開始となる。
動く範囲も広くないのでやっていることはほとんど前世の剣道みたいなものだ。ただ、急所に関しては完全防備を整えた状況でなければ模擬戦でも狙ってはいけないことにはなっている。
手元や足元を狙い相手を無力化する。もしくは相手の武器を弾いて自分の武器を突きつけることで勝敗が決まる。
結果として怪我がないとは言えないが、平和が続いていることもあり、やっていることがスポーツみたいだと感じることもある。
激しくぶつかりあう木剣と杖。弾き合い、距離を取ってからの再度の接近。相手の動きを瞬時に観察してはの攻撃。攻守がめまぐるしく入れ替わり、互いの武器を何度も打ち合う。
上手く一瞬の隙をつくことができれば勝負はすぐに決まるのだが、体力勝負的なものもあってなかなか決着がつかない。先に体力に限界がきてしまい、動きが鈍った方が負けみたいなものだ。
さすがに常に騎士たちと訓練を重ねているシェディには勝てず、杖の握りが甘くなったところを弾かれてしまい、ボクの負けが決まった。
「さすがですねシェディ。やっぱり貴女を学院に連れていけないことを寂しく感じますよ」
「シア様も訓練の成果が随分身になっていると思います。不要だと言われないようにこれからもがんばらせていただきますから」
「もうじき学院も二年目が始まりますし、移動日までは訓練に付き合ってくださいね。それと、移動の際にはもちろんついてきてください」
「はいっ、シア様」
しばらく会わないうちにワンコ属性でも付加されたのか、妙に忠犬っぽさを発揮するシェディとの模擬戦を終えて屋敷に戻る。とてもいい気分転換になった。
直近に差し迫った二年目に思いを馳せる。
学院に向かう日が近づいてきている。やっぱりウェド殿下とのことは、エルさまたちには話してみよう。何か妙案が出てくるかもしれない。
次回、学院に舞台は戻る予定です。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




