22. 盛装で宮廷に
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ボクは久しぶりに女性物の正装を着ている。フォナによって普段ほとんど身に着けることのないフリルやアクセサリをふんだんに飾り付けられたドレス姿だ。ボクの瞳の色に合わせた青いドレスと髪飾りに、髪の色に合わせた光沢のある灰銀のネックレスとブレスレットなどいつの間に揃えたのだろう。デビュタント前だからということで髪の編み込みだけは許して貰えた。
最近は専ら男性用の衣装ばかりであったため、ドレスで着飾るのにはこんなに時間がかかるものなのかと辟易してしまいそうだった。
領地に住んでいたころに来ていたドレスも制服も比較的軽装であったし、園遊会でもそこまでは着飾った覚えがないため、もしかするとここまでの盛装は初めてかもしれない。
今はエルさまと一緒に馬車で宮廷に向かっている最中だ。普段男装で常に通していることもあって入学前以来の久しぶりの女性服にエルさまも物珍しそうにしている。
「シアさん普段は男装されているからこのような格好を見るのは久しぶりですね」
「ボクはあんまり着飾ることは好きじゃないのですけど、今日の衣装は侍女のフォナが『こんなことでもないとシア様に着ていただく機会がありません』と張り切ってしまいまして」
「普段の男装もお似合いですけど、やっぱりこのような女性らしい恰好もいいと思いますよ」
「そうでしょうか、ボクみたいなガサツな人間にこんな綺麗な格好はどうかと思うのですが」
「少年っぽいところは確かにあるとは思いますが、別にガサツとは思いませんけどね。所作も粗いわけでは無いですし」
「そういっていただけると子供の頃より教育を受けた甲斐がありますけどね」
「やっぱりシアさんもそういう教育は受けたのですね。私も幼少時より常に教育係が後ろで見ている日々がありましたわ」
「本当ですか、さすが王室の教育ですね……。こちらはいつも教育係が一緒ということはなかったですよ。でも母様が普段おっとりしている割に立ち振る舞いについては厳しかったので、そこのところはしっかりと仕込まれましたね」
エルさまと話しながら馬車の中での時間が進んでいく。学院のある街と王都とは馬車で簡単に往復できてしまう距離にあるため、程なくして王都に馬車は入り、そのまま宮廷まで向かう形となる。特に今回はエルさまが用意してくれた王室の紋章の入った馬車を利用させていただいているため、ほとんど止められることもなく宮廷へ着いてしまった。
結局心構えができていないままだったが、エルさまはボクの手を引いてどんどん進んでいく。さすがエルさま、宮廷の中だというのに止められることもなく顔パスでどんどん奥へと進んでいく。
「エルさま、ちょっと待ってください。ドレスもヒールも慣れていないのですからそんなに早く進まれると転んでしまいます」
「だって今日中に学院に戻らないといけないじゃない。時間が足りないわ。早く行くのよ」
「そんなことを言われても、時間はお手紙でお知らせしましたけど宮廷内のどことは決まっては……、まさか殿下の部屋に連れていかれるのですかっ」
「当たり前じゃない、それが一番早いもの」
何がきっかけでこんなイケイケなエルさまに切り替わってしまったのだろう。頭を抱えたいが、歩く速度が速くてそれどころですらない。慣れないヒールのおかげで転ばないように歩くのが精いっぱいだ。
「エルさまっ、お願いしますから、もう少し、ゆっくりと……」
「もう、仕方ないわね」
少し速度も緩められ、周りに気を配る余裕が少しできたが、知らぬ間に随分と奥まったところまで連れてこられてしまったようだ。警備の兵も見えなくなった。
「もしかしてここってもう」
「ええ、お察しの通り私たち家族の私的な区画よ」
「ボクが入っていいのですか」
「言いわよ、“特別な”お客様だもの」
「何ですかその意味深な強調……、そんなことないです」
一つの扉の前でエルさまが足を止める。ボクの手もやっと解放された。ずっと引っ張られっぱなしだったのでちょっと痛い。肘まである長い手袋をしているので痕が残っているとかはないけど……。
「兄上様、いらっしゃいますか。エルフィリシーナが参りました」
目を離した隙に部屋の扉をノックするエルさま。本当にこうと決めたら一直線なところは尊敬に値するよ。そして殿下付きの侍従が扉を開けた。ボクも一緒に居ることに気づき挨拶をいただく。
「これはようこそいらっしゃいました。ベルサフィアのお嬢様」
「何、ベルサフィア嬢も来ているのか。エル、何故言わなかった」
「言わなくてもすぐにわかる事ですからね。それよりどう思いますか、シアさんのこの姿」
ウェド殿下が部屋の奥から急いで出てきて、侍従がその後ろに控えた。殿下に対してエルさまが平然と言ってのける。殿下はこちらを向いた後、一瞬心ここにあらずと言ったような表情になった後ハッとする。
「……っ。ベルサフィア嬢は着飾るとまるで美しい人形のようだな」
「殿下、そんな事は言わないでください。これは無理矢理着せられているだけなのですから」
「謙遜することはないさ、とても似合っている」
「今日はお手紙で差し上げた通り先日のお返事に訪問させていただいたのですが、その、お部屋まで突然の訪問をする無礼をお許しください」
「様子を見る限りエルが連れてきたのだろう、まあ私的な話でもあるし丁度いいさ。こんなところで話し続けるのもよくないし、部屋に入ろう」
扉を開け放って部屋に迎え入れてくれる殿下。ここまで嬉しそうにされるとこの先の話をするのに気が引けてしまうが、今日はお断りにきたのだからここで帰る訳にもいかない。
決意を固めて部屋の中に向かうと、椅子を勧められる。座らせていただくと、殿下も向かいに座った。
「今日はわざわざ訪問をありがとう。本来ならきっと僕の方が返事を聞きに伺うべきだと思うのだが、王族や卒業生とはいえ学院は簡単に入れてくれないからね」
「構いませんよ。日帰りで往復できる距離ですし、特に今日はエルさまに馬車まで出していただいてしまいましたから」
「そうか、手紙では一人で来ることが書いてあったから何故かとは思ったが、たまにはエルの暴走も役に立つな」
「そんなことを言わないであげてください。それに、今日はお断りのお返事に来たのですから」
「もう一度お願いできないかな」
「はい、今日は先日のお話のお断りに参りました」
「振られてしまったか……、理由があれば聞かせて貰ってもいいかな」
思ったよりもショックについては少なそうに見える。もしかして予想していたのかな。
「殿下のことを嫌っているという訳ではないのでその点はご承知おきください。お断りの理由は殿下と。いや、殿下に限った話ではないのですが、誰かと結ばれることに現実的な感覚が持てないのです」
「現実的な感覚が持てないとはどういう」
「うまく説明できないのですが、誰かを伴侶として過ごす将来を考えることができないと言いますか……」
「断るための理由として話を作っているとか、誰か他に決めた相手がいるとか、そういうことは」
「それはありません」
「ならば、まだ僕にも機会が無いわけじゃないのだな。君が心惹かれる相手に巡り合うことがないのであればやはり君と結婚したい」
ウェド殿下は席を立ち、ボクの手を取ってくる。さすがに振り払うような真似はできない。それを見たエルさまが冷やかすように言う。
「ほら、シアさん。やっぱり言った通り兄上は簡単には諦めないわよ。形だけでも婚約してしまったらどうかしら」
「でも、ボクは辺境伯家の嫡子でもありますし……」
「それなら僕が臣籍降下して婿に行くから」
「あら、兄上。思った以上に決断が早いですわね」
「惚れた女性と結ばれるためならできることはなんでもするよ」
あっさりと臣籍降下まで持ち出すとは思わなかった。ウェド殿下の想像以上の決心に、どうお断りすればいいのか悩ましくてしょうがない。もしかして、このまま押し切られてしまうのだろうか。
今週は仕事が多めで時間がほとんど取れず、
金曜中に更新できるか危うかったですね。
今も課の飲み会の最中ですが、こっそり更新処理中(;^_^A
そして、まさかの結論は次回に持越しです。
思いのほか強い殿下の決断ですが、
シアは殿下を振り切れるのでしょうか。
後は何気に初登場なシアの瞳と髪色に触れる点もあったり……。
それでは、ご読了どうもありがとうございました。




