07
また変な空間にいた。
ふゆは最近、春子のところにいっていてこの家にはいないのにこの空間に入ってきてしまったのはいいことなのかどうか分からない。
「あ、冬美こっち」
あ、それでも関係ないとばかりに現れたのはふゆだったけど。
「この前と同じ場所よね?」
「そう、だから心配しなくていいよ。少し相談したいことがあって、だけど帰るのが面倒くさかったから夢で呼び出したの」
じ、自由だ。
春子に関することらしいからちゃんと聞いておかなければならない。
「あ、先に言っておくけど冬美が期待するようなことはない、ただ部屋でぶつぶつ独り言を言いながらノートになにか書いているから気になる」
私と関わってくれている子達が友達同士でいい関係になれるか期待していることはバレていたようだ。
特殊な力がそういう方向でも役立つということなら私達は怖い存在と出会ってしまったことになる。
「見てあげないでね、誰だって隠したいことの一つや二つはあるから」
「うん、それを守っているからこうして冬美に相談を持ち掛けている」
「春子はさっき寝たの?」
「そう、だからここにいくのが大変だった、冬美が寝ていないと意味がないのも影響している」
それなら私が進んで夜更かしをするような人間ではなくて助かっただろう。
「ここを経由して春子に会いにいけたりはしない?」
「起きても部屋に戻るだけ」
「そうよね」
そもそも会いにいったところでできることは会話ぐらいだから迷惑にしかならない。
いまのところ彼女しか知らない春子の情報は聞かなかったことにしてここではふゆとゆっくりしよう。
あれからは二人きりでいることがあまりできていないから丁度いい。
「これ、またつけておいて」
「耳が生えたりしないかしら?」
「大丈夫、僕もちゃんと力をコントロールできるようになったから安心していい」
「そう、それならつけ――てくれるの? ふふ、お願いするわ」
はは、左手の薬指につけるなんてまるで私達が結婚したみたいだ。
だけどこれだと一方通行感がすごいので聞いてみた。
「それなら冬美の髪でリングを作る」
「や、優しくしてね?」
あれ、全く痛みを感じなかったのに彼女の指は私の髪の束を既に掴んでいた。
そのまま同じように自身の薬指にもつけて「これでお揃い」と、今回も無表情だったけどいつもとは違った気がする。
「起きたらまりに見せて」
「いま隣で寝ているけど朝に起きてからでいいわよね」
「そっちにいく」
それなら早く目を覚まして鍵を開けてあげないと。
特に頑張ることもなく不思議な空間から出られたから一階に移動――しようとしてできなかった。
「……なんか変な感じがする」
「ふゆのこれの影響かしら?」
「え、またつけているの?」
「さっき渡されたの、もうコントロールできるみたいだから耳が生えたりはしないらしい――ちょ、ちょっと、そんなに引っ張ったらちぎれちゃうでしょう?」
寝ぼけているわけでは……ないのだろう。
私はなにも分からないからこの子達にしか分からないようななにかが漂っているのかもしれない。
「これ、あの子が外そうとしない限りは外れないわよ」
「そうなの? まあ、痛みとかもないから問題ないわよね」
「まあ、あなたがあの子に対して同じようにしていなければ問題はないわ」
「あ、さっき――」
「あの子にも同じようにしたの!?」
怖い……。
「冬美、あなたは馬鹿よ」
「お、重いわ……」
「でも、冬美だけが悪いわけではないから許してあげる――丁度来たみたいだから一階にいきましょう」
これはあくまで遊びというか、たまたまそこになっただけでなにもないのだから彼女は気にしすぎだ。
どうしても落ち着かない、どうしても気になるということなら拒まないから彼女も同じようにすればいい。
「冬美――ぐぇ」
「あなたなにをしているのよ」
「また守りたかった」
「心配しなくてもあなた以外で冬美にとって危ない存在はいないわよ」
確かに、私が誰かと言い争いをしたとかでもないから至って平和だ。
多分、軽く言い合いをすることになってしまってもその日の内になんとかできると思う。
「嫉妬?」
「冬美は私のなの、だから見ておくだけなんてできない」
冷静に受け止めて、そのうえで隠そうともしないから影響度がすごかった。
何回見ても小さいモードでこうなるべきでクールモードで恥ずかしがって素直になれない方が似合うと思うけど彼女はそうしない。
「だったらまりも同じようにすればいい」
「本当にいいのね?」
「うん、あのとき言ったことは嘘ではないから、僕はもうまりとは敵対しない」
「分かったわ、だけどやりづらいから少し違うところにいっていてちょうだい」
やりづらいからって別に変なことをするわけではないから気にしなくていいのに。
ただ? 私からすれば一日で何本も髪の毛を抜くことになってなくならないか心配なのはある。
「それなら冬美のベッドで休んでおく」
「え、ちょっ……はぁ、あの子本当に敵対するつもりはないのかしら……」
まあ、彼女だけに厳しい状態ではなくなったから敵対することはないはずだ。
「私とも……してくれる?」
「ええ、あなたがいいなら」
「それなら目を閉じていて、じっと見られていたら恥ずかしくなってしまうから」
本人がそう望むのなら。
ここはもう夢の中ではないのにやっぱり痛みは感じなかった、髪の毛リングも装着している感じがないから確かにそこに存在しているのに不思議な感じだ。
「終わったわ」
「これは背中のアレと違ってなにも効果はないのよね?」
「どうなるのかは冬美次第ね、あと告白と同じで誰とでもするわけではないわ」
それはそうだ、お遊びだったとしても変な勘違いをされないために他の指にするだろうし。
「さ、もう寝ましょ、自由に行動されないようにふゆを抱きながら寝るわ」
「ふふ、そうしましょうか」
あの力を使えば夢の中でいくらでも行動できてしまうけど、それは言わなくていいか。
またバチバチとやりだしても困るのと、これ以上起きておくと朝に起きれなくなってしまうからだった。
「冬美さんが好きなの!」
一人で来たから家に上がってもらって冷たいお茶でも出そうとしたところでこれだった、いまはまりもふゆもいないから都合がよかったのかもしれない。
「私は――」
「うん、分かってる。冬美さんはまりさんが好きなんだよね? だから告白だけでもしておきたかったの」
「え、ちょっと」
「隠さなくていいよ、見ていれば分かるよ」
まりが学生になってすぐにあの事件が起こったわけだし、八割ぐらいは仲が悪いところしか見られていなかったはずだけど……。
「ただいまー」
「まりさんが帰ってきた。とにかく、話を聞いてくれてありがとう冬美さん」
もう最初からそのつもりで来ているから受け入れられなくても当然、みたいな感じだ。
リビングに入ってきたまりとそのまま会話をするだけ、なんでこうもやもやしなければならないのか。
でも、彼女のことがそういう意味で好き……にはなっていないから待ったと止めることもできない。
言い訳のようにしか聞こえないかもしれないけど、ここで深追いをすることで今度こそ彼女が泣き出してしまうかもしれなかったからだ。
「ルールを決めているの?」
「うん、冬実と二人きりのときは一番大きいやつで、春子とか夏穂のときはこの中くらいのモードにしているの」
「じゃあ、いまから大きいモードにはなりたくない?」
「別に求めるならいいよ? よっ――それで? 春子はどうしてこれを希望したの?」
「冬美さんが大好きだからかな」
自分のことを考えて行動……はできていたか、そうでもなければ告白なんかしない。
「んー好きになってもらえるのはありがたいけど、あっちも私なんだから全部好きになってもらいたいわね」
春子にはまりの態度も柔らかい、引っ張られていても彼女を前にするとそうなってしまうのだろうか?
「それより春子は冬美を怒らせるようなことをしてしまったの? この前までの私みたいにあなたを睨んでいるわよ?」
睨んではない!
いつもとは違う荒れた状態になりつつも彼女のことを見ていただけだ。
口を開くと漏れてしまいそうだから必死に抑えようとしているだけ、我慢できている自分を褒めてあげたいところだった。
「あはは……自分勝手に動いた結果だから気にしなくていいよ」
「それでも珍しいわね、だってそれは冬美がいつも通りではいられていないということでしょ? いつも黙って見ているだけの冬美らしくないもの」
「少しだけでも気にしてくれれば――ん? あれ、まりさんもふゆさんの髪を貰ったの?」
「あっ、これは……」
隠したいことがあるときにこちらを見てしまったらなにも意味がない。
「冬美さんも――あはは、二つあること以外は自然だね」
これは水も弾くから常時着けっぱなしだった。
痛かったり、痒かったりする前にそもそもとして存在感がないからそこにあることを忘れそうになる。
あと、授業中なんかにはどうやら他の人からしたら見えないみたいなので怒られたり、興味を持たれることもなかった。
髪の毛で作られたリングなのに匂いとかもないし、これから先もふとしたときにあ、と気づかせてくれることだろう。
「だけどこれだと結婚したように見えない? だけど冬美さんはふゆさんともしてしまったと、ドロドロだあ……」
「そうね、冬美は浮気者ね――はいいとして、ふゆはどうしたの?」
「それは私が聞きたいことね、あなたと一緒に出ていったじゃない」
「私はてっきりもう帰っているものだと思っていたけどね、あの子って私がいないときにこそこそ冬美と仲良くするじゃない? なのに代わりとばかりに春子がいて――これは……」
近い距離だったのもあって移動することもなく春子の額を軽く叩いたまり、すると叩かれた春子が光って眩しさを前に目を閉じることになった。
それでもすぐに落ち着くもので、目を開けてみると目の前にいたのはふゆとまりだけで……。
「そういうことだったのね」
「お、怒らないでほしい、春子がいつまでも動かないから僕が代わりに――」
「そういうのは一番、してはいけないことよ」
「落ち着いて。なんで冬美はそんなに怖い顔をしているの?」
相手はまりでも教えることはできない。
これはここだけの話にして立ち上がる。
「ふゆは十五時ぐらいまであの姿に戻っていて」
「うん……」
これはやられたものだ。
荒れていたそれがもっと酷くなり始めていたので今日はもう部屋から出ないことにした。
「ど、どうしたのよ?」
「あなたには関係ないわ」
「そ、それはそうかもしれないけど……そんな言い方をされたら流石の私でも傷つくわ」
「はぁ……ごめんなさい、だけどいまは余裕がないから私のことは忘れて自由に行動してちょうだい」
怒られることになってもその方がまだマシなので夏穂を呼んでしまうことに。
「で、あたしはこいつらを見ておけばいいのか?」
「ええ、お願いしたいの」
「分かった。だけど夜まで寝るのはなしな」
「ええ、四時間ぐらいが経過したら来てちょうだい」
最初から休んでいたところだったけどそれぐらい休めば多少は……。
明日は春子を誘ってお出かけするつもりでいるのでいま体力を使うわけにはいかないのだ。
「え」
「なんだどうした?」
「……夏穂はいいのね」
「別に夏穂とあなたの間になにか差があるわけじゃないわ。夏穂、お願いね」
部屋から出てもらって一人だけになった。
ベッドに寝転んでも眠気がやってこなかったものの、そのまま寝転んでおくことにした。
「冬美、滅茶苦茶怒ってたぞ、なにがあったんだよ?」
あんなの滅茶苦茶久しぶりであたしも怖く感じたぐらいだ。
前のまりみたいに特定の人間を睨んでいたりはしなかったけど、もし自分が睨まれる対象だったと考えると――やばいな。
「さあね、私にも分からないわよ」
「モップになってるふゆなら分かるのか?」
「罰としてそのモードになっているから少なくとも十五時ぐらいまではこのままよ」
「あ、まりは戻してくれ」
あたしが変えてほしくなるのはこのモードのまりは怖く感じるときもあるからだった。
別にいつもなってもらっているあのモードのまりが好きとかそういうのじゃない、ただ一緒にいるときに安心したいだけなんだ。
「はぁ……これでいい?」
「おう。さて、どうするか」
帰るつもりはなくてもやれることもない。
ゲームとかがあれば、って、そもそも自分がゲームをしないからあったところで、という話だ。
「だから十五時になるか、冬美が出てくるまではなにも解決しないわよ」
「じゃあなにか作って食べるか」
「作ってくれるということなら食べさせてもらうわ」
でも、丁度切らしているところだったのかなにもなかった。
仕方がない、スーパーにでもいくかと立ち上がったところでチャイムが鳴って玄関へ。
「お、おぉ……冬美さんのお家から夏穂さんが出てくるのは想像できていなかったよ」
「春子か、約束をしていたのか?」
「ううん、ただ急に物凄く冬美さんと一緒にいたくなったから来ただけだよ?」
「タイミングが悪かったな、いま冬美は引きこもり中なんだ」
「え、調子が悪いとか!?」
「落ち着け、怒っているだけだ」
あ、これだと落ち着けないか。
「春子ならいけるかもしれないな、よし二階へレッツゴーだ!」
「む、無理だよ、それに冬美さんから怒られたら嫌だよ……」
「じゃあ買い物にでもいこうぜ、それで昼ご飯を作ってやるよ」
「それなら私も出すよ!」
春子は関係していないようだ。
となると、まだ戻っていないふゆに吐かせるしかない。
罰を受けていてもいい匂いパワーにやられて人間体になるかもしれないから益々やる気に繋がった。
どうなるとしてもいまのこの気持ちが悪いなんにも分からない状態よりは遥かにいいはずだった。




