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263  作者: Nora_
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06

「おはよう冬美さん」


 この通り、ずっと挨拶もできないなんてこともなく普通に一緒にいることができた。

 テストが終わっていたのもあって終業式まで一切問題も起きなかった。

 まりがクールモードになってバチバチしてしまうこともなかったし、ふゆがちくりと言葉で刺してしまうこともなくて一安心だ。


「こうして昼で終わるとそれはそれで大変だよな、贅沢だとは分かっていても毎回言いたくなるんだ」

「どこかにいく?」

「あたしと冬美だけだったらそれでもいいな」


 ただ最近はあの二人に対する夏穂の態度が変わってしまっていた。

 まずあの二人と仲良くしてからでも遅くはないからそっちに集中してほしいのに彼女は「そんなの知らないぞ」と言うことを聞いてくれない。


「それなら僕はまりと出かける」

「えーなんで勝手に……」

「だってこのままだと参加することもできない」

「夏穂なら私達がいても気にしないよ」

「いいからいこ」


 こうして別行動が増えてしまっていることは気にするべきかもしれない。


「夏穂、春子がいてもいい?」

「まあ、春子ならな」

「それなら三人でなにか食べにいきましょう?」

「そうだな、まずはなにか腹に入れてからでいいか」


 突っ伏して休んでいた春子に声をかけて教室及び学校をあとにする。

 自宅方向にもお店はあるけどやっぱり駅近くにお店が集中しているのでそっちにいくことに。


「明日から夏休みだってのにテンションが低いな」

「初日が大事だからね……冬美さんのお家に泊まるためにもそこでほぼ課題を終わらせないといけないから休んでいたんだよ」


 すぐは無理でも早めに終わらせてゆっくりしたい気持ちはよく分かる、八月に突入した際、課題の大多数が残っていると心がそわそわして楽しめないからだ。

 とはいえ、最初からこうして分かっていたわけではなくて、小さい頃は夏穂と遊ぶことを優先しすぎて失敗をしてしまったからこその思考だった。

「冬美ちゃんは真面目だね」なんてたまに言われていたけど全くそんなことはなかったのだ。


「一緒にやればいいだろ?」

「冬美さんといられているときは他のことを優先したくないんだよ」

「んー冬美どうこうじゃなくても確かに友達がいるときにそういうことばかりしていたくはないか」


 誰かと一緒にやっていた方が脱線することは少ないから誘ってくれれば付き合うけどね。

 テストと違って一人で向き合わなければならないことではない、それに課題をするために集まっていても集中力が無限に続くというわけではないからゆっくり話せる時間は絶対にできるのだ。


「あとは、夏穂さんがまりちゃん達に意地悪だから……かな」

「あ、あいつらはほら、ああして付いてきているからさ」


 あ、本当だ。

 しかもこうして私達が見ても隠れることはせずに向こうも私達を見ているだけだった。


「途中から受け入れるぐらいなら最初から受け入れてあげればいいと思う」

「な、なかなかに厳しいな……」

「だって仲間外れにはしたくないよ」

「わ、分かったよ」


 夏穂が二人を呼んだことでにこにこ笑みを浮かべながら近づいてきた。


「春子には勝てないようになっている」

「今度、夏穂に意地悪をされたら春子を頼ろうかな」

「やめろ……悪かったよ」


 私達はこうしてみんなで一緒にいられる方がいい。

 いつものように空気を読んで後ろに下がろうとしたら「お金がかかっちゃうから変身しておくね」とまりが、何回も言っているようにこの黒モップモードの最小バージョンでも重いからこれはこれで大変だ。


「それなら僕も春子に運んでもらう」

「任せて!」


 筋肉痛とかにならなければいいけど……。

 春子はすぐに受け入れてしまうから心配になる、夏穂みたいにはっきり言わなければならないときもあるのだ。


「あれ、冬美さんは重いって言っていたけど軽いな」

「春子のことを考えて調整したんだろ」

「はは、それなら優しくて嬉しいなあ」


 それだと私のときは考えてくれていないことになる? いや、意地悪をしたいわけではないだろうから悪く考える必要もないか。

 変身してくれたことによってこの前よりお金もかからなかったし、作らなくて済んだからかなり楽になった。

 新しい問題は三日ぐらい学校にいけなかっただけであんな感じだったのに最後まで耐えられるのかどうか、ということだ。


「ふぅ、腹いっぱいだ」

「このまま私の家にいく?」

「いや、今日は大人しく帰るわ、明日すぐに顔を出すから相手をしてくれ」

「分かったわ、また明日ね」


 夏穂が離れてすぐ「僕も夏穂とゆっくりする」とふゆも変身して走っていった。


「私も休んでおきたいから今日は帰るね」

「ええ、またね」


 空気を読まれているわけではない……わよね?

 まりはまだ続けていたから抵抗されていないことをいい方に捉えて家に帰った。

 誰もいない静かなリビングのソファに座って天井を見ていると「最近はこういうことも増えたわね」と。


「ま、私からしたら冬美と楽に二人きりになれていいけどね」

「今更だけどまりもお疲れ様」

「冬美もね」


 やばい、ソファに根付いてしまいそうだ。

 結局、休まるところならどこでもいいらしい。


「今度、海にいきましょ」

「まりは泳げるの?」

「多分だけど沈むわ、だから私はただ見ていたいだけよ」

「なにかがあったときに困るから一緒に練習しましょう?」


 それについてはなにも言わずに寄りかかってきただけだ。

 人間と動物の身長が似たようなものでも体重は違うみたいに考えた私だけど、人間体のときにもいつもの体重が反映されてしまうところが不思議だった。

 そういうところも都合よく見た目に引っ張られたらよかったのに、そうすれば疲れた彼女をそのままの状態で家まで運ぶこともできた。


「背中の模様の意味、知りたい?」

「害はないのよね? そうよね、それなら意味は知らないままでいいと思う」


 この歳から体のあちこちが痛むようにならなくてよかったとしか言いようがない。


「あなたから離れない」

「でも、特別な人を見つけたらちゃんとそっちに集中してちょうだい」

「信じられないの?」

「そうじゃなくて縛りたくないのよ、関わってくれている人達には自由に生きてほしいのよ」

「もう現時点で自由に生きていられていると思うけどね」


 別にいま自由に生きられていないなんて言うつもりはない、私はそういうところまで引っ張られてしまう必要はないと言いたいだけだ。

 夏穂でも春子でもそれ以外の人とでも仲良くしてくれればいい、私がいいということならそれならそれで相手をさせてもらうだけだった。


「あ、そういえばまりはお腹が空いているわよね、いまから作るわ」

「いいわ、私にはこれでいい」

「抱きしめてなにか変わるの?」

「私達にとってはね」


 よく分からないけどなにかが満たされるのならそれでいいか。

 二人でいるのに私達がいつものこの家のそれに引っ張られて静かだった。




「あーもうやりたくねー……そうだ、プールにでもいこうぜ」

「まだ三十分も経過していないのにそれでいいの?」

「うるさいぞまり」

「私はちゃんとやってから冬美に甘えるわ、頑張ればご褒美をくれるの」


 ご褒美とは言っても彼女がくっついてきているだけだからこちらがなにかしているわけではなかった。

 前と違ってくっついている状態だと喋らなくもなってしまうのもアレだ。


「というかそのモードはやめてくれよ、あたしはあっちが好きなんだよ」

「じゃあちゃんと頑張ったら私も夏穂にご褒美をあげるわ」

「言ったからな? はぁ、やらなきゃいけないことだから頑張るか」


 そう、頑張れば頑張るほど後の自分が楽になる。

 私も負けないように頑張らないと、無限には続かないとしてもせめて日に二時間ぐらいは向き合いたい。


「だあ……」

「駄目みたいね、それならこれで――どう? 集中できそう?」

「そのまま抱きしめていてくれ」


 あ、これってまりの方から矢印が向いているわけではなくて彼女の方から矢印が向いているのか。

 またこっちの家で住むようになって荒れていたのはそういうことだったのかと、既に残念なところを晒す羽目になった。


「冬美があのモードを好きでいて、夏穂がこのモードを好きだから、あとは小さいバージョンを好きになってもらえたら私はモテモテだね」


 か、勝手にあのモードを好きだということにされている、露骨に態度を変えてベタベタ触れたとかでもないのにどうしてなのか……。


「春子はどうなんだろうな?」

「春子は冬美大好き少女だから私は対象外だと思う。ほら、最初の頃なんて私と仲良くするぐらいなら夏穂と仲良くした方がいいって言っていたし……」

「あれから考えも変わっただろ」

「それでもふゆは好きになっても私に対しては変わらないと思うな」


 それについては今度二人きりになれたときに聞いてみよう、ではない。

 全く集中できていないから寝られないとき用に買ってあった耳栓をつけてやることにした。

 これがまた不思議で、両耳が塞がっていると周りの音が聞こえないとか関係なく他に意識を持っていかれることもなく頑張ることができた。


「ふぅ」

「まさか耳栓をつけられるとは思わなかったな」

「あ、うるさく感じていたとかそういうことじゃないのよ? どうしても話に集中してしまって課題が進まなかったからよ」

「その割には参加してくれないけどな」

「話を聞いている方が好きなのよ」


 なにも頑張っていなくてもお腹は空く、頑張ればより空くということでお昼ご飯作りに入る。

 ちなみにちらりと確認をしてみるとまりは夏穂に抱き着いたまま寝てしまっていた。

 まあ、この子の場合は特殊な能力で不自然にならない程度に片付けられるだろうから心配もしていない。


「ほら、ご飯を食べてまた頑張りましょ?」

「それは食べるけどもうやらないっ」


 あ、でも、私が集中している間に彼女も結構進められていたみたいだ。

 話し相手が集中し、寝てしまっているからとぼうっとするだけにしておかなった彼女は偉い。


「よしよし、よく頑張ったわね」

「あたしが泣いたときによくしてくれていたよな」

「私が弱ったときはあなたがしてくれたわね」


 熱が出たときにどうしても一人でいたくなくて動き回って怒られたことがあった。

 当然、弱っている状態でそんなことになれば余計に拗ねて、不貞腐れて布団の中にこもることになるけど、苦しくなって顔を出したときに彼女がいまみたいにしてくれるのが毎回のことだった。

 もちろん、それはあくまで小さいときの話であって、中学生とかになってからはそんな馬鹿なことを繰り返してはいないけどね。


「なのにいまではまりとかふゆとか春子にばかり構っているんだもんなあ……」

「それはあなたじゃない、まりと同じクラスになれてからはあなたの方が酷いわ」

「そうか? あたしなんてすぐに冬美のところにいっていると思うけど」

「あくまでつもりでしかないのよ」

「いやそりゃ一緒の空間にいるのに黙っているからだろ!」


 映画ならドカーンッ! と後ろで効果音が鳴っていそうなぐらいの迫力、ただ責めたいつもりはないみたいで「戻してくれよ……」と寂しそうな顔になって重ねてきただけだった。

 

「小さい頃のことをよく思い出してちょうだい、私があのままでいたらあなたは特に疲れてしまうわ」


 たまに暴走してしまうときがあって迷惑をかけてしまっていたのだ。


「いやあれぐらいでいいだろ、あの頃の方が冬美も楽しそうだった。それこそ冬美も何人からか求められていただろ? それが嫌になっちまったのか?」

「全くそんなことはないわ、私も成長できたというだけよ」

「それは成長とは言わない」


 それなら私はなにも成長できていないことになる。

 それならそれで人として終わっているのでそうではないことを願いたいところだ。


「いいから食べて」

「……まりも起こすか」

「先に起こしてあげるべきだったわね」


 特に苦労もなく起こすことができて、三人でご飯を食べられた。

 家族が当たり前のように揃う家庭なら普通すぎて気にならないかもしれない、だけど私の場合は違うからこんなことでも心が喜んだりもする。

 ダラダラ過ごした後にこれでもあまり変わりはないものの、午前中に頑張ったうえでのこれだから更によくなるのだ。


「そうだ……頑張った夏穂にご褒美をあげなきゃ。よいしょ……っと、これでいい?」

「それは小さすぎだ、そもそもさっきのままでよかったぞ」

「あれ……? ふんっ――駄目だぁ」


 戻れなくなってしまったみたい?

 これだと小学生ぐらいのサイズだから夏休みでもなければ問題になっていた。


「大丈夫なの?」

「え、うん、特に問題もないけどいまは戻れないみたい」

「嫌いじゃないからこれでもいいか」

「冬美と夏穂がおっきい」

「まりが小さいだけだ」


 最小モードだったらもっと幼くなってもいいのにここは変わらない。

 元々くっつきたがりのまりは夏穂に抱き着いていた、小さいからそれだけでも微笑ましい感じになる。

 夏穂が格好いい系の女の子なのも影響して仲がいい兄妹のように見えた。


「ほら、お姉ちゃんが寂しそうな顔をしているぞ?」


 お姉ちゃんって私か、私は一人満たされているから寂しさなんて全くない。

 まりがこのモードではなくても、あのクールモードで彼女を抱きしめていてもむっとしたりなんかしない、それどころか興奮するだけだ。


「お、押さないで……」

「なんで抵抗するんだ、早くくっつけよ」

「そ、それは恥ずかしい……」


 このモードで恥ずかしがるのにクールモードでできたのは何故なのか。

 あのときはおかしかっただけ? 抑えられなくなったとかではないだろうし……。


「露骨な差を見せつけられてやってらんねー」

「な、夏穂でいいよ」

「本命にできないからだろそれ」

「そ、それでもいまは夏穂を優先しているんだからいいよね?」

「じゃ、今日は連れて帰るからな」


 よしよし、二人きりならお互いに素直になれるだろうから期待できる。

 見られないのは残念だけど明日、顔を合わせたときに「これはなにかあったわね?」と言いたくなるぐらいの空気を出していてほしかった。


「ご褒美をあげると言ったのは私なんだからちゃんと付き合うよ」

「言っておくけど戻れるようになったらすぐに戻れよ、あたしはあのまりが好きなんだ」

「えっ!?」


 きたー! しかもまりも狼狽えている!


「反対にあのクールモードは苛めてきそうだから駄目だ」

「……この前のことを言っているの?」

「ん? あ、いや、あれはマジで効いてないって、結局まりは可愛いから怒った顔をしても意味ないからな」

「だ、誰にでも言うの?」

「全くそんなことはない」


 久しぶりにフラグ建造マシンであるところを見せてくれた。

 このモードになったら彼女は最強なのできっとまりも影響を全く受けないなんてことは不可能のはずだった。

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