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263  作者: Nora_
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05

「耳、生えたままねえ」


 もう三日も経過してしまっている。

 私は教室が好きだから家で特になにもしないまま過ごすのは退屈だった。

 でも、こんな状態では買い物にもいけないから閉じこもっておくしかない。

 ある意味、人として死んでしまったような気がした。


「「ただいま」」

「おかえりなさい、今日は二人だけなのね」

「うん、夏穂も春子も友達に誘われて楽しそうにしていたからなにも言わずに帰ってきた」


 まりの方は静かに隣に座って「まだ消えないね」と言ってきた。


「そういえば髪の毛リングってまだ――つけているか、それを一回取ってみてもいい?」

「ええ」

「それじゃあ――あ、耳消えた」


 結局近いところに物や答えは存在しているということか。

 どんな理由からでもこれでまた学校に登校できるのであればありがたい。

 私はやっぱり外に出なければ駄目なのだ、家は少し休むために利用するぐらいがいい。


「え、じゃあ冬美のそれはふゆのせいだったの? 守ろうとしていたはずが逆効果になっていたんだ……」

「否定はできない。ただまりがきっかけであったことは変わらない。だから僕のせいにだけしないように」

「き、厳しい……」

「それぐらいのことをしたんだから当たり前」


 もうこうして直ってしまえば誰かきっかけとかもどうでもいいから止めておいた。

 あとは変身して頑張ってくれていた彼女にお礼を、言葉だけでは微妙なので食べたいと言ったハンバーグを作ることにした。

 誰かに頼まずに外に出られることが幸せだ。


「私も手伝うわ」

「それって私のためにしているの?」

「ええ、二つの意味でね」


 抱きしめたくなるだけで求めてしまっているわけではないから落ち着くモードでいてくれたらそれでいいけどね、休まるのであれば家ではあの黒モップモードでいるのもいいと思う。


「お、冬美もう直ったのか!」

「ええ」

「まり、ちょっと冬美と二人きりで話したいことがあるからいいか?」

「待っているわ」


 なにを言われるのかはすぐに分かった、私が死ぬことになるかもしれない状態になっても慌てていなかったことについて不満を感じていたらしい。

 あとはご飯を作らせておきながら寝てしまったことにも、こちらのことを話しているときの方が必死だったかな、と。


「ま、直ったならいいんだ」

「私の場合は痛かったものね」

「別にそんなことはなかったけどな」

「ふふ、お世辞をありがとう」


 さ、まりを待たせてしまっているからもういこうか。

 意地を張って帰ることを選ばなかった夏穂が付いてきてしまったものの、それ以外は特に問題もなくハンバーグの材料を買って家に帰ることができた。


「冬美、僕の分はハートマークにしてほしい」

「分かったわ」


 ただ丸く焼くだけよりも作業間がなくてよかったかもしれない。

 夏穂は家にまで付いてきたから多く買っておいて正解だった、作るのはそれなりに大変だったけど。


「あ」

「うん? ソースなら目の前にあるわよ?」

「これを食べるということは関係が壊れることになってしまう」

「はは、そんなことにはならないわよ、いいから温かい内に食べて」


 いつも無表情なのに今回は本当に困ったような顔で言ってきたものだから笑ってしまった、ふゆにも可愛いところがいっぱいある。

 とはいえ、相変わらずこうして他の人と話しているとまりからは睨まれてしまうから縮まることになる回数も増えていた。


「いちいち睨むな」

「睨んでない」

「睨んでいるだろ、構ってもらいたいならそう言えよ」

「別に、私はただ食べることに集中した方がいいと思っただけよ」


 家庭によっては食事中に会話をすることを許可されていないなんてこともあるかもしれない。

 だけど私の家ではそんなルールはなにもない、最後まで無理をせずに食べてくれたらそれでいいのだ。

 無理なら無理と言ってほしい、そうすれば私が頑張って食べるから間違っても残飯として処理をすることにはならない。


「冬美が作ってくれたからか?」

「誰が作っていても変わらないでしょ」

「素直じゃねえなあ」

「あなた、いい加減しつこいわよ」

「はは、あたしには効かないぞ」


 このモードのまりは他人とバチバチ状態にするのが得意――とか考えている場合ではない。

 どうしてすぐにこうなってしまうのか、もっと仲良くランランランとできないものだろうか。


「ふぅ、美味かったぜ冬美、マジで効かないけどまりが怖いから帰るわ」

「気を付けて」

「おう、また明日学校でな」

「今日は夏穂と寝る」

「そうか? ならいくか、まりは可愛げがなくなっちまったからなあ」


 ということはまりと二人きりか。

 それでもなにかが変わるわけではないからゆっくり過ごすだけだ。


「まり、夏穂のところに戻らなくていいの?」

「もう戻るつもりはないし、戻るつもりがあってもふゆがいるときは嫌」

「仲良くできないのね……」

「人間同士となにも変わらないわよ、お風呂に入ってくるわ」


 もう猫という風に見て猫同士が傷を負わせない程度に喧嘩をしていることにすればいいか。

 なにかきっかけがあればまだいい方向に持っていくことは可能かもしれない。

 私はどちらに偏らせることもなく中立的な立場でいなければならなかった。




「テスト前に戻って本当によかったよな、流石にテストまでふゆに任せるのは心配だろ?」

「僕が代わりに受けていたら全テスト満点も可能だった」

「流石にそれは不自然すぎるだろ、あとズルでしかないから冬美もよしとしないよ」


 うーん、代わりに学校にいってもらって私だけずっとやりたい勉強をできていたというのはもう十分不正な行為に該当してしまうような気が……。

 まあ、言ったところでそれで得た知識を使ってテストを乗り越えてしまったわけだから意味もないけど。


「ということでテストも終わったことだし、なにか食べにいかないか?」

「あの子も誘う」


 彼女の方がこうして積極的に関わろうとしてくれていることは嬉しかった。

 ま、まあ、近づく度にまりの態度は厳しくなっていくわけだけど、距離ができたままならなにも発生しようがないから必要なことだと思いたい。


「春子? ――あ、まりのことか、またバチバチすんなよ?」

「僕はもう大人だから大丈夫、あと冬美」

「なに?」

「よし、これでオーケー」


 かなり優しく背中を叩かれただけ、痛くも痒くも怖くもないから謎だ。


「あ、まさか……よいしょっと――やっぱり、ふゆの分も追加されているな」

「こ、ここはまだ学校よ……」

「別に同性同士だから問題ないだろ、それよりまりを探すぞ」


 荷物を取るために教室に移動したら白水さんと一緒にいるまりを発見した。

 これならもうみんなでご飯を食べにいけばいいのでそのまま誘ってみると「嬉しい」と白水さんが、まりの方も「帰って自分で作らなければいけないのは微妙だから付いていくよ」と少し嫌そうな顔をしながらも断られたりはしなかった。


「まり、この前までごめん」

「私も……ごめんなさい」

「うん、これからは二人で仲良くしよ、それで二人で冬美を支えよ」


 はは、表面上だけでも上手くやってくれたらそれでいいのだ。

 不満が溜まったら私に吐いてぶつけていい、そのときはちゃんと受け止めるから悪い雰囲気にしてほしくなかった。


「それは私だけでいいけど……」

「駄目、今日やっと仲間になったんだから仲良くする」

「仲間……? あっ、もしかして!?」


 い、いやだからここは学校で、それも先程と違って人がいる教室だ。

 女子高というわけではないから男の子もいる、そんなところで自由に見られて今度こそ本気で縮まることになった。


「冬美のことを考えてやれよお前ら」

「夏穂が偉そうに言えることではない」

「春子も参加するんだろ? それならいこうぜ、腹が減っちまったよ」


 食べなければやっていられないほどではないけど珍しく食べたい気持ちでいっぱいになったから移動をすることに――なったのまではよかった。


「そういえば動物組は金を持ってなくね……?」

「全部私が払うから大丈夫よ」

「いやそれは比較的安価で食べられるファミレスであってもダメージ大だろ」

「それならふゆちゃんの分は私が!」

「三人で割り勘にするか」


 無理をしなくていいのに。

 拾ってきたのは私で放出することなくお世話をしてきた結果、こうなっているのだから私に任せておけばいい。

 あ、私に与えられたお小遣いの中から出すのでそこは誤解しないでもらいたかった。

 買い物のために与えられたお金を勝手に他のことに使用しているとかは絶対にない。


「それよりまりよお、あまりにも極端すぎないかぁ?」

「よ、酔っちゃったの?」

「変身したての頃は抱きしめてきていたくせにいまでは冬美にしか意識がいってないだろ」


 罪作りな女の子はここにいたということだ。


「それはほら、私が変なことをしたせいで冬美が危なくなっちゃったから……見ておかないと私みたいな存在に自由にやられてしまうかもしれないでしょ?」

「たまには帰ってこいよー」

「わ、分かったよ、三日に一回ぐらいいけばいい?」

「やってらんねえ!」


 恥ずかしくなって素直に甘えられなくなるときが夏穂にもあるというだけだ。

 いつもよりも少し大きいけどそこまでの声量ではないから店内の音でかき消してくれる。

 だからあとはまりが気づいてあげて優先してあげたらなんとかなるだろうけど、この感じだと駄目そうだった。


「僕では駄目?」

「んーふゆは小さすぎるんだよな」

「これぐらいがいい?」


 彼女は少し変えても分かりやすく見た目や喋り方が変わることもなくそのままだった。

 ただし身長は大きくなっているから身長を大きくしたい人達にとっては理想の能力だと思う、なんらかの代償を払っているとかでもなければみんな欲しがることだろう。

 まあ、実際はなにもデメリットがないなんてありえないからどんどん対象は縛られていくわけだけど、なにかが削れたり無くなっても得られる効果が魅力的なら身を任せてしまう人もいるはずだ。


「まりはこう……上手く言えないけど絶妙なんだ」

「フラれた、冬美慰めて」

「だ、だから冬美にベタベタ触らないでよ……」


 もふもふに変身したりしなくて安心した。


「冬美はいつも一歩引いているくせにモテモテだな」

「確かに生駒さんってこうして集まると話さなくなるよね、二人きりになるとちゃんと相手をしてくれるのに気になるな……」

「ちゃんと聞いてくれているってことは分かっているんだけどな、それでもなんか……寂しいだろ」


 こ、コーラで本当に酔ってしまったのだろうか……。

 長くいても迷惑だし、ここだと本当のところを吐いてもらえないかもしれないからお金を払って退店することにした。

 私はまだまだ付き合うつもりだったのにお腹が満たされたことで眠くなった夏穂が寝てしまってあまり意味はなかった。


「足、痛くない?」

「ええ、大丈夫よ、それに夏穂にこうするのは慣れているもの」

「今度僕もやってほしい」

「「私もっ」」

「ええ、守るからいまは静かにしてあげてちょうだい」


 これぐらいでいいと思うけど。

 私がこれより話すようになったら彼女達は無駄話を聞くことが多くなる。

 最初はいい、私よりも大人だから不満も吐かずに付き合ってくれることだろう。

 だけど必ず限界がくる、そのときになって大爆発されて「あなた達が話せと言ったんじゃない」と自分勝手に責めている自分を見たくないのだ。

 これに関しては本当になにもないままでいい。

 心配しなくてもちゃんと聞いているから、話しかけてくれればちゃんと相手をさせてもらうから、うん、そんな感じだ。


「夏休みになったらここにお泊まりしたい」

「何回でも来てくれればいいわ」

「あと、名前……で呼んでもいい?」

「ええ、それなら私も春子と呼ばせてもらうわね」

「か、帰るね冬美さん!」


 本当にそのまま帰ってしまってふゆに鍵を閉めてもらうしかなかった。

 人の家でトイレにいくのが恥ずかしい! みたいな理由からならいいけどなにか我慢をさせてしまっていた結果なら喜べない――いやどちらにしても急に帰られたらそんな感じだ。


「冬美もフラれた仲間」


 まだ一度も恋をしたことがない状態でこれは……。


「ちょ、どう見ても違うでしょ」

「でも、もう春子はいないけど」

「ち、違うから安心していいよ冬美!」


 恋のことに関してはなにも分かっていないとしても少なくとも自分が死にそうになったときよりも驚き、そして気になっていた。


「しー夏穂が起きてしまう」

「……気になるからふゆが春子のところにいってきてよ」

「それならいってくる」


 二人が仲良くなれたのにまたこうして新しい問題が出てくるなんて、って、実際はこんなことの繰り返しか。


「だからモテるよなって話だよ」

「ごめんなさい、起こしてしまったわね」

「いや、冷静になったらどんどん恥ずかしくなってきて限界がきただけだ」

「ふふ、あなたは恥ずかしがり屋さんね」


 たまに弱々しくなるときがあっていつもとのギャップにやられてしまう、そのときばかりは見ているだけでは物足りなくてお世話をしたくなってしまうのだ。


「ま、このまま足は借りるけどな、まりにも貸してやらないぜ」

「えー」

「いいだろ、たまにはあたしにも冬美を独占させろよ」

「す、すごい発言ね?」


「私にも独占させなさいよ」なんて絶対に言えない。

 これから誰かを特別好きになったとしてもいまみたいなスタンスでやっていくと思う。

 積極的な相手を前に抵抗こそしないものの、動いてくれたら対応させてもらう感じだ。


「冗談とかじゃないからな、あたしもそれだけ冬美を求めているんだ」

「ありがとう」

「そういうところだよなあ……」


 そういうのもあってもし私をなんとかしたいならいまみたいに正直な気持ちをぶつけてくれればよかった、そうすればそれに合わせて真面目に返していく。

 自分からは出さないだけで本当のところも吐いていくからきっと損をすることはないはずだった。

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