03
「ん……重い」
「あの話の続きを話すために来たわ」
このモードのときは奇麗で長い髪になるのも私的には好きなポイントだった。
でも、見た目とかどうでもいいぐらいには重い、これはあのモップモードと変わらないみたいだ。
彼女のことを気にする男の子とか女の子が現れたとき、抱き上げようとして体を痛めないかが心配になった。
「前もそうだけどどうして二人きりのときはそのモードなの?」
「前にも言ったでしょ、特に理由なんかはないわ」
いつも可愛いモードなのは夏穂や白水さんに可愛いと言ってもらいたいからなのだろうか? もしそうならその時点で可愛いことになるけど。
「冬美、あなたはなにも分かってくれていないわよね」
「自分が仲良くしたいからでしょう? 心配しなくても邪魔をしたりはしないわよ」
寧ろ彼女達が積極的になってくれたら本当に見ているだけでいられるようになる。
夏穂にまた近いようで遠い的なことを言われてしまうかもしれないものの、それが一番だから仕方がないのだ。
いい評価だけを貰うことは無理だから自分の理想に近い状態になるように頑張るだけなのだ。
「私がどうして白水さん達と話しているときに睨んでいるのか、それを分かってくれるまでは続けるわ」
「応援するわ」
「は?」
と、とことん冷たい顔だ……。
まあそうか、悪いところを直してほしい彼女からしたら私は分かっていないうえに煽ってしまっているようなものだ。
煽られて冷静でいられる人ばかりではない、中には真っすぐに受け止めすぎてしまう人もいるだろう。
「一つ言っておくとあなたが助けてくれたことには感謝しているわ」
「だからそのことは感謝しているけどそれからのことは違うと言いたいのよね?」
本当は夏穂が好きだったけどあの頃は話せなかったから仕方がなくここにいただけなのだ。
両親の帰りが遅いのもきっといい方に働いた、私も何回も構ってもらおうとする人間ではないから多分そのことも。
「二つ目はツンデレではないということね」
「作られた物語の中に出てくるツンデレの女の子は可愛いけど、現実で同じようにしていると周りを疲れさせてしまうものね」
ふふ、夏穂にはデレデレでも私にはツンツンだと言いたいのだ。
「はあ……あなたわざとやっているわよね」
大きなため息だ。
あれだ、こうして来てくれている内が、という話になっていく。
この感じを見るに直になくなりそうだからいまの内にお礼を言っておいた。
「夏穂のところに帰るわ」
「ええ、気を付けて」
私は顔を洗って歯も磨いたら掃除をしよう。
これは起きてすぐにやらなければいけないことで、常に奇麗な状態に保つことでメンタルを整えていた。
学校でなにかがあっても奇麗な場所を見ているだけで落ち着ける。
幸い、その学校でなにかが起こることがないから私は恵まれていた。
「ふんふふーん」
んー大きい家に一人でいるとたまに固まって虚空を見つめることになる。
前までならのんびりゆっくりしているまりに挨拶をしたり、抱き着いたりしていたところだけどそれもできないと。
大きくなってからは両親が家にいても甘えることは少なくなった、だから早くも社会に出た後の独身生活が――切り替えよう。
「これでよし」
朝ご飯は食べたり食べなかったり気分によって変わっていく、今日は食べたい気分だったからパンを焼いてそのまま食べ――ようとしたところでチャイムが鳴って移動することに。
「はい――」
「た、大変なんだよ生駒さんっ、変な生物を発見しちゃったんだよ!」
大慌てという感じの彼女の腕の中には最初のまりみたいな子が。
とはいえ、まりみたいに弱ってはいなくてこっちをずっと見てきている、こういう子ばかりではなくてたまには猫とかでもいいんだけど……。
とりあえずはいつものように上がってもらって飲み物を出した。
「この子なんだろう?」
「そうね、ワンちゃんかもしれないわね」
そうか、まりのあの姿を彼女は見たことがないから同じような生物だとは考えられないか。
でも、この子がもしあの子みたいに変身できるようになったとしたら、少なくとも害を与えてこない限りはいい方向にしか進んでいかない。
「あ、あのさ、とりあえず放課後までここに置いていってもいいかな?」
「そうね、私達も学校にいかなければならないものね。ねえきみ、ここで大人しくしていられる?」
「わわ、すぐに生駒さんのところに移動したね、言葉を理解しているのかな?」
「分からないわ、ただ言うことを聞いてくれそうだから助かったわね」
なんて、それは勘違いだったけど。
どうしても離れてくれないから連れていくことになってしまった。
ただそうならそうで私より詳しそうなあの子に話を聞くことができるからありがたいか。
私が嫌いでもこの無理やり連れてこられたこの子のためになんとかしてくれるだろう。
「楽しみだわ」
「え、なにか楽しい授業があったっけ?」
「学校でゆっくりすることが好きだからよ」
どうしても無理そうなら彼女に託していつも通り見ているだけにしておこう。
どっちになっても構わなかった。
「まり……? どうしてこうなっているの?」
「こういう話をするときはこの方が好都合だからだよ?」
あ、それで結局あの子はまりと同じ生き物みたいだった。
「変身したらまりみたいな見た目になるの?」
「人間と同じで変身したらどうなるのかは分からないよ、少なくとも同じ姿になることはないよ」
「でも、この子にはしたい気持ちはないみたいね」
「私だって最近まではもふもふの状態だったからね」
普通に話せているのはこのモードに引っ張られているからか。
彼女のおかげで前に進めたからまたお礼を言っておく。
この子を見つけたのは白水さんだからこの子の名前は白水さんに決めてもらおう。
「えっと、このままお世話をしてしまっても問題ないのよね?」
「そうだね、別に親がいるわけじゃないからね」
え、親がいないならどうやって現れているのか。
「じゃあ、生駒さんに頼んで名前をつけてもらうわ」
「その子、なんでか冬美のことを気に入っているけど?」
「朝も離れてくれなかったからこうして連れていくことになってしまったわ」
「ふーん、自慢?」
あれ、可愛さ明るさ全開モードなのに引っ張られずに冷たいところが出てきたぞって、このモードのときでも無理やり引っ張ったり、強制的に話を終わらせたりしていたのだから今更の話か。
「よかったね、また女の子が増えるね」
「話し相手が増えるなら嬉しいわね」
夏穂や白水さんに。
「でも、私みたいに冬美のことを嫌うかもしれないよ?」
「それならそれでいいわよ」
嫌いだからこちらに一切意識を向けずに他の子ばかりに集中するなんて最高だろう。
嫌われずにそうしてもらえることが一番だけど、コントロールできるわけではないから仕方がない。
「さ、鞄に戻ってちょうだい」
「冬美なんか大嫌い!」
背中をバッシーン! と叩かれてこの子が入っているのに鞄の上に倒れるかと思った。
特定の女の子から嫌われる天才だった、そう考えると夏穂がいてくれるのは奇跡に近い?
そのつもりはなくても私が私でいる限りは煽ってしまっているようなものだから相手に不満が溜まっていくのだ。
「おかえり」
「白水さん、放課後になったらあの子に名前をつけてあげてちょうだい」
「分かったっ、考えておくね!」
お年寄りの方に失礼かもしれないものの、椅子に座るときに背中が痛んで「いたたた……」と言葉を漏らす羽目になった。
鏡で見てみたら真っ赤になっていそうだ、痛くなるだけだから見たりはしないけど。
朝にそんなことがあった以外には平和で、何故か私の席のところで会話をするものだから参加できてしまっていたことになる。
それよりもだ、背中の痛みが全く引かなくておかしい。
同性だからということで空き教室にまで付いてきてもらって見てもらったら「なんだこれっ」と夏穂が大きな声を上げて驚いた。
「なんか変な真っ赤な模様がついているぞ」
「え、あ、手の形ではなくて?」
「ああ」
契約をして契約者の証……的な? それでもこれまではなかったからそんなにいい効果ではないか。
「まだ痛むのか?」
「ええ、じんじんと地味にね」
「まりに叩かれてからこうなったんだろ? それならまりに聞けば――」
「待ってっ、それはしなくていいわよ。見てくれて、教えてくれてありがとう、私は白水さんと約束があるからもういくわね」
これが呪いとかだったら私は今年とか若い年齢で死ぬのか。
もしそうならいましたいことをしっかりやっておかなければならない。
「お待たせ」
「あ、おかえり」
「もう名前は決まった?」
「んーふゆちゃん、かな」
自意識過剰かもしれないけどそのふゆという名前は私から……? いやいやっ、危険だからこういう思考はやめよう。
「あなたはふゆという名前になったみたいね」
「ははは、やっぱり生駒さんが好き――わっ、眩しい!?」
教室に私達以外がいなくてよかった。
だけど彼女に見せてしまっていいのかな、って、私が見るのもそう変わらないか。
なんか調子に乗ってしまっていた気がする、私は別に特別な存在というわけでもないのだから謙虚に生きよう。
「え、お、女の子……?」
あ、不味い、クールな感じになってしまった。
これだとすぐに暴走してしまいそうな……まりみたいにツンツンであってほしい!
「冬美大好き」
「ぐはあ!?」
「え、ちょ、生駒さん大丈夫!?」
……こういうことで鼻血が出てしまうことなんて実際にあるのねえ……。
都合よく消えるアニメなんかと違ってこちらは難敵となりやすいので慌てて手で拭くことでなんとかした。
「血……怖い……」
「ごめんなさい、ちょっと洗ってくるわね――あ、それまでは白水さんといてくれる?」
「うん、春子と待つ」
変身したらすぐに名前を呼び捨てで呼ぶ決まりでもあるのだろうか? まあいい。
それより鼻血なんて久しぶりに出てまじまじと見てしまった。
「真っ赤ね」
あ、真っ赤と言えば背中の痛みがなくなっている。
与えることもできれば消すこともできるのがあの子達の力なのだろうか。
「おかえり」
「ええ」
「それより不味いことになったかもしれない」
「どういうことですか?」
確かに。
まだ変身するつもりはなかったのに変身してしまったとか平和な理由ならいいけど……。
「冬美の状態、結構やばい」
「えっ、し、死んでしまったりしませんよね!?」
「うーん」
「生駒さん死なないで!」
い、いや、正直に言うと必死に抱きしめているその力で死んでしまいそうだった。
「原因はあの子だからあの子が解除すればなんとかなる」
「あの子って……あ、まりさんっ? 生駒さん早くいこう!」
つまりそういう力があるのか。
それはそうか、可愛いだけでしかない存在なんてありえない。
もう見えてしまった時点で駄目な気がする、結局最後に人は死ぬけど彼女達が見えてしまうのは寿命が近い的な感じなのかもしれない。
「あ、それがいまは喧嘩中なのよね」
「そう、だからいっても意味がないどころか逆効果にしかならない」
「駄目じゃないですか!」
「だから僕の髪を持っていて、そうすればすぐに死んだりはしない」
十本ぐらい抜いてひぇとなった。
彼女はその束をこちらの指に巻き付ける、見た目が変化したりはしなかったけどこういう指輪だと思ってしまえばいいのかも?
「見せて」
「ええ」
「わわわっ、えっ、いまここで肌を晒すんですか!?」
彼女がこうしてくれる前から痛みはなくなっていたのにやばいのか。
大人になったら車の免許を取って、運転をして色々なところにいってみたいと考えていたけど無理そうだ。
両親がもう少しぐらい旅行に連れていってくれていたらまた変わっていたのかな、と。
「な、なにこれ……」
「僕が触っても意味はない。ね? 春子なら見えていて分かるはず」
「そうですね、消えたりはしていませんね」
「そう、だからあの子がなんとかするしかない」
でも、近づくつもりはないのだ。
だからこのままなかったことにして暮らしていきたいと思う。
彼女の力のおかげで少しは終わりまでの時間が伸びているようなので私らしく過ごして終わろう。
「普通」
帰っている途中、急にふゆがそんなことを呟いたので意識を向ける。
「ふふ、後で一人になったら大泣きするかもしれないわよ?」
「ないと思う」
「そうねえ、こういうときにもう少しぐらいは慌てたかったわね」
そ、それよりもこちらの背中を物凄くさすさすしている白水さんが気になる。
しかも泣いてしまっているし、鼻水なんかも出ているから酷い顔になってしまっていた。
「落ち着いて」
「落ち着けないよぉ゛!」
泣いたりできなかったのはこれのせいか、なんてね。
「……あれ? あれって夏穂さんじゃない?」
「そうね、まりもいるわね」
「それにまりさんが泣いているような……?」
確かに、視力はいい方だからうわーんうわーん! と泣いているまりが見えた。
何故だろうかと足を止めて考えようとしたときに一瞬で移動してきて「冬美ごめんねえ!」と、私はそんなことよりも大きな声に負けていたけど……。
「こ……ぐす……こ、こんなのもう消すからあ!」
少しずつ通常の状態に戻ってきた。
今度はまりが私の背中を物凄くさすさすしていて、摩擦熱でやばいことになりそうな感じがしたけど全くそんなことにはならなかったと言える。
「痛みは?」
「それがあなたと別れてすぐになくなっていたのよ」
「でも、悪いことだったんだろ? だからまりにきつく言ったんだ」
よかったのに。
ああ……白水さん以上にぐしゃぐしゃにしてしまって……せっかくの可愛い顔が台無しだ。
「そいつは?」
「ふゆよ、今朝白水さんが拾ってきたの」
「じゃあそいつもまりみたいな存在ってことか」
んーなんかあまりに唐突すぎていまはなにもしようがないから家に上がってもらった。
二人にくっつかれていて重かったけどなんとか移動できてほっとした。




