02
「あいつ、あっという間に人気になったぞ」
「可愛いから仕方がないわ」
できるみたいだからケモミミでも生やしてみたらもっとすごいことになると思う。
ファンクラブが出来上がって男の子達がみんな惹かれてしまうみたいな感じで、それぐらいの距離感の方が落ち着いて見られていい気がした。
「桐村さんこんにちは」
「おう――あ、少しじっとしていてくれ」
「はい? あ、取ってくれたんですね、ありがとうございます」
彼女もモテたくて髪の毛を短めにしているわけではないだろうけど同性からよく興味を持たれる子だった。
中には同性とか関係なく深く求めるぐらいの子がいて、彼女は相手のことを考えて断っては落ち込んでいることが多い。
ああいう男の子みたいな喋り方もそういう弱さを隠したいからだと教えてくれた、小さい頃からずっといまの喋り方だったから物凄く早い段階で自覚してしまったということなのだろうか?
「あの、まりさんは……」
「捕まっているな、ただそう心配しなくてもまりは普通の人間だぞ?」
「しばらくの間は生駒さんか桐村さんとだけがいいです」
「ま、そこにあたしも入っていることは嬉しいことだけどな」
なら白水さんは彼女に任せてまりの様子を見にいこう。
廊下に出るとらしくないことをしている感が強くなったけど無視して二人が所属している教室へ、するとすぐに一つの大きな輪が出来上がっているのに気づいた。
それこそ話しかけたいのに話しかけられない子のようにそれを見つめることしかできないでいると「あ、冬美ー」とまりの方が気づいてくれた。
これは地味にどころかかなり嬉しかった、そのまま抱きしめたくなったものの、なんとか抑えて近づく。
「いきなり来てごめんなさい」
「ううん、冬美が来てくれて嬉しいよ」
「まりちゃん、その人ってもしかしてお姉さん?」
「うん、そうだよー」
うぅ……随分と明るくなってしまって……。
間違いなくいまの私は母親のつもりで見てしまっている。
「あんまり似ていないけど美少女姉妹だね」
「ははは、でしょー?」
黒いモップみたいなときからこのような子だったのだろうか? それとも見た目に引っ張られているだけ? まあ、どんな理由からであれ明るい方がいいから不安にならなくていいかと片付けた。
「お姉さんはまりちゃんと違って静かな人ですね」
「本当はお喋り好きなのよ、だけどいまは邪魔をしないために減らしているの」
「そんな必要はないと思いますけど、お姉さんもまりちゃんみたいに話したらみんなに興味を持ってもらえると思います」
いやいや、そんなことにはならないけどもしそうなら絶対に出してはいかない。
私が興味を持たれてどうするのかという話だ、この子はそういうところを知らないからなにか言ったりはしないとしてもだ。
「冬美、こっちに来て」
「えっ、あ、ちょっとっ?」
だから心配をしなくたって私は彼女の友達を狙ったりはしないのに。
あとこれだと結局姉パワー(実際は姉ではない)を利用して彼女を連れていったみたいに見えて駄目だろう。
他の人は私と違って家で彼女と過ごせるわけではないのだから我慢をしなければならない、実際は夏穂の家で過ごしていたとしても距離が近いことには変わらないのだからそういうことになる。
「あの子達は私の友達だから」
「ふふ、そんなの分かっているわよ。それとケモミミを生やしてみてくれない?」
「いいけど。えっと、ふっ――これでどう?」
「可愛いわ、だけど想像以上すぎて周りが落ち着けなくなってしまうでしょうから私や夏穂の前でだけにしてちょうだい」
あ、でも、キャーキャー言われて嬉しそうにしている彼女を遠くから見られるのだからそれでもよかったのか。
髪色と同じ色ならそういう髪型で誤魔化せるかもしれないのにもったいないことをしてしまった、私はアホだった。
「あ、独占欲というやつだよね?」
「んーまあ……」
「じゃあそうしようかな」
彼女はみんなに返して教室へ。
一度仲良くすると決めたら積極的な白水さんと、積極的に誰かといたい夏穂の性格が絡まっていい感じだった。
私も可能性を高めるために新たな友達作りに走ってもいいかもしれない。
誰か好きな子がいるならもっといい、私は勝手に応援させてもらうのだ。
ただ今日はもう教室から離れすぎているので明日へ、つまりお得意の後回しになった。
「生駒さん、一緒にお昼ご飯を食べよ?」
「ええ、今日はどっちの机にする?」
「それなら今日も生駒さんの机でっ」
「ふふ、分かったわ」
いつもは参加したりしなかったりで今日はしない日だと判断して食べ始めていたら「おいおい、待っていてくれよ」と夏穂が、少ししてから「私も来たよー」とまりも現れた。
あ、不味いとなったのに「そこの席を借りるといいですよ」と白水さんは至って冷静に対応をできていた、これも夏穂効果かもしれない。
「お、よかった、仲良くはしなくてもいいけど避けたりしないでやってほしいからさ」
「……私はただ自分が一番関係が浅いのに偉そうにしていたから反省しているだけだよ」
おお、夏穂に対して敬語をやめている、なんていい日なのか。
「私、白水さんと仲良くなりたいんだ」
「そうなんですね」
「あと敬語もやめてほしいんだ、夏穂にだってできたんだから私にもできるよね?」
「できないことはないですが……」
あ、その先は言ってほしくなかった。
とはいえ、これは自分のことしか考えていないので今回も見ておくだけだった。
「すっかり夏だな」
「水分補給を忘れないようにしましょう」
七月になった。
テストを問題なく乗り越えることができればあとは他の月と変わらないのでほとんどは同じことの繰り返しになる。
でも、それは私にとってであって夏穂や白水さん達にとっては違うから楽しみだった。
「なんかさ」
「ん?」
「まりが人間体になってから冬美が変わってしまったような感じがしてな」
私が? あ、わくわくしたり期待しすぎてそれが表に出てしまっているのだろうか?
もしそうならもう少しぐらいは抑えないと不味そうだ、気持ち悪いなんて言われたら流石に傷つく。
「ずっと見ているだけというか……同じ輪の中にいるのに冬美だけ遠いところにいるみたいに感じるんだ」
「そう? 私なんて昔からすぐに出しゃばってしまう方よね?」
だって現時点で彼女と二人きりでいてしまっているのだからそうだろう。
完全にゼロにはできないからこういう時間もできる、優先してもらえたらやっぱりそれはそれで嬉しい。
「あたしは――」
「夏穂ー」
「暑いから抱き着くな」
そういえば一つ分かったことがある、それはまりは見た目に引っ張られてしまうということだった。
見た目が奇麗系のときは声が低くなっていまみたいな明るさではなくなる、基本的に低めであることには変わらないけどそれでも小中大でそれなりの変化をみせてくる。
約束をしているのもあっていまは学生モード、つまり中状態になっているものの、このときは本当に絶妙な感じだった。
「白水さんが酷いんだよ? 手伝おうかって言っても素直に受け入れてくれないの」
「まあ、自分だけでできることだったら手伝ってもらおうとしないだろ」
「プリントの山を運ぶのに苦労していそうだったから声をかけたのに、あれ絶対に夏穂や冬美が声をかけていたら手伝ってもらっていたでしょ」
「さあな」
最近は……って、最近こうなったばかりだけど地味にあの奇麗なモードを気に入っていた。
静かな感じで表情の変化とかもほとんどないとしてもちゃんと聞いてくれていて、ちゃんと付き合ってくれる感じがしてね。
「うぅ……夏休みまでにもう少しぐらいなんとかしておかないと遊べなくなっちゃうよ……」
「もしそうなってもあたし達が誘ってやるから安心すればいい、そこにまりがいてもこの前みたいに大人の対応をしてくれるだろ、なあ?」
「そうね、白水さんはそういう女の子よ」
「む」
なんでか睨まれている私がいる。
いまでも当たり前のように彼女の家で暮らしているから私達の間にはほとんどなにかが積みあがっていたりはしていなかったのだろうか?
変身した最初のとき以外は抱きしめたりはしていないからなんとかなっている気がする、これからも気を付けよう。
「なんだよその顔、ゆっくりやっていけばいいんだよ」
「そ、そうじゃなくて……うぅ」
「おかしいやつだな、夏の暑さでバグっているのか?」
「そういう失礼な発言は禁止だよ」
そうか、この前まりの友達と話していたときも「私の友達だから」と言っていたか。
独占欲が強いのは彼女の方だったことになる、度がすぎなければあの子達も優先してもらえて喜べるのではないだろうかと片付けた。
「はぁ……やっと終わったよ」
「お疲れさん、手伝ってやるべきだったか?」
「ううん、あれは私の仕事だからいいんだよ」
「ほら、まりだから断られたわけじゃない、だからそんな顔をしていないで切り替えろ」
「はーい……」
しょんぼりとした感じも可愛い。
いまは渡り廊下でのんびりとしている最中だったから再び窓の外に意識を向けた。
最近は雲一つないことが多くて奇麗な青色に染まっている。
風は生ぬるいけどそれでも無風のときよりも過ごしやすくて助かっていた。
「そういえば生駒さんが一人で暮らしているって本当?」
「ええ、本当のことよ」
ほぼ、だけどね、忙しくて一緒にいられる時間が極端に短いだけだ。
「一人暮らしかあ」
「白水、ただ親の帰りが遅いだけだ、あと出る時間も早いから一人の時間が多いというだけだよ。冬美も変な言い方をするなよな」
「ふふ、ごめんなさい。私にも優しくしてくれていたけどやっぱりお仕事への愛が強かったのよ」
帰宅する時間の関係で家事をすることは当たり前だったから両親と安定して会話をすることが難しい以外の変化はあまりない。
あ、だけどそういう状態になったからこそまりの存在は大きかったわけだけど、睨まれるぐらいになってしまっているのでまあ……少し寂しく感じていたときに支えてくれたといういい思い出として片付けてしまえばいいと思う。
とはいえ、あのモップみたいなときでも睨まれていたと考えると――やめておこう。
「それでもなんとか繋がったままだからこそ冬美はまだここにいられているんだ」
「それならご両親がお仕事を頑張りつつも仲良しでいてくれていることに感謝しないといけないね、そうでもなければ生駒さんが転校生としてここから去ってしまっていたんだから」
「ま、それはそうだな」
もちろん、他の人と同じようにお休みがあってそのときは仲良しなところを見せてくれるから彼女達の言う通りだ。
「こうなったら生駒さんが寂しさを感じないためにも毎日お家にいかないといけないね!」
「何回でも来てくれていいけどお茶ぐらいしか出せな――きゃっ!?」
後ろから抱きしめられたときよりも驚いた。
あと力が強くて痛い、まりは「もうこの話はいいから」と止めたかったみたいだけど最初からそれだけでいいと思う。
「おいおい、そんなに引っ張らなくてもいいだろ」
「冬美の話はいいの、もう教室に戻ろうよ」
き、嫌われている……。
「なんか少し前の私みたいになってしまっているような……」
「ふ、不満が溜まっていたのよ。さ、私達も戻りましょう?」
「うん、まだ授業があるからそうするしかないよね」
あの子が我慢をして一緒に暮らす選択をしていないでよかった。
毎日二人きりのときにあの感じを出されると弱いメンタルが悲鳴を上げることになるので助かった。
「今日いきたい」
「ええ、だけどその前にスーパーに寄ってからでもいい? 食材や調味料を買わなければいけないのよ」
「お手伝いするよ!」
お昼の彼女と同じだ、これは私がやらなければいけないことだから手伝ってもらおうとはしない。
できるだけいく回数を減らしたいからそれなりに買って帰るけどこの重さにももう慣れた、そもそもぶつぶつ文句を言ったところで持ち帰らなければならないのだから頑張るしかないのだ。
「お、重くない?」
「ええ、余裕よ」
両親、特に母親が早く帰宅するようになっていなくてよかったとしか言いようがない。
母がいたらついつい甘えて子どもっぽいところを彼女に見せてしまうことになっていた、そこまで変わらないとしても極限まで低くなったそういうところを見られたくないのだ。
「着いたわね、いま開ける――開いているわね?」
「え、だ、大丈夫なの?」
「危険な状態かもしれないからあなたは少し離れて待っていてちょうだい」
中に入ってみると女の子用の学校靴が一組、夏穂だろうかと一歩進んだところで引っ張られてひっくり返ることになった。
「私が犯罪者ならいまのであなたは死んでいるわよ」
「ま、まりだったのね、しかもなんで変えているの?」
あ、大好きな夏穂の前以外では繕う必要がないからか、私相手には冷たい状態でいいのだからこれは馬鹿な質問だった。
「特に理由はない――ん? もしかして外に誰かいるの?」
「ええ、白水さんが来ているの、いまのあなたなら大丈夫よね?」
「はあ……なにも分かってくれていないのね」
見た目こそ違うけどなんか自分のコピーが出来上がってしまったかのように感じる。
食材をしまいたいのと、いつまでも外に放置するのは危険だから許可も取らずに連れてきてしまった。
「あれ、白水さんも来たんだ?」
「まりさんだったんですね、変な人が勝手にお家に入っているなんてことにならなくてよかったです」
そうか、白水さんとは仲良くしたがっているからあの状態を見られたくないのか。
そのつもりはなくても人によっては冷たく感じてしまうモードだから気を付けているのかもしれない。
「今日は珍しくお菓子を買ってきたのよ? みんなで食べましょう?」
「チョコならなんでも大好き!」
「私もー」
このままでいてほしいけど無理もさせられない。
ここでぐらいは二人きりになって本当のところを吐かせておいた方がいいので定期的に誘おうと決めた。
自分が決めたルールを破ることになってしまうものの、やっぱり我慢をさせるのは違うからね。




