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263  作者: Nora_
1/10

01

 小さい頃、疲れてくたくたな状態で帰っていたときに変な生物と出会った。

 自分と同じぐらいに弱っていたからなんとなく家まで連れていったのが始まりだ。

 だけどまさか自分よりも大きくなるとは……。


「マリー?」


 いつもなら窓前でのんびりとしているのに今日はいなかった。

 いま部屋から来たから部屋にもいない、そもそも部屋にいたら気づかない方が無理だ。

 探す旅に出ようとしたところでチャイムが鳴って玄関までいくと「よう」と友達の桐村夏穂きりむらなつほが立っていた。


「今日は約束をしていないわよね?」

「ああ、暇だったから寄ってみたんだ」

「それならとりあえず上がってちょうだい、私はマリーを探してくるわ」

「え、あたしよりでかいのに見つからないのか?」

「ええ、ご飯も食べていないみたいだから心配になるのよ」


 二階の窓を常に開けておいて自由に出入りできるようにしてあるから外にいっている可能性が高い。

 まあ、元々外で過ごしていたのに私が無理やり連れていっただけだからこのまま別れることになってもそれが自然だ。


「百七十六センチもあるんだぜ? 横にも広いからどこかで引っかかっているんじゃないか?」

「元気ならそれでいいのよ」

「よし、じゃああたしも探すか――って、いたぞ」

「え? あ、本当ね」


 台所の天井にくっついていた。

 彼女が近づくとくっつくことをやめて飛び込む、残念ながら受け止められてはいなかったけど黒いモップみたいなこの子がマリーだ。


「お前、どんどん重くなっていないか?」

「でも、食事量は変わっていないのよ?」


 規定量を食べては窓前でのんびりとしているからいちいち探さなくても見ることができるのはいいことだった。


「で、なんであんなところに――ああ、そういうことか」

「夏穂?」

冬美ふゆみ、箒と塵取り借りるぞ」


 見ようとしたらマリーがくっついてきて見ることができなかった、その謎の対象を謎の存在のマリーが怖がっていたことになる。


「マリーが喋れればいいのにな」

「ふふ、あなたと一緒にいれば変わるかもね」

「よし、じゃああたしの家に来いよ」


 出会ってすぐに彼女にも教えて一緒にお世話をしてきたからほとんど変わらない。

 実際、こうして私の家で過ごさせたり彼女の家で過ごさせたりしているから慣れっこどころか彼女のことが大好きだった。


「重い……冬美も付いてこいよ、どうせすることなくて暇だろ?」

「そうね、あなたの家にいって漫画でも読ませてもらうわ」


 スポーツ物だけではなく意外と恋愛物の漫画もあるから楽しめる、これは彼女のだけではなくて彼女のお母さんの物も同じ棚にあるからだ。

 気に入らないみたいで自分の物だけにしたいみたいだけど上手くはいっていないみたい。


「マリーは牛乳があればいいよな、この前母さんが買ってきたばかりだから大丈夫だな」

「この子は地味にチーズが好きなのよね」


 こちらは苦手ではないものの、好きでもない。

 でも、他の食材とは食べる早さが違うとなれば買わないわけにもいかない。


「チーズねえ、こっちで過ごしているときは母さんがほいほいやっていたけどなかなかに金がかかるよな、贅沢者だな」

「小さい頃は牛乳で口の周りをいつも白く汚していて可愛かったわ」

「いまなんか一瞬だもんな」


 飲んでいるというか吸収しているように見える、大きくなりすぎてチーズを食べさせても咀嚼しているように見えないから心配になる。

 あとはのんびりしていることも多い子だけどこちらに体重を預けてくることも多い子なので自分の体がどこまで耐えられるのかが心配だった。


「ま、リビングでこうしてクッション替わりになってくれるところはいいんだけどな」

「マリーも嫌がるどころか夏穂が風邪を引かないように暖めようとするところがいいわよね」

「重いけどな、女子なんだからもっと気にしろよマリー」

「体重のことについて触れるのはやめてあげなさい」


 同じ百七十六センチでも人間とはまた違うから仕方がない。


「そうね、この漫画の女の子みたいに気になる存在とのキスで元の姿に戻れたりとか、ないかしら?」

「母さんの買っている少女漫画って過激なのが多いよな」

「マリーにとって気になる存在は夏穂よね、さ、キスをしてみてちょうだい」

「いやそんなの――待て待て待て、マリーもなにしようとしているんだ」


 はは、人間の言葉を分かるようになっているところが面白かった。

 ただこのまま抵抗を続けられるとつまらないので彼女の頭をがしっと掴む、そうしたらマリーは躊躇なく実行していた。


「ふむ、変わらないわね」

「……そもそもこれはキスじゃなくてただ鼻に鼻をつけただけだろ……」

「女の子だから簡単にキスなんてできないわよね、マリーごめんなさい――ん!?」

「はははっ、あたしにばかりに変なことをさせるからこういうことになるんだよ!」


 急に乗っかかられたから危なかっただけでこれも結局は鼻に鼻をつけてきただけだ。

 顔の形的に難しいのかもしれない、なんて考えていたところで光り始めてすぐに立ち上がった。


「お、おい、まさか……なのか?」

「ふふ、某ゲームの特定のレベルに達して進化しているシーンみたいね」

「それならキャンセルしたいけどな」


 もしこの猫でも犬でもない子が人間体みたいになれるなら身長そのままの大きい女の子になりそうなところだけど果たしてどうなるのか。


「長いわね」

「だな、飯でも作るか」

「それならオムライスがいいわ」

「たまには冬美が作ってくれよ、と言いたいところだけど作ってやるか」


 どうなるのかとオムライスを早く食べたい気持ちが合わさってわくわくしていた。

 だけどすぐにオムライスの方がやってきて、それを食べ終えてもまだ光ったままだったから落ち着いてしまった。

 どうしても元に戻したくて可愛い女の子になりますようにと願うことでなんとかする。


「お……小さくなったな」

「可愛い!」

「お、落ち着け。まあ漫画みたいに変身したら素っ裸だった、とかじゃなくてよかったわ」


 黒色のシンプルな服と黒色のそこそこ長いスカートだから彼女としても安心できるだろう。


「夏穂」

「声は低いのな」


 確かに、いまは静かだからいいけど他に誰かいる状態なら声量を上げてもらわないと聞き逃してしまったりしそうだ。

 いまは可愛い見た目なものの、このまま成長したらクールで奇麗な女の子になりそうだった。


「冬美」

「ええ、冬美よ」


 いまは夏前なのと冬みたいに冷たい人間でいるつもりはないからあまり合わない名前だと思う。

 

「二人とも大きい」

「いつもはお前の方が大きかったけどな」

「こっちの方がいい?」

「うわ」

「「ん?」」


 凄く嫌そうな顔だ。

 先程と違って大人びた彼女の顔が苦手や嫌いの子と似ていたとかだろうか。


「なんでもない、マリーは小さいままでいいだろ」

「名前も考え直さなければならないわね」


 そのまままりという名前でいいとして、どういう漢字にするかだ。

 いやここは彼女に任せよう、多分この感じだと彼女との時間の方が長くなるだろうからね。


「ひらがなでまりでいい」

「夏穂、この子のことは任せたわよ」

「え、マジ……?」

「最初からそういう話だったじゃない」


 休みたくなったらたまにでいいから私の家で休んでほしい。

 二人で過ごすことが当たり前だったからゼロになるのは流石に寂しいから。

 任せようとしておきながらそれは自分勝手なので口にしたりはしないけどね。


「まあいいか、まりもいいだろ?」

「うん、夏穂も好きだから大丈夫だよ」

「そういうのは本当に好きな相手にだけ言え」


 上手く伝わっていなくて「だから夏穂が好きだよ?」とまりは返すだけだった。

 彼女は頭を掻いてから「色々と教えていかないとな」と、だけどもう喋ることは普通にできているのでそう難しそうなことではない感じがした。




「転校生になった」

「夏穂……」

「昨日の夜中に変な奴が来てなんかそういうことになっていたんだよ」


 まあ、一人の時間が多かったからこの方がいいか。

 早速興味を持たれて友達が一人できたみたいだから安心できる。

 それと彼女のお願いで小さいときと大きくなったときの中間地点ぐらいの見た目になっていた。

 百六十センチの私よりも少し大きいぐらいで、奇麗に寄りすぎていない可愛い感じだ。


「同じクラスのあなたがサポートしてあげてちょうだい」

「だけどこいつ、もうなにもかもを自分でできてしまうからな」

「そういえば名字は?」

生駒いこまだ」

「それだと私の妹みたいじゃない、そこは桐村にしておきなさいよ」


 あとつまらない、なにも発展しようがない。

 

「近くにいただけで質問攻めにあったのにそんなの嫌だよ」

「優しいのか優しくないのかよく分からない女の子ね」

「受け入れているんだから優しいに決まっている、そうでもなければこいつは人間体で外で暮らすことになっていたんだぞ」


 その場合は嫌だろうけど私の家に来てもらうだけだ。

 まあ、そんなことが起こらないように願っておくことにして、とりあえずは別れて教室に戻ることにした。

 私は基本的に教室から離れないからいつでもこの賑やかな感じに包まれていたい。

 家に帰っても一人なら尚更のことだ。


「あ、生駒さん戻ってきた」

「ええ、なにか用があったの?」


 この子はいつも話しかけてきてくれる白水春子しろうずはるこさんだ。

 夏穂とも友達のように話せるから三人で遊ぶこともある、だけどそういう意味で興味があるわけではないみたいだった。


「あー可愛い女の子が桐村さんと一緒に過ごすようになったから心配になったんだよ」

「いいことじゃない」

「いやっ、桐村さんには生駒さんが一番合うんだよ!」


 証拠はこういうところ、何故か私と夏穂をくっつけようとする。

 恋愛対象として見られないとかそんなことはないけど自分のことで盛り上がってもらいたいところだった、それで幸せそうにしているところを見せてほしい。


「んー冬美はなあ……」

「ほらっ、こうして自然と来てしまうところもいいと思うんだよ!」


 ほら、と言われても困るけど。

 別にそういう意味で意識していなくても友達で用があるのならこうして来ることもあるだろう。


「まり、この子は白水春子さんよ」

「夏穂の友達なら大歓迎」

「あ、私は生駒さんの友達なのでそこのところはちゃんとしてください」

「冷たいやつだな、いつも積極的にあたしのことを出しているぐらいなのに」


 これは事実だから否定しようがないと考えていたのに「生駒さんに興味があるだけですから」と、敬語を使うことも徹底している。

 私がいるせいで素直になれずにいるのなら少し遠いところに移動した方がいい気がした。

 近ければ近いほどいい結果が残るわけではない、私みたいに見たいだけなら少し距離があった方が得なことも多い。


「さ、おふたりは教室に戻ってください」

「いこうぜまり」

「うん」


 そんな追い出すようなことをしなくてもいいのに。


「桐村さんには生駒さんが一番だから」

「わ、分かったわ、それでもいまは切り替えて頑張りましょう?」

「うん、今日も頑張ろうね」


 こっちの言うことはよく聞いてくれるのにどうしてこうなるのか。

 授業の時間を使って考えても答えが出なかったからまた後回しになってしまった。

 二年生になってからはこんなことばかりだ、そして周りもそこまで気になる人達と盛り上がっているわけではないから幸せな時間がくるのはいつになるのか……。


「冬美ー」

「わっ、う、後ろからはやめてね? 心臓に悪いから」


 人ではないのもあって足音がほとんど聞こえないのは怖かったりする。

 出会った頃もそうだった、夜中に気が付けば側にいてこちらを見てきていたから起きているのに目を開けられない! なんてことが何回もあった。

 一瞬でも勇気を出してしまえばすぐにまりだって分かるのに臆病で怖がりなところがあった私は毎回自由にやられていたのだ。


「ごめん」

「だけどもう夏穂にしか興味がないのかと思っていたわ」

「そんなことはないよ、夏穂は構ってくれるから好きだけどね」

「あの姿にも戻れるの?」


 あのモップみたいな姿は思い切り抱きしめることができるから好きだった。

 別に私のときは嫌がっていたみたいなこともなかったので変身していなければ引き続きできていたと思う。


「うん、やっぱりあれが私だから、だけど転校生として当分の間はこのままでいるよ」

「そうね、こうして学生になってしまったのならちゃんとやらないとね」

「幸い、冬美と夏穂を見てきて理解が追いついているからなんとかなりそう」


 それなら私は夜に来たという存在に会ってみたい。

 私が余計なことをしていなければその人の元に帰れてまた違った人生になっていただろうから謝りたいのだ。

 まあ、まずはその存在により彼女へということで謝っておいた。


「謝る必要はないよ、それに冬美や夏穂に出会えたんだからこれが一番だよ」


 一番、か。

 もうなにを言っても変わらないからこれ以上はやめておこう。

 だって人間体になってわくわくしているからだ、実際はこうなのに気にしたふりを続けたところで差が酷くなっていくだけだ。


「い、生駒さんから離れてください!」

「わっ、冬美には熱烈なファンがいるんだね」

「少し意地を張ってしまうことがあるのよ」


 こうして出会ったからには仲良くしてもらいたかった。

 でも、なるべく教室から離れたくないのでいつもと同じように待っていると「おいまり、先にいくなよ」と彼女が来てくれた。


「生駒さん、私はこの子と仲良くするぐらいなら桐村さんと仲良くした方がマシだから」

「それでも私は嬉しいわ」

「別にまりだって普通――あ、おい、引っ張るな引っ張るな」


 連れていかれてしまった……。

 ただ? まりを利用することになってしまったけどこれであの二人が仲良くなれるかもしれないから一人テンションが上がっていた。

 それでもなんとか内に抑え込んで「嫌いにならないであげてちょうだい」と、やはり彼女のことを考えていないような発言だから微妙だったけど言わせてもらう。


「白水さんと仲良くなりたい」

「そ、そう?」

「うん、冬美も協力して?」

「分かったわ」


 きたー!

 ごほん、本当に嬉しいことの連続で今度こそ抑え込むのに苦労したのだった。

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