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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚
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バイエルに乗り込む

 バイエルへの潜入を決定した日から五日目、ケインがすっかり教祖様の姿になり、すばしこそうな従者カイルを従えて、カーン達の前に現れた。


「今日からは、潜入先での姿と名前を徹底してくれ。ケインは教祖、イリスはカーンだ。この家の中でも変装を解くことは禁止する」


 ブルーネル公爵の声で、その場の全員がビシッと背筋を伸ばした。

 カーンがケインをまじまじと見た。


「ケインはいつものままといえばそうだが、別人に見えるのはなぜだろうな。便利な特技だね」


 ケインは苦笑いしながら言った。


「自分でもどうやっているのかは分からないです。でも、そうなるみたいです。神の恩恵でしょうか」


 そう言う様子も、なんとなく神々しく、耳を傾けたくなる。いつものふざけたケインとは別人だった。


「カーン様も、一昨日のイリス様と同一人物には見えません。あの麗しい美女が、男になってしまうなんて、残念でたまらない」


 イリスは一昨日、ブルーネル家の面々やエドワード殿下に見送られ、療養先に旅立った。イリス本人だけ、1日進んだ辺りの宿場町で、カーンに変装して戻ってきているが、馬車と護衛の一行はそのまま南の温かい地方に向かって進んでいる。

 戻って来てからは、カーンとして考え、カーンとして行動している。いつの間にか本当に男になったような気分になっている。

 屋敷の中で変装を知るもの達も、カーンとして接してくる。


 カーンの隣にルーザーとミラとアイラが立った。

 ミラは武装してルーザーと並んでいる。前回の潜入時に、万が一でも顔を覚えられていたら困るため、今回は女性騎士として、ルーザーの配下に付く。

 アイラはどんな姿にも化けられるので、前回とは違う男に変装している。今回は華やかで目立つ優男に変装し、カーンの従者を勤める。


 ブルーネル公爵がアイラに目を留めた。


「アイラ、今回は随分派手なタイプだな。カーンが霞む勢いだ」


「カーン様を男性の魔の手から守るためです。初すぎて危なっかしいので、エドワード殿下からも、くれぐれもと頼まれていますからね」


「苦労かけるな。よろしく頼む。男色家発言のおかげで、男女どちらも警戒しないといけないのだから」


 カーンは、あの時にポロリとこぼした言葉を心底悔いていた。そして変な絡み方をしたゼノンに、今度一発くらわしてやろうと決めた。

 噂はどこまで広がっているのだろう。できれば忘れて欲しいものだ。少し不安はあったが強がってみせた。


「まさかバイエルにまで噂が届いてはいないでしょう。大丈夫ですよ」


アイラが驚いたように目を見開いて、カーンの方を向いた。


「レンティスにもブルーネルにも監視の目が付いているでしょう。筒抜けのはずですよ。カーン様はイリス様より状況把握が甘いですね」


 まさかイリスと比べられるとは思わず、カーンはショックを受けたが、それ以上に妙に悔しかった。


「イリスと比べないでくれよ。腹が立つ。俺には俺のいいところがある」


 自分で言っていて、本当に妙だった。女性のイリスが別人のように感じられたのだ。


 アイラがニンマリ笑った。

「カーン様の優れた所を見せていただけるのを、楽しみにしています。それにカーン様から見たイリス様はどんな女性なのでしょうね」


「そうだな。バイエルではイリスの話題が出るだろう。しっかり受け答えして、イリスとはどんな娘なのか自身で説明して、周囲からの評判もよく聞いておいで。めったにない経験だよ」


 ブルーネル公爵がそう言ってから、ケイン達に向き直った。


「バイエル国内に連絡拠点を用意する。都合の良い場所を選んでくれ。居酒屋でも開くとしようか」


 常連になりますよ、と言う声に、ロマンが口を挟んだ。


「カーン様に付いて行けないなら、私をそこに派遣してください。料理人として働いてお役に立ちたいです」


 ロマンはカーンの変装を見破った眼力を買われ、諜報作戦に参加するようになっていた。料理に対する才能は、他の面でも役に立つのだ。

 一斉にロマンを引き止める言葉が上がり、カーンが代表して理由を述べた。


「大評判の居酒屋なんて、秘密連絡に使えやしないよ」


 ところがブルーネル公爵が、ただ一人賛成した。


「かえって全く怪しまれないだろう。やってみるか」


 結局、連絡拠点は都心の繁華街に置くことになった。どうせ目立つのなら、便利な所の方が楽だ。

 ロマンを投入することになって、急に作戦が陽気なものに様変わりした。


 ひっそりと、目立たないようにと考えていると、どうしても気持ちが縮こまる。目立つことを前提で計画したおかげで、気楽になった。


「カーン様も食事に寄ってくださいね」


「もちろん行くよ。名物料理は何にするつもりなんだい」


「庶民的な物がいいだろうから、フライドポテトとフライドオニオンなんかどうでしょう。メインはローストポークがいいですかな」


 すごく普通の簡単な料理だ。だけどロマンが作ると別物になることは、皆が知っていた。誰もが好きな料理を最高レベルで安く提供できる。これは大繁盛するだろう。


「もちろん、とびっきりうまいビールもあるよな」

「バイエルの有名所のビールなんかも揃えましょうよ」


 ケインとミラは、すでに素に戻っていた。

 カイルがケインの肩を叩いた。


「教祖様、人格が変わっていますよ。気を付けないと」


 作戦会議の半分は出店準備に変わってしまった。みんな楽しげで、バイエルに行く目的がズレたような気がするが、全員肩の力が抜けていた。

 


 店の方はロマンと、ロマンの弟子になった元騎士のベースに任せる。彼はロブラールからの帰国の旅の中で、ロマンが見出した天才だ。 

 その二人が取りまとめ、その下にブルーネル公爵家で働いている使用人を5人付けた。全員、戦える人間なので、色々と安心だ。


 出店は、以前バイエルのカンザス商会で世話になった、ダニエルの力を借りる事に決まった。ダニエル・バーンズは、今ではレンティスでバーンズ商会を構え、かなりの勢いでその店を大きくしている。彼は生家のバーンズ姓を名乗っているが平民だ。


 出店する店の名は 『B・P』 と決まった。

 ダニエルにこの話を持ち掛けた時、非常に乗り気になり、潜入終了後そのまま店を営業したいと言い出したのだ。

 料理がシンプルで品数も少ないので、そのレシピを譲ることを条件に、彼は協力を決めた。そして、今回も国家間の謀略には一切無関係の立場をとるが、出来る限りの便宜を図ると約束した。


 ダニエルはすぐにバイエルに出向き、カンザス商会の力を借りて、一等地にある程よい大きさの店を契約して来てくれた。大きなテーブルが中央にどんと置かれ、四人用のテーブルが6席と、壁際と厨房の前にぐるりとカウンターがある。満員で60くらい入るだろうか。

 バイエルに訪問の打診をしていたカーン達一行がバイエルに入るのと、大体同時期に店がオープンすることになった。

 ケインたちはその少し前に、教団に接触を図り、熱烈に迎え入れられていた。

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