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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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潜入準備

「それは危険すぎませんか」


 ブルーネル騎士団長が反対した。イリスがカーンとして、バイエルへの使者を務めると言い出したのだ。


「いいや、これは譲れない。自分の目で敵を確かめたい」


 イリスへの婚約の申し込みを断りに行くので、バイエル王に謁見することが出来る。

 王家の様子を探るには、うってつけの機会だ。

 イリスは態度も話し方も、すっかりカーンに切り替えている。イリスの個性を出すと、周囲も混乱するので、これから暫くはカーンになり切ることにしている。


 誘拐事件でイクリスの名は知られていても、カーン・バイスは、まだバイエルには知られていない。バイエル側の、誘拐事件に対する温度感のような物も、探りたい。


 結局周囲を説き伏せ、カーンが使者を勤めることになった。

 同行するのは、ルーザーとミラ。それと騎士団から六名。そのメンバーでバイエルに向かうことになった。


 ケインは教祖として教団に入り込んでもらう。彼はしばらくは、どっぷりと教祖様として生活することになる。カイルはケインの弟子兼従者だ。

 今の教団はまだ固まっていない。これまではケインの求心力と、バイエル王家のセレス擁護に対する反発でまとめていただけで、教義もはっきりしていない状態なのだ。

 それらの方針は、王家の様子を確認してから、おいおい決めていくことにした。

 

 アイラだけがレンティスで待機に決定した。


 バイエルから婚約の打診が来てから6日が経っていた。その間に幾つか、同様の話が舞い込み続けたが、イリスは体調を崩して療養中と言う言葉で、全てを丁寧にお断りしている。

 等しく全てを即刻断っているので、悪印象は持たれていないらしい。


 巷では、ブルーネル公爵が、留学から帰ったばかりの娘を手放したくなくて、片っ端から断っていると噂されているそうだ。ブルーネル公爵も、屋敷の者たちも、その噂は否定できないでいる。半分くらいは本当のことなのだ。


 エドワードはあの日から三日後に再びやって来た。かなりへこんだが、他の話も全て断っているのだから今までと変わらない、そう言って笑ってくれた。

 そして、強くなりましたね、とアイラに褒められていた。

 イリスはお姉さん役をアイラに奪われたようで寂しかったが、エドワードは弟ではない。そこは気持ちを切り替えなくてはいけないと、心に決めていたので我慢した。


 両親と話したあと、イリスはシモンより大事に思える男性を探すことにしたのだった。

 今のところ、シモンを上回る男性はいないが、いつかは現れる事を期待している。


「ねえ、エド。ちょっと触ってもいいかしら」


 そう言って、手を取って握ってみた。温かくて、とても大きい。

 自分の手のひらと合わせてみたら、大きさが全く違う。指を擦ってみても、ごつごつしていて、自分の指より太い。

 胸を触ると、そちらもだいぶ幅が広くなっているし、筋肉もしっかり付いている。そして腕も太い。


「あの、何をしているの?」


 エドワードがギクシャクした動きで、少し離れようとしている。


「少し触らせてよ。女性としての自分を見つめ直すのよ。男性のことも知らなくちゃだめでしょ。ちょっと協力して」


 アイラがやれやれと首を振った。


「触ってみるならカイルでやってください。エドワード殿下で試したら駄目です」


 エドワードがイリスの手を掴んで引き寄せた。


「駄目。他の男性を触るなんて絶対に嫌だ。それくらいなら僕で試して良いよ」


 アイラが割り込んできて、二人を引き離した。


「全く。ローティーンのお友達同士じゃあるまいし。年齢を考えてください。そういうことをしていいのは十二歳くらいまでです。それ以上は実害が発生することもあるのですよ」


 実害、とイリスがつぶやくと、エドワードが真っ赤になった。


「まあ、実害が発生して嫁入り決定、というのでも構わないですけどね。その場合、お相手はエドワード殿下限定です。それ以外の男性でお勉強しようなんて考えてはいけませんよ」


 そう忠告してから、アイラがため息をついた。


「イリス様、こちらに戻ってから、女性としての精神年齢だけ14歳くらいまで下がっていませんか。こんな忠告をすることになるなんて、思いもしなかった」


「そうかしら。恋愛について遅れているのを自覚したのよ。両親にしっかりお小言を言われたもの。このままでは駄目だって」


 アイラは不安そうに言った。


「こんな調子のイリス様と、新婚ボケしたルーザーと、おおざっぱなミラでは全く心もとないのですが、大丈夫なのでしょうか」


 エドワード殿下も心配そうな顔をして、イリスとアイラをチラチラ見ていた。


「イリス様、やはり私もバイエルについて行きます。イリス様のサポートをしたほうがいいと、今確信しました」


 エドワードが、すごい勢いで同意し頷いた。


「絶対にアイラを連れて行ってくれ、お願いだから」


「じゃあ、アイラにも使者に加わってもらうわね。そんなに心配しないでよ。ちょっと探ってすぐにもどるわよ」


 そう言いながら、エドワードをぎゅっと抱きしめた。懐かしい匂いがした。

 昔とは違い、今は彼の方が背が高い。でも、なんとなく安心する。


 見上げたエドワードの顔は、ものすごくうれしそうでいて、それ以上に不安そうに見えた。


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