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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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敵地を進む

  ケインが捕虜の食事を担当になると、次第に捕虜たちの様子は変化していった。


 味気ない携帯食料を食べ続けていた捕虜たちを食糧調達に参加させ、摂って来たものを食べられるようにしたのだ。ただ武器は持たせられないので、釣りや木の実の採集などの部隊へ参加を認めた。


 脱走は小隊単位で厳罰に処すと言い渡したが、最初のうちは、逃走する者が少数なりといた。彼らはすぐに捕まり、連れ戻された。


「罰は、食糧調達に加わるのを禁止だな」


 意地の悪い顔をしてケインが決めた。


「軽すぎないか」


 ルーザーが言ったが、すぐにわかるさ、とケインは更に意地悪そうな顔をする。

 本当にすぐに結果が現れた。

 携帯食しか口にできない小隊の恨みは、脱走者に向かう。それを食事毎に意識することになる。食い物の恨みは恐ろしいようで、10人が試みただけで脱走者は途絶えた。


 そうする内に、捕虜の食糧は自給自足に近くなっていった。


 この間にケインは、城までの領地の情報を、事細かに聞き出していた。

 領主と領地の特徴。王家との関係。近隣領主との関係、その他行軍の難所になりそうな場所や、大部隊の野営に適した場所もだ。


 そちらと並行して、近隣領主の懐柔が進んでいった。

 

 カイルが偵察の足を伸ばしたところ、二日目には二つの領地の領主が、接触を求めているのがわかった。密会の申し込みを出すと、砦に出向くと答えが返ってきた。


 話をしてみると、キルン国王への不満が蓄積しているのがわかった。

 ケインが聴き込んだ内容はほぼ正しいようだ。


 二人の領主は先を争うように話した。話すと言うより、陳情するような具合だった。


「バイエルへの攻撃の度に、食料や武器、費用の負担を言いつけられ、住民も徴兵されていく。そのため財政はいつも、逼迫しています。王都付近は分からないが、近接した三つ目の領主は、同樣の状態なので、バイエルに力を貸したいと思っているはずです」


 懐柔しようとしたはずが、縋られるような具合になっていた。

 すぐにもう一つの領地にも連絡を取りつけ、三つの領主から、進軍の邪魔をしない誓約を取り付けた。そして、その地から出兵した兵たちを返した。

 他に領主ごと捕虜になっている隊も、領主から恭順の誓いを取ってから解放した。これで砦に留め置かれている捕虜の数は激減した。

 

 それらの準備の間に、国民たちの王家への信頼の薄さを知ることになった。

 この状態なら、4つ目の領主も同じなのかもしれないと考えた。しかし4つ目の領地はかなり広く軍も大規模で、この領主は戦わないわけにはいかないだろうと、イクリスは考えていた。


 そしてやはり、領主が軍を率いて出てきた。


 イクリスはミラに、好きなだけ爆薬を使って派手にやっていいと許可した。ただ、殺傷をせず、威嚇を中心にするよう指示をしておいた。

 ミラは用意して来た半分を使い切って、暴れまわった。まるで、この領地が神の怒りを買ったかのような大騒ぎだった。しかし、人的な被害は出していない。

 大音量と爆風と閃光で敵兵の馬や兵が右往左往している内に、バイエルの隊は悠々とその地を通り過ぎた。

 敵兵もあえて襲っては来なかった。事前の調整は一切なかったので、暗黙の了解というものだろう。

 この戦いは、近隣の領地も知るところとなっている。この領主は、非常に大規模な攻撃を、人的被害なしに防いだことになる。

 とにかくこの地の領主は、やれることはやったと言えるのだ。



 5つ目の領地に入ると、やっとキルンの本隊らしき大軍が現れた。敵将は、バイエル将校によると、キルン軍の元帥だと言う。これを打ち破れば、戦いは終わる。キルン軍の規模は約三万。十万を超えるバイエルの敵ではない。


 敵軍を目の前にして、イクリスはバイエル軍をアダムに任せ、後方に用意した本陣にブルーシャドウを集めた。


「目的は王家の排除だ。キルン軍と戦うとしても、なるべく被害を少なく抑えたい。何かいい手ががあれば出してほしい」


「前の領地のように、爆弾で混乱させて、突破はどうでしょう」


 ミラが元気よく言った。


「後ろから追いかけて来られると、王都内での戦闘になる。それはなるべく避けたい」


「軍の上層部に投降を持ちかけるのは?」


 ルーザーは気軽に言う。リーダーを欠いた軍の場合は有効だが、元帥の称号を持つ男が、投降に応じるとは思えない。でも、感触を探ってみるのは面白いかもしれないとイクリスは思いなおした。


「ルーザーと、ケイン。使者として、相手側に交渉してもらえるかな。こちらの言い分は……そうだな。度重なるバイエル領地への攻撃を、これ以上容認できない。そのため、交渉に応じない現王家を排除する。後の事は相談に応じる」


 ケインがニヤっと笑った。


「ミラも満足しているようだし、わざわざ戦いたい奴は……。アダム副王は、どうかな。初めてこんな大軍を率いたんだから、ウズウズしていませんか?」


 それは、考えもしなかった。イクリスもこんな大軍の指揮は初めてだが、威嚇用の軍と見ているので、はしゃぐ気分はなかった。

 イクリス達が前線で指揮をするアダムに近寄ると、やはりケインの言うように、アダムを初め、兵達は高ぶっていた。絶対に有利だと思って、嵩にかかっているのが見てとれる。


「イクリス様、攻撃開始はいつにしましょう」


 アダ厶が目を輝かしている。


「まずは交渉してみようと思う。それ次第だな」


 イクリスの言葉が聞こえる範囲の人間は、途端に不服そうな声を漏らした。


「敵を侮るな。いつ開戦してもいいように、態勢を整えよ」


 そう叫ぶと、軍がピシッと緊張した。

 しばらくして、ルーザーとケインが馬に乗って前に進み出た。交渉役の印として、二人とも大きなバイエル国旗を振っている。


 その後ろにミラと、特殊工作部隊が続いた。人数の差を埋めるために、何か仕掛けてある可能性があると言い、自分が先頭を行くとミラが言い張ったためだ。


「交渉を行いたい。交渉役として、この人数でそちらに向かう」


 ルーザーが大音量で言うと、敵軍がざわついた。

 構わずルーザーが進み出ると、ミラの部隊が横に一列に並んで、ゆっくりと前に出た。ルーザー達の300m程前を、馬の脚で確かめるかのように踏みながら前進して行く。



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