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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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今後の相談


 イリスとエドワードの婚約は異例の早さで結ばれ、周知された。

 当初ブルーネル公爵家側は逡巡したが、王家は猛プッシュを掛け続けた。


 ブルーネル家としては、ただただイリスの事が心配だった。三ヶ月もしない内に、王位に就く事が決まっている今、他の事に手を付けるのは無謀だと思った。

 ところが、当事者のイリスが婚約を望んだのだ。


「私はエドに幸せになって欲しいの。だから私は王太子妃になるわ」


 母が疑わしそうに聞いた。


「エドワード殿下に恋をしたの?」


「いいえ。でもエドが大切なの。決して不幸にはしたくない」


 母は難しい顔をして頬に手をやって、頭をかしげている。


「恋を飛び越して、愛ね。どういった愛なのかしら。家族愛?」


 イリスは考えてから、少し改まってはっきりと伝えた。


「そうかもしれないです。私の中でエドとシモンは切り離せないし、二人分幸せになって欲しい家族です。でも、それだけではなくて、最近の大人っぽくなったエドを、とても新鮮に感じてもいるのです。まだ恋なのかどうかもわかりませんけど」


「そう。これは後戻りできない決定よ。覚悟はしているのね?」


「はい。エドが私を拒否しない限り、私はエドの妃になり、レンティスの王妃になります。そしてエドと国民を守ります。心からその役目を担いたいし、他の人に任せたくないと思っています。それに私が守りたいのは、どの国でもなく、この国です」


 これで母が折れた。ということは、つまり父も折れたのだった。

 ブルーネル公爵家は、イリスがレンティスの王太子妃になることを認めた。


 それで婚約自体はすんなり決まり、気が変わらない内にとでもいうように、手続きが進められた。

 突然の婚約者決定について、貴族達からの反発の声は上がったが、エドワードが二年間婚約者を決めようとしなかったことや、イリスが留学している間に、昔の事件が風化して来たことで、強い反対は出なかった。


 そして時間の掛かる催しは全て割愛して、王家からの告知が出された。

 そのことについては、貴族も国民も不思議がったが、二回目の婚約だからか? という推測が巷に流れた。



 その間にも、具体的な事を決めるため、何回か会議が開かれた。王家とブルーネル公爵家だけの秘密会議だった。他の者を入れたら収拾が付かなくなるし、当事者のイクリス自身が秘密なのだ。ある程度まで決めてからでないと、外に出せない内容ばかりだった。


 最大の議題は、レンティスとバイエルの国同士の関係をどう位置付けるかだ。併合するにはバイエルは、国土も国力も大きすぎるし、諸外国との摩擦もその分大きくなる。


「最初は地位の高すぎる、押しかけ夫の話だったのに、結局国まで押し付けられてしまって。私はどこで間違ったのだろう」


 イクリスが愚痴るが、経緯を知らない者達には言うべき言葉が無いようだ。

 セレウスに王位を継いでもらい、同盟国としてイリスに仕える案も出たが、彼はイリスの傍近くに仕えると言っている。それは無理だろうとイクリスが却下した。

 彼の人となりを知らないから、皆はそう言うのだ。彼を説得できるとは思えなかった。


 それで盟主国をレンティスとした同盟国案を基本に据えて、緩く臨機応変で進めることに決まった。


 イクリスを王として体制を作り、その後アダムに移譲する。その経過の中で、国同士の関係を決めることにする。

 奪ったのではなく、押し付けられたに近いこの政権交代には、通常という言葉がそぐわない。




 議題の一つには、結婚のタイミングというものがあった。

 バイエル王とレンティス王太子妃を兼任するか、王位を譲ってからレンティス王太子妃になるか、だった。アダムに渡すまでには最低でも半年、長ければ数年になりそうだ。それがたとえば、三年後だとして、遅すぎるわけでもない。


 王家側は、兼任でもいいから、早く式をあげたいと主張している。

 ブルーネル公爵家側は、それを、正気じゃないなと、冷ややかに却下した。


「エドワード殿下。イリスは逃げも隠れもしません。焦らなくても大丈夫ですよ」


 ブルーネル公爵がなだめても、エドワードの焦りは消えないようだ。

 イリスが女装に戻ったのは一度きりで、後はずっとイクリスとして過ごしていて、彼を目当ての女性客などが、周囲をうろつき始めている。

 これはイリスで女性なんだとわかっていても、錯覚してしまうらしい。


「イクリスが王になったら、女性からも狙われるんですよ。どう安心しろと言うのです」


 必死で言うエドワードに、護衛として控えていたミラが、茶々を入れる。


「イクリス様はもてますからね。アイラもカーン様の時と態度が違うので、セレウス様が妬いて大変です。マーガレット様も会いに来るそうですし、ご令嬢方からのお問い合せも急増しています。王になったら、それこそ各国から、美女が押し寄せるでしょうね」


 一旦は眉を寄せたブルーネル公爵も、得意げになっている。息子? の人気を聞かされて、満更でもなさそうだ。




 もう一つは、イクリスのレンティスでの地位の問題。今のところ彼は、何の肩書も持ってはいない。  元々架空の人物なので、全てがあやふやだ。

 ブルーネル公爵家遠縁の子息という触れ込みで、公爵にそっくりな見た目から、庶子だと思わせているだけの人物なのだ。


 流石に何らかの身分を与えておかないと、格好が付かない。


 公爵家に養子として迎え入れる案も、検討された。イクリスはイリスの兄として、王位に祭り上げられた。だから、正式にイリスの兄の籍を、与えたほうがいいのでは、という意見だ。

 果たしてそれは正しいのか。正式に公爵家の嫡男としてしまえば、公的な役割や義務が発生する。王位を退いた後が面倒になるだろう。


 例えば婚姻にしても、イクリスは既に注目を集めている。王位に就く事が知れ渡る前でも、釣書きが部屋いっぱいに積まれそうな様子なのだ。

 カーンはありがたい事に男色家だ。婚姻の申し入れだけは絶対に来ない。この事が、こんなにありがたく感じるようになるとは、誰も思っていなかった。


 結局イクリスには、ブルーネル公爵が持っていた子爵籍を、継がせることになった。実質的な領地経営などは、ブルーネル公爵家で行っているため、イクリス本人は何もする必要がない。そして、イクリス個人の収入が、直接入るようになる。何かと動きやすくなるだろう。


「もちろん王としての収入と比べれば、微々たるものだが」


 公爵が笑いながら言った。


「そうだ。それを決めないといけません。私はバイエルの王に割り当てられたお金を、どうしたらいいのでしょう。それに王家の持っている財産もです」


 イクリスが困り顔で、王や公爵に尋ねた。


「王の収入と言っても、国の運営に関する諸経費や備蓄、軍の維持、その他諸々は別ものだ。少し近くなって、王宮の維持費や使用人の経費等だな。そういえば、王妃関係の経費は不要だな? イクリスは王妃は迎えないのだろう?」


 イクリスは、まじまじと王を見つめた。冗談なのかどうか、わからない。


 王はハッとしたように、冗談だ、と言った。その後で、若い頃のアルバートと話しているような、成長したシモンと話しているような、変な錯覚を起こすな、とポツリと言った。


「王が自由にできる金は、そんなに多くはないが、少なくもない。王だからな。王妃教育でも概算は聞いているだろう?」


 まあ、ざっくりとは聞いた。だがイクリスには、その膨大な金額を遣う気も、使い道も無い。


 戸惑うイクリスに、王が気楽に言った。


「迷惑料としてもらっておけばいいさ。王妃の予算と子供たちの予算も宙に浮いたわけだ。結構な額だろう。多分私より裕福だな」


 イクリスが、王家の財産について聞くと、それには王も詰まった。


「どうしたらいいのだろうね。通常こういった場合は、王位簒奪者が全てを引き継ぐものだ。バイエルのほうが、この国より大きいのだから、君は私たちより財産家になるだろうね。やはり本格的にブルーネル王家を建てるかね?」


「本気でお考えください、王よ。我がブルーネル領ごと、バイエル国に移籍してもいいという事でしょうか?」


 公爵が王を睨みながら言うと、王がごまかし笑いをした。

 馬鹿なことを言っている場合ではないのだが、イリスが王太子妃に決まり、王一家は、少し浮かれ気味なのだ。


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