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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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レンティス王への報告


 王と公爵は黙って考えている。

 公爵が先に提案した。


「司祭長が指名したから、イクリスが王になるのだったら、レンティス王を指名してもらったらどうだろう」


「セレウス殿の判断基準は神です。王より神の娘の父である公爵の方が、優先順位が高いでしょうね。公爵様、バイエル王になりますか?」


 イクリスに言われて、ブルーネル公爵がたじろいだ。


「そう言われると、衝撃がきついね。心臓に一撃食らったような気分だ」


 公爵は顔を覆って溜息をついている。

 イクリスは王に尋ねた。


「王はバイエルを手に入れたくはないのでしょうか」


「臣下であるイクリスが、主君のレンティス王にバイエルを献上する、という方法もあるが、そうなった所で民衆が付いてくるか?」


 どうだろう。要はイリスなのだ。レンティス王家との間には距離がある。


「単純に考えると、バイエルはイクリスのものになったわけだ。つまりイクリスを頂点としたブルーネル王家がバイエルに君臨することになる」


 全員で考え込んでしまった。

 ブルーネル王家か。王はイクリスだが、架空の人物だという、かなり危なっかしい話だ。


 王が、随行した者たちの話を聞きたいと言い出し、待機していた三人を、謁見の間に呼び込んだ。


 聖騎士の一番隊長ソーンは、長い薄茶色の髪に茶色の目の物静かな雰囲気の男だ。レンティス王の問いかけに、淀みなく答える様は、少しセレウスに似ている。


「イクリスが王に指名されたことに、疑問や不満は、どの程度出ているのだろう」


「前王族と、その周辺含め、一部だと思います。貴族院はイクリス様の即位に賛成しております」


「貴殿自身は、なぜイクリスを信用するのだ」


「イリス様の兄上ということ、セレウス様が信頼されているカーン殿が、自身より上だと評価されている事。それで十分です」


 すごいな、と言って王は椅子の背に頭を当てた。


「イクリス、カーンはセレウス殿に、何をして、そんなに信頼されたのだ」


「さあ、よくわかりません」


 ルーザーが発言を求めた。


「従者達が毒に倒れている間、剣と交渉で全員を守り、犯人を突き止め、ミラを救い、王とアダム殿下と貴族たちの信用を勝ち取り、セレウス様を味方に付けました。セレウス様が信頼するのは、当然のことです」


 ブルーネル公爵が、自慢気だ。

 ミラが、それだけではありませんと続けた。


「王妃を断罪した時、イクリス様が神域の空気をまとい始め、セレウス様は危険を感じて、止めに入られました。イクリス様の神格の高さを認めたのです」


 王がため息交じりに結論を下した。


「当面、イクリスが王であることは決定だな。レンティスでの身分については、後日もう一度話そう」


 王の言葉で、ブルーネルの一行は王宮を辞した。

 今回の謁見はイクリスとしてのものだったので、イリスとして後日、挨拶に出向くことを約束した。


 王は黙り込んでいるエドワードを、憐れみの目で見た。

 イクリスは、既に王で、ルーザー達も、聖騎士も、イクリスを敬っているのが伺える。エドワードは随分と差を付けられている。


 先を行くイリスに、息子の手は届くのだろうかと、王は不安になっていた。




 2日後、改めて挨拶に出向いたイリスは、王一家に私的にもてなされた。

 王妃が、いたずらっぽい目でイリスを眺め回した。


「イリスに戻った気分はどう?」


「女装したような不思議な気分です。新鮮で、ちょっと楽しいですね」


「そうね。すごく初々しくて、可愛いわ。それに更にきれいになったわね」


 王妃が二人の男に同意を求めた。

 二人共、目に称賛の色を浮かべている。


 ブルーネル家の使用人たちにも、母にも同じ事を言われた。とても初々しく見えるそうだ。


 イリスは笑いながら答えた。

 

「どういう事でしょうね。イクリスとカーンに役割分担して、イリスの荷が減ったような、気楽な気分です」


イリスの姿になった途端に気楽になり、難しいことはイクリスに任せようと思った。スイッチが切り替わったようだった。


「バイエル国王妃と側近は、バイエル国で取り調べを行うことになりました。その後こちらに移送します。今までのどれもこれも、王妃の指示で行われたものでした。マイルズ殿下の父親は、その側近です」


 イリスがさらっと言った言葉に、王妃は頷いただけだった。容姿が王に似ていない事と、イリスが狙われた事件の類似性とで、元々疑っていたのだろう。

 一番ショックを受けているのは、エドワードのようだった。

 王妃は、イリスにお菓子を勧めながら、話し始めた。


「二十年以上昔のことだけど、私は彼女のこと、覚えているの。当時王太子だった王の誕生日パーティーで、じっと彼を見つめていたわ」


 一目惚れかしら、とイリスは想像していた。


「とても強い表情が印象的だった。強すぎて恋の甘さを感じられなかった。それが不思議で覚えていたの。彼は全く覚えていないそうよ。呑気なものね」


「恋でなければ、何だったのでしょう」


 イリスが聞くと、わからないわ、と言う。


「バイエルの王太子との話も上がっていたのに、バイエルより小さいレンティスに婚約の打診をしてきたの。恋をしているわけでもないなら、何でしょうね。彼が夫なら王座を乗っ取れるとでも思ったのかしら」


 王妃が笑いながら言った言葉に、まさかと言って一緒に笑ったが、何かが引っかかった。


 彼女は側近の息子をレンティスの王にしようとした。

 バイエルの次期王は自分の息子だ。両方とも、王妃が影から支配できる人間だった。もしかしたら、それが正解なのだろうか。


 彼女はレンティスをあきらめてバイエル王太子の元に嫁ぎ、夫を支配しようとしたのかもしれない。バイエル王がそれに反発し、警戒されたあげく、不仲になっていったという流れだったら?

 王は王妃を冷酷に排除しようとしていた。それは、王にとって王妃とアダムは、自分の首を狙う敵だったから。


 辻褄が合ってしまった。あまりに殺伐としたストーリーで、これが間違いであって欲しいと、イリスは心底思った。


「アダム殿下は何も知らなかったようです。帝王教育が半端なのは、王も王妃も、自分が御しやすいようにアダムを育てたから、でしょうか」


 その問いに王が答えた。


「身内で喰み合って没落、というのは愚かの極みだが、ままある事だ」


 王は何か少し考えてから、イリスに向かって、笑いながら言った。


「レンティスでは、今の所その危険はないな。我が息子が王位を継ぐのは決まっているし、彼は周囲に見守られながら、正しくしっかりと学んでいる。決して他国の王子に見劣りすることは無いよ。イクリスには少し負けているかもしれないけれどな」


 まあ、何て事を言うのかしらと、イリスは苦笑した。

 エドは頑張っていると、アイラから聞いた。元々優秀なのは知っているから、その言葉を疑ってはいない。イリスはエドに微笑みかけた。エドはぼっと赤くなったが、嬉しそうにしている。


「とても頼もしいですわ。バイエルの様にはならないでしょう。それにしても、王妃の力がどれだけ国に影響を及ぼすか、思い知らさせました。バイエルの二人の王妃は、片や裏から国を操ろうとし、片や愚かしい行いで周囲を混乱に陥れました。それを御せない王から、貴族たちは離れていきました。王妃の質は大切です」


「そうね。だからこそ、イリスがもう一度、王太子妃の道を考えてみてくれると嬉しいわ」


 すかさず返された、王妃様の直球とも言える言葉に、王とエドワードが驚き慌てたが、イリスにとっては、ここ最近ずっと考えていたことだった。


 ゆっくりと王に向かって言った。


「もし私で良いのなら、お受けしたいと思います」


 王はしばらく詰まっていたが、そう計らおうと答えた。

 イリスはエドワードに向き直って、彼をじっと見つめた。エドワードはすぐに頷いた。

 王がエドワードに、大丈夫なのか? と問いかけた。


「私にはイリス以外、考えられません。この申し出がどんな理由でも良いのです。差し出された手を、取る以外の選択肢はありえません」


 そう言ってイリスを見つめるエドワードは、今までと違い、大人びて男っぽく見えた。もう弟のエドワードではないのだと、イリスは改めて認識した。

 

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