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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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黒幕のしっぽ


 しばらく三人で、静かに飲んで気持ちを落ち着けた。それほど三人共疲れていた。

 そしてセレウスの引退理由と、事件の始末について相談した。

 結論は、レンティスに極秘で移動させ、後日、重病で職務を降りて静養に入ったと発表することにした。

 通常顔を隠している位なので、人知れず居なくなっても、不審には思われないだろう。

 後日、レンティスで暮らしているのが漏れても、重病から奇跡的に復活して、その地で暮らしているで、押しとおす。


 話がまとまって、寛いだ気分になった。


「カーン殿のようなしっかり者がいれば、ブルーネル家は安泰だ。冷静な兄上もおられるようで、羨ましい。今後、外交の再会交渉をする際には、君たちがレンティス側の交渉役になってくれれば、心強いな」


「そんな交渉の話は、聞いたことがありませんが」


「だいぶ前から、交渉を持ち掛けているが、断られている。なぜ強硬な態度をとるのか、理解できない」


 やはり、王は陰謀に加担していないのだろう。バイエルとレンティスの気持ちには、天と地ほどの隔たりがあるが、それを理解していないようだ。知らなければ、レンティスの態度を不思議に思うだろう。



 王の私室を辞してから、アダムと話をしながら歩いた。


「レンティスの強硬な態度には、私も疑問を持っていたのですが、カーン殿には、思い当たることが、おありですか」


「そうですね。バイエルに対する警戒心が解けたら、話が進むかもしれません。私個人としては、誠実なアダム殿下なら、信用できます。アダム殿下が王位を継いだ後には、交流が盛んになると思います」


「警戒心とは、どういうこと?」


「交流が無い分、お互いの内情や、思惑がわかりませんから。知らない者に対しては、警戒します」


 アダムが少し考えてから、カーンに尋ねた。


「イリス嬢が婚約を解消した事件で、黒幕が分からないから、他国が信用できないということですか?」


「まあ、そう言うことですね」


「レンティスとの仲は、20年ほど前から下向きになり始めたと聞いている。その理由もわからないのだが」


 この際、少し考えてもらおうと思い、カーンは言っておいた。


「イリスの事件と、少し似たような事件が、20年前にも起こっているのです」


 アダムはびっくりしたような顔をして、カーンを見つめた。必死で何か考えている。でも、そう簡単には結論に結びつかないだろう。


「アダム殿下。先日伺った、王妃様の懇意の者に、会わせていただけませんか。やはり、イリスの事が心配なのです。ロブラールに居た頃の事を、少しでも聞ければありがたい」


 アダムは少し逡巡したが、紹介することを約束した。


「どんな人物なのですか? 親戚とか?」


「いや、知人と言っても浅い縁で、商人です。たまに母のところに、商談にやってきます。この前に会ったのは2か月ほど前でした。ロブラールに居たと話していたので、イリス嬢の事を尋ねたのです」


「商人ならば、お名前を教えていただければ、私が直接訪ねて行きましょう」


 アダムから商人の名と商会の場所を書いてもらい、礼を言って別れた。



 医務室に戻ると、再び宴会が始まっていた。

 セレウスとアイラを囲んで、全員が盛り上がっている。驚いた事に、ミラも混じって、飲み食いしていた。


「ミラ、体は大丈夫なのか? まだ酒は辞めたほうがいいよ」


 慌てて止めようとしたが、あまりにいい顔をしているので、声が途中で途切れた。


「カーン様、この酒美味しいです。ロマンのポテトも泣きそうに美味しい。やっぱり、カーン様の傍が一番好きです」

 おいしいロマンの料理にありつけるからな、と呆れたが、幸せなのは良いことだ。


「それは良かったね。もうどこへも行くなよ」


 頭をザっとなぜて、そのままケインを傍に呼んだ。カーンを見て何かを感じたらしく、ケインはビールを置いて、すぐにやって来た。


「この商人と、商会を調べてくれ。誘拐事件の時にイリスを見ているようだ。つまりマーガレットをだ。王妃の元に、時々やって来る商人らしい。それから、王妃の結婚前後の様子も頼む」


 紙をじっと見て、ケインが頷いた。黒幕の足元に迫れるかもしれない。


「通常の捜査のみ、まずは行います。もう一歩踏み込むのに、アイラの手が借りられないのは、残念だな」


 離れた場所で小声で話していたのに、聞こえたようだ。さすがに常人とは違う。アイラがセレウスの手を離して近付いて来た。


「私をのけ者にするのは辞めてくださいね。対象に接触して、情報を聞き出すのはお任せください」


「そういうのは、セレウス様は大丈夫なのか」


「はい。私の仕事の邪魔はしないと約束しています。それに、彼と取り決めしていますので、一部のテクニックしか使いませんから」


「任せるよ。うまくバランスを取ってくれ」


 ケインが感心した。


「カーン様はこなれましたね。なんだか、頼もしいです」


 カーンは仮の姿にかなり馴染んできたのを自覚し、ふっと鼻で笑ってしまった。

 でも、色々と片付いたし、はかどった。だから、乾杯しようと思いなおした。


 その時、カイルがまたもや窓から滑り込んできた。お腹が空いたと言うミラのために、追加料理を頼みに行ったらしい。


 ロマンの料理をどっさりと背負っている。

 荷を広げると、いい匂いが辺りに充満した。料理は、まだ暖かい。

 さっそくテーブルに並べると、ものすごい量だ。


「カイル、よくそんなにたくさん担いで、この王宮に忍び込めるね。匂いで気付かれないの?」


「それより早く動けば大丈夫です」


 天才たちの理屈は、凡人には理解できない。確かなことは、実際に見つからずに動いているということだ。凡人は考えるだけ無駄で、彼らにはできるのだ。


 テーブルの真ん中で、セレウスが嬉しそうに食べている。


「すごい食いっぷりだなあ。聖騎士って、色々凄そうだなあ」


 ロイがセレウスを見て感心している。


「修行の中で、一週間食事を断つこともあるし、逆にたくさん食べることもある。それにしても、この料理は神の域だ。君たちはこんなものを、普段食べているのか? それなら、レンティスの兵は強いだろうな」


「食事で強さが変わるのですか?」


「もちろんだ。体を作る物だ。こんなにおいしければ、体に良い影響を与えないはずがない」


 周囲でブルーネルの騎士たちが感心している。

 今のセレウスは、騎士としての側面を見せている。こちらの方がとっつきやすくて助かる。

 それにしても一週間の断食とは、聖騎士というのは、どれだけ過酷な修行をおこなうのだろう。強いのもうなずける。


「本当に強そうですね」


 カイルも感心しきりだ。


「あんな男の相手は、普通の女では無理だろうな。壊れてしまう。アイラだからこそ、だね」


 カーンの言葉で、カイルがふと黙ってカーンを見つめた。


「カーン様、イリス様に戻れますか? なんだか、こっちが本物になってきたようで、不安です」


 ケインと、アイラが寄って来た。


「だから私が言ったでしょ。早く終わらせて、早く戻らないとまずいって。カーン様、早くレンティスに戻りましょう」


「アイラ、余計な問題を持ち込んだ、お前が言うなよ」


 ちっと舌打ちして、アイラがケインを睨んだ。

 全く二人共、度々こうやって言い合いをする。仲がいい証拠なのだが、両者ともに頭も力も強いので、けんかされると、はた迷惑なのだ。


「ケイン、捜査は明日から、アイラと連携を取って進めてくれ。セレウス殿には、その後にレンティスに向かってもらう。アイラは彼を変装をさせて、レンティスまで同行してくれ」


「カーン殿は、良い司令官だな。さすがにアイラが信頼を置く者だ」


 いつの間にか、アイラの後ろに来ていたセレウスが、カーンを褒めた。周囲の者達がうれし気に笑っている。


「これから、よろしくお願いする。カーン殿の下で働かせていただきたい」


 えっと、声が上がった。


「私はアイラに従う。だからアイラが仕える相手は、私の主でもある。出来る事があれば、私にも仕事を振って欲しい」


 ルーザーがにこにこしながら聞いてくれた。


「何ができますか?」


「神に祈ること。教団を束ねる事。教える事。戦うこと、くらいかな」


「じゃあ、俺の教団を引き受けてもらうってのは?」


 ケインが教団を投げ出そうとすると、アイラがその頭をはたいた。


「あれは、あんたの教団でしょ。ちゃんと責任取ってまとめときなさいよ。それにバイエル国教に敵対する教団を彼が率いたら、バイエル国教に統合されちゃうでしょう」


 そう言うアイラに、セレウスはにっこりと微笑みかけた。


「私の信仰の対象はイリス神で、教団ではない。そして私の主はアイラであり、カーン殿だ。だから望むなら、バイエル国教団と、ケイン殿の教団をまとめて、レンティスに移動させよう」


 おお、すごい、と声が上がり、場が盛り上がった。

 ちょっと待ってくれ。そんなことをするために、教団を作ったわけではないのだ。話が思いがけず大きくなっていくのを抑えようと、カーンはまたもやロマンの料理に頼った。

 そして、ケインの頭を一発はたいておいた。



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