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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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王妃の落とした爆弾発言


 会議室には王と王妃二人にアダム、重臣らしき者たちが、カーンを待っていた。明らかに全員が揃った後で、カーンを呼んだのだ。

 居並ぶ人々は揃いも揃って、カーンを非難するような苦々しげな表情を浮かべている。


 案内された席に座ると、早速王が議題について話し始めた。


「ブルーネル家からの使者に、毒入りの酒が届けられ、従者達がこの数日臥せっていた。現在はほぼ快癒している。この場で今回の後始末に付いて話し合いたい」


 王がカーンの方を向き、挨拶を促した。

 カーンはこの機会を利用して、今までの経緯を話しておくことにした。


「この会議に先だって、王から調査結果を聞いております。外交上あり得ない事件でしたが、一部の者による短絡的な行動で、レンティスに対する攻撃ではない、と聞かされて安堵しました。私からは、犯人の家門に連なる第二妃の減刑を、王に申し入れております」


 この口上で、重臣たちが動揺した。

 王の方を振り向く者が多いので、多分違う話を聞かせてあったのだろう。


 第二妃が勝手に口を挟んだ。


「ジェーンに狼藉を働いた者が、よくも図々しい。娘は泣いているわ」


 王が彼女を宥めている。座席は第二妃が王の横だ。王妃はテーブルの反対側に座っている。アダムはその横。王の結論は、第二妃を徹底的に庇う、という事なのだろう。


 王妃はうっすら微笑んでいる。アダムは眉根を寄せてうつ向きがちだ。

 

「先日も話した通り、ジェーン王女とは、一度目が合っただけです。納得いただけたはずですが」


 カーンの言葉に、第二妃はわかりやすく動揺した。全く王妃としての素養を持たない女なのが、露呈している。

 部屋中の者が第二妃を注目した。それに耐えられなくなったのか、立ち上がって自分の侍女に命じた。


「ジェーンをここへ連れて来て。あの子に証言させるわ」


 そんな悪手に出るか、と他人事ながらカーンはぞっとした。それは事情を知る者全員の思いだった。

 事情を知らない者たちも、その緊張を感じ取っているようだ。

 ただ王妃だけが、口の端を大きく持ち上げた。

 

 カーンは王妃を見てぎょっとし、カーンの様子に気付いたアダムが、隣に座る母を見て凍りついた。

 王が侍女を止めようと、腰を浮かした瞬間に、王妃が立ち上がって早口に言った。


「王に申し上げます。私からご報告したいことがあります。発言をお許しいただけますか」


 その間に、侍女は部屋を出ていた。


「今言わなければならないような、緊急の話なのか?」


「はい。今お聞きになった方が、良いと思われます」


「話せ。手短にな」


 王妃はゆっくりと礼をし、全員の視線が集まるのを待った。


「カーン殿は、女性に興味がないお方です」


 部屋の中が、しんとした。衣擦れの音さえしない。

 声を上げたのは第二妃だった。


「そんな馬鹿なことを。何のつもり?」


「アダムの求婚に際して、調査いたしました。当たり前の事です。一国の王妃になる人物を選ぶのですから」


 王が激昂して立ち上がった。


「アダム、お前は知っていて黙っていたのか?」


「私は知りませんでした」


 アダムは蒼白になって、きっぱりと否定した。


「王妃よ。なぜその情報を私に伝えなかった」

 

 王妃は立ったまま、少し困ったように周囲を見回している。


「それは、使者様の性的指向がどうあれ、何の関係がありますか? そんな事を報告したら、私は笑いものにされるでしょうね」


 そう言ってから、もう一度周囲の者たちを見る。確かにその通りだが、今それに頷くことはできない。誰も王妃と目を合わせようとしなかった。


「カーン殿、それは本当か?」


「ええ、本当です。私は女性に興味がありません。その事を身近な者は知っています」


「身内しか知らないのか」


 一縷の望みを見い出したかのように、王が小さく言った。


「実は、一ヶ月ほど前のパーティーで、従兄弟にからかわれて、つい口が滑りました。そのせいでレンティスでは、周知されています」


 部屋に、ため息交じりのざわつきが広がった。周知のことなら、ジェーン王女を襲ったなど、捏造の難癖にしかならない。

 そのざわつきの中、当のジェーンがやって来てしまった。

 第二妃が慌てて彼女を止めに向かったが、間に合わなかった。ジェーン王女はドアを入るなり、御付きの侍女にもたれ掛かって、泣きながら叫んだ。


「私、カーン様に乱暴に抱きしめられて、唇を奪われました。従兄弟たちが来て助けてくれなかったら、どうなっていたことか」


 カーンは目を覆った。これでは、彼女も主犯に格上げだ。

 ジェーンはしばらく、泣きながら訴えていたが、場の雰囲気がおかしいのに気付いたようだ。

 自分の前に、凍りついたように突っ立つ、王と第二妃を見てから、座っている者たちを見た。誰も目を合わせないようにしている。


 多分、自分に対する同情と、カーンに対する怒りの声が上がらないのに、戸惑っているのだろう。


 カーンはまた、アダムの方に体を向けた。

 次期国王なのだ。現国王が使い物にならない現状では、彼が前に出るしかない。カーンがアダムを見ると、つられて他の者もアダムの方を向いた。


「ジェーン、ともかく黙って座りなさい」


 しごくもっともなアダムの指示で、場の緊張が解けた。ジェーンが第二妃の横に座り、不安気にその顔を伺っている。


「ジェーン、カーン殿は女性に興味がないそうだ。この意味が分かるか?」


 アダムが問いかけた。ジェーンはキョトンとしている。しばらくして意味が通じたようだが、真っ赤になって怒り始めた。


「エリ王女にあんな笑顔を向けておいて、よく言うわ。きっと彼女にも手を出しているわよ」


 この言葉に王妃が反応した。きつい目をしてジェーンを睨み据えている。


「エリとカーン殿は、晩餐会でしか会っていません。不愉快な言いがかりは許しません。列席の皆様、今の言葉はジェーン王女の妄想です」


 これには第二妃が黙っていなかった。


「妄想ですって。失礼な。王女に向かって何て事を言うの?」


「あら、失礼。では先ほどの、カーン殿に抱きしめられた云々は、捏造ってことですね。まだ妄想の方がましでしたのに。いさぎ良いわね」


 王妃が鼻でせせら笑って言い放つ。どうにも、嫌な方向に話が進んでいく。ジェーンは、まだ理解が浅いようで、ひたすら怒っている。


 アダムがジェーンに退室を命じると、嫌がるジェーンを第二妃がなだめつつ、外に連れて出て行った。

 残された面々はげんなりしていた。カーンとてそうだ。十七歳の王女を、苛烈な刑に追い込みたくはない。


「カーン殿、失礼した。誠に申し訳ない」


 アダムが真っ正直に謝った。この男は、誠実なのだろう。

 

「年若い女性の気持ちが不安定なのは、私も知っております。王女も不安定な年頃なのでしょう。今の会話は取り上げる必要もないと思います」


 周囲の重臣たちが、ほっとしたように小声で話し始めている。

 だが王妃はこの流れに納得していなかった。


「今のジェーン王女の発言は、彼女が主犯だと、自白したも同然だと思いますが?」


「母上、カーン殿がブルーネル家として、ジェーンの関与を、不問に付してくださったのです。かき回すのはおやめください」


 アダムがレンティスと言わず、ブルーネルと言ったのは、事をなるべく小さく収めようとする配慮だろう。カーンも、その線で話を進める事にした。司祭長の件もあるので、ここは貸しを作っておきたい。


「先日の決定内容で、私に異論はありません」


 アダムが改めて重臣たちに向き直った。


「事件の犯人である子爵家兄弟は死罪、家門は取り潰しとする。それが前回の会議内容だ」


「子爵家に連なる第二妃と、その子供達の処遇は、どうなりますの?」


 王妃は王を見据えて発言し、二人はじっとにらみ合った。これに巻き込まれるつもりはないので、カーンはアダムに発言の許可を求めた。


「ブルーネル公爵家は、先程のアダム殿下の決定で了承いたします。賠償に関しては後日としましょう。他の議題は、私とは無関係なようなので、これで退席させていただきます」


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