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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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王妃の推測


「王妃様は、彼らがどうなると思っておられるのでしょうか」


 カーンは、彼女の思惑を聞いてみた。


「子爵家は一族処刑、閉門、王妃と子供たちは皇籍剥奪で修道院かしらね」


 えげつないな。カーンは、思わずお茶にむせた。

 アダムも同様だ。


「カーン殿は優しいのね。第二妃の減刑を申し出るなんて。でも、情をかけた相手に裏切られるのは、よくあることよ。潰せるときに潰しておくべきなのよ」


「王は第二妃と子供たちを諦めるでしょうか。お二人はどうお考えになりますか」


 カーンには、王の動き方が推測出来ない。無理を通してでも第二妃を庇うのか、なるべく穏便に済ませようとするのか、諦めて彼らを手放すのか。


 まずはアダムが、私の予想では、と言い始めてから、なんとなくためらった。


「第二妃を離縁して別邸に住まわせ、王女と王子の身分はそのままにすると思います」


 そう言ってから、王妃の方をちらっと見た。

 王妃はうっすら笑っている。とても酷薄そうに見えるのは、既にカーン自身が疑い始めているせいだろうか。


「あの人は、あきらめないはずよ。多分何とかして、彼女と子供達の地位を守ろうとする。まずはカーン殿に冤罪を被せるでしょう」


「まさか、そんな事はありえないです」


 そう言ったのはアダムだった。


「ジェーンに手を出そうとしたくらいのことを、言うのじゃないかしら。だから報復されても仕方ないって。その時は、私がカーン様の事を、皆に教えてあげるわ」


 関係の冷え切った夫婦とは、こんなものだろうか。寒々とした気分になって、頭を振ったらアダムと目が合った。


「アダム殿下も、そう動くと思われますか」


 まさか、と口が動いたが、声にはならなかった。

 なんとなくひっそりとお茶を飲んでいると、侍従が王の使いでやって来た。今回の件に付いて、会議を開くので、正妃とアダムに出席して欲しいというものだった。

 侍従はこの後、カーンの所に行く予定だったと言い、同じ事を伝えた。


「従者を伴う許可は出ていますか。記録を取りたいと思いますので」


 カーンの問い掛けに、各自一人ずつ従者を認めるとの事です、という答えが返って来た。

 侍従が出て行ってから、カーンは王妃に、もう一度問いかけた。


「この会議で、王が私を攻撃してくるとお思いですか」


「そうよ。そして私がそれを打ち崩してあげるわ」



 部屋に戻るとアイラに出迎えられた。


「長かったですね。難しい顔をされていますが、何かありましたか」


 そう言いながら、上着を脱がせてくれる。


「ルーザーを呼んで来てもらえないだろうか」


 今後の対応について、話し合っておいたほうが良い気がした。今の様子だと、どんな事になるか分からない。


 しばらくしてやって来たルーザーとアイラに、王との会談の内容と、王妃の予想を話して聞かせた。その会話の中で感じた疑惑についても伝えた。


「明日の会議に呼ばれている。この会議には、王妃とアダムも出席する。私の従者として、会議にはアイラに同行してもらう」


 そう言ってルーザーに目を向けた。


「騎士たちは、ほぼ回復しています。いつでも、ここを立つことができます」


 動けると聞いて、カーンは気が楽になった。ゆっくり休ませたいが、危急時となれば、そうも言っていられない。


「王妃は、カーンが男色家だと言って、王の策略を潰すつもりでいる。かなり楽しそうにしていたよ。そこで王があきらめれば、謝罪と犯罪者粛清に関する書状をもらって帰国することになるだろう。賠償の交渉は後日だな」


「その場合、帰国は三日後くらいでしょうか。ミラはロマンの店に預けていきますか」


「今日のケインの治療で、成果があれば良いのだが。それに賭けるしか無いね」


 各自が各々の物思いにふけって、しばらく無言の時間が続いた。

 その内、ハッとしたようにアイラが背筋を伸ばした。


「レンティスへは、今回の事件が伝わっているのでしょうか」


 ルーザーがのんびりと、それを忘れていたな、と言う。

 情報管理を受け持つアイラが倒れたので、伝令を送っていない。

 しかし、街中には翌朝から、この話が出回っていたのだ。レンティス国の諜報員が、それを聞いて、報告している可能性が高い。


「あっちではパニックでしょうね。全く完全に想定外の、毒殺事件ですから」


 アハハ、と笑うルーザーをアイラが恨めしげに睨んだ。その様子が目に浮かぶので、カーンとて、とてもではないが、笑う気になれない。


「ルーザー、あんた毒で頭もやられているんじゃないの?」


 アイラが毒づく。それでもルーザーは気にした風も無い。

 カーンも少し苛ついたので、急所を突いてやった。


「新妻のルイス嬢が泣いているかもね」


 この言葉で、一気に顔色が変わった。

 王家や公爵家のパニックは笑えても、ルイス嬢のことだけは、泣かせたくないようだ。仲が良くていい事だ、と思いながらも呆れた。


 横目に、アイラが意地悪げにニヤリとするのが見えた。自分で言っておいてなんだが、ここで仲間割れは困る。


 ルーザーには、今夜のミラの治療の手筈を整えることと、他のメンバーに、今の内容を伝える仕事を任せた。アイラには、ロマンとケインに、現状を伝えに行ってもらう。

 口早にそれらを伝えて、二人を追い出した。



 ケインとカイルがやってきたのは夜の10時過ぎだった。昨夜と同じように窓から入り込んできた二人は、結構な量の荷物を背負っている。


 一瞬カーンに顔を見せ、挨拶してすぐ外に出て行った。多分そのまま医務室に向かうつもりなのだろう。


 アイラと共に医務室に向かい、ドアを開けると、全員が立ち働いていた。

 各々の荷物が、ベッドサイドに置いてある。服も武器も一切合切、ここに持ち込んだようだ。いったい、いつの間にと呆れたが、皆が普通に動ける状態なのが嬉しかった。


 初日の夜に、ここに運び込まれてから、医務室はブルーネル専用になっているので、もういっそこの方が便利だろう。


 ルーザーが、音もなく寄ってきた。


「部屋を空けました。こうしておいたほうが良い気がしたので。馬の手配も済ませたので、明日以降いつでも出立できます」


 素早いことだ。よっぽどルイス嬢が気がかりなのだろう。

 部屋の奥の方では、ケインが、薬の調合道具や薬草や何らかの液体、ランプ、小皿やスリコギなどを取り出し、準備を始めている。

 カイルは別のテーブルに、背中の荷物を広げていた。荷は全て、食料品だった。


「カーン様。ロマンからの差し入れです。毒消しの料理も作ったので、薬だと思って食べるように、だそうですよ」


 さすがロマンだ。気が効いている。

 ありがたく、病人たちとルーザーとアイラに食べさせた。昨日話だけ聞かされて、お預けを食わされた六人は、すごい勢いで食料を平らげていく。アイラは苦笑気味に、毒消しの料理だけを口にしていた。

 幸せそうな彼らを見るのは嬉しいし、更には体から毒を消す作用もあると思うと、ロマンに感謝したくなる。

 

 それと同様、今日は至極真面目に、治療の用意をしているケインにも、感謝の言葉を掛けた。


「薬はあらかじめ用意してきました。後は直前に加えなければいけない、こちらの液体と薬草を、混ぜて煮立てるだけです」


 手早く薬を調合し、ランプと小皿を持ってミラの部屋に入っていく。

 部屋のカーテンや窓を閉めてから、ベッドサイドにランプを置き、薬を炊いた。


「このまま20分程薬を吸わせます。しばらく待ってください」


 そう言われたので、その間に今後の行動について相談することにした。


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