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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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23/54

誤解


 よくわからない思い込みがあるようなので、手っ取り早くアダムに証言してもらうことにした。


「アダム殿下は、私の向かいに座っておられましたね。そんな様子に気付かれましたか」


「いや、カーン殿は話題の中心だったし、他所を見ている時間など......そういえば、一瞬ジェーンの方を向いて、微笑んでいましたね」


 そう言ってから、もう一度第二妃に向き直った。


「まさか、あれのことではないでしょうね。完全に一般的な礼儀の範囲です。それが不快だと言われたら、誰とも目を合わせられなくなる」


 第二妃はうろたえたが、そのまま押し通すことにしたようだ。


「純情な娘ですので、男性の視線に慣れておりませんの。エリ王女を見習わなければいけませんわね」 


 当て擦りのつもりだろうが、自分も娘も非常識なのだと、暴露したに等しい。

 男二人は、バツが悪そうだ。

 二人がその話を真に受けたとしたら、男色家の噂は伝わっていないのだろう。


 もう一釘を刺して、本題に戻そうと考えた。


「では、完全な勘違いが、犯人達に曲がって伝わり、今回の事件が起こったということで合っていますね」


 第二妃が何か言おうとするのを、王が抑え、その通り、と答えた。


「他の繋がりは見つからなかったのですね」


 関わったのは、あの二人だけだ、と言い、ウイスキーの持ち出し、毒の入手経路などの説明を受けた。


「では、ジェイド子爵家の責として、断罪して幕引きですね」


 何ですって、と第二妃が叫んだ。


 カーンは驚いて、どうしたのですかと聞き返したが、彼女は震えている。どうも怒りに震えているようなのが不思議で、王とアダムに目で問いかけた。

 二人とも無言だ。すると第二妃が立ち上がった。やっと震えが止まったようだ。


「たかがこの程度のことで、子爵家を断罪ですって。慰謝料の支払いと、謹慎が妥当でしょう。なんて人なの」


 この女性は、話し合いの場には邪魔だと思ったので、カーンは王とアダムに場を移す提案をした。


「冗談ではないわよ。私を抜きに話なんて、されてたまるものですか。私は王妃よ」


 カーンは、王に向かい合った。


「ご説明を」


 王はしばらく考えていたが、事実だけを淡々と話した。


「子爵家は第二妃の生家だ。犯人の二人は、妃にとっては甥に当たる」


 カーンは納得した。つまり身内への情。

 それと、第二妃自身にも、何らかの責が及ぶかもしれないのだ。


「それはお辛いでしょう。では、第二妃様に責が及ばないよう、私からお願いいたしましょう」


「何ですって。何を馬鹿なことを」


 第二妃は叫んだ後、王とアダムの表情を見て、唐突に口を閉じ、椅子にドサッとレディらしからぬ座り方をして、王に手を伸ばした。

 王はその手を取り、軽くポンポンと叩き、なだめている。


「私は何もしていないわ。何故私の話になるの?」


 カーンに聞いているようだが、これはカーンには関係ない。王妃教育は自国でするものなのだ。誰も答えないので、アダムに振ってやろうと思いついた。


「アダム殿下。第二妃様にお答えください。他国の私では、この国の慣習を知りませんので」


 アダムはわかりやすく嫌そうな顔をした。腹の内が、それこそ丸見えだ。


「他国からの公式な使者に、害をなすのは大罪です。通常は一門の処刑、家門の閉鎖をもって、相手国に誠意を示します。第二妃様は、一門の内に入るのですが、カーン殿が願い出てくれたので、位を降りることで済むでしょう」


 第二妃は、呆気に取られている。

 この女性は王妃教育を受けていないのだろうか。他国のことながら、カーンの方が不思議でならない。


「そんなの嘘だわ。嫌よ。王子や王女はどうなるの」


 アダムは咳払いをして、お茶を飲んだ。

 苦そうだ。


「そういった場合、位を剥奪され、修道院に入るのが通例です」


 第二妃は、その場で気絶した。



 第二妃が慌ただしく運び出され、カーンは、アダムと共に退室した。

 王は既に、彼女に付き添って、出て行っている。


「この後、予定がなければ、王妃への報告に御同行願えないでしょうか」


 そう誘われ、特に予定はないので、一緒に王妃の元に向かうことになった。


 王妃はアダムとカーンを嬉しそうに迎え入れ、アダムからの報告を聞いた。

 始終嬉しそうに微笑んでいる。ライバルが蹴落とされて嬉しいのは分かるが、見ていて気持ちの良いものでもない。

 カーンが思っていたより、気のきついタイプのようだ。


「それでは第二妃が位を剥奪されるのはほぼ確実ね。王子も王女も地位が下がるわ。馬鹿なことをしたものね」


 笑い出さんばかりの母親の様子に、アダムも面食らっているようだ。

 話題を変えようとしたのか、カーンに話しかけた。


「先ほどは、急に話を振られて驚きました。王妃の処遇を言わせるなんて、あれはひどいですよ」


「私が話す筋合いではないですからね。本来、王が話すことだが、第二妃をかわいがっているようだし。後はあなたしかいなかった」


 アダムはぐったりとソファの背にもたれかかり、ため息をついた。


「私たちは、もっと軽い扱いで済むと思っていた。あなたがジェーンにつきまとったのが原因で、カーン殿に害が無く、他のメンバーも回復している。だからジェーンの勘違いと言われて、ひどく狼狽しました」


 先ほどの会話に関しては、カーンの方こそ疑問だらけだった。

 第二妃に関わる人物が捕まっているのだ。徹底した状況確認をして、落としどころを決めてから、カーンに話をするのが普通だ。


 その疑問を、アダムにぶつけてみた。


「申し訳ない。ジェーンの話に乗せられたのは、ジェイド兄弟だけではなかったようです。王もだいぶ怒っていましたから。それで相殺されると踏んだのでしょう」


 それで、ありのままをさらけ出して、身の振り様が無くなったわけか。目が曇ると恐ろしい事が起きる。

 嫌な手だが、ジェイド兄弟が獄死すれば、第二妃達には害が及ばなかっただろう。


「あの、失礼ですが、本当にジェーンには言い寄っていないのでしょうか。第二妃側は、でっち上げてでも、その線で押してくると思います。どうですか」


 宴席から引いた後、アイラと話しながらサロンに直行したから、そんな時間は無い。その事はサロンにいた者なら知っている。

 じっと考えていたら、王妃が笑いながら言った。


「考えるまでもありませんわ。だってカーン様は女性に興味が無い方ですもの」


 カーンは、耳を疑った。王もアダムも知らないのに、なぜこの人だけが知っているのだろう。

 驚いたのはアダムも同じだったようだ。


 二人が驚いて、王妃の顔をボケッと見つめていると、お茶とお菓子を勧めてくれた。先に問いかけたのはカーンだった。


「どこでそれをお聞きになったのですか」


「息子の配偶者候補のことですもの。もちろん先行して調べたのよ」


 それなら納得できる。だがマーガレットの情報も持っているとなれば、今回探している黒幕の可能性が高くなる。


 この大人しげな女性が?

 そう思う反面、垣間見える攻撃的な様子が、黒幕のイメージに無理無く被っていく。カーンは、ゾッとした。


「母上は、なぜそのことを私に教えてくれなかったのです。知っていれば、別の道筋を考えたのに」


 王妃は面白そうに片眉を弓なりに上げた。


「あなたは甘いのよ。だからよ」


 それだけ言って王妃が微笑んだ。


 情報を隠してミスリードを誘ったわけか、とカーンは推測した。これまでのレンティスに対する陰謀と、色合いが似ている。嫌な予感が強くなっていった。


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