尋問
「ミラは酒をグラス1杯と二口、その前に、たぶん教会で薬を飲んでいる。どう思う?」
「その量なら、死んでもおかしくないですね。ブルーシャドウのメンバーは、一般人より強靭なのは知っていますが。それでも、人間離れしています」
グラスの半分以上を飲んで、ケロッとしているルーザーといい、飲んだ量に比べて、症状が軽いミラといい、普通ではない。
「ミラは症状が軽いのに目を覚まさない。やはり教会の薬のせいだな。教会に問い合わせたら、解毒の方法でも教えてくれるだろうか」
「それはどうでしょう。あんまり公にしたいものでは無いだろうし」
周囲でジリジリして聞いている者たちが、我先にと話し始めた。
「何故カーン様達が狙われたのですか。おかしいじゃないですか」
侍女のメイが怒っている。他の者も同じ思いだろう。
「そうだろう? 僕だって訳が分からない。今アダム殿下が中心になって調査中だよ。分かったらすぐ知らせる」
「バイエル国って禄なもんじゃないわ」
憤慨して怒っているのを宥めつつ、ポテトをつまんだ。怒っているのが難しい程、美味しい。これは中毒になる。
ロマンが本気を出せば、バイエル国教の信者を転向させられると思う。
カーンが王宮に戻ると、すぐアダムに呼び出された。
ジェイド子爵家兄弟は黙秘しているらしい。
カーンは迎えの騎士と共に尋問を行っている騎士の詰め所に向かった。部屋に入ると、後ろ手に縛られた20代の若い男二人が壁を背にして座っていた。アダムとセブは部屋の真ん中に椅子を置いて座っている。
「カーン殿。この二人がジェイド子爵家の兄弟です。当日にサロン勤務していた者で、酒に毒を盛る機会があったのはこの二人だけです」
カーンにはこの二人と王族の関係が分からないので、何を聞いたらいいのかもわからない。多分、アダムは黒幕の心当たりがあるのだろう。その名を口にさせたいということろか。
二人は唇をかみしめて床を見つめている。自白する気はなさそうだが、一応ゆすぶってみることにした。
「ジェイド子爵家の子息たちだね。私と面識も、かかわりもないと思うのだが、私達を殺して、君たちに何の益があるのか教えてくれないか」
二人の目の前に座り、目の中を覗き込んで聞いてみた。目に怯えが浮かんでいる。
「私のかわいい女性騎士が昏睡状態なのだよ。解毒剤があればよこせよ。少しは考慮してやるかもしれないぞ」
自分でも思い掛けないほど、残虐な気分が沸いてきた。いたぶりつくしてやりたくなる。それは相手にも伝わったらしく、怯えの色が更に濃くなった。
それでも目をぎゅっと瞑って、必死で耐えている。
「アダム殿下。二人が拘束されたことは王宮内でどのくらい伝っていますか」
「そうですね。王宮内にいるところを迅速に捕まえたので、あまり騒動にはなっていません。関わった者達には口止めをしています」
「それでしたら、アダム王子の心当たりの方面に、情報を流してください。そうすれば、この二人を消しにかかると思います。監視と罠を張って、それを待ちましょう」
この部屋を警備する騎士も含め、全ての人員をアダムが信頼できる者に限るよう助言した。アダムがセブに命令し、セブが部屋を出て行った。
「ところで、アダム殿下、黒幕はいったい誰ですか。わかっているのでしょう」
アダムは、言いよどんだ。縛られた二人は更に縮みあがったようだ。
「多分、第二妃陣営でしょう。ジェイド子爵家は第二妃の親戚で、繫がりが深い貴族家門です」
二人の男を見ると、目を逸らしている。当たりだなと思い、もう少し揺さぶることにした。
「だが、第二妃が私を狙う意図が全く分からないのだが。アダム殿下にはわかりますか」
実はわからないのだと言いながら、アダムも二人の前に座り込んだ。それがこの事件の謎だった。何がしたいのかわからない。カーンは二人の内、年かさの男の顎を指でもち上げた。
「なあ、何がしたかったのだ。私を殺してレンティスと開戦することに、何の益がある? しかも第二妃に」
問われた男は、思わずという風に叫んだ。
「戦争など考えてもいない」
「でも、レンティスからの平和的な使者を、王宮内で毒殺するということは、そういうことだが。何を思ったかは知らないが、ジェイド子爵家に先はないだろう」
「俺たちは何もしていない。毒なんて知らないし、第二妃様も無関係だ」
「だが、誰かがやったのは確かだ。バイエル国はレンティスに対して、何もわからないし何もしないでは済まない。犯人とそれに連なる者達を断罪することになる。それだけのものを掛けた犯行だもの。よっぽどの理由があると思うのだけどね」
二人の男達は、明らかに動揺している。これは、事の大きさを全く考えていなかった可能性が高い。やはり素人の思い付きか。
「じゃあ、君たちは無関係として考えようか。私が死んだら誰の責任になるのだろう。君たちの考えを言ってみろよ」
二人共口を開かない。変わって、アダム殿下がはっとしたように言った。
「私の婚約に対する使者だから、私の責任になると思ったのか? こちらでのもてなしも、王妃と私が中心で行っていたから」
まさか、それはないだろう。一国の王太子の婚約は国の案件であって、一個人の話ではない。それに関わる全てが、国の責任の下で行われる。
カーンは、まさか、と口に出してから、彼らの顔色を見て言葉を飲んだ。
「まさか、本当にそんな風に考えたのか? それは恐ろしい真似をしたものだな。もし仮に第二妃様が関わったとしたら、そんなことは無いと思いたいけどね。仮にの話だが、良くて廃妃、もしくは処刑だね。一族郎党共に」
これで、正妃の素早すぎる動きと、王の動揺のつじつまが合った。この国の二人の妃の争いに巻き込まれたということだ。しかし第二妃がこれを主導したなら、一国の妃として拙すぎる。とてもではないが、王妃の器ではない。
目に見えてうろたえる二人を見れば、この推測が正しいのは明白だった。
「アダム殿下。どう対処されるおつもりですか。幸い私は死んでいない。だから相談に乗ることは出来ます」
カーンは穏便に進める道に、乗らないことも無いとアダムに示した。後は王家内での話し合い次第だ。もちろん、この貸しは大きいので、大きく返してもらうつもりだ。レンティスにとって悪い話ではない。
「私達は何もしていない。濡れ衣だ」
「夕食まで待てば、分かるのではないかな。もし、毒入りの食事が届いたら、君たちは黒だね。しかも監視が付いているから、その食事を用意した者も捕まる。全てがはっきりすると思うよ」
二人の口に自害防止の布を咬ませ、見張りを室内に置き、二人は外に出た。
この部屋での会話は外に漏れていない。周囲を囲む者達もアダムの息のかかった者だけだ。さて、ネズミは食いついてくるだろうか。ふっと笑ったカーンにアダムが話し掛けてきた。
「カーン殿は、見た目と中身が大分違いますね。華やかで屈託のない貴公子なのに、有事の時は鋭い剣のように振る舞う。見た目に騙されて、侮った彼らが憐れになる位だ」
カーンはにっこりとした。後はアダムに任せて、行く先を見守るだけだ。カーンにとって当面の問題は、ミラの回復だけになった。
それから、元々の目的、誰がレンティスに陰謀を仕掛けているのか。これは、今回の事件に絡めて実態が浮き上がって来るかもしれない。
元々疑っていた王に追加して、第二王妃、アダム、教会もきな臭い。対象が増えてしまった。
別室に落ちついてから、カーンはアダムに、以前から聞きたかった事を尋ねた。
「もしイリスと結婚したら、レンティスとは、どのように付き合っていくおつもりですか」




