王との会話で見えたこと
晩餐会が終わり、男性たちは葉巻と酒をたしなむために、別室に移動して行く。移動途中にアイラがスッと後ろに付き従った。
「晩餐会は楽しめましたか」
ごく普通の質問だが、裏の意味は何か掴めたかというものだ。
「ああ、王妃様とアダム殿下とエリ王女の三人と楽しく話ができた。イリスとの婚約に一番力を入れているのは、アダム殿下のようだ」
「アダム殿下にとっての利はなんでしょうね」
そう言ってアイラは考えこんでいる。
「所でエドワードに、三人の王女全員の釣書きを送ったそうだよ。王族は割り切ったものだね」
ふと顔を上げ、アイラがニッと笑った。悪そうな笑顔だった。
「そういうものではないですか。ブルーネル公爵家とレンティス王家が珍しいのですよ。両家とも恋愛結婚されていますからね。だから子供にも結婚を押し付けないのでしょう」
両親も王夫妻も仲睦まじい。
カーンはその様子を思い出してから、そうではない夫婦もいることを思い出した。
「私は良い環境で育ったようだな」
「そうですよ。そして好条件のエドワード殿下の前に釣書が積まれるのも当たり前です。国政が安定していて、土地が豊かで、軍事力も高い。更には王子本人の評判も高い。狙わない親はいませんね」
もちろんカーンも知っていたことだ。
しかし釣り書を送った本人を目の前にし、カーンという別人物の目で客観視すると、その情報がまるで別物のように、感じられる。
「エドも、その内結婚するんだね」
「惜しくなりましたか?」
すぐにそう返された。
カーンはしばらく考えてみた。
「どうなのだろう。自分でも分からないよ。嫌な気分にはなったけど、ぼんやりしているんだ。シモンに婚約者ができても同じかもしれない」
「エドワード殿下に抱きついた時に、どう感じました?」
アイラに聞かれ、カーンは思い出しながら話した。
「落ち着くなと思った。それと懐しい匂いがしてうれしかった」
「匂いを好ましいと思うのなら、エドワード殿下のことが好きなのですよ。だけど、恋はしていないのですね。恋愛初期なら恋人の胸に抱かれて落ち着く、はありえません」
「はあ。そうなんだ」
恋ってなんだろう。知っていたつもりだったが、何も知らないのだと恥ずかしくなり、力なく言ってうなだれた。
「イリス様やイクリス様のようにシャキッとなさってください。応援いたしますよ」
アイラの応援が入った。どう応援してくれるのだろう。後で聞いてみようと思いながら、男性用の応接間に入って行った。
部屋の中では男たちが思い思いに集まり、談笑している。
カーンが部屋に入ると、使用人が近寄って来て、何をお持ちしましょうかと聞いてきた。
カーンはブランデーを頼み、適当な席を探して室内を見回した。
奥の方に、王が数人に取り巻かれて立っていた。目が合うと、王が愛想よく微笑んだので、ゆっくりと近づいて行き、輪の中に滑り込んだ。
「食事はいかがでしたか」
「とてもおいしかったです。おもてなしありがとうございます」
「先程は随分楽しげな様子でしたが、どんな話をされていたのですか」
王の目は探るようなものだったので、分かり易すぎて少し笑ってしまった。
「失礼しました。主に私が未熟者だという話題でした。気持ちが表情に全部でていると指摘されまして、お恥ずかしい限りです」
周囲を囲んだ男たちが、何となく笑い、カーンは少し顔を赤らめた。
「王妃様には会話をお手伝いいただきましたし、私はとんだ未熟者だと思い知りました」
一人が何の話題だったのですかと聞いたので答えた。
「イリスの容姿を聞かれまして、思いつくのは髪の色と目の色だけだったのです。それでは物足りないと思われたようです」
それは、まあ、そうだという声が幾つか聞こえた後、王が聞いた。
「王妃はどうやって手伝ったのでしょうか」
「私とイリスが似ているか尋ねられまして、似ていると言いましたら、皆さん納得されたようでした」
ほう、それは美人ですなと一人が言い、皆が頷いた。
「そう、全く同じ流れですね。そんな他愛のない話題で、皆で笑っていました」
場が寛いだ感じに変わり、話しやすくなったので、今回のイリスへの婚約の申し出について少し探ることにした。
まずは、王の思惑が知りたい。イリスを王家に迎えることに本気なのか、アダムに押されただけなのか、どちらなのだろう。
「イリスは子供っぽいところがあると言ったら、アダム殿下に驚かれました。イリスのこちらの国での評判はどんなものなのでしょう」
王が思い出そうとするように、こめかみに指を当てた。
「長くロブラールに留学されていて、その間は噂も耳に入って来なかったので、あまり存じ上げないのです。ずっと以前に美少女だと聞いたことがありますが、婚約されていたので、そういう意味で注目はしていなかったのです」
一般的にお相手を探す年頃には、早々と婚約が決まっていたイリスは、市場に出ていないも同然で、その分知られていないのだ。
「では、今回のお話のきっかけは何でしょうか」
「イリス嬢が帰国されたという話をアダムが知って、それで申し込ませていただいたのです」
「王ではなく、アダム殿下がこの話を進めたのですね。でもあまりイリスの事を知らないご様子ですので、会ったら嫌になるかもしれませんね」
王が結構豪快に笑った。
「カーン殿に似た美女なら、誰も断りませんよ」
「それならいいのですが。イリスは年齢に比べて幼いところがあるのです。アダム殿下は年上に見えると聞いていたそうですけど、そんな噂があるのでしょうか」
王も、周囲の者達も首をひねった。
「そんな噂は聞いたことがありませんね。いったいどこで聞き込んだのやら」
学生だった頃、盛装すると年齢が上に見えていたらしい。それは聞いたことがある。ロブラールでの行動は他国に漏れていないので、学生時代の噂を聞いたのだろうか。
少し嫌な感じがしたので、後で調べようと思い、カーンは話題を変えた。
「ところで、こちらに来てすぐに、街中で宗教活動を見かけました。すごく熱のこもった演説をしていたようでした。バイエルでは宗教の布教に熱心なのですね」
「いや、それは多分、最近になって勢力を伸ばして来ている新興宗教団体でしょう。国教ならば神殿で説教をするので、街中で布教したりはしない」
国王は苦虫をかみつぶしたような顔でそう言った。




