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公爵令嬢イリスをめぐるトラブル : 恋を知るまで  作者:
第一章 敵国バイエル王太子からの求婚

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晩餐会での会話

 マジマジと見つめられたエリ王女は、カーンを不思議そうに見た。


「カーン様。どうかなさいましたか」


 失礼な態度だったのに気付いたカーンは、慌てて詫びを述べた。


「失礼いたしました。エドワード殿下への求婚の話を具体的に聞いたのは初めてなものですから。当たり前のことなのに、何故か驚いてしまいました」


 アダム殿下が笑いながら答えた。


「二年前から今まで、近隣のほとんどの王族、高位貴族から釣り書きが送られていると思います。妹のものも、その内の一つです。どの話にも色よい返事は返っていないそうですね」


 カーンは驚いた。そんな話は聞いていなかった。いや、ロブラールにいる頃に、アイラがそんな事を言っていたような気もする。


「そうなのですか。どうも私は色々と疎いようです。エドワード殿下も、そういう話は全くされないので、意識したことがなかったのです」


 ああ、とアダム殿下が何かに納得したような様子だった。


「やはりエドワード殿下は、婚約者を決める気がないのですね。普通、王族の婚約は十五歳くらいには決まっているものです。周囲にそういった話が伝わって来ないのは、レンティス王家自体が保留しているということでしょう」


 その通りだった。今までのほんの少しの会話で、そこまで推測するアダムは頭の切れる人物だと感心した。

 王妃様が軽く笑い声を上げた。


「カーン様は思っていることが顔に出やすいのですね」


 カーンは驚いて王妃とアダムを見た。

 今までイリスとしても、イクリスとしても、感情を隠すことには長けていたはずだったので、その言葉に呆然としてしまった。カーンとして変装しているだけで中身は同じはずなのにと不思議でならない。


「いい歳をしてお恥ずかしい限りです」


 赤くなっているカーンを見る人々の目が柔らかくなっていた。

 テーブルの王妃サイドは、ほのぼのとした雰囲気に包まれ、王側の貴族達も、その様子をちらちら盗み見ている。

 カーンがそちらを見ると、憮然とした王の顔が見えた。両横に座る第二妃とその王女も、不機嫌そうだ。


 視線を感じ取ったかのように、王女がカーンの方を向き、目が合った。反射的にカーンは微笑み、王女は真っ赤になった。

 カーンは、頭の中で急いで王女の情報を探した。第二妃の長女で17歳のジェーンだ。確か気が強く、癇癪持ちと書かれていた。


 アダムに話しかけられ、カーンは振り返った。


「ちなみに、第二妃の娘のジェーンも、エドワード殿下に釣り書を送っていますよ」


 アダムは少しいたずらっぽい笑みを浮かべている。

 ついで、もう一つ追加情報を話す。


「その妹のメアリもです」


 その話に驚きを通り越して薄ら寒くなったカーンは、チラリと横のエリ王女に視線を移した。

 エリが、微笑みながら言った。


「お気になさらないでください。わが家では当たり前のことです。良いお相手には、いつも3人分まとめてお渡ししているのですよ」


 カーンには思いがけないことだったが、王女は全く気にしていないようだ。


「王族の方々の結婚に対する意識は、その他の者たちとは違うのでしょうね。私などは、姉妹でどちらかが選ばれる事になったら、きっとどういう態度でいたら良いのか途方に暮れます」


 貴族達で同意しているのは半分以下だった。お国柄なのか、ブルーネル公爵家が特別なのか、どちらだろうと悩んでいると、エリ王女がイリスに付いて問いかけてきた。


「イリス様は、婚約解消後にどなたかに釣り書きを渡したことはあるのですか?」


 カーンは、少し口ごもった。

 十九歳で相手も決まっていないのに、何もしていないのは珍しいことだと、急に気付いたためだった。そのため、カーン自身驚きながら言った。


「そういえば、ありません」


 この話に、王妃様も加わってきた。


「まあ。留学先で出会いとか、紹介等はなかったのですか。伯母君にあたる方のところに滞在されていたと伺っていますが」


「そうですね。特にはなかったようです。本人もしばらくのんびりしたいようでしたしね」


 アダムがまた話しかけてきたため、カーンはテーブルの対面に座るアダムの方を向いた。


「やはり、婚約解消のショックで結婚に前向きでないのでしょうか。それともエドワード殿下のことを忘れられないとか」


 そうですね、と呟き、カーンはしばらく考えた。

 婚約を解消した事件では、人がたくさん亡くなり、イリスもマイルズ含め数人を切った。それはシモンが殺された事件から続く陰謀に巻き込まれたせいだった。

 もちろんショックは大きかった。


 だが、今質問されているようなショックとは、たぶん色合いが違うものだと思う。


「そういうわけではないようです。骨休めという感じでしょう。年齢より幼い人で、のんびりしたところがあるから」


 その言葉に対して、アダムが思わずという感じで言葉を発した。


「年齢より幼い雰囲気の方なのですか? 少し年上に見えると噂では聞いていたのですが」


 カーンは食い気味に断言した。

「そんなことは決してありません。見た目は年相応です」


 また王妃様が笑い出した。先ほどより、もっと楽しそうに笑っている。


「カーン様は、イリス様がかわいいのですね。そんなに力説されるなんて、なんだか微笑ましくて。すみません、笑ってしまって」


「あ、いいえ、お気になさらず。女性はやはり年齢が上に見られると気分の悪い物でしょうからね。私も気配りしています」


 カーンがそう言うと、アダムが首をかしげた。


「別に老けていると聞いたわけではありませんので、ご気分を害するとは思わなかったのですが」


 それに対しては、王妃様がたしなめてくれた。


「実年齢より上だと言われて喜ぶ女性は少ないの。覚えておきなさい」


 そんなやり取りを、いつの間にか、向こう半分の席に座る貴族達も一緒になって聞いていた。こちらの方がずっと楽しげだったから、つい興味を惹かれてしまっているようだった。





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