歓迎の晩餐会
華やかな晩餐会の控えの間で、カーンは本日の主役として華やかな夜会服に身を包み、キラキラしたオーラを周囲にまき散らしていた。
アイラは従者らしい地味な服装で、カーンの後ろに控え、ルーザーとミラは丸腰だが護衛として部屋の隅に控えている。
バイエルの王から紹介された後、ひっきりなしにやってくる貴族たちとの挨拶に追われ、カーンに休む間は全くなかった。
カーンはもちろんだが、ルーザーにも人が群がっている。バイエル王宮内を歩く間に剣術の訓練上がりらしき少年の集団に出くわし、少し話す内にルーザーは彼らにすっかり懐かれた。この会場に来るまで彼らにまとわりつかれ、今は大人達に囲まれている。
やっと人が途切れ、ルーザーに目を止めたカーンは、アイラに話しかけた。
「あれはどういうことなのかな。今日は子供まで寄ってきていたよ」
「子供はライオンが好きですからね。街中でも、あんな風に子供が群がりますよ。平民でも貴族でも同じですね」
ルーザーが各界の権力者達に、妙に好かれるのは知っていたが、子供にもとは思わなかった。
ルーザーに執着している身近な人物の顔を思い浮かべて、反対なのかもしれないと思った。ルーザーに引き寄せられる人は皆、子供の心を持ったまま年を取った大人なのかもしれない。
ロブラール王妃の伯母様や、剛腕で知られるバーンズ侯爵は、したたかな大人だけど、どこかに子供の部分を隠し持っている。
そして自分は、その逆だと思う。
先日両親と話してから少しずつ自分が見えるようになってきていた。
伯母様達とは正反対で、付け焼き刃の大人の皮は脆いし、本体はか弱い子供のままだ。
先日、母に弱音を吐いたら、それがわかったのなら、大人の仲間入りをしたっていうことよ、と慰められた。
ただし、脱皮の期間は一番もろいのだから、注意してちょうだい、とも言われた。
この偵察で何かが変わるだろうか。
ぼんやりと物思いに耽っているカーンを、控えていたアイラが袖に触って現実に引き戻した。ハッとして目を瞬き、周囲を見ると、アダムがこちらに向かって来ている。
目の前まで来ると使用人を呼んで、カーンに飲み物を勧め、自分もカクテルのグラスを一つ手に取る。
「楽しんでいらっしゃいますか。そろそろ晩餐の支度が整います。私がご案内します」
「ありがとうございます。とても華やかで、気分が高騰しています。バイエルの料理も楽しみにしていました」
当たり障りのない会話をしながら晩餐室に入って行った。アダムはカーンを王妃の右横に案内し、自分は、左時に座った。反対側に座る王の両横には王女と第二妃が座っている。
レンティスやロブラールは一夫一妻制だが、バイエルは第2妃まで持つ事が出来る。正妻の方が第2妃より地位は上だが、どちらの子供にも王位継承権が与えられるため、継承問題が起きやすいと言われている。
ほんの半日の間でも、王と第2妃対、王妃という対立関係が見えてきた。
王は完全に第二妃寄りで、それを隠そうともしていない。
正妃には現在の王太子であるアダムと、十八歳の王女、第二妃に十七歳と十五才の王女と八歳の王子がいる。
年齢から推測して、男子が一人きりなので正妃の長男を王太子にしたが、その後に第二妃に男子が生まれた。何とかして現在の王太子を排除したい、というところだろうか。
そう思って見ると、テーブルの両端で雰囲気が違う。王サイドの方が周りに座る貴族達も貫禄があるし、華やいでいる。
王妃側は少し控えめな雰囲気で静かだった。
王妃様が愛想よく話しかけてくる。
「よくおいでくださいました。今回の申し出に応じていただけなかったのは残念ですが、この機会に仲良くさせていただけると嬉しいですわ」
「ありがたいお言葉です。国に戻ったら、公爵にそう伝えます」
アダムがイリスとエドワードの現在の関係に付いて聞いてきた。一番本気でイリスとの婚約を考えているのは、どうも彼のようだ。
隠すような内容でもないので、カーンは答えた。
「仲の良い幼なじみです。今も昔もそうですね」
「婚約解消で、関係が悪くなっていると聞いたのですが?」
急に、核心に入り込んで来たので慌てたが、こちらこそ、バイエル王室がどう捉えているか聞きたかった話だ。ワインを一口飲んで、気を落ち着けてから、ゆっくりと答えた。
「元婚約者というと、不仲を想像するかもしれませんね。ですが婚約解消の理由は王族に関するトラブルだったので、感情的なものではないのですよ。留学中は疎遠になっていましたが、帰国してからは普通にお付き合いしているようです」
アダムがしばらく考えこんでいる間に、王妃様が、別の質問をしてきた。
「イリス様はとても美しいと聞きましたが、どんな雰囲気の方なのですか?」
自分で自分の容姿を説明するのは、かなり恥ずかしいものだ。少し口ごもりながら、簡単に特徴のみ話した。
「黒髪に青い目をしていて、大柄なほうです」
それだけ?というような顔で周囲の人々から見つめられ、慌てて追加した。
「年齢は十九歳で、年相応な見た目です」
これは駄目だと思ったのか、王妃様が、助け舟をだしてくれた。
「黒髪に青い目というと、カーン様と同じですね。親戚ですし、もしかしたら似ていらっしゃるのかしら」
カーンはホッとした。そういえばそうだった。
「そうですね。私に似た感じの容姿をしています」
おおーという声が上がり、皆が嬉しそうになった。
「それなら素晴らしく美人ではありませんか。カーン様から見たらそうでもないのでしょうか」
「いえ、まあ、美人だと言う人もいますね。あー私はあまり、そんなふうに彼女のことを考えたことがないので、ピンときません」
何となく周囲から笑い声が漏れ、カーンも照れくさくなっていると、今度はアダムが助けてくれた。
「身内のことは、そんなものかもしれませんね。私も妹のことは、まあ見られないわけではない、程度にしか考えませんから」
「お兄様ひどい」
横に座っている可愛らしい王女エリが憤慨した。カーンはすぐに彼女の方に向き直った。
「お兄様の目は節穴ですね。こんなに美しい人が見えていないなんて」
エリ王女はポッと赤くなり、嬉しそうに微笑んだ。
そんなやり取りをしながら、和やかな雰囲気で晩餐が進んでいった。
デザートが出る頃になって、アダムが再び先ほどの話を持ち出してきた。
「レンティスのエドワード殿下は、新しい婚約者を今のところ選んでいないそうですが、それにはイリス様の事が影響しているのでしょうか。カーン殿から見て、どう思われますか?」
イリスに対してか、エドに対してか、気になることでもあるのだろうか。
「エドワード殿下に興味をお持ちなのですね。何か理由がおありでしょうか」
カーンはそう聞いてみた。
「いえ、エリの嫁ぎ先を探しておりますので、近隣の王族や高位貴族の情報を集めているのです。実はエドワード殿下にも以前打診したことがあるのです」
あ、そういうことか、と納得した。
エドワードにも、婚約の申し込みがいくつも来ているはずなのに、そういうことは全く考えていなかった。ふと、隣に座るエリ王女を見た。かわいらしい雰囲気のきれいな女性で、エドワードと並ぶ姿を想像してみると、寂しいような心もとないような気分になった。
そうか、エドワードだっていつかは結婚するのだ。その時に自分はどう感じるのだろうか。




