デビュタント 罪と幸せ
今回も楽しんでくれると嬉しいです。
『兄様!殿下がね、愛してると言ってくださったの!』
そう言ってとても嬉しそうに笑う、アナスタシア。
幼い頃から殿下を本気で愛して、尽くしてきたのに
殿下もアナスタシアに愛を囁いた癖に
何故、裏切ったのですか?
ヴィンセントはセリーナを見つめたまま大きく目を見開き、固まっていた。
その様子にセリーナは内心昏い笑みを浮かべ、アレクシスは眉を顰めた。
「王様?如何なさりましたか?お加減でも悪いのですか?」
その言葉でヴィンセントは我に返ったのか、慌てて微笑んだ。
「いや……貴公のご令嬢があまりにも私の愛した人に似ていて……つい驚いて魅入ってしまった……そうか、そなたがあの有名な才媛セリーナ嬢か……美しい上に賢いとは素晴らしいな……」
その言葉にセリーナは己の眼差しが厳しくなるのを感じた。
『愛した?』そんなものは今、最も聞きたく無かった。
アナスタシアを裏切り自殺にまで追い込んだ癖に、まだそんな嘘がつけるとは。
セリーナは表面上綺麗に微笑んだ。
「身に余るお言葉です。ところで王様、不躾ながらも一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
その言葉にヴィンセントは微笑んだ。
「何だ?」
「その……私に似ていると申された御方は今、如何なされたのですか?」
セリーナは内心ほくそ笑みながら聞いた。
アナスタシアの話題を出して思い知らせたい。
お前の罪は消えないのだ、と。
その問いにヴィンセントは微笑むのをやめたが、セリーナは優雅に微笑み続ける。
そんなヴィンセントはセリーナを見つめながら、何やら考え込むと微笑んだ。
「その問いに答える前に一つ聞きたい……セリーナ嬢……そなたは、今幸せか?」
その質問にセリーナ面食らった。
幸せ?幸せなんて訪れる訳がない。
アナスタシアがいない世界に幸せなどない。
「こんな事を聞いてすまない……ただ、そなたの上手な作り笑いが気になってな……セリーナ嬢」
ヴィンセントのその言葉にセリーナの完璧な笑みが僅かに崩れた。
見破られていたのか。
だが、それが如何したというのだ……憎悪までは読み取れない愚鈍が。
「王様、私は幸せに御座います。お母様がいなくても、父様がおりますし、深く私を愛してくださいます。それに……父様は私を裏切らない、そう確信しておりますから……」
その言葉を聞いて、アレクシスは感動で目に涙を浮かべ、ヴィンセントはどこか諦めた表情をした。
「アレクシス、貴公はいい父親だな……そして、さっきの質問だがセリーナ嬢、そなたに似ていると申した人は既に亡くなっている。」
その言葉にセリーナは目を見開く演技をした。
「辛い事をお聞きし、申し訳ございません。」
「良い……大丈夫だ……遅くなったがセリーナ嬢、そなたが無事デビュタントをむかえられた事を祝福する。」
その言葉を聞いて、セリーナとアレクシスは国王と王太子の御前から下がった。
「セリィがそんな風に私の事を思ってくれていたなんて!感動だよ!」
「父様!愛称で呼ぶのはおやめください!此処には沢山の高貴なる方々がおりますのよ!しっかりなさって!」
セリーナはこの少し可愛い父親に苦笑いを浮かべた。
そして、アレクシスに向けて手を差し出す。
「踊りましょう、父様。」
そうして、アレクシスがその手を取ろうとしたとき
「セリーナ嬢。」
背後から落ち着いた美声が聞こえた。
振り向くとそこには王太子が立っていた。
王太子は秀麗な面を微笑ませるとセリーナに手を差し伸べた。
「美しいご令嬢。私と最初のダンスを踊って頂けませんか?」
その言葉にセリーナは目を見開いた。
次回も読んでくれると嬉しいです。