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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第8話 緑

「配信開始……よし、映ってる。えー、本日デビュー戦です。よろしくお願いします」


 カメラの前に、若い四人が並んでいた。


ソウタ「リーダーのソウタです。緊張してます」


ヒナ「ヒナです。回復担当です」


カイ「カイっす。前衛っす」


ツムギ「ツムギ。索敵」


『初配信おつ』


『初々しい』


『視聴者12人で草』


『デビュー戦を見守る会』


『全員ちゃんと挨拶するの好感度高い』


ソウタ「今日は一層だけ。無理せず、生きて帰るのが目標です」


『目標設定が正しい』


『それでいい』


『チャラ男二人に見せてやりたい心構え』


 四人が入口をくぐる。


 その入口の脇に、人型が立っていた。


 緑色の。


『ん?』


『入口んとこ』


『白いやつ……いや待て』


『緑じゃね?』


『緑だ』


『色変わるんかお前!!』


『白いやつじゃないのか? 別個体?』


『形は完全に同じなんだよな』


『非常口カラーになってる』


『それ逃げ遅れって言われてキレた色だろw』


 緑の人型は、四人の後ろについて歩き始めた。


 その手には、小さな旗が握られている。


『旗持ってるw』


『ツアーガイドかよ』


『どこで支給されたんだその旗』


 緑の人型が四人を追い越し、先頭に立った。


 旗を掲げ、左の道を指す。


 四人は、旗など見えないまま、右の道へ進んだ。


『無視されたw』


『そりゃ見えないからな』


『旗の意味ゼロで草』


 緑の人型は、指した左の道を自分だけ数歩進み、誰もついてこないことに気づいて戻ってきた。


 そして何事もなかったかのように、また四人の前に回り込み、旗で今度は右の道を指した。


 四人は右へ進んだ。


『後出しwww』


『みんなが行く方を指してるだけだろ』


『ガイドの威厳』


『「私が案内しました」の顔してる』


『こいつ、絶対遊んでるだけだぞ』


ツムギ「……前方、小型二。ネズミ型」


ソウタ「よし……カイ、手順通り」


カイ「うっす」


 通路の先から、犬ほどの大きさのネズミが二匹駆けてくる。


 カイが盾を構え、一匹目を受け止めた。


 二匹目がソウタに向かう。


 ソウタの剣は、二度空を切り、三度目でようやく浅く入った。


『危なっかしい』


『初心者の動きだ』


『でも手順は守ってる』


『緑のやつ、手伝わないのか?』


『カマキリの時は割って入ったのに』


 緑の人型は、通路の脇に立って、旗を小脇に抱えたまま見ていた。


 動かない。


 カイの腕にネズミの爪が掠り、赤い線が走った。


カイ「っつ……浅い! 続行っす!」


『怪我した』


『緑のやつ、動かないな』


『治さないのか?』


『……もしかして、わざと見てるだけか?』


 二匹目をソウタが仕留め、カイが一匹目を盾で叩き伏せた。


ソウタ「討伐……討伐! 初討伐です!」


ヒナ「カイ、腕見せて。……浅いね。消毒して包帯でいける」


カイ「ヒナさんの初仕事っす」


『初討伐おめでとう』


『ちゃんと自分たちで勝った』


『緑のやつ、拍手してる』


『見守りモードだこれ』


『そういうことか 自分たちで倒せる相手には手を出さないんだ』


『成長の邪魔しないってことか?』


『過保護じゃないんだな』


 ヒナが手当てを終える。


 緑の人型は、その手当ての手順を横から覗き込み、こくこく頷いていた。


『採点してるw』


『実習の指導教官』


『ヒナちゃん、合格らしいぞ』


 四人が先へ進む。


 少し開けた場所に出たところで、緑の人型が急に旗を振り始めた。


 床の一点を、旗の先で何度も指す。


『お?』


『急に本気の旗振り』


『床を指してる』


『あそこ何かあるのか?』


 ツムギが足を止めた。


ツムギ「……待って。床の色、そこだけ違う」


ソウタ「ほんとだ。……罠?」


ツムギ「多分。囲って避けよう」


『気づいた!』


『ツムギ有能』


『いや緑のやつが先に気づいてたんだけどな』


『旗の位置、ぴったり罠の上だったぞ』


『届いてないけど仕事はしてた』


 四人が床の変色部を迂回する。


 緑の人型は旗を下ろし、満足げに頷いた。


 その時、後方から短い悲鳴が聞こえた。


「――誰か! 誰かいませんか!!」


ソウタ「今の、人の声……!」


カイ「戻るっすか!?」


ソウタ「行こう!」


 四人が声の方へ走る。


 さっき四人が迂回した罠とよく似た変色部の中央で、床が抜けていた。


 浅い落とし穴の底に、若い男がうずくまっている。


「す、すみません……ソロで来て、床踏んじゃって……足、挫いたかも……」


『初心者ソロは無茶だって』


『典型的な罠踏み』


『でも浅い穴でよかった』


 緑の人型が、穴の縁に立った。


 旗を穴の中に向けて、ちょいちょい、と振る。


『何してんだw』


『「ここに要救助者がいます」の旗』


『もう四人来てるから旗いらないんよ』


 カイとソウタが男を引き上げる。


 男は足を引きずっていた。


ヒナ「見せてください。……挫いてますね。捻挫だと思います」


「面目ないです……初めて来て、これで」


 緑の人型が、穴の縁からひょいと離れ、画面の端へ歩いて消えた。


『あ、消えた』


『着替えだ』


『この流れは医者』


『色はどうなるんだ? 緑の医者か?』


 戻ってきた人型は、白かった。


 帽子。白衣。胸元に十字。


『白に戻った!!』


『やっぱり色変えられるのかよ』


『じゃあ緑は何だったんだ』


『誘導係の時は緑ってことか?』


『非常誘導灯の色だからな』


『役割で色まで変えてるの芸が細かい』


 医者のピクトグラムが、座り込んだ男の足首へ手を置いた。


「……ん? え、今なんか」


 男が足首を回す。


「……あれ。痛くない。え? 治って……え?」


ヒナ「え、捻挫、治って……? 私まだ何もしてないのに」


『治療完了』


『相変わらず仕事が早い』


『ヒナちゃんの仕事取っちゃったw』


『カイの掠り傷は放置で捻挫は治すんだな』


『あー……確かに』


『戦闘の怪我は経験のうち、罠の怪我は事故ってことか?』


『自力で帰れない怪我かどうかじゃないか』


『線引きがあるのは確かっぽい』


ソウタ「立てますか?」


「は、はい。なんか、もう全然……あの、これって」


ソウタ「いや、俺たちも何も……えっと、コメント欄が騒いでるので、多分、噂のあれです」


「あれ……あ! 白いピクトグラム!? 配信で見ました! えっ、本物!? どこですか!?」


『本人の目の前です』


『めっちゃ近くにいます』


『ファンで草』


『初心者くん、推しに会えてよかったな』


『見えないけどな』


 男はきょろきょろと辺りを見回し、それから深々と頭を下げた。


「どこにいるか分かんないですけど……ありがとうございました! 今日はもう帰ります! 出直します!」


『いい判断』


『次は誰かと組め』


『白いやつ、サムズアップしてる』


 男が入口の方へ歩いていく。


 白い人型は、その背中が通路の先に消えるまで、その場に立って見送っていた。


『見届けてる』


『帰るとこまで確認するんだ』


『保護者かよ』


ソウタ「……えー、なんか、すごいものに立ち会った気がします。俺たちのデビュー戦、記憶に残らなそうです」


『残るよ』


『初討伐は自力だったろ』


『そこは緑のやつも手を出さなかった、お前らの実績だ』


 白い人型が四人の方へ向き直り、旗を――いつの間にかまた持っている旗を、小さく振った。


『旗どこから出したんだよ』


『白なのに旗は持つんだ』


『お別れの挨拶だ』


ヒナ「あの、コメントによると、そこにいるんですよね。……ありがとうございました。勉強になりました」


 ヒナが手当ての道具を掲げて頭を下げる。


 白い人型は、頷いた。


 それから旗を肩に担ぎ、画面の端へ歩いていく。


 肩を揺らす、あの歩き方で。


『チャラ歩きwww』


『まだその歩き方引きずってるのかよ』


『気に入りすぎだろ』


『旗担いだチャラ男(白)』


 姿が消えた。


ソウタ「……よし。俺たちも、もう少しだけ進んで、生きて帰ります」


『それでいい』


『いいデビュー戦だった』


『視聴者12人から58人に増えてるぞ』


『緑のやつのおかげだけどな』


『いや、罠回避はツムギ、初討伐は四人の実力だ』


『見てるところはちゃんと見てるからな、こっちは』

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