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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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73/75

第73話 黒

 扉が、開いた。


 その先は、広間だった。


 いや、広間という言葉では足りない。


 天井は見えず、床の果ても見えない。


 黒い石で組まれた、巨大な空間。


 その中央に、玉座があった。


 そして、そこに――座っていた。


『……あれが』


『魔王』


『布告の映像と同じだ』


『でかい』


『三メートル以上あるぞ』


『いや、それより』


『空気が違う』


 黒い甲冑をまとった、巨躯だった。


 二本の角。


 黒い外套。


 そして、その目は――赤く、燃えていた。


『……よくぞ来た、人の子よ』


 声が、直接、頭に響いた。


『そして、白き異物よ』


『貴様が来ることは、知っていた』


 白い人型が、チェンソーの回転を、上げた。


リョウマ「……一つ聞かせろ」


 リョウマが、剣を構えたまま、言った。


リョウマ「……なんで、予告した」


『……ほう』


リョウマ「黙ってやりゃあ良かっただろ。……七日も待つ理由がない」


 魔王は、しばらく、黙った。


 そして。


『……そうだな。……なぜ、だろうな』


リョウマ「……は?」


『……我にも、分からぬ』


『!?』


『何だそれ』


『本人が分かってないのか?』


カナデ「……リョウマ。……この人、様子が」


ゴウキ「……前の連中と、同じか」


リョウマ「……いや、待て。……目が」


 魔王の、赤い目は――濁っていなかった。


 ネルガのような、白い濁りは、ない。


 澄んだ、赤。


 だが、その奥に、何かが。


『……問答は、終わりだ』


 魔王が、立ち上がった。


『……我は、待った。……七日を、待った』


『……ゆえに、来い』


 ――そして、戦いが、始まった。


 最初の一撃は、魔王の、拳だった。


 ゴウキが、盾で受けた。


 ――受け切った。


ゴウキ「……っ、ぐ! ……だが、耐えた!」


『耐えたぞ!!』


『新しい盾、優秀すぎる』


『サファイア姐さんの仕事だ!!』


カナデ「強化、載せます! 全員!」


 カナデの術式が、三人と一体を、包んだ。


リョウマ「――行くぞ!!」


 リョウマが、踏み込んだ。


 白い剣が、魔王の脇腹を、斬った。


 浅い。


 だが、確かに、届いた。


『斬れた!!』


『あの剣、通るぞ!!』


 そして、その反対側から。


 白い人型のチェンソーが、魔王の膝を、削った。


 魔王が、片膝を、つく。


『押してる!!』


『四対一だ!!』


『これはいけるかもしれん!!』


 ――そこからは、連携だった。


 ゴウキが正面を受け、カナデが補助と回復を回し。


 リョウマと白い人型が、左右から、削っていく。


 この四人には、既に、呼吸があった。


 四十五層で一度、共に戦っている。


リョウマ「白いの、右!」


 白い人型が、右へ回る。


 魔王の視線が、そちらへ流れた瞬間。


 リョウマの剣が、左から、深く入った。


『『『いいぞ!!!』』』


『完璧な連携だ!!』


『[¥150,000] 押してる!!』


『[¥150,000] このまま行け!!』


『上限まで投げてる奴が何人いるんだ』


『金額の問題じゃない、気持ちだ』


 魔王が、後退した。


 黒い外套が、翻る。


『……ぬ。……これほど、とは』


『押されてるw』


『魔王が押されてる!!』


『勝てるぞ!!』


 ――だが。


 その時。


 視聴者の一人が、書き込んだ。


『……なあ』


『どうした』


『映像、止めて見てくれ』


『何が』


『魔王の、背中』


『……背中?』


 映像が、切り抜かれ、拡大された。


 三メートルの巨躯。


 黒い外套。


 その、背中。


 ――そこに。


 何か、いた。


『……』


『……え』


『何だ、これ』


『……人の、形?』


 黒い。


 だが、ただの影ではない。


 輪郭が、あった。


 丸い頭。


 単純な胴体。


 棒のような、手足。


 ――ただし、白ではない。


 黒。


 完全な、黒。


 それが、魔王の背に、へばりついていた。


 両手を、魔王の首の後ろに、差し込むように。


『……おい』


『おいおいおいおい』


『何だあれ』


『何だあれ!!』


『ピクトグラムだ』


『黒い、ピクトグラムだ!!!』


『『『は!?!?』』』


『嘘だろ』


『同じ形じゃないか!!』


『色が違うだけで、完全に同じ形だ!!』


『……操ってるのか?』


『首の後ろに手を入れてるぞ』


『……操ってる』


『あれが、操ってるんだ』


 ――そして。


 白い人型の動きが、止まった。


 初めて。


 戦闘の、最中に。


 じっと、魔王の背中を、見ていた。


 ――そして。


 地団駄を、踏んだ。


 両手を振り上げ、床を、何度も、踏みつけて。


 全身で。


 これ以上ないほど、明確に。


 怒っていた。


『……怒ってる』


『めちゃくちゃ怒ってる』


『地団駄踏んでるぞ』


『ライガに獲物取られた時と同じ動きだ』


『いや、比べるな』


『……でも、あの怒り方は本物だ』


リョウマ「……おい、白いの! どうした!」


 白い人型は、答えなかった。


 代わりに――魔王の、背中を、指差した。


 何度も。


 何度も。


カナデ「……コメントを! コメントを見てください!」


 リョウマが、端末を、一瞥した。


 そして。


リョウマ「…………黒い、ピクトグラム?」


 ――その瞬間。


 リョウマの手の中で、白い剣が、光った。


リョウマ「……っ、剣が」


 光が、リョウマの目に、流れ込んだ。


 そして、ゴウキとカナデにも。


ゴウキ「……む、視界が」


カナデ「……何か、見えて」


 ――そして。


 三人が、それを、見た。


 魔王の、背中に。


 へばりつく、黒い人型を。


リョウマ「…………なんだ、あれは」


ゴウキ「……人型……いや」


カナデ「……白いピクトグラムと、同じ形……!」


『見えたのか!?』


『剣が、看破を付与した!?』


『そんな機能まであるのか』


『……いや、それも「勇者の剣」ってことなんだろ』


『敵の本体を見抜く力』


『理屈が通ってる…のか?』


 ――そして。


 黒い人型が、初めて、動いた。


 魔王の背から、するり、と剥がれ落ちる。


 音もなく。


 そして、床に、降り立った。


 白い人型と、まったく同じ、姿で。


 色だけが、真逆の。


『……分離した』


『二体になった』


『そして、魔王は』


 ――魔王は、動きを、止めていなかった。


 その背中と、黒い人型の手の間に。


 ――細い、黒い糸のようなものが、伸びていた。


 繋がったまま。


『……離れてない』


『糸で繋がってる』


『まだ操ってるのか』


『解放されてないぞ!』


リョウマ「……くそ、まだか!」


『……人の、子よ……』


 魔王の声が、震えていた。


『……止まら、ぬ。……我が、身体が』


『……逃げ、ろ』


カナデ「……この人、意識はあります! でも、身体が動かされてる!」


ゴウキ「……最悪だな。……本人が抵抗してるのに、動く」


 ――そして。


 黒い人型が、こちらを、向いた。


 顔は、ない。


 だが、確かに、見られている。


 そして。


 ――何も、しなかった。


 手を振ることも、頷くことも、首を傾げることもなく。


 ただ、立って、こちらを、見ていた。


 その静止は、白い人型のそれとは、質が違った。


 白い人型が動かない時は、いつも、何かを考えていた。


 これは、違う。


 ――ただ、動く必要がないから、動いていない。


 それだけだった。


『……気味が悪い』


『何も表情がない』


『いや、顔がないのはこっちも同じなんだけど』


『違うんだよ』


『白いやつは、顔がなくても伝わるだろ』


『……こいつは、伝わってこない』


 そして、黒い人型の手に、何かが現れた。


 ――チェンソー。


 ただし、黒い。


『同じ武器w』


『笑えないんだよ!!』


『同じ形、同じ武器、色だけ違う』


『……対になってるのか』


 白い人型が、前に出た。


 チェンソーを、構えて。


 ――黒い人型も、駆けた。


 速い。


 白い人型と、同じ速度で。


 ――いや、それ以上で。


 二つのチェンソーが、噛み合った。


 火花が、散る。


 その衝撃で、床の石が、砕けた。


『……互角だ』


『いや、待て』


『押されてないか?』


 白い人型の足が、後退した。


 じり、と。


『押されてる!!』


『白いやつが押されてる!!』


『相手の方が、力が強いのか!?』


 ――そして、同時に。


 糸で繋がれた魔王が、リョウマたちへ、襲いかかった。


ゴウキ「くっ! こちらも来るぞ!」


リョウマ「……二正面か!!」


カナデ「本人は抵抗してます! でも、力が緩みません!」


『二対四』


『いや、違う』


『魔王は本人の意思じゃない』


『でも、力は本物だ』


『……実質、二対四、なのにこっちが不利だ』


 黒いチェンソーが、白い人型を弾き飛ばした。


 そして、その勢いのまま。


 黒い人型が、リョウマの方へ、向き直る。


 ――淡々と。


 感情の読めない、その動きで。


 距離を、詰めた。


リョウマ「――っ!」


 リョウマは、魔王の一撃を、受け止めた直後だった。


 剣を、返せない。


 黒い刃が、リョウマの、胸元へ。


 ――その、瞬間。


 白い人型が。


 二人の間に、割り込んだ。


 ――背中から。


 リョウマを、庇うように。


『!!』


『!!!』


 黒いチェンソーが。


 白い人型の、背を。


 深く、抉った。


『『『あああああああ!!!』』』


『やめろ!!』


『やめろおおお!!』


リョウマ「――白いの!!!」


 白い人型が、膝を、ついた。


 背中から。


 ――白い、輪郭が。


 欠けていた。


 まるで、紙が破れたように。


 その断面から、何かが――光のようなものが、漏れ出していた。


『……嘘だろ』


『嘘だろ嘘だろ嘘だろ』


『あいつが』


『あいつが、あんな』


『[¥150,000] 立て!!』


『[¥150,000] 立ってくれ!!』


『[¥150,000] 頼む』


『上限まで投げても何もできないのが辛い』


『分かってる!! 分かってるけど、それしかできないんだよ!!』


 白い人型は、床に、手をついた。


 立ち上がろうと、した。


 ――だが、片膝が、震えていた。


 チェンソーが、手から滑り落ち、床に転がった。


 回転が、止まる。


リョウマ「……おい……おい!! しっかりしろ!!」


 リョウマが、その傍らに、膝をついた。


カナデ「……治癒を! ……いえ、待って、この人に治癒が効くのか」


カナデ「……効くのか分かりません! でも、やります!!」


 カナデの手が、白い人型の背に、かざされた。


 光が、注がれる。


 ――だが。


 欠けた輪郭は、埋まらなかった。


カナデ「……っ、効かない……!」


『効かないのか!?』


『そんな』


『いつも治す側だったやつが』


 ――そして。


 黒い人型が、ゆっくりと、歩いてきた。


 黒いチェンソーを、提げて。


 その足取りは、急いでいなかった。


 まるで、当然の作業を、続けるように。


『来るな』


『来るな!!』


『やめろ!!』


 黒い人型が、倒れた白い人型の前で、足を止めた。


 そして――しゃがみ込んだ。


 顔(のあたり)を、覗き込むように。


 しばらく。


 ――そして。


 欠けた背中の、断面に。


 指を、伸ばした。


 触れた。


 漏れ出す光を、確かめるように。


 二度、三度。


 それは、悲しむでも、嘲るでもなかった。


 ――ただ、確認していた。


 壊れ方を。


『……』


『やめろ』


『触るな』


『調べるな!!』


『……なんだこいつ』


『こっちの方が、よっぽど怖い』


 黒い人型は、指を、離した。


 そして、立ち上がった。


 黒いチェンソーの、回転を、上げる。


 倒れた、白い人型の、上で。


リョウマ「――やめろおおおおお!!!」


 リョウマが、剣を、構えた。


ゴウキ「――俺が受ける!!」


カナデ「――結界、全開!!」


 三人が、白い人型の前に、立った。


 ――そして。


 黒い刃が、振り下ろされ――


 その進路に、リョウマの白い剣が、割り込んだ。


 ――甲高い、音。


 黒と白が、噛み合った。


リョウマ「――っ、ぐ……!」


 リョウマの膝が、沈んだ。


 重い。


 背後には、動けない白い人型。


 正面には、感情のない、黒い人型。


 そして、その背後から――操られた魔王が、迫っていた。


ゴウキ「――そっちは俺だ!!」


 ゴウキが、盾で、魔王を受け止めた。


 だが、その盾に、罅が入る。


カナデ「……結界、あと、二回分……!」


『まずい』


『まずいまずいまずい』


『三人とも限界だ』


『白いやつは動けない』


『……どうする』


『どうすればいいんだ』


 黒い人型が、力を、込めた。


 リョウマの剣が、押し込まれていく。


 じり、と。


 ――そして。


 その、押し合いの、最中。


 倒れていた白い人型が。


 ――床に、手を、伸ばした。


 転がった、自分のチェンソーへ。


 届かない。


 あと、少し。


『……動いた』


『まだ動く気だ』


『やめろ』


『やめろ、休んでろ』


『いや……』


『……いや、行かせてやれ』


『……あいつは、そういう奴だ』


 白い人型の指が。


 チェンソーの柄に、かかった。


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