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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第69話 コウモリ

「えー、あの、正直に言います。俺、今、めちゃくちゃ怖いです」


 画面に映るのは、石造りの、長い廊下だった。


 両側に、燭台。


 火が、揺れている。


ジュン「『心霊探索チャンネル』のジュンです。今日は、古城型ダンジョンの、十四層に来ています」


『来た、ビビり配信』


『墓所回の人か』


『あの後、家を建てた男』


『そして懲りずにまた来てる』


ジュン「前回、宝箱をいただいたおかげで、家が建ちました。ありがとうございます」


ジュン「なので、その、恩返しというか。もう一度、ちゃんと、企画をやろうと」


『健気だな』


『トラウマを乗り越えようとしてる』


『でも場所選びが悪い』


ジュン「この十四層、通称『館』です。協会の記録によると、内部に、極めて高位の知性体が、確認されています」


ジュン「接触例は、三件。全員、無事に帰ってきています」


『無事なのかw』


『じゃあ怖くないじゃん』


『いや、待て』


『三件しか記録がないってことは』


『接触自体が稀ってことだ』


 ジュンは、震える手で、廊下を進んだ。


 突き当たりに、大きな、両開きの扉があった。


 ――そして、その扉が。


 ひとりでに、開いた。


ジュン「ひいっ!?」


『開いたw』


『歓迎されてるぞ』


『それはそれで怖い』


 扉の向こうは、広間だった。


 高い天井。


 シャンデリア。


 そして、その奥。


 背の高い椅子に、一人の男が、座っていた。


 白い肌。


 赤い瞳。


 古めかしい、しかし上質な衣服。


『吸血鬼だ』


『絵に描いたような吸血鬼』


『これが記録の知性体か』


「ようこそ、我が館へ」


 男が、言った。


 その声は、意外なほど、穏やかだった。


「客人は久しいな。座るがいい」


ジュン「あ、あの、その、俺、その、配信を」


「知っている」


 男は、指を、軽く、振った。


「見ていた。お前の、あの、墓所での騒動をな」


ジュン「見て」


「暇なのだ」


『暇なのかよw』


『吸血鬼が配信見てる』


『いや待て』


『どうやって見てるんだw』


『電波届くのか? 十四層だぞ』


『契約は? 誰名義だ』


『支払いはどうしてるんだ』


『考えるな』


『いや考えろよ、気になるだろ』


 ジュンは、恐る恐る、座った。


 そして、しばらく、当たり障りのない会話が、続いた。


 男は――名をヴァルデと名乗った――意外なほど、話が通じた。


ヴァルデ「我は、この館の主だ。人間を襲うことは、久しくしておらん」


ヴァルデ「面倒だからな」


ジュン「面倒」


ヴァルデ「血は、味が濃すぎる。年を取ると、脂っこいものが辛くなるだろう。それと同じだ」


『分かるw』


『吸血鬼にも加齢があるのか』


『でも待て』


『どうした』


『「久しく襲ってない」ってことは、血は摂ってるんだよな?』


『……あ』


『どこから入手してるんだ』


『裏ルートで血を仕入れてる説』


『輸血パックとかか?』


『誰が運ぶんだよ』


『そこなんだよな』


『あと、この人、十四層の知性体って記録されてるのに』


『討伐依頼が一度も出てないんだよ』


『……言われてみれば』


『協会、放置してるのか?』


『何か話がついてるのかもしれん』


『それはそれで怖い話だぞ』


 ――と、その時。


 広間の隅の暗がりに。


 白い人型が、いた。


 いつからいたのかは、分からない。


 ただ、腕を組んで、壁に寄りかかっていた。


 その手には、例のハンマー。


 磨き上げられ、蔓の意匠が施された、あのハンマーが。


『いた』


『ハンマー持ってるw』


『すっかり愛用してるな』


 ヴァルデの、赤い瞳が、そちらへ、向いた。


ヴァルデ「ほう」


ヴァルデ「そこな者。いつから、そこにいた」


『見えてるw』


『看破持ちだ』


『高位の知性体、やっぱり見える』


 白い人型は、壁から離れ、軽く、会釈をした。


ヴァルデ「ふむ。礼儀は、わきまえておるな」


ヴァルデ「よかろう。客人が二人になった。歓迎する」


ジュン「あの。コメントによると、その、白いピクトグラムが」


ヴァルデ「知っている。見えているからな」


ジュン「見えるんですか!?」


ヴァルデ「見えぬ者の方が、多いようだがな」


『あっさり受け入れてるw』


『順応が早い』


『長生きしてる奴は動じないんだな』


 ――そして、しばらくして。


 ヴァルデが、ふと、深いため息を、ついた。


ジュン「あの。どうか、しましたか」


ヴァルデ「いや。客人に聞かせる話ではない」


ジュン「いえ、その。よければ」


 ヴァルデは、しばらく黙ってから。


ヴァルデ「我には、眷属がおる」


 そう言って、片手を、上げた。


 ――すると。


 天井の暗がりから、無数の、羽ばたきが、降りてきた。


 コウモリだった。


 小さな、普通の、コウモリ。


 それが、数十匹。


 ヴァルデの、周囲に、まとわりついた。


ジュン「うわっ!?」


『コウモリだw』


『吸血鬼といえばこれ』


『でも、普通のコウモリだな』


『大きくもないし、特別な感じもしない』


ヴァルデ「この子らだ」


ヴァルデ「我が、数百年、共に過ごしてきた眷属よ」


 ヴァルデの、指が。


 一匹のコウモリの、頭を、そっと、撫でた。


 その手つきは、明らかに、愛情のこもったものだった。


ヴァルデ「だが、な」


 ヴァルデの声が、低くなった。


ヴァルデ「近頃、この子らが、萎れておる」


ジュン「萎れて?」


ヴァルデ「飛ぶ元気も、ない」


 ――確かに。


 コウモリたちは、ヴァルデの周りで、しょんぼりと、羽を畳んでいた。


ヴァルデ「原因は、分かっておる」


ヴァルデ「……我が、見せてしまったのだ」


ジュン「何を、ですか」


ヴァルデ「異国の、書き込みをな」


『……ん?』


『え』


『待って』


ヴァルデ「暇を持て余していてな。異国の者どもが集う場を、覗いておった」


ヴァルデ「そこで、この子らの同族が、笑い者にされておった」


ヴァルデ「『一ヶ月の成果が、大きめのコウモリ』」


ヴァルデ「『各国の大きめのコウモリ』」


ヴァルデ「……そういう、書き方でな」


『『『あーーーー!!!』』』


『海外スレじゃん!!』


『スペインニキのやつだ!!』


『見てたのかよww』


『しかも翻訳版じゃなくて原文か!?』


『この人、何ヶ国語読めるんだ』


『数百年生きてたらそりゃ読めるだろ』


ジュン「あの、コメント欄が急に騒がしいんですが」


『説明します』


『海外の掲示板で、コウモリが「何も起きてない」の代名詞として使われてます』


『ネタとして』


ジュン「ネタ」


『ネタです』


ヴァルデ「……ネタ、というのか。あれは」


ヴァルデ「我は、悪意ではないと、分かってはおる」


ヴァルデ「だが、この子らは、そうは受け取らなんだ」


『重い』


『コウモリ、ネットの書き込みで落ち込んでる』


『動物にそれを見せるな!!』


『いや待て、そもそもの疑問に戻るぞ』


『何』


『どうやって見てるんだ!?』


『十四層だぞ!?』


『電波は!?』


ヴァルデ「……む? なんだ、この者らは。先ほどから」


ジュン「あの、皆さんが、どうやって配信をご覧になってるのか、気になってるみたいで」


ヴァルデ「……ああ。それか」


 ヴァルデは、事もなげに言った。


ヴァルデ「外で見ておる」


『!?』


『外!?』


『外って、地上ですか!?』


ヴァルデ「そうだが」


ヴァルデ「この館に籠もりきりでは、飽きるからな。夜になれば、出る」


ヴァルデ「駅前の、大きな画面のある通りは、なかなか良い」


『出てるwwww』


『普通に街に出てるww』


『駅前!?』


『十四層の知性体が駅前で配信見てるww』


『いや、待て』


『それ、目撃されてないのか?』


ヴァルデ「人の目には、留まらぬよう振る舞っておる。……それに」


 ヴァルデは、自分の衣服を、軽く、つまんだ。


ヴァルデ「この装いは、近頃の人間には、仮装と映るらしい」


ヴァルデ「一度、若者に声をかけられてな。『そのコスプレ、完成度高いっすね』と」


『wwwwww』


『コスプレ扱いされてるww』


『完成度高いっすね(本物)』


『腹痛いwww』


『日本の街、本物が紛れても気づかれないの、逆に安心する』


ジュン「あの。それって、その、外に出て、大丈夫なんですか」


ヴァルデ「何がだ」


ジュン「いや、その、日光とか」


ヴァルデ「夜と言うたであろう」


ジュン「あ、はい」


『そりゃそうだw』


『吸血鬼の常識だった』


『でも他にも聞きたいことが山ほどある』


『血はどうしてるんだ』


『討伐依頼が出てないのはなぜだ』


『協会と話がついてるのか』


 ――だが。


 ヴァルデは、そのあたりの話を、はぐらかした。


ヴァルデ「……些事だ。今は、この子らの話だ」


『はぐらかされたw』


『絶対に何かある』


『でも聞ける空気じゃない』


『いつか誰かが聞いてくれ』


 ――そして。


 白い人型が。


 動いた。


 ハンマーを、壁に立てかけて。


 つかつかと、ヴァルデの前まで、歩いてきた。


 そして、コウモリたちを、指差した。


 次に、広間の扉――外を、指差し。


 最後に、拳を、握って、突き上げた。


ヴァルデ「む?」


『訳すぞ』


『「実際にやらせてみろ」だ』


『実戦に連れていく気だ』


『ネットの評判を、実力で覆すつもりか』


ヴァルデ「ほう。この子らを、外へ?」


 白い人型が、力強く、頷いた。


ヴァルデ「……ふむ」


 ヴァルデは、しばらく、迷うような素振りを見せた。


ヴァルデ「我は、この子らを、危険に晒したくはない」


 白い人型は、その言葉に。


 首を、横に振った。


 そして、自分を指差し、次に、拳で胸を叩いた。


 最後に、両手を、大きく、広げた。


『「僕が守る」だ』


『いや、それだと同じことになるだろ』


『違う』


『「守るから、やらせろ」だ』


『……そうか』


『危ないから使わせない、じゃなくて』


『守るから、使わせる』


ヴァルデ「……守りながら、やらせる、か」


ヴァルデ「我には、その発想が、なかったな」


 ヴァルデは、しばらく、天井を、仰いだ。


 そして。


ヴァルデ「よかろう」


ヴァルデ「我も、行く。見物としてな」


 そして、白い人型は、ジュンを、指差した。


ジュン「え、俺!?」


『諦めろジュンさん』


『前回も四十分追いかけ回されただろ』


『今回は一緒に戦うだけマシだ』


 ――そして。


 十四層の、廊下。


 奇妙な一行が、進んでいた。


 先頭に、白い人型。


 その後ろに、震えるジュン。


 そして、頭上を、数十匹のコウモリが。


 最後尾に、ヴァルデが、悠然と歩いていた。


ヴァルデ「我は、見物する。手は出さぬ」


ヴァルデ「手を出せば、また、同じことだからな」


『分かってるじゃんw』


『主人が我慢する回でもある』


 ――最初の敵は、すぐに、現れた。


 通路を塞ぐ、体高三メートルの、岩の巨人。


 ゴーレムだった。


ジュン「うわああ! でかい!! 無理です!!」


ヴァルデ「ロックゴーレムか。物理攻撃はほぼ通らん」


ヴァルデ「だが、音は、通る」


『え』


『音?』


ヴァルデ「知らぬのか。高すぎる音は、硬いものほどよく響く。響きすぎれば、割れる」


『共振だ!!』


『理論としては合ってる』


『グラスが割れるのと同じ原理だ』


『じゃあコウモリの超音波は』


『……あ』


『そういうことか』


ジュン「じゃあ、なんで。今まで、その」


ヴァルデ「使わせて、こなんだからだ」


ヴァルデ「我が、強すぎた。この子らに、戦わせる必要が、なかった」


ヴァルデ「数百年、この子らは、我の目となり、耳となり、伝令となった。それで、事足りた」


ヴァルデ「ゆえに、この子ら自身も、忘れた」


『……あ』


『力がないんじゃなくて』


『使ったことがないから、自信がない』


『そこにネットの書き込みが刺さったのか』


『そりゃ萎れるわ』


 ――コウモリたちは、宙で、戸惑っていた。


 誰も、前に出ない。


 白い人型は、その様子を、しばらく、見ていた。


 そして。


 一匹の、コウモリの前に。


 そっと、手を、差し出した。


 乗れ、というように。


 一匹が、恐る恐る、その手に、止まった。


 白い人型は、そのコウモリを、ゴーレムの方へ、掲げた。


 そして、自分の口があるはずの場所を、指差し。


 次に、ゴーレムを、指差した。


 ――やってみろ。


 コウモリは、しばらく、震えていた。


 そして。


 ――キィ。


 小さな、声。


 超音波。


 その音が、ゴーレムの、岩の身体に。


 当たった。


 ――ぴしり。


 小さな、罅が、入った。


『あ』


『割れた』


『小さいけど、確かに割れた』


 コウモリが、その罅を、見た。


 自分の、声で、できた罅を。


 そして。


 もう一度、鳴いた。


 ――キィィィ。


 さっきより、大きく。


 罅が、伸びた。


『思い出してる』


『自分の力を』


 ヴァルデは、その様子を、拳を握って、見ていた。


 手は、出さなかった。


 ――そして。


 他のコウモリたちが。


 次々と、飛び出した。


 仲間の後を、追うように。


 数十匹が、ゴーレムを、囲んだ。


 そして。


 ――キィィィィィィィィィィ!!!


 数十の超音波が、重なった。


 岩の巨人の、全身に。


 罅が、走った。


 ――そして。


 ゴーレムは、内側から、砕け散った。


『『『うおおおおおお!!!』』』


『倒したww』


『コウモリが三メートルのゴーレムを!!』


『物理攻撃が通らない相手を、音で!!』


ジュン「え。え? 岩の巨人が、勝手に、砕けて……」


『コウモリがやりました』


『超音波で共振させて内部から破壊しました』


ジュン「コウモリが」


『コウモリがです』


ヴァルデ「ふ。できるではないか」


ヴァルデ「我が、させてこなかっただけだ」


 ――そして、進軍は、続いた。


 次に現れたのは、四足の、獣型のモンスターだった。


 筋肉質で、素早い。


ヴァルデ「これは、生身だ。岩とは違うぞ」


 白い人型は、コウモリたちに、合図を送った。


 コウモリたちは、今度は、迷わなかった。


 獣の周囲を、旋回しながら。


 ――キィィィィィィィ。


 超音波を、浴びせた。


 ――すると。


 獣の動きが、乱れた。


 真っ直ぐ走ろうとして、よろけた。


 方向転換しようとして、転んだ。


「グ、ルルル……!?」


『!?』


『平衡感覚が!!』


『三半規管をやられてる!!』


『音圧で内耳をかき乱してるんだ』


『効いてるだろ、目の前で』


 よろめく獣に、白い人型が、ハンマーを、一撃。


 あっさりと、沈黙した。


ヴァルデ「岩には破壊を。生身には、混乱を」


ヴァルデ「この子らは、そういう力を、持っておる」


『これ、海外に伝えないとな』


『「大きめのコウモリ」が笑い話じゃなくなるぞ』


『翻訳ニキ、頼む』


『もう動いてるらしい』


 そして――コウモリたちの、様子が。


 変わっていた。


 萎れていた羽が、しゃんと伸びていた。


 飛び方が、力強くなっていた。


 そして、ヴァルデの周りを、誇らしげに、旋回した。


ヴァルデ「ふ。調子に乗るでない」


 と言いながら、ヴァルデの口元は、緩んでいた。


『デレてるw』


『吸血鬼が孫を見る目になってる』


 ――そして。


 最後の、相手が、現れた。


 通路の奥。


 巨大な、影。


 体長六メートルの、多脚の甲殻獣。


 そして、その傍らに、複数のロックゴーレムが、控えていた。


ヴァルデ「む。この階層の、主か」


ヴァルデ「ここまで来て、ちょうどよい」


『総仕上げだ』


『全部見せてやれ』


 コウモリたちは、もう、萎れなかった。


 一斉に、飛び立った。


 白い人型が、ハンマーを、構えた。


 ジュンが、その後ろで、震えながらも、剣を握った。


 ヴァルデは、腕を組んで、見ていた。


 ――手は、出さずに。


ヴァルデ「ゆけ。我が、眷属よ」


 ――キィィィィィィィィィィィ!!!


 数十の超音波が、放たれた。


 まず、ゴーレムたちが。


 次々と、罅割れ、砕けていく。


 そして、甲殻獣に。


 音が、届いた。


 巨体が、よろめいた。


 脚が、絡んだ。


 方向を、見失った。


『効いてる!!』


『六メートルにも効くのか!!』


『コウモリ、万能すぎる』


 よろめく巨体へ。


 白い人型が、跳んだ。


 ハンマーを、大上段に。


 ――そして。


 その一撃が、甲殻獣の、頭部を、砕いた。


 巨体が、崩れ落ちた。


 静寂。


 そして――コウモリたちが、勝ち誇るように、その残骸の上を、旋回した。


『『『やったああああ!!』』』


『コウモリの勝利だ!!』


『名誉回復完了!!』


『よかったな、コウモリくんたち』


ジュン「はぁ、はぁ……。終わった、んですか」


ヴァルデ「終わった」


 ヴァルデは、コウモリたちの方へ、手を、差し出した。


 数十匹が、その腕に、肩に、頭に、止まった。


ヴァルデ「よくやった」


 その声は、震えていた。


ヴァルデ「すまなかった。あんなものを、見せて」


ヴァルデ「お前たちは、飾りなどではない」


ヴァルデ「ずっと、我の、誇りだった」


 ――コウモリたちが、一斉に、鳴いた。


 今度は、超音波ではなく。


 ただの、嬉しそうな、鳴き声だった。


『泣ける』


『いい話すぎる』


『数百年の関係が、今日、更新された』


 ――そして、館の広間。


ヴァルデ「礼を言う。白き者よ」


 ヴァルデは、白い人型に、向き直った。


ヴァルデ「我は、長く生きすぎた」


ヴァルデ「守ることと、閉じ込めることの、区別がつかなくなっておった」


 白い人型は、首を、横に振った。


 そして、コウモリたちを、指差し。


 次に、ヴァルデを、指差し。


 最後に、両手で、大きな、輪を作った。


『「あんたが育てたから、できたんだ」だ』


『訳しすぎか?』


『いや、そういう意味だろ』


『数百年の世話があったから、あの子らは元気なんだ』


ヴァルデ「ふ。そうか」


 そして、ヴァルデは、ジュンの方を、見た。


ヴァルデ「小僧。一つ、頼まれてくれるか」


ジュン「は、はい!」


ヴァルデ「その、異国の者どもが集う場に。……今日のことを、伝えてくれ」


ヴァルデ「コウモリは、笑い者などではない、とな」


ジュン「……はい。必ず」


『任せろ』


『翻訳して貼ってやる』


『世界中に知らせてやるよ』


 ――そして。


 ジュンとコウモリたちに、見送られて。


 白い人型は、ハンマーを担ぎ、館を、後にした。


ジュン「えー。本日の配信、まとめます」


ジュン「古城型ダンジョン十四層。館の主、ヴァルデさんと、接触しました」


ジュン「そして、コウモリの強さが、判明しました」


『協会に報告した方がいいぞ、これ』


ジュン「報告します。たぶん、対ゴーレム戦術が、変わります」


『世界が変わる発見だな』


『しかも報告者が心霊配信者』


『経緯が意味不明すぎる』


『いつものことだ』


『……で、結局さ』


『何』


『あの人、血はどうしてるんだ』


『討伐依頼が出てないのはなぜだ』


『駅前で何を見てるんだ』


『聞きそびれたな』


『次回、誰か聞いてきてくれ』


ジュン「俺は、もう、行きません」


『行けよw』


『家が二軒目建つかもしれないぞ』


ジュン「……検討します」


『現金だなw』


 ――そして、その夜。


 海外の掲示板に、一本の翻訳スレが、立った。


 タイトルは、こうだった。


 『コウモリについて、我々は謝罪すべきかもしれない』


 スレッドは、一晩で、埋まった。


 その中に、こんな書き込みがあった。


 (西)

 『我が国の「大きめのコウモリ」について、再調査を申請した』


 (英)

 『>>その意気だ』


 (西)

 『たぶん、ただのコウモリだ』


 (西)

 『だが、ただのコウモリでも、強いかもしれない』


『いい話になってるw』


『スペインニキ、報われてくれ』


『「ただのコウモリでも強いかもしれない」』


『今日の名言はこれだな』

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