第49話 捕獲大作戦
「どうも! 『検証ちゃんねるファイル』です! 企画のコウジ!」
「カメラのマサ」
「解説担当のリク、です」
あの、密着取材の三人組だった。
登録者は、あれから三万から十二万に増えている。
コウジ「前回の調査から、我々は考えました。……接触はできた。会話も成立した。……ならば、次は!」
コウジが、リュックから、大量の道具を、じゃらじゃらと取り出した。
コウジ「捕獲だあああ!!!」
『wwwww』
『企画が過激になってきた』
『前回で味をしめたなこいつら』
『捕獲は無理だろ 骸骨と斬り合う奴だぞ』
『いや、待て。捕獲って言っても、あいつが本気で嫌がったら無理なのは分かってるだろ』
『つまりこれは……』
『遊びに誘ってるんだよ』
リク「誤解のないよう申し上げますが、危害を加える意図は一切ありません。すべて非殺傷・非拘束、解除可能な道具のみです」
マサ「要するに、遊びだ。あいつが乗ってくれたら、の話だけどな」
コウジ「本日の捕獲道具は、こちら!!」
地面に、ずらりと、並べられた。
虫取り網(特大)。
落とし穴用のシート。
紐付きの箱と、つっかえ棒。
ネズミ取り用の粘着シート(人体無害・水で剥がれるタイプ)。
鳥もち風の、水飴。
そして、大きな段ボール箱。
『装備が完全に小学生ww』
『箱とつっかえ棒ww』
『原始的すぎるだろ』
『でも相手が相手だからな……逆にいいかもしれん』
『あいつ、こういうの好きそう』
コウジ「では、ダンジョンへ! ……あ、ちなみに、今回のために、また新しいサブチャンネルを作りました。登録者、ゼロです」
『またサブ垢戦法w』
『マイクの真似じゃんw』
『そして毎回、配信後には登録者が万単位になる』
『使い捨てサブ垢が増え続ける界隈』
三人が、ゲートをくぐった。
――そして、その八秒後。
三人の背後に、白い人型が、合流した。
『早いwww』
『前回より二秒早い』
『記録更新』
『道具の匂いを嗅ぎつけたか』
『匂いはしないだろうけど、面白そうな気配は嗅ぎつけたな』
白い人型は、地面に並べられた捕獲道具を見て――しばらく、静止した。
それから、腕を組んで、こくこく、と頷いた。
最後に、両手を軽く広げて、どうぞ、というような仕草。
『受けて立つ気だww』
『「かかってこい」って言ってる』
『挑戦、受理されました』
『コント開幕です』
リク「コメントによると……対象、既に到着。しかも、乗り気だと」
コウジ「よし!! では第一作戦、いきます!! 『古典的落とし穴』!!」
三人は、通路の一角に、浅い穴を掘り、その上にシートを被せ、上から土をかけた。
そして、穴の向こう側に、缶コーヒーを置いた。
コウジ「これで、コーヒーに近づけば、落ちる!!」
『分かりやす……』
『いや、あいつ、落ちるか?』
『落ちるわけないだろ』
白い人型は、缶コーヒーの前まで、歩いてきた。
そして、落とし穴の手前で、ぴたり、と止まった。
しばらく、地面を見る。
それから――足で、こんこん、と地面を叩いた。
場所を、ずらして、また叩く。
落とし穴の縁を、正確に、特定していた。
『調べてるw』
『音で判定するな』
『トレジャーハンターの相棒やってた経験が活きてる』
『ジローさんの回で罠察知を見てたもんな』
白い人型は、落とし穴の縁を確認すると――
その縁ギリギリを、爪先立ちで、すたすたと、渡っていった。
平均台を渡るように。
そして、缶コーヒーを、悠々と、手に取った。
コウジ「……あれ? コメント欄、どうなってます?」
『縁を歩いて渡られました』
『爪先立ちで』
『バランス感覚が優雅すぎる』
コウジ「くっ……! 第二作戦!! 『箱とつっかえ棒』!!」
段ボール箱を、つっかえ棒で斜めに支え、下に缶コーヒーを置く。
棒には、紐が結ばれ、その端をコウジが握っていた。
コウジ「これぞ古来より伝わる、鳥獣捕獲の基本形!!」
『原理は正しい』
『正しいけど、相手が悪い』
白い人型は、箱の前に立ち、しゃがみ込んで、じっと、中の缶コーヒーを見た。
それから、つっかえ棒を、見た。
紐を、辿って、コウジの手元を、見た。
そして――こちらを、カメラを、見た。
肩を、すくめた。
『バレバレですって顔してるww』
『やれやれポーズいただきました』
『そりゃバレるわ』
と、思った次の瞬間。
白い人型は、するり、と、箱の下に、入った。
コウジ「入った!! 今だ!!」
紐が、引かれる。
つっかえ棒が、外れる。
段ボール箱が――ばさり、と、落ちた。
コウジ「捕獲成功おおおお!!!」
マサ「マジか!?」
リク「箱が落ちました! 中に、対象が!」
『え、捕まった?』
『あんなに警戒してたのに?』
『いや、待て』
『箱、揺れてる』
三人が、箱に駆け寄った。
箱は、もぞもぞと、動いていた。
コウジ「よし……よし! このまま、そーっと……」
コウジが、箱を、両手で押さえた。
その瞬間。
箱が、ひょい、と、持ち上がった。
――中から。
白い人型が、箱を頭からすっぽり被った状態で、立ち上がっていた。
そして、箱を被ったまま、両手を広げて、ばんざいのポーズ。
『被り物になってるwwww』
『捕獲された側が箱を着てる』
『ばんざいすなww』
『「捕まえた」つもりが「着せた」だけ』
コウジ「うわああ! 箱が立った! 箱が歩いてる!!」
箱を被った白い人型は、そのまま、よたよたと歩き回り、三人の周りを一周した。
時々、箱の下から手だけを出して、手を振る。
『完全におもちゃにされてるww』
『三人が箱を追いかけ回してる』
『絵面が完全にコント』
『マサのカメラワークが無駄に良いのがまた』
やがて白い人型は、箱を脱いで、丁寧に地面に置き直し、つっかえ棒まで元通りに立て直した。
原状復帰である。
リク「……道具を、直されました」
マサ「律儀すぎるだろ」
コウジ「第三作戦!! 『粘着シート』!!」
通路一面に、巨大な粘着シートが、敷き詰められた。
コウジ「これは水で溶けるタイプなので、安全です! しかし、踏めば、動けない!!」
『地味に一番効きそう』
『足を取られたら回避不能だからな』
『……あ、なんか取り出したぞ』
白い人型は、画面の外へ歩いていき――戻ってきた時、その足元には、大きな板が二枚、あった。
それを、粘着シートの上に、置く。
そして、板の上に乗り、後ろの板を前に持ち替え、また進む。
板を敷きながら、粘着シートを、渡っていった。
『工事現場方式www』
『足場を作って渡るな』
『工事のピクトグラムの知識、こんなところで』
『器用すぎるだろ』
コウジ「……なんか、板の音がします」
リク「板を敷きながら渡っています」
コウジ「用意周到すぎる!!」
第四作戦。
特大の虫取り網。
コウジが、全力で振り回した。
白い人型は、網の軌道を読み、しゃがみ、跳び、時には網の柄の上を走って避けた。
最後には、網の中に自分から飛び込み――網の底を突き破って、反対側から出てきた。
コウジ「網が破れた!?」
『破って出たww』
『網の意味ww』
『しかもこの後絶対直すぞあいつ』
案の定、白い人型は、破れた網を受け取ると、どこからか取り出した針と糸で、丁寧に、縫い始めた。
『繕ってるwwww』
『裁縫までできるのかよ』
『破いた本人が直すの、律儀を通り越して怖い』
『主婦力が高い』
第五作戦。
水飴による、鳥もち。
これは、白い人型が、近づくことすら、しなかった。
遠くから、水飴を、じっ、と見て。
それから、両手で「×」を作り、首を、激しく横に振った。
『拒否したw』
『露骨に嫌がってる』
『ベタベタするのが嫌なのか』
『猫かよ』
――そして、企画は、後半へ。
コウジ「くっ……全部、破られた……! だが! 我々には、最終兵器がある!!」
コウジが取り出したのは、一枚の、紙だった。
コウジ「これは……前回の反省から、我々が導き出した、究極の一手!!」
紙には、大きく、こう書かれていた。
『ここに座らないでください』
『!?』
『何それww』
『張り紙ww』
『どういうことだ』
リク「対象は、標識・記号としての性質を持つ、というのが我々の仮説です。ならば……」
コウジ「標識には、従うのではないか!!!」
コウジが、その紙を、通路の壁に貼り、その下に、椅子を置いた。
『理屈は面白い』
『けど、そう上手くいくか?』
『あいつ、規則には割と真面目だからな』
『ゴミ拾いの回とか、まさにそれ』
『……あ』
白い人型が、張り紙の前で、足を止めた。
紙を、読む。
そして――椅子を、見た。
しばらく、動かなかった。
やがて、白い人型は。
椅子を、丁寧に、持ち上げて。
張り紙の、届かない場所まで運んで。
そこに、座った。
『座り方が完璧に合法www』
『「ここに座らないで」だから、そこ以外なら合法』
『規則の穴を突いてきた』
『法解釈が上手すぎる』
『真面目なのか不真面目なのか分からん』
コウジ「くそおおお!! 抜け道を!!」
リク「……対象、規則を遵守した上で、目的を達成しました。……記録します。『対象は法解釈に長けている』」
『検証結果が変な方向に増えてくw』
そして、白い人型は、座ったまま――手招きを、した。
三人に向かって。
コウジ「え? ……呼ばれてる?」
『来いって言ってる』
『何かする気だ』
三人が、近づいた。
白い人型は、立ち上がり、椅子を、コウジに譲った。
そして、自分は、地面に落ちていた紐を拾い上げ――
三人の背後の、大きな段ボール箱に、つっかえ棒を立て直し、その下に、缶コーヒーを置いた。
さっき、自分が破った罠の、完全再現だった。
そして、紐の端を、握って、離れた場所に、隠れた。
こちらを見て、指を、口に当てる。
――しーっ。
『!?』
『立場が逆転したwww』
『捕獲する側に回ったぞ!!』
『三人が獲物www』
『しかも罠が、さっき破られたやつの再利用』
コウジ「……え? え? なんか、箱の下にコーヒーが……」
マサ「おい、やめとけ。絶対それ罠だぞ」
コウジ「……でも、俺、喉が渇いて……」
リク「コウジさん! 冷静に!」
『行くな!!』
『行くなコウジ!!』
『でも行くよな』
『行くだろうな』
コウジ「……ちょっとだけ」
コウジが、箱の下に、手を伸ばした。
――ばさり。
箱が、落ちた。
コウジの、頭に。
コウジ「うわああああ!?」
『捕獲されたwwwww』
『企画者が捕獲された』
『「ピクトグラムを捕まえろ」→捕まったのはコウジ』
『大逆転』
白い人型は、箱を被ったコウジの周りを、ぐるぐると回り、両手を上げて、勝利のポーズを決めた。
それから、箱の上を、こんこん、とノックした。
コウジ「……なんですか」
白い人型は、コウジが被った箱に、油性ペンで――どこから出したのかは不明である――何かを、書き始めた。
書き終えて、離れる。
箱には、こう書かれていた。
『捕獲済み』
『wwwwww』
『ラベリングされたww』
『検体扱いwww』
『研究する側が研究される側に』
マサ「……コウジ、動くな。今の、めちゃくちゃいい画だから」
リク「記録します。『調査員一名、対象に捕獲される』」
コウジ「記録しなくていい!!」
白い人型は、満足げに手を払うと、三人に向かって、サムズアップをした。
そして、来た時と同じように、肩を揺らして、通路の奥へ歩いていった。
去り際、振り返り。
箱を被る仕草を、自分でやってみせて、笑った(気配)。
『最後まで馬鹿にしていったwww』
『全力でおもちゃにされた回だった』
『いい遊び相手を見つけたな、あいつも』
『こいつら、捕獲道具の全部を無効化された上に、自分が捕まったんだよな』
『企画としては完敗だけど、映像としては大勝利』
『いつものパターンだ』
コウジ「……えー。本日の捕獲大作戦、結果を発表します」
箱を被ったまま、コウジが言った。
コウジ「……全作戦、失敗。……捕獲されたのは、私でした」
『知ってた』
『でも面白かったから許す』
『次回の企画は?』
コウジ「……次回は、『ピクトグラムに勝つ』企画をやります」
『無理だろ』
『何で勝つ気だよ』
コウジ「……けん玉で」
『それは勝てないwww』
『相手は十段(推定)だぞ』
『企画倒れが確定してる』
『それでも見るけどな』
『登録者、今、六万です』
コウジ「……サブチャンネル、また育っちゃった」




