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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第47話 お弁当

「うぇーい! どうも~、リュウとショウのガチ攻略ちゃんねるでーす!」


「ガチでーす!」


「そして今日もゲスト! 俺の姉ちゃん、マイでーす!」


マイ「は~い! 今日こそリベンジしに来たから! ねえ、あの白いの、今日いる?」


『チャラ組回だ』


『姉ちゃん、すっかり常連だな』


『グミの十二回ジャンプのリベンジ、まだ諦めてないのか』


『白いやつ、今日は……あ』


『いるいる』


『後ろ、いつも通り真後ろにいる』


 三人の背後、いつもの定位置。


 白い人型が、リュウの歩き方を真似ながら、付いて歩いていた。


マイ「え、いるの!? どこ!? ねえ、あたしのカバン見せたいんだけど! ほら、これ!」


 マイが、カバンにぶら下げた、非公式ぬいぐるみを、掲げた。


マイ「買ったんだから! これ! あんたのグッズ! 似てる? 似てなくない?」


 白い人型は、ぬいぐるみをまじまじと見て――首を、傾げた。


 それから、自分の頭(丸い部分)と、ぬいぐるみの頭を、交互に指差して、両手で「△」を作った。


『「微妙」って言ってるw』


『本人による公式見解:似てない』


『非公式グッズの限界』


マイ「ええ~!? 二千円もしたのに!」


リュウ「姉ちゃん、そもそも見えてないのに、何で会話できてんの」


マイ「コメントが通訳してくれるから!」


『通訳係、四百人』


『慣れたもんだな』


 ――と、和やかな空気が流れていた、その時。


 視聴者の一人が、それに、気づいた。


『……なあ』


『ん?』


『画面の奥、通路の角』


『……人、いないか?』


『いる』


『こっち見てる』


『……あれ』


『……あれ、ミサキちゃんじゃないか?』


 通路の、暗がり。


 角から、顔半分だけを出して。


 じっ、と、こちらを見つめる、少女がいた。


 その視線は、リュウでも、ショウでも、マイでもない。


 彼らの、後ろ。


 白い人型が、いるはずの、その場所に。


 正確に、注がれていた。


『!?』


『見えてないはずだよな!?』


『見えてないはずなんだけど、位置が完璧に合ってる』


『勘か?』


『勘であそこまで正確に……?』


『湿度が高い』


『視線の湿度が高すぎる』


『こわい』


 白い人型が、その視線に、気づいた。


 ゆっくりと、振り返る。


 そして――びくり、と、全身を、跳ねさせた。


『あいつが怯えたwww』


『骸骨と斬り合った奴が!!』


『序列第五を一方的に成敗した奴が!!』


『美少女配信者一人にビビってる!!』


『気持ちは分かる』


『分かってしまう』


 少女――ミサキが、角から、姿を、現した。


 その手には、大きな、風呂敷包み。


ミサキ「……見つけた」


 にっこりと、笑った。


ミサキ「こんにちは。……あの、そこにいますよね。……分かるんです。なんとなく、空気が違うから」


『空気で分かるらしい』


『それはもう見えてるのと変わらんのよ』


『索敵能力が探索者として優秀すぎる』


『用途が最悪だけど』


リュウ「え、誰!? あ、ミサキちゃん!? あの有名な!?」


ショウ「なんでここに!?」


マイ「あら~、可愛い子じゃない。ファン?」


ミサキ「……はい。ファンです」


 ミサキは、リュウたちには目もくれず、風呂敷包みを、そっと、地面に置いた。


 そして、包みを、開いた。


ミサキ「あの……前に、配信で見たんです。あなた、コーヒーとか、蜜とか、飲みますよね。……ゲンさんの回とか、ケンゾーさんの回とか」


『見てる』


『全部見てる』


『そりゃファンだからな』


『……嫌な予感がする』


ミサキ「食べられるなら、作ろうって、思って。……お弁当、作ってきたんです」


 包みの中から現れたのは、大きな、二段重ねの弁当箱だった。


『!!』


『手作り弁当だ!!』


『いい話じゃん!!』


『……いや、待て』


『どうした』


『「作ってきた」ってことは、今日に限った話じゃないよな?』


『……え?』


『この子、いつ会えるか分からない相手に、弁当を作ってきたんだぞ』


『つまり』


『……毎回、持ってきてるってことか?』


『……』


『会えるか分からないのに、毎回、作って、ダンジョンに持ち込んでる……?』


『やめろ』


『考えるな』


 ミサキが、弁当箱の、蓋を、開けた。


 その、中身が、映った。


『』


『』


『』


『……なんだこれ』


 弁当箱の中身は、色彩の、暴力だった。


 紫。


 毒々しい、鮮やかな紫の、何か。


 その隣に、蛍光の黄緑。


 中央には、なぜか、じゅくじゅくと、泡立っているものがある。


 そして、全体に、薄い、白い、湯気のようなものが立ち上っていた。


 ……冷めているはずの、弁当から。


ミサキ「えへへ。……ダンジョン素材、使ってみたんです。ケンゾーさんの配信を参考にして。……その、ちょっと、色が個性的になっちゃったんですけど」


『個性的の範疇を超えてる』


『泡立ってるんだが』


『冷めてるのに湯気が出てるんだが』


『これ、料理か?』


『生物兵器では?』


『いや、モンスター用の毒餌だろ』


『毒餌にしても劇物すぎる』


『ケンゾーさんの配信を参考にしてこうなるのはおかしい あの人の料理、見た目は悪いけど「食べ物」ではあっただろ』


『素材の選定を間違えてる』


『あるいは、調理の過程で何かが生まれた』


 白い人型は、弁当箱を、じっ、と見ていた。


 微動だに、していない。


 やがて。


 ゆっくりと、一歩、後ろに、下がった。


『下がったwww』


『危険察知能力が働いてる』


『そりゃ下がるわ』


ミサキ「……あれ? どうしました? ……あ、遠慮しなくていいんですよ。いっぱい作ってきたので」


 ミサキが、弁当箱を、持ち上げた。


 そして、一歩、前に出る。


 白い人型が、一歩、下がる。


 ミサキが、一歩。


 白い人型が、一歩。


ミサキ「……逃げないでください」


 声のトーンが、少しだけ、下がった。


ミサキ「……たくさん、作ったんです。……今日のために。……今日も、です」


『「今日も」だってwww』


『やっぱり毎回作ってたんだ!!』


『何回分だよ!!』


『そのたびに、この色のものが生成されてたのか』


『ダンジョンの生態系が心配になってきた』


リュウ「……なあ、ショウ」


ショウ「……なんだよ」


リュウ「……あの弁当、やばくね?」


ショウ「……見た瞬間から思ってた」


マイ「ちょっと、あの子、大丈夫……? なんか、目が……」


 三人が、じりじりと、後ずさりを始めた。


 その気配に、ミサキが、顔を、上げた。


ミサキ「……皆さん。邪魔、しないでくださいね」


 にっこり。


ミサキ「これは、私と、あの人の、時間なので」


『『『ひぃ』』』


『笑顔が怖い』


『「私とあの人の時間」って言ったぞ』


『占有権を主張してる』


『やめて!! ピクトグラムはみんなの物だよ!!』


『そうだそうだ!! みんなの怪異だぞ!!』


『共有財産です!!』


 白い人型は、いよいよ、追い詰められていた。


 背後は、壁。


 前方には、笑顔の少女と、泡立つ弁当。


 視線が――リュウたちの方へ、飛んだ。


 助けを、求める視線だった。


『!!』


『目が合った(比喩)』


『助けを求めてるぞ!!』


『リュウ!! ショウ!! なんとかしろ!!』


リュウ「……コメントが、『助けろ』って言ってるんだけど」


ショウ「……どうやって」


リュウ「……いや、あれだろ。……逃げるしかねえだろ」


ショウ「それはそう」


 リュウが、大きく、息を吸った。


リュウ「――白いの!! こっち来い!! 走れ!!!」


 そして、リュウとショウとマイは、揃って、脱兎のごとく、走り出した。


 白い人型も、壁を蹴って、その後に続いた。


ミサキ「あっ! 待って! まだ食べてない!!」


 ミサキが、弁当箱を持ったまま、追いかけてくる。


 その足が、速い。


 五十回の配信と、毎日のスクワットで鍛えられた、脚力だった。


マイ「速い速い速い!! あの子めっちゃ速い!!」


ショウ「なんで弁当持って全力疾走できるんだよ!!」


リュウ「知るか!! 走れ!!」


『チャラ男たちの逃げ足はえぇwww』


『さすが日頃から逃げ回ってるだけある』


『失礼だぞ でも事実』


『白いやつも本気で走ってる』


『骸骨戦より必死じゃないか?』


『必死だろあれは』


 三人と一体は、通路を駆け抜け、角を曲がり、階段を駆け上がった。


 背後から、足音。


 そして。


ミサキ「待って! 待ってくださいー! お弁当ー!!」


『声が近い!!』


『諦めてくれ!!』


『いや、弁当だけは絶対に諦めさせろ!!』


 ゲートの光が、見えた。


 四つの影が、転がり出るように、地上へ。


 ――そして、白い人型は、ゲートの直前で、通路の脇道へ、素早く逸れた。


 ミサキの視界から、消える。


 ミサキが、ゲートの手前で、急停止した。


 きょろきょろと、辺りを見回す。


ミサキ「……あれ? ……いない? ……そんな」


 肩を、落とした。


 そして。


 しばらく、俯いてから。


 ゆっくりと、顔を上げた。


 誰もいない、はずの、通路の暗がりへ向かって。


 ミサキは、静かに、微笑んだ。


ミサキ「……いいですよ。今日は、これで」


 弁当箱の蓋を、そっと、閉める。


ミサキ「……また、作りますから」


 そして。


 誰に言うともなく。


 小さく、けれど、はっきりと。


ミサキ「……次は、逃がしません」


『』


『』


『』


『いま、なんて』


『「次は逃がしません」って言った』


『はっきり言った』


『こわいこわいこわいこわい』


『モンスターよりこわい』


『三十層の主より怖いんだが』


『あいつ、まだ脇道で息潜めてるぞ』


『帰れないじゃんww』


『いや、笑い事じゃない』


『あいつ、初めて本気で逃げたな』


『刀もチェンソーもロケランも、何一つ役に立たない相手だからな』


『愛は最強』


『重いだけだろ、それは』


 ゲートの外。


 肩で息をする、チャラ三人組。


リュウ「……はぁ、はぁ……。……なあ」


ショウ「……なんだ」


リュウ「……俺ら、今日、あの白いのの、命の恩人じゃね?」


ショウ「……そうかもな」


マイ「……ねえ、あの弁当、なんだったの? 紫の、泡立ってる、あれ」


リュウ「……知らねえ。知りたくもねえ」


『初めてチャラ組が役に立った回』


『白いやつ、恩返ししないとな』


『次はスリップ注意で転ばされない権利をあげてほしい』


『それはそれで寂しいだろ』


『しかし今日の切り抜きタイトル、難しいな』


『「お弁当」でいいだろ』


『シンプルなのが逆に怖いやつだ』


『サムネは……弁当箱の中身で』


『閲覧注意タグつけとけよ』


『色的にも、内容的にも』

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