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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第44話 将軍のテーマ

 セントラル、四十一層。


 あのリッチ戦から、勇者一行は、さらに二層、深く潜っていた。


「――ちっ、また喋るタイプかよ!!」


リョウマの剣が、弾かれた。


 広間の中央。


 黒い甲冑が、宙に浮いている。


 中身は――ない。


 鎧の隙間から覗くのは、渦巻く黒い霧だけだった。


『我は魔王が配下、序列第五。ドゥルガ・ノクス』


 重い声が、直接、響く。


『先だって第七が討たれたと聞き、参上した。……なるほど、多少はやるようだな』


『また出たw』


『序列第五!? 前回より上だ』


『こいつら普段何してるんだ』


『同僚が死ぬたびに出てくるシステムなの?』


『魔王軍、人事どうなってんだよ』


『序列七位の死亡報告を受けて五位が出張してくるの、完全に会社の上司』


ゴウキ「実体がない! 斬撃が通らんぞ!」


カナデ「霧です! 甲冑の中の霧が本体……たぶん、物理攻撃が効きにくいタイプ!」


リョウマ「じゃあどうすんだよ!!」


『これ、相性最悪じゃないか』


『物理特化のパーティ相手に実体なし』


『前回のリッチより厄介かもしれん』


 黒い甲冑の腕が、振るわれた。


 黒い斬撃が、空間ごと薙ぐ。


 ゴウキが盾で受け――盾が、半ばから、腐り落ちた。


ゴウキ「盾が!! 溶けた!!」


『!?』


『装備が腐食してる』


『触れたものを腐らせる攻撃かよ』


『こんなん、どう戦えばいいんだ』


『まずい 本気でまずい』


『……頼む。今日も、来てくれ』


 ――と、コメントが流れた、その時。


 広間の外の通路から、それは、聞こえてきた。


 勇壮な、管楽器の旋律。


 誰もが一度は聞いたことのある、あの、時代劇の悪代官を成敗しに来る老人が登場する時の――否、それとよく似た、しかし決してその曲名を口にしてはならない、正義の到来を告げる音楽。


『!!!!』


『きたああああああ!!!』


『この曲!! この曲は!!』


『言うな!! 言っちゃダメだ!!』


『著作権に触れるから絶対に曲名を書くな!!』


『分かってる!! 分かってるが!! テンションが!!』


『「将軍のテーマ」とだけ書いておこう』


『それが賢い』


『全員が脳内で完璧に再生してる音楽、それが将軍のテーマ』


リョウマ「……音楽? こんな時に、音楽が……」


カナデ「これ、前と同じ……! 音楽が鳴るのは、あの人が来る合図です!!」


ゴウキ「本当か!? 助かった……!」


『ドゥルガとやら、そこへ直れ』


『成敗の時間だ』


『今日は看破持ちじゃないっぽいぞ』


『こいつ、あいつが見えてない』


『じゃあ一方的だ』


『ボコボコにしていいやつだ』


 通路から、白い人型が、悠然と歩いてきた。


 その姿は、いつもの白。


 だが、腰に――一振りの、日本刀を、差していた。


 あの、骸骨の浪人から、受け継いだ、刀を。


『刀だ!!!』


『ついに使うのか!!』


『果たし合いの回でもらったやつ!!』


『あれからずっと持ってたんだよな』


『抜くところ、初めて見るぞ』


 黒い甲冑の霧が、揺れた。


 だが、その視線は、リョウマたちにしか、向いていない。


 白い人型の存在に、まるで、気づいていなかった。


『見えてないぞ』


『序列第五でも見えないのか』


『看破持ちは骸骨とリッチだけって説が強まったな』


『じゃあ今日は、完全に一方的だ』


『いいぞもっとやれ』


 白い人型は、広間に入り、リョウマたちと甲冑の間に、立った。


 そして、静かに、刀の柄に、手を掛けた。


 将軍のテーマが、一段、盛り上がる。


『抜刀の構え!!』


『鳥肌立った』


『BGMと構えが完璧に噛み合ってる』


『音響監督が有能すぎる(本人)』


『我が問おう。人の子らよ、この期に及んで抗う意味が――』


 言葉は、途中で、途切れた。


 白い人型が、居合を、放っていた。


 黒い甲冑の、右腕が。


 肩から、断ち落とされていた。


『!?』


『斬れた!!』


『実体ないのに斬れるのかよ!!』


『あの刀、霧まで斬れるんだ』


『骸骨の浪人が使ってた刀だぞ 普通のわけがない』


『な……ん、だと……!? 腕が……我が腕がァ!?』


 黒い甲冑が、混乱した。


 周囲を見渡す。


 誰もいない。


 リョウマたちは、驚いた顔で、遠くに立っている。


『誰にやられたか分かってないw』


『そりゃそうだ、見えてないからな』


『恐怖の一方的な戦闘、開始です』


 白い人型は、刀を納めた。


 そして、また、抜いた。


 ――左腕。


 断たれた。


『二本目ww』


『納刀してから抜くの、様式美すぎる』


『居合の作法を守るな、相手が見えてないんだから』


『こだわりの人(人?)だから』


『ぐ、ぐおおお!! 何だ!! 何が起きている!! 姿を見せろ、卑怯者ォ!!』


『卑怯も何も、こっちは最初から見えないんだよなあ』


『「見えない」は仕様です』


『ドゥルガ、可哀想になってきたw』


『いや、あいつら魔王軍だからな 同情するな』


 黒い甲冑が、めちゃくちゃに、黒い霧を吹き散らした。


 範囲攻撃。


 触れたものを腐らせる、霧の嵐。


 白い人型は――刀を、水平に、構えた。


 そして、迫る霧を。


 斬った。


 霧が、真っ二つに割れて、白い人型の左右を、通り過ぎていく。


『霧を斬ったwww』


『魔法斬りは前もやってたけど、今回は霧だぞ』


『概念的に斬れないものを斬るな』


『物理法則、また休業』


『あの刀が異常なのか、あいつが異常なのか』


『両方だ』


 白い人型は、霧が晴れる前に、踏み込んだ。


 ――足。


 黒い甲冑の、両脚が、膝から下を、断たれた。


 浮遊していた巨体が、ぐらり、と傾く。


『足も斬ったw』


『四肢を順番に落としてるww』


『解体作業かよ』


『いや、完全に嬲ってないかこれ』


『そりゃそうだろ あいつ、怒ってるんだよ』


『何に?』


『カナデさんの盾……じゃない、ゴウキの盾を腐らせた件』


『あと、また勇者一行を襲った件』


『前回の共闘相手だからな 情はあるだろ』


『ぎ、ぎさま……何者だ……!! 我が身体を、こうも容易く……!!』


 白い人型は、答えなかった。


 当たり前だった。


 声など、届かない。


 代わりに、刀を、静かに、鞘に納めた。


 将軍のテーマが、最高潮に達する。


『納刀した』


『次で最後だ』


『来るぞ』


『成敗の時間だ』


 白い人型が、腰を、深く落とした。


 抜刀の、構え。


 そして。


 ――一閃。


 黒い甲冑が、兜の上から、股まで。


 真っ二つに、断ち割られた。


 中の霧が、断面から噴き出し――そして、霧散していく。


『――ォ、オオオ……馬鹿な……姿なき、何かに……』


 最後の言葉を残して。


 黒い甲冑は、砕けて、床に散らばった。


 将軍のテーマの、最後の一節が、余韻を残して、鳴り止んだ。


『成敗完了www』


『完全に一方的だった』


『序列第五、何もできずに終了』


『可哀想……いや、可哀想か?』


『可哀想ではない でも一切の見せ場がなかったのは事実』


『こいつの上司(序列上位)、次はもっと強いの寄越すだろうな』


『看破持ちを寄越されたら厄介だぞ』


リョウマ「…………なあ」


 リョウマが、剣を下ろした。


リョウマ「俺たち、今日、何もしてないよな?」


ゴウキ「……盾が腐っただけだ」


カナデ「……私、回復も強化も、使う暇がありませんでした」


リョウマ「……そうか」


 リョウマは、天井を仰いだ。


リョウマ「……日本最強って、なんだったんだろうな」


『『『wwww』』』


『勇者、自信喪失』


『でも今日の相手、相性最悪だったからな』


『実体なし+腐食攻撃、物理パーティには詰みだった』


『あの刀があったから成立しただけだ』


『気にするなリョウマ』


 白い人型は、刀を納めると、リョウマたちの方へ、歩いてきた。


 そして、腐り落ちたゴウキの盾を、拾い上げた。


 しばらく、断面を、眺める。


 それから、ゴウキに向かって、盾を差し出し――両手で「×」を作った。


『「もう使えない」って言ってるな』


『そりゃそうだ、半分溶けてる』


『新調しろってことか』


ゴウキ「……ああ。分かってる。……特級品だったんだがな」


 白い人型は、少し考える素振りをした。


 そして、ぽん、と手を打つと、砕けた黒い甲冑の残骸の中から、一枚――腐食していない、無傷の胸当ての破片を、拾い上げた。


 それを、ゴウキに、手渡す。


ゴウキ「……これは」


カナデ「……ドゥルガの装甲、ですよね。腐食攻撃を持つ相手の装甲なら、腐食耐性が……」


リョウマ「……素材にしろってことか。新しい盾の」


 白い人型が、頷いた。


『素材の目利きまでするのかよw』


『討伐報酬の分配、的確すぎる』


『ケンゾーさんの弟子だからな、素材の目は肥えてる』


『師匠が多いと便利だな』


ゴウキ「……感謝する。……次は、この盾で、あんたを守れるようにする」


 白い人型は、サムズアップを返した。


 そして、背を向け、歩き出す。


リョウマ「……おい、待て!」


 リョウマが、呼び止めた。


リョウマ「……次も来るのか? 魔王軍とかいうのが」


 白い人型は、振り返り、少し考えて――肩を、すくめた。


『「さあね」だってさ』


『分からんよな、そんなの』


『でも来たら、また来るってことだろ』


リョウマ「……そうか。……なら、次は、俺たちが、あんたに『助けた』って言わせてやる。覚えとけ」


 白い人型は、その言葉に、しばらく静止して――


 それから、刀の柄を、ぽん、と一度、叩いた。


 挑戦を、受け取った、という仕草だった。


『かっこよ』


『無言で応えるの、様式美すぎる』


『次のセントラル配信が楽しみになったわ』


 白い姿が、暗がりに消える。


 その足取りに合わせるように、将軍のテーマが、どこからともなく、また小さく流れ始め――やがて、遠ざかっていった。


『帰りもBGM流してるw』


『退場曲まで完璧』


『あの音楽、どこから鳴ってるんだ問題、未だ未解決』


『考えるな』


『楽しめ』


『しかし今日ばかりは一つ、言わせてくれ』


『ん?』


『曲名は、絶対に、書くなよ』


『分かってる』


『分かってるからな』


『「将軍のテーマ」で通じるのが、この界隈の民度だ』


『民度が高いのか低いのか分からんw』

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