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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第42話 けん玉

「くそっ、こいつ硬い!!」


「アキラ、右! 回り込まれてる!」


「分かってる!!」


 八層。


 三人組の探索者が、じりじりと後退していた。


 相手は、体長四メートルの、岩甲羅の四足獣。


 その背は分厚い岩に覆われ、三人の刃を、ことごとく弾き返していた。


『硬すぎる』


『甲羅、傷ひとつついてないぞ』


『こいつ、正面からじゃ無理だ』


『撤退した方がいい』


『退路は? ……塞がれてるな』


アキラ「回復薬、残り一本! だ、誰か使う奴いるか!?」


「俺はまだいける! ……いや、いけない! 腕がもう上がらん!」


「盾も限界……次の突進で割れる!」


『まずい』


『これ、詰みじゃないか』


『通報した』


『間に合わないぞ、八層だ』


『誰か……頼む』


 岩甲羅の獣が、地を蹴った。


 突進。


 盾役が、割れかけの盾を構える。


 ――その、瞬間だった。


 画面の端から、白い人型が、歩いてきた。


 いつもの、白い姿。


 特別な衣装は、ない。


 ただ、その手に――赤い、けん玉を、握っていた。


『来た!!!』


『助かった!!』


『……ん?』


『え?』


『武器は?』


『手に持ってるのって……けん玉?』


『けん玉wwww』


『チェンソーは? 刀は? ロケランは?』


『なんでけん玉なんだよww』


『今日、装備を忘れてきたのか?』


 白い人型は、突進してくる岩甲羅の獣と、三人の間に、割り込んだ。


 そして――けん玉の玉を、ひょい、と持ち上げた。


 構えた。


 もしかめ、を始めるかのような、リラックスした構えで。


『構えたww』


『けん玉で何をする気だ』


『それ、四メートルの獣に効くのか?』


『効くわけないだろ』


『でも、あいつがやることだからな……』


 突進が、迫る。


 白い人型は、手首を、しなやかに、返した。


 玉が、宙を舞う。


 紐が、伸びる。


 そして、けん先が――突進してきた岩甲羅の獣の、岩に覆われていない唯一の弱点。


 その、大きな、右の目に。


 寸分の狂いもなく、突き刺さった。


 ――ギュオオオオオオ!!!


『!?!?』


『目に刺さったwwww』


『けん先で眼球ww』


『えぐい!! えぐいって!!』


『グロ注意!!』


『でも一番効く場所だ……!』


『甲羅が硬いなら目を狙う 合理的すぎる』


『合理的だけど絵面が最悪なんよ』


 獣が、悲鳴を上げてのたうつ。


 白い人型は、紐を、ぐい、と引いた。


 けん先が抜け、玉が手元に戻る。


 そして、間髪入れず。


 ――ふりけん。


 玉を大きく振り上げ、落下と同時に、けん先を、上に。


 突き上げられたけん先が、暴れる獣の、顎の下から、脳天へ向かって、突き刺さった。


『ふりけんwwww』


『技名がついてるのがまた腹立つ』


『けん玉の技で急所を突くな』


『いや、正確無比なんだけどさ』


『技の名前と結果が噛み合わなさすぎる』


 岩甲羅の獣が、ぐらり、と揺れた。


 そして、崩れ落ちた。


 二撃だった。


 三人が、あれだけ苦戦した相手が。


アキラ「……え」


「……倒れた?」


「……何が起きた?」


 三人には、何も見えていない。


 突進してきた獣が、急に悲鳴を上げ、暴れ、そして、勝手に倒れた。


 それだけだった。


アキラ「……コメント欄、頼む。何があった」


『例の白いやつが助けてくれた』


『武器はけん玉です』


『目にけん先を刺して、ふりけんで顎から脳天を貫きました』


アキラ「……すまん、もう一回言ってくれ」


『けん玉です』


アキラ「けん玉」


『けん玉です』


『二回言われても信じられんよな』


『こっちも見てて信じられんかった』


『でも事実なんだ』


 白い人型は、けん玉の玉を、けん先に、こつん、と収めた。


 そして、皿から皿へ、ぽん、ぽん、と玉を移し替え始めた。


 大皿。小皿。中皿。


 止まらない。


 もしかめ、が、延々と続く。


『始まったw』


『戦闘後に技の練習すな』


『上手いんだよなあ、めちゃくちゃ』


『リズムが一定すぎて見てて気持ちいい』


『しかし、なんでけん玉がそんなに上手いんだ』


『考えたことなかったけど、確かに謎だ』


『どこで練習したんだよ』


『ゲンさんとのチル回で……いや、けん玉はやってなかったな』


『音楽隊のセッションでもない』


『マジで謎』


 白い人型は、視聴者の疑問を知ってか知らずか。


 もしかめを続けながら、ふと、カメラの方を、見た。


 そして、けん玉を持っていない方の手の、人差し指を。


 口があるはずの場所に、そっと、当てた。


 ――しーっ。


『またそれかwww』


『秘密ですって言ってる!!』


『教える気なしw』


『気になるんだよ!!』


『検証チャンネルの時と同じジェスチャーだ』


『あいつ、はぐらかす時これやるよな』


『つまり、答えはあるってことじゃないか』


『あるけど言わない 一番もどかしいやつ』


アキラ「……あの。コメントによると、助けてくれたんですよね。ありがとうございました」


「……本当に、死ぬかと思いました。ありがとうございます」


「盾、割れる寸前だったんです。……助かりました」


 三人が、揃って頭を下げた。


 白い人型は、もしかめを一旦止め、けん玉を持ったまま、サムズアップをした。


 それから、倒れた岩甲羅の獣を指差し、次に三人を指差す。


『「素材は持って帰れ」だってさ』


『気前がいい』


『八層の岩甲羅、甲羅だけでもいい値段するぞ』


『討伐報酬、丸ごと譲る気だ』


アキラ「え、いいんですか!? ……いや、でも、倒したのは……」


『いいから貰っとけ』


『あいつ、報酬受け取れないからな』


『金も持てないし、そもそも口座がない』


『口座がない怪異』


『住所もないしな』


 三人が解体作業を始めると、白い人型は、少し離れた岩に腰掛けて、またけん玉を始めた。


 今度は、より難しい技を。


 日本一周。


 世界一周。


 灯台。


 うぐいすの谷渡り。


 全部、一度も失敗しなかった。


『技のレパートリー多すぎww』


『世界一周、完璧だった』


『灯台の静止時間、異常に長い』


『けん玉検定なら余裕で最高段位だろ』


『何段まであるんだ、けん玉って』


『調べた 十段までらしい』


『じゃあ十段だな』


『怪異、けん玉十段(推定)』


『wikiの技能欄にまた変なのが追加される』


 解体を終えた三人が、大量の素材を担ぎ上げた。


アキラ「……本当に、ありがとうございました。これ、換金したら、装備を新調します。次はもっと強くなって、こんな醜態、晒さないようにします」


 白い人型は、頷いた。


 そして、立ち上がり――手にしたけん玉を、ひょい、と、アキラに向かって、放った。


アキラ「え、わっ!?」


 慌てて受け取ったアキラの手に、赤いけん玉が、収まった。


アキラ「……え、これ。……くれるん、ですか?」


 白い人型は、両手で、けん玉を構える仕草をした。


 それから、自分の手首を、しなやかに返す動きを、繰り返し示す。


 最後に、アキラを指差し、力こぶのポーズ。


『「練習しろ」って言ってるw』


『けん玉を練習しろ?』


『いや、待て あれ多分「手首の使い方」の話だろ』


『武器の扱いに通じるってことか?』


『言われてみれば、けん玉って手首と重心の制御そのものだよな』


『真面目な指導だったのかよ今のw』


『冗談みたいな武器で、真面目な教えを残していくな』


アキラ「……手首。……確かに、俺、力任せに振ってました。……分かりました。練習します。……けん玉で」


『けん玉で強くなる探索者、爆誕』


『来週の配信、けん玉練習回になるぞ』


『見たい』


 白い人型は、満足げに頷くと、背を向けた。


 肩を揺らすいつもの歩き方で、通路の暗がりへ。


 去り際、振り返って――手ぶらのまま、玉をけん先に乗せる、あの動きの真似を、してみせた。


 持っていないけん玉で。


『エアけん玉www』


『渡した後もやるのかよ』


『技が体に染み付いてる』


『最後まで謎を残していったな』


『けん玉が上手い理由、絶対に教えてくれない』


『それでいいんだよ』


『それがあいつだ』


 白い姿が、消えた。


アキラ「……えー。本日の配信、まとめます。八層で詰みかけて、白いピクトグラムに助けられました。武器は、けん玉でした」


「まとめが意味不明すぎる」


「でも事実なんだよなあ」


アキラ「そして、けん玉をもらいました。……次回から、けん玉練習の様子も配信していきます」


『応援するわ』


『けん玉配信、需要ある』


『目指せ十段』


『師匠と同じ高みへ』


『師匠がけん玉十段って字面、字面がな』


『考えるな、楽しめ』


『でも一つだけ気になることがある』


『なんだ』


『あいつのけん玉、どこから出てきたんだ?』


『……』


『……考えるな』


『楽しめ』

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