↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/75

第41話 探検隊

「見えてきました。ここが、南方樹海型ダンジョン……通称『緑獄』です」


 画面を埋め尽くすのは、緑だった。


 巨大なシダ。絡み合う蔓。天蓋のように空を覆う樹冠。


 地面すら、苔と落ち葉に覆われて見えない。


タツヤ「『探検隊チャンネル』隊長のタツヤです。今日は隊員四名で、この緑獄の三層を目指します」


ノリコ「記録係のノリコです。……言っておきますが、この階層、討伐難易度で言えば大したことないんです。ただし」


タツヤ「死亡率が、他ダンジョンの同層比で、五倍」


『出た、緑獄』


『モンスターが弱いのに死亡率が高い異常ダンジョン』


『理由は単純 毒だよ毒』


『植物も虫も蛇も全部毒持ち』


『戦闘力じゃなくて生存力が問われる場所』


ノリコ「毒蛇、毒蜘蛛、毒花、毒キノコ、毒霧。……この階層で人を殺すのは、モンスターじゃなくて、環境です」


タツヤ「だから我々は、戦いに来たのではない。……観測に来た。以上」


『この人たち、探索者というより探検家なんだよな』


『装備がサバイバル寄り』


『毎回、生物図鑑作りみたいなことしてる』


『地味だけど好きな配信』


 四人が、樹海に、踏み入った。


 ――そして、視聴者は、五分後に、それを見つけた。


『……おい』


『上』


『樹の上』


『蔓に、白いのがぶら下がってないか』


『いるwwww』


『来たのかよこんな場所に!!』


 頭上、十数メートル。


 太い蔓を片手で掴んだ白い人型が、ぶらんぶらん、と揺れていた。


 その姿は、いつもの白ではなく――上半身が裸で、腰に、毛皮のような一枚布を巻いた輪郭に、なっていた。


『ターザンwwww』


『格好が完全にターザンww』


『郷に入れば郷に従うにも程がある』


『樹海に来たらターザンになる怪異』


『適応力が高すぎる』


 そして、白い人型は、蔓を掴んだまま、大きく、振り子のように、揺れ――


 ――あーあぁ〜。


 という、声にならない雄叫びの姿勢(胸を反らして口を大きく開ける仕草)で、次の蔓へ、飛び移った。


『やってるwwww』


『ターザンごっこ全力でやってる』


『声は聞こえないけど、絶対あの叫びやってる』


『動きだけで伝わってくるの何なんだ』


『探検隊の頭上でひたすら遊んでる』


タツヤ「……ん? コメントが騒がしいな。……『上に例のピクトグラムがいる』?」


ノリコ「ターザンの格好……? ここ、樹海ですけど……あ、そういうことですか」


『そういうことです』


『環境に合わせた衣装です』


『合わせなくていいんだよなあ』


 探検隊が進む。


 その頭上を、白い人型が、蔓から蔓へ、飛び移りながら、ついてくる。


 完全に、遊んでいた。


 ――だが。


 最初の危機は、静かに、訪れた。


 先頭を歩く隊員の、足元。


 落ち葉の中で、細長い何かが、鎌首をもたげた。


 鮮やかな赤と黒の縞。


 緑獄の名物、猛毒の蛇だった。


『!!』


『蛇!! 足元!!』


『気づいてない!!』


『あれ噛まれたら十分で死ぬやつだぞ!!』


 蛇が、跳ねた。


 ――その瞬間、頭上から、蔓が、鞭のように振り下ろされた。


 蔓の先端が蛇を叩き落とし、そのまま巻き取って、遠くの茂みへ、ぽーん、と投げ捨てる。


「うわっ!? な、何かが今、足元で……!」


タツヤ「止まれ! 全員、その場で停止!」


ノリコ「……蛇です。今、何かが蛇を弾き飛ばしました」


『助けたw』


『蔓で蛇を釣り上げて投げたぞ』


『遊んでるようで見てるんだよなあ』


『ターザンの技能、そういう使い方するのか』


『しかも殺してない 投げただけ』


 白い人型は、蔓にぶら下がったまま、探検隊に向かって、手を振った。


 それから、投げ捨てた方向を指差し、両手で「×」を作る。


『「あっちには行くな」ってさ』


『蛇の巣があるのかもしれん』


タツヤ「……なるほど。案内人がついたわけだ。……ノリコ、記録に追加。『同行者、一名(推定)』」


ノリコ「推定、ですか」


タツヤ「見えないからな」


『記録が律儀w』


『「推定」がじわじわくる』


 探検は、続いた。


 そして、緑獄の危険は、次々と、襲いかかってきた。


 ――巨大な毒蜘蛛が、天蓋から糸を垂らして降下してくれば。


 白い人型が、蔓で振り子のように加速し、蹴りで蜘蛛を弾き飛ばした。


 ――一面に咲く、甘い香りの毒花畑に、隊員が踏み込みそうになれば。


 上から落ちてきた木の実が、隊員の頭にコツンと当たって、足を止めさせた。


「いてっ! ……あれ? なんだ、木の実が……」


ノリコ「隊長、この先の花。図鑑にあります。……『眠り花』。香りを吸うと、二度と起きられません」


タツヤ「……止められたわけか。迂回する」


『木の実で警告w』


『ぶつけ方が的確』


『痛くない程度の力加減なのがまた』


 ――毒霧の吹き溜まりに差し掛かれば。


 白い人型が先回りして、太い枝を掴み、思い切り、揺すった。


 風が起き、霧が、散った。


『扇いだww』


『枝で霧を払うな……いや、正解なんだけど』


『樹海の知識どこで得たんだよ』


『ターザンだからだろ』


『理由になってねえw』


ノリコ「……記録。『同行者、有能』」


タツヤ「有能どころじゃないだろう。……我々の観測が、成立しているのは、あの存在のおかげだ」


 やがて、探検隊は、開けた場所に、出た。


 巨大な倒木が横たわる、日の差す一角。


 そして――そこに、いた。


 黒い、しなやかな巨躯。


 肩高一メートル半。


 黄金の瞳。


 ジャガーによく似た、しかし明らかにそれより大きい、樹海の頂点捕食者。


『でかい』


『緑獄の主だ』


『こいつ、毒は持ってないけど純粋に強い』


『音もなく忍び寄って首を狙うタイプ』


『四人じゃきついぞ』


タツヤ「……全員、動くな。目を逸らすな。ゆっくり、後退」


 黒い獣が、低く、身を沈めた。


 ――跳ぶ。


 その一瞬。


 頭上から、白い人型が、蔓と共に、突っ込んできた。


 振り子の勢いのまま、黒い獣の横腹に、両足で、蹴りを叩き込む。


 巨躯が、横っ飛びに、吹き飛んだ。


『割り込んだ!!』


『ターザンキックww』


『蔓の加速つきの飛び蹴り、威力えぐいだろ』


『樹海の主を蹴り飛ばすターザン』


 着地した白い人型と、体勢を立て直した黒い獣が、向かい合った。


 獣が、唸る。


 白い人型は――胸を、どんどん、と両手で、叩いた。


 威嚇の、ドラミングだった。


 (ターザンというより、別の類人猿の仕草だったが、細かいことは無しである)


『胸叩いたwwww』


『ドラミング!!』


『ターザンの守備範囲、広すぎない?』


『樹海の流儀に完全に染まってる』


 黒い獣は、その威嚇に、応えた。


 牙を剥き、再び、跳躍。


 そこからは、樹上戦だった。


 白い人型が蔓を掴んで跳べば、獣は樹を駆け上がって追う。


 枝から枝へ。蔓から蔓へ。


 緑の天蓋の中を、白い影と黒い影が、絡み合いながら、跳び回る。


タツヤ「……上だ。上で、何かが、戦っている。……枝が、揺れている」


ノリコ「私たちには、片方しか見えませんけど……あの黒いのが、明らかに、何かに追われてます」


『樹上戦、映像が最高すぎる』


『緑の中を白と黒が跳び回ってる』


『映画かよ』


『樹海の王者vsターザン、まさかの実現』


 決着は、唐突についた。


 白い人型が、一本の太い蔓を手繰り寄せ――


 獣の跳躍の着地点に、輪を、作って、待ち構えた。


 罠だった。


 着地した獣の後ろ足が、輪に、かかる。


 白い人型が、蔓を、引いた。


 黒い巨躯が、逆さまに、宙吊りにされた。


『罠wwww』


『足首縛って吊るしたww』


『原始的だけど完璧な罠』


『樹海で覚えたてのはずなのに手際が良すぎる』


『猟師の技術』


 宙吊りになった黒い獣は、しばらく暴れていたが、やがて、諦めたように、力を抜いた。


 白い人型は、その前に降り立ち、しばらく、獣を見ていた。


 それから――蔓を、解いた。


 獣は、地面に落ち、四つ足で着地し――白い人型を、じっ、と見た。


 二秒。


 そして、身を翻して、樹海の奥へ、消えていった。


『逃した』


『殺さなかったな』


『いつものリリース精神』


『「この場所の主はお前だ」ってことか』


『縄張り争いに勝って、でも命は取らない』


『樹海の流儀、そのものだな』


タツヤ「……黒いのが、走り去りました。……我々を、襲うことなく」


ノリコ「記録。『同行者、樹海の頂点捕食者を撃退。ただし殺傷せず』」


タツヤ「……観測記録としては、あまりに異常だな」


ノリコ「この配信、いつもそうです」


『それなw』


 その後の探検は、平穏だった。


 白い人型は、探検隊の先を、蔓で飛びながら進み、危険な区域を、指差しで教え続けた。


 毒キノコの群生地。


 落とし穴のような窪み。


 樹上の蜂の巣。


 四人は、一度も、危険に触れることなく、三層の観測目標地点に、到達した。


タツヤ「……到着。目標地点、樹齢不明の大樹。……ノリコ、記録を」


ノリコ「はい。……写真、計測、標本採取、完了。……隊長」


タツヤ「なんだ」


ノリコ「……今回の探検、負傷者ゼロです。緑獄で、初めてです」


 四人が、顔を見合わせた。


 そして、タツヤは、樹上の――どこにいるかは分からない――同行者に向かって、帽子を、取った。


タツヤ「……感謝する。あなたのおかげで、我々は、生きて記録を持ち帰れる」


 樹上から、蔓が一本、するすると降りてきた。


 その先に、大きな果実が、括り付けられていた。


 四つ。


『お土産w』


『果実くれたぞ』


『しかも人数分ある』


ノリコ「……食べられる種類ですね。図鑑にあります。緑獄の甘果。……美味しいらしいですけど、樹の上にしかならないので、採取例が少ない」


タツヤ「……ありがたく、いただこう」


 四人が、果実を受け取る。


 樹上では、白い人型が、五つ目の果実を、自分でかじっていた。


『自分の分も採ってるw』


『ちゃっかりしてる』


『ターザン、完全に樹海に馴染んでる』


『食生活まで適応するな』


 帰り道。


 白い人型は、蔓から蔓へ、探検隊を先導し続けた。


 そして、ゲートが近づいた頃。


 最後の蔓を掴み、大きく、大きく、振り子のように揺れて――


 ――あーあぁ〜。


 の姿勢を、これまでで一番、大きく、決めた。


 そして、その勢いのまま、樹海の奥へ、飛び去っていった。


『最後にキメて帰ったwww』


『ターザン、樹海に還る』


『声は聞こえないのに、絶対あの叫びしてた』


『こっちの脳内で完全再生されてる』


タツヤ「……行った、か」


ノリコ「記録、最後の一文。……『同行者、樹海へ帰還。所属不明』」


タツヤ「……いい記録だ。以上、本日の探検を終了する」


『お疲れ様でした』


『今日の緑獄回、良かったな』


『毒と危険だらけの場所が、あいつがいると冒険譚になる』


『しかし衣装のバリエーション、どこまであるんだ』


『医者、工事、忍者、審判、僧侶、指揮者、ターザン……』


『節操がない』


『節操がないから面白いんだよ』


『wikiの衣装欄、更新しといたぞ』


『「ターザン(緑獄仕様)」で登録した』


『仕様って何だよw』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。