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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第37話 産廃処理

「えへへ……皆さん、こんばんは。ミサキです。配信、五十回目になりました!」


 画面に映るのは、あの、暴漢から救われた駆け出し配信者――ミサキだった。


 あれから、彼女は変わった。


 装備は使い込まれ、動きから硬さが消え、登録者は十五万を超えていた。


ミサキ「今日は記念配信ってことで、初めての三層、行ってみようと思います! ……あの事件から、ちゃんと鍛えましたから! スクワットも毎日やってます!」


『五十回おめでとう!!』


『あの事件から本当に強くなったよな』


『「鍛えろ」の力こぶ、ちゃんと守ってるの偉い』


『毎日スクワット報告、もう名物になってる』


『でも三層は気をつけろよ 無理すんなよ』


ミサキ「大丈夫です! 慎重に行きます! ……それに、ほら。何かあったら、また……なんて。あはは、冗談です。自分の身は自分で守ります!」


『頼る気満々の顔してたぞ今』


『冗談(本音)』


『まあ、気持ちは分かる』


 探索は、順調だった。


 小型モンスターを、危なげなく二体、処理。


 動きは、五十回分の成長を、確かに示していた。


ミサキ「ふう……よし! 見ました!? 今の、綺麗に決まりましたよね!?」


『決まってた!!』


『成長してる〜』


『初期のミサキちゃんからは考えられん』


 ――その配信を、見ている者の中に、それは、いた。


 視聴者ではない。


 三層の、通路の陰。


 ミサキの進む先で、身を潜める、三つの人影。


『……おい』


『画面の奥、見えたか今』


『見えた 通路の先の岩陰、人がいる』


『三人だ 全員、顔を隠してる』


『……嘘だろ、またかよ』


『ミサキちゃん、狙われすぎだろ!!』


『有名になったからだ 十五万人の配信者なら、身代金でも脅迫でも金になると思う奴が出る』


『通報した!!』


『俺も!!』


『ミサキちゃん、止まれ!! その先、待ち伏せがいる!!』


 ミサキが、コメントの異変に、気づいた。


ミサキ「……え? 待ち伏せ……?」


 足を、止める。


 だが、遅かった。


 前方の岩陰から、二人。


 そして、いつの間にか回り込んでいた背後から、一人。


 覆面の男たちが、姿を現した。


「……よお、有名人。騒ぐなよ」


「大人しくしてりゃあ、痛い目は見ねえ。……ちょいと、付き合ってもらうだけだ」


ミサキ「……っ!」


 ミサキは、武器を構えた。


 その手は、震えていた。


 だが、あの日のように、腰は抜けていなかった。


ミサキ「……い、嫌です。付いていきません。……来るなら、戦います」


「……はっ。強がっちゃって。三対一だぜ?」


『ミサキちゃん……!』


『構えた あの子、ちゃんと構えたぞ』


『成長してる でも三対一は無理だ』


『誰か!! 近くの探索者!!』


『くそ、三層の奥、人がいない……!』


『……頼む』


『頼む、来てくれ!!』


 男たちが、じり、と距離を詰めた、その時。


 ――ブロロロロロ……。


 低い、重い、エンジン音が、通路の奥から、響いてきた。


『……ん?』


『エンジン音?』


『バイク? いや、もっと重い……』


『何の音だこれ』


 男たちも、足を止めた。


「……おい、なんだこの音」


「車……? ダンジョンに? んなわけ……」


 音が、近づいてくる。


 ゆっくりと。


 地響きを、伴って。


 そして、通路の角から――それは、現れた。


 巨大な、鉄の円筒。


 黄色い車体。


 ゆっくりと、しかし確実に、大地を平らに均しながら進む――


 ロードローラーだった。


 その運転席に、工事用ヘルメットを被った、白い人型が、座っていた。


『!?!?!?』


『ロードローラーwwwwww』


『重機!!! 重機で来た!!!』


『どこから持ってきたんだよ!!!』


『通路をどうやって通ってきたんだ!!』


『細かいことは無しだ!! 来てくれた、それが全てだ!!』


『工事現場のピクトグラムの最終形態』


ミサキ「……え? ……ろ、ロードローラー……? なんで……? え?」


 ミサキにも、見えていた。


 運転手は見えない。


 だが、無人のはずのロードローラーが、ゆっくりと、確実に、こちらへ進んでくる、その光景は。


「な……なんだありゃあ!!」


「無人で動いてるぞ!?」


「や、やべえ!! 逃げ……」


 男たちが、背を向けた。


 ロードローラーの速度が――上がった。


 重機とは思えぬ加速で、逃げる三人との距離を、みるみる詰めていく。


『速い!!』


『ロードローラーってあんな速度出るのか!?』


『出ません あいつが運転してるから出るんです』


『物理法則は今日も定時退社』


 一人目が、鉄の円筒に、追いつかれた。


 ――踏まれた。


 正確には、地面が柔らかい土のエリアだったため、身体が、めり込んだ。


 首から上だけを地上に残して、綺麗に、土に、埋まった。


「ご……ごぼっ……な、なんだこれ……抜けねえ……!!」


『埋まったwwwww』


『土に埋めたwww』


『首だけ出てるの、畑の大根かよ』


『犯罪なんて土に埋めてしまえ!!』


『埋設完了、一名』


 二人目が、悲鳴を上げて、脇道に逸れようとした。


 ロードローラーが、信じられない小回りで、旋回した。


 進路を塞がれ、たたらを踏んだ二人目の足元へ、円筒が、迫る。


「ひっ……ひいいい!!」


 ――ずん。


 二人目も、隣に、埋まった。


 一人目と、仲良く、首だけを並べて。


『二本目の大根、収穫……じゃなくて埋設』


『畑が育っていく』


『並べ方が几帳面なんよ』


『等間隔で埋めるな』


 最後の一人は、腰を抜かして、へたり込んでいた。


「く、来るな……来るなああ!! 俺が悪かった!! 謝る!! 謝るからぁ!!」


 ロードローラーは、男の目の前で、静かに、停止した。


 運転席から、ヘルメットの白い人型が、ひょい、と降りる。


 男の襟首を、片手で掴み。


 二人の隣まで、ずるずると引きずっていき。


 空いたスペースに、足から、ずぼり、と差し込んだ。


 手作業での、埋設だった。


 最後に、周りの土を、ぽんぽん、と手で固める。


『三本目、手植えwwww』


『丁寧な作業』


『土を固める仕草が完全に園芸』


『大根畑、完成である』


『犯罪者三名、適切に埋設処理されました』


『工事現場の産廃処理は適切に!!』


『産廃言うなw いや、産廃か……』


 通路には、首だけを地上に出した三人の男が、一列に、並んでいた。


 三人とも、青ざめた顔で、じたばたと、もがいている。


 抜けない。


 ロードローラーで転圧された土は、固かった。


 ヘルメットの白い人型は、その仕上がりを確認すると、満足げに、両手をぱんぱんと払った。


 そして、へたり込んだままのミサキに、向き直った。


ミサキ「……あ……あの……」


 ミサキは、震える声で、言った。


ミサキ「……また……また、助けてくれたんですね。……あなた、ですよね? あの時の……」


 白い人型が、ヘルメットのつばに手を当てて、頷いた。


 それから、ミサキの構えた武器を指差し、力こぶのポーズをして、サムズアップ。


『「ちゃんと構えられるようになったな」って言ってるぞ』


『成長を褒めてる』


『スクワットの成果、見てもらえたな』


『師匠面が板についてきた』


ミサキ「……っ、はい! 毎日、鍛えました! ……でも、今日も、結局、助けてもらっちゃいました。……ありがとう、ございました!」


 ミサキが、深々と頭を下げた。


 白い人型は、頷いて――それから、ロードローラーの方へ、歩き出した。


 運転席に、ひょい、と乗り込む。


 エンジン音が、再び、響いた。


 ロードローラーは、器用に切り返して、埋まった三人の横を通り過ぎ――三人が全力で首をすくめた――去り際に、運転席からミサキへ、もう一度サムズアップを残して、通路の奥へと消えていった。


『帰りも横を通るのやめたげてw』


『三人、生きた心地しないだろうな』


『それも罰のうちだ』


『重機、どこに返すんだろう』


『レンタルなのか? 私物なのか?』


『wikiの所持品欄に「ロードローラー(所有権不明)」追加で』


 エンジン音が、遠ざかっていく。


ミサキ「……行っちゃった……」


 ミサキは、ロードローラーの消えた通路の奥を、じっ、と見つめていた。


 長いこと。


 そして、ゆっくりと、カメラに向き直った。


 その顔に浮かんでいたのは――満面の、笑みだった。


ミサキ「……えへへ。また、会えちゃいました」


『……ん?』


『よかったな、ミサキちゃん……ん?』


『「また会えちゃいました」……?』


ミサキ「五十回記念に、三層。……来て、よかったです。ふふ。ふふふ」


『……なあ』


『どうした』


『いや、ちょっと待ってくれ。冷静に考えたいことがある』


『何を』


『ミサキちゃん、今日、なんで急に三層に来たんだ?』


『五十回記念だからだろ』


『彼女の実力なら二層が適正だ。本人も慎重派だった。なのに今日、急に一段深い層に、単独で』


『……記念だからじゃないのか』


『配信の冒頭、思い出せ。「何かあったら、また……なんて」って言ってた』


『冗談だって本人が』


『冗談……だったのか? あれ』


ミサキ「あ、そうだ! 埋まってる三人、警備の人呼んできますね! ……ふふ、今日はいい日だなあ」


 ミサキが、スキップ気味に、ゲートの方へ走っていった。


 鼻歌まじりで。


 襲撃された直後とは思えない、足取りで。


『……スキップしてる』


『襲われた直後だぞ? 普通、もっと怖がるだろ』


『前回の襲撃の時は、あんなに震えてたのに』


『今日は、震えてた……か? 構えはしてたけど』


『言われてみれば、妙に落ち着いてた気がしてきた』


『おいおいおい、やめろ、考えすぎだ』


『でもさ……「何かあったら、また会える」って知ってる子が、わざと危ない場所に行くのって……』


『やめろって!!』


『毎日スクワット報告してるのも、「見ててください」って言ってたのも、全部あいつに向けて……?』


『健気なファンだと思ってたものが、急に別の色に見えてきた』


『いや、断定はできない。偶然かもしれない。記念配信で張り切っただけかもしれない』


『そうだ、そうに決まってる』


『……でも、さっきの笑顔、見たか?』


『見た』


『助かった安堵の笑顔……ではなかった気がする』


『「会えた」ことを喜ぶ笑顔だったんだよな、あれ』


『助かったことより、会えたことが本題の顔』


『なんか寒気がしてきた』


 ――そこへ、警備員を連れたミサキが、戻ってきた。


ミサキ「この三人です! 埋まってるので、掘り出してあげてください! あ、罪状は襲撃未遂と、多分余罪もあるので、しっかり調べてくださいね! ……ふふふ」


「は、はあ……。埋まって……? え、どうやって……」


ミサキ「見えない優しい人が、ローラーで、ぎゅーって」


「……はい?」


 警備員の困惑をよそに、ミサキは、鼻歌まじりに、カメラへ手を振った。


ミサキ「というわけで、五十回記念配信、無事(?)終了です! 皆さん、見てくれてありがとうございました! 次の記念は……百回、ですね。百回記念は……もっと深い層、挑戦しちゃおうかなあ? えへへ」


『『『やめろ!!!』』』


『もっと深い層に行くな!!』


『その動機で深層に行くな!!』


『会いに行く手段が「危険な目に遭う」なのやめて!!』


『ヤンデレの才能があるぞこの子』


『才能っていうか、もう開花してないか?』


ミサキ「え〜? 皆さん、どうして止めるんですかあ? 挑戦は、いいことですよ? それに、ほら……何かあっても、きっと、大丈夫ですし」


 ミサキは、にっこりと、笑った。


 画面越しにも、伝わる。


 その笑顔の、揺るぎない、確信が。


『「きっと大丈夫」の根拠が怖い』


『信仰に近い何かを感じる』


『あいつ、とんでもない信者を育ててしまったのでは』


『助けた責任、取ってくれよな……』


『この世界には、知らない方がいいことがある』


『それな』


『考えるな、楽しめ』


『今日ばかりはその合言葉、自分に言い聞かせる呪文になっとるわ』


『切り抜きタイトル:「産廃処理」』


『サムネは……ミサキちゃんの最後の笑顔で』


『やめろ、怖いから』


『大根畑の方にしとけ』

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