第36話 最強
「はぁ〜い、皆さまごきげんよう〜。『サロン・ド・アビス』の時間よぉ」
画面に映るのは、三人の――大柄で、筋肉質で、しかし完璧なメイクを施した、お姉さまたちだった。
ローズ「リーダーのローズよ。ご新規さんのために言っとくわね。アタシたち三人、見ての通りのオカマよ。文句があるなら、かかってらっしゃい?」
ローズが、艶やかにウインクした。
その手に握られているのは、彼女の身長ほどもある、巨大な戦斧だった。
サファイア「サファイアで〜す。あら、今日も視聴者さん多いじゃなぁい。嬉しいわぁ」
ダイヤ「ダイヤです。……さ、今日も参りましょう」
『来た、最強のサロン』
『今日も麗しい』
『初見に説明:このオカマ三人組、三十層探索者です』
『そう、国内で三十層に潜れるの、勇者パーティ含めて数組しかいない』
『その一角がこのお姉さまたちという事実』
『世界のバグと言われる所以である』
『ウインクと戦斧のギャップよ』
『得物が全員規格外なんだよな』
『ローズ姐さん:大戦斧 サファイア姐さん:大鎚 ダイヤ姐さん:大薙刀』
『火力の暴力を華麗にスマートに振るう三人』
三人は、ゲートをくぐり、慣れた足取りで階層を下っていった。
その道中。
十層あたりで、若い探索者の四人組と、すれ違った。
四人組は、三人を見て、一瞬、固まった。
「……あ、あの、もしかして、サロン・ド・アビスの皆さんですか!?」
サファイア「あらぁ、知っててくれてるの? 嬉しいわねえ」
「は、はい! いつも配信見てます! あの、俺たち、今日初めて十層に挑むんですけど……」
ローズ「あら、初挑戦なの。おめでとう。……ちょっと待ってらっしゃいな」
ローズは、四人の装備を、ざっ、と見渡した。
ローズ「……あなた、盾の持ち手、緩んでるわよ。締め直しなさい。それと、そっちの子。回復薬の位置が奥すぎ。緊急時に三秒で取り出せる場所に入れ替えて。三秒で命が分かれるのが十層よ」
「は、はい!!」
ダイヤ「……それと、十層の東ルートは今週、大型の目撃が続いています。西から回りなさい。遠回りですが、確実です」
「あ、ありがとうございます!!」
サファイア「気をつけて行ってらっしゃ〜い。無理だと思ったら、逃げるのよ〜。逃げるのは恥じゃないわ。死ぬのが一番の恥……いえ、恥ですらない、ただの悲しみよ」
四人組は、何度も頭を下げて、去っていった。
『指導が的確すぎる』
『装備チェックからルート情報まで』
『通りすがりの後輩への面倒見が良すぎるんよ』
『「死ぬのが一番の悲しみ」、重みが違う』
『三十層まで潜る人の言葉だからな』
ローズ「……ふふ。可愛いわねえ、若い子は。アタシたちにも、ああいう頃があったのよ」
サファイア「あったわねえ。……あの頃は、ダンジョンの中の方が、外より居心地よかったわぁ」
ダイヤ「……モンスターは、人を選びませんから。強いか、弱いか。それだけです」
『……』
『さらっと重いこと言うのやめて』
『この人たちの経験してきたもの、こっちの想像を超えてるんだろうな』
ローズ「あらやだ、湿っぽくなっちゃった。……いいのよ、皆さん。全部、乗り越えてきた話。今のアタシたちは、こうして最高に美しくて、最高に強い。それが答えよ」
サファイア「オカマは最強! これぞ世界の真理よぉ!」
ダイヤ「……真理です」
『真理いただきました』
『説得力が三十層』
『かっこいいんだよなあ、まじで』
二十五層。
この階層まで来ると、通路の空気そのものが、重い。
現れたのは、体長六メートルの、鎧のような外殻を持つ甲殻獣だった。
並のパーティなら、全滅級。
ローズ「あら、お出ましね。……サファイア、ダイヤ、いつも通りよ」
サファイア「は〜い」
ダイヤ「……ええ」
戦闘は、舞踏だった。
ダイヤの大薙刀が、流水のような軌跡で甲殻の継ぎ目を撫で、外殻の固定を断つ。
サファイアの大鎚が、緩んだ甲殻を、一撃で、打ち剥がす。
剥き出しになった急所へ――ローズの大戦斧が、回転を伴った一閃で、吸い込まれた。
六メートルの巨体が、三手で、沈黙した。
着地したローズは、乱れた髪を、指先で、すっ、と直した。
ローズ「……ふう。お化粧、崩れてないかしら」
『三手wwww』
『二十五層の甲殻獣が三手』
『しかも動きが全部美しい』
『「華麗にスマートに」を体現してる』
『戦闘後の第一声がお化粧の心配なの、強者すぎる』
――その戦闘を。
少し離れた岩の上から、拍手している、白い人型がいた。
『!!』
『いた!!』
『いつから見てた!?』
『甲殻獣戦の途中からいたぞ』
『三十層勢の戦闘を観に来たのか』
『あいつ、強い奴の動きは必ず見に来るからな』
ローズ「……あら? コメントの様子……。ふふ。来てるのね、あの噂の子」
サファイア「あらやだ! 白いピクトグラムちゃん!? どこどこ〜?」
『岩の上です』
『姐さんたちの右手側』
『拍手してました』
ローズ「あらあら、拍手してくれてたの。ありがとねえ。……ねえ、あなた。せっかくだから、ご一緒にどう? この先、三十層まで行くのよ」
白い人型は、少し考える素振りをして――こくり、と頷き、岩から飛び降りて、三人の隣に並んだ。
『同行決定w』
『三十層への招待、即決で受けた』
『あいつも三十層は初かもしれんな』
『最強パーティ+1、結成』
道中、白い人型は、三人の戦闘を、食い入るように観察していた。
ダイヤの薙刀さばきを、手振りでなぞる。
サファイアの大鎚のフォームを、真似る。
ローズの回転斬りに至っては、その場でくるくる回って練習を始めた。
サファイア「あらぁ、コメントによると、この子、アタシたちの技を練習してるんですって? 可愛いわねえ〜」
ダイヤ「……見て盗む。良い心がけです」
ローズ「ふふ。なら、ちゃんと教えてあげましょうか。……いい? 回転はね、腰から入るのよ。腕じゃないの。腰。こう」
ローズが、ゆっくりと、回転のフォームを分解して見せた。
白い人型が、それを、なぞる。
一度。二度。
三度目には、ローズのフォームと、寸分違わぬ回転になっていた。
『覚えるの早すぎるw』
『三回で完コピ』
『ローズ姐さん直伝の回転斬り、習得』
『師匠がまた増えた』
『wikiの師匠欄、もうパンパンだぞ』
ローズ「……あら。コメントによると、もう完璧ですって。……やだ、この子、天才じゃない」
そして、三十層。
空気が、変わった。
重圧そのものが、質量を持っているかのような階層。
その最奥の広間で、それは、待っていた。
体長十二メートル。
三対六本の腕を持つ、岩の巨人だった。
六つの腕それぞれが、岩の柱を、武器として握っている。
単眼が、侵入者たち――三人のお姉さまだけを、ぎょろり、と見据えた。
白い人型の存在には、気づいていない。
『でかい』
『六本腕とか、どう捌くんだよ』
『三十層の主クラスか』
『こいつには白いやつ、見えてないっぽいな』
『骸骨やリッチみたいな看破持ちは、やっぱり別格の例外なんだ』
『つまり、こっちには見えない味方が一枚いるってことだ』
ローズ「……あらあら。今日のボスちゃんは、腕が多いこと」
サファイア「六本ねえ。……取り分で揉めそうだわぁ」
ダイヤ「……二本ずつ、です」
ローズ「あら、ちょうどいいと思ったけど……今日は四人よ?」
ローズは、隣の白い人型に、ウインクした。
ローズ「ねえ、あなた。六本を四人で割ると、余りが出ちゃうの。……余った分は、一番働いた子にあげる。それでどう?」
白い人型が、力強く、頷いた。
そして、素早く画面の端へ走り、消え――チェンソーを担いで、戻ってきた。
『戦闘装備に着替えてきた』
『やる気満々』
『余りの争奪戦、開幕である』
巨人の六本腕が、一斉に、振り上げられた。
岩の柱の乱打が、広間を、砕きにかかる。
四人は、四方に散った。
ダイヤの薙刀が、一本目の腕の関節を、流麗に断つ。
サファイアの大鎚が、二本目を、真正面から、打ち砕く。
ローズの戦斧が、回転と共に、三本目と――勢い余って、四本目まで、まとめて薙ぎ払った。
ローズ「あら。二本いっちゃった」
サファイア「ローズ!! あんた抜け駆けは無しよ!!」
ローズ「うふふ、実力よぉ」
『姐さんたちも取り合いするのかよw』
『二十六層の狂人と同じことしてる』
『強者は皆、獲物に貪欲』
残る腕は、二本。
巨人は、腕を四本失ってなお、その原因の一つを、把握できずにいた。
視えない何かに、腕を断たれ続けている。
単眼が、混乱したように、広間中を、彷徨う。
『巨人、混乱してるな』
『そりゃそうだ 四本のうち一本は「誰もいない場所」から断たれてるんだから』
『見えない斬撃、受ける側からしたら悪夢だろ』
白い人型のチェンソーが、五本目の腕に、食い込んだ。
ローズ直伝の、腰から入る回転。
習ったばかりの技で、岩の腕が、断ち切られる。
『使ったw』
『さっき習った回転斬り、実戦投入』
『ローズ姐さん、嬉しそうに見てる』
『師匠冥利に尽きるだろうな』
最後の一本を、巨人は、渾身の力で、振り下ろした。
狙いは、目の前の三人のうち、最も多く腕を奪った――ローズ。
届く前に。
ダイヤ「……させません」
滑り込んだダイヤの薙刀が、柄を斜めにして、岩の柱を受け流した。
軌道が、逸れる。
サファイア「隙、もーらいっ!!」
サファイアの大鎚が、がら空きの単眼の、真下の顎を、打ち上げた。
巨人が、仰け反る。
ローズ「……フィナーレよ!! あなた、一緒に!!」
ローズと、白い人型が、同時に、跳んだ。
左右から。
二つの回転が、対に。
大戦斧と、チェンソーの、同時の一閃が――巨人の最後の腕ごと、その胴を、袈裟に、断った。
十二メートルの巨体が、轟音と共に、崩れ落ちた。
静寂。
舞い上がる土煙の中、着地した二人が、同じ動作で、髪(片方にはないが)を、すっ、と直した。
『『『討伐ーーー!!!』』』
『師弟の同時回転斬り!!』
『美しすぎるフィナーレだった』
『土煙の中で髪直すの、二人ともやったぞw』
『仕草まで弟子入りしてるww』
『巨人、最後まで四人目の存在を知らないまま逝ったんだよな』
『死因:不明(本人視点)』
ローズ「……ふう。いい汗かいたわね。……で、腕の数、数えましょうか。ダイヤが一本、サファイアが一本、アタシが二本と、フィナーレの半分で二本半。あなたが一本と、半分で一本半」
サファイア「ちょっと〜! やっぱりローズが一番多いじゃないのよ〜!」
ローズ「実力って言ったでしょ〜? うふふ」
『配分でまた揉めてるw』
『白いやつも指折り数えて確認してる』
『1.5本で納得したっぽい 意外と潔い』
『ライガの時とえらい違いだな』
『師匠には逆らわないタイプなんだろ』
帰り道。
四人は、並んで、階層を登っていった。
ローズ「……ねえ、あなた。今日は楽しかったわ。あなた、筋がいいもの。……また、いらっしゃいな。今度は、ダイヤの薙刀も教えてもらうといいわ」
ダイヤ「……いつでも」
サファイア「アタシの大鎚もね〜! あ、でもあなた、得物がチェンソーだから、鎚はいらないかしら?」
白い人型は、少し考えて――両手で、全部、を示すように、三人を順に指してから、自分の胸を叩いた。
『「全部教わりたい」だってさ』
『貪欲w』
『向上心の塊』
『三十層の技術を吸収していく怪異、末恐ろしい』
ローズ「あらあら、欲張りさん。……いいわよ。教えてあげる。アタシたちの技は、隠すもんじゃないもの」
ゲートの光が、見えてきた。
白い人型は、足を止め、三人に向き直った。
そして――ローズのウインクを、真似た。
顔はない。
だが、片手を頬に添えて、首を傾げる、その仕草は、紛れもなく、ウインクの再現だった。
『ウインクの真似したwwww』
『仕草の完コピww』
『顔がないのに伝わるのすごい』
『お茶目か』
ローズ「……あらやだ!! この子ったら!! アタシのウインク真似したの!? ……ふふ、あははは!! いいわねえ!! 合格よ、合格!!」
サファイア「あははは!! 気に入ったわ〜!!」
ダイヤ「……ふ。……面白い子です」
三人の笑い声に送られて、白い姿が、暗がりへと消えていった。
ローズ「……さて、皆さん。本日の配信、いかがだったかしら。三十層の主も倒したし、可愛い弟子もできたし……大満足の一日ね」
サファイア「次回は〜、素材の換金と、打ち上げ配信よ〜!」
ダイヤ「……お疲れ様でした」
『お疲れ様でした!!』
『最高の回だった』
『改めて思うけど、このオカマ三人組が三十層探索者って、やっぱり世界のバグだろ』
『バグじゃない 実力だ』
『「オカマは最強」、今日も証明されてしまった』
『世界の真理、更新なし(元から真理なので)』
『あいつの師匠欄:ゲンさん、ケンゾー、ローズ姐さん(New!)、ダイヤ姐さん(仮)、サファイア姐さん(仮)』
『英才教育を受けすぎている』
『各分野の最強から技術を吸収する怪異、最終的にどこまで行くんだ』
『考えるな、楽しめ』




