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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第38話 ダンジョン音楽隊

「はい皆さんこんにちは〜! 『ダンジョン楽器工房』のカナタです!」


「同じく、リズム担当のテンマです」


「ボーカルとフルート担当、ウタです〜♪」


「ベース担当、モクです。……よろしく」


「鍵盤とアコーディオン担当、ヒビキで〜す!」


 ゲート前に、五人の男女が並んでいた。


 その装備が、異様だった。


 武器はある。防具もある。


 だが、それ以上に――背中や腰に、ギター、太鼓、笛、ベース、アコーディオンが、括り付けられていた。


カナタ「僕たちのチャンネルは、ダンジョン素材で楽器を作る、世界唯一の工房系配信です! 本日の狙いは、二つ!」


テンマ「一つ、大蜘蛛の糸! 弦楽器の弦にしたら、どんな音が鳴るのか!」


ウタ「二つ、トレントの木材〜! 魔力を帯びた木で作るギターのボディ、夢ですよね〜♪」


モク「……糸は、ベースの弦にも欲しい。太いやつ」


ヒビキ「トレント材でアコーディオンの蛇腹枠も作りたいんだよね〜!」


『来た、変態工房』


『褒めてるからな、変態は』


『前回のスライム太鼓、いい音だったよな』


『素材の入手から製作、演奏まで全部やるチャンネル、確かに世界唯一だわ』


『問題は、素材集めの間ずっと演奏しながら歩くことなんだよな』


カナタ「そして、我々のポリシーは! 『道中も、音楽と共に』!! 行進曲、いきます! せーのっ!」


 カナタのギターが、軽快なコードを刻んだ。


 テンマの肩掛け太鼓が、リズムを乗せる。


 モクのベースが、低音で土台を支え、ヒビキのアコーディオンが和音を広げ、ウタのフルートが、旋律を吹き上げた。


 五人は、演奏しながら、ゲートをくぐった。


『始まったw』


『ダンジョンに響く行進曲』


『モンスター寄ってくるだろこれ』


『それが不思議と、音に驚いて逃げる個体の方が多いらしい』


『そういう検証まで済ませてるのがこのチャンネルの強さ』


 ――そして、視聴者は、開始三分で、それを見つけた。


 行進する五人の、最後尾。


 いつの間にか、白い人型が、列に加わって、歩いていた。


 行進のリズムに、完璧に合わせて。


『wwwwww』


『もういるwwww』


『そりゃ来るよな!!』


『音楽鳴らしながら進むなんて、あいつが釣れないわけがない』


『撒き餌に全力で食いつく魚』


『行進が六人になってる』


カナタ「お、コメントが騒がしい……え、来てる!? もう!? 例の!?」


ウタ「わあ〜♪ 音楽好きなんですね、やっぱり〜♪」


テンマ「……列の最後尾? よし、なら、こうだ」


 テンマは、行進しながら、背中の荷物から、予備のタンバリンを取り出した。


 そして、演奏を止めずに、後ろへ、ぽい、と放った。


 タンバリンは、宙で、ぴたり、と受け止められた。


 次の瞬間から――行進曲に、シャン、シャン、と、完璧なタイミングのタンバリンが、加わった。


『受け取ったw』


『即戦力ww』


『タンバリンの音、正確すぎる』


『リズム感が怪異』


『怪異だからな』


カナタ「音が増えた!! 合ってる!! 完璧に合ってます!! ようこそ、ダンジョン音楽隊へ!!」


 六人編成となった音楽隊は、賑やかに階層を下っていった。


 三層で、大蜘蛛の巣を発見。


 戦闘中も、テンマのリズムは止まらない。


 むしろ、戦闘のテンポに合わせて、曲調が変わった。


 疾走感のある、戦闘曲へ。


 モクの重低音が、緊張感を煽り、ヒビキのアコーディオンが、旋回するような音階で戦場を彩る。


 白い人型は、タンバリンを叩きながら、合間に大蜘蛛の脚を、蹴りで的確に払っていった。


『戦闘中も演奏やめないのすごい』


『BGM付き戦闘、贅沢すぎる』


『タンバリン叩きながら蹴りで援護するな』


『両立できるのがおかしいんよ』


『戦闘曲、live演奏で聴けるの世界でここだけだろ』


 大蜘蛛は、討伐された。


 カナタが、慎重に糸を採取していく。


カナタ「……取れました! 大蜘蛛の糸! 見てくださいこの張り! 軽く弾くと……」


 カナタが、糸をピンと張って、指で弾いた。


 ――ヴィン。


 澄んだ、それでいて深みのある振動音が、鳴った。


カナタ「……いい。いい音です。これは……いい弦になりますよ……!」


ウタ「鳥肌立ちました〜!」


モク「……ベース用に、太いのも。……ん、ある。最高」


『音、配信越しでも良さが分かった』


『素材段階でこの音かよ』


『完成品が楽しみすぎる』


 白い人型も、糸を一本もらって、指で弾いていた。


 こく、こく、と頷きながら。


『あいつも品定めしてるw』


『音の良し悪しが分かるんだよな、こいつ』


『サンバとジャズと般若心経を使い分ける奴だからな』


『音楽的素養が謎に高い』


 五層。


 トレントの群生地。


 動く木々との戦闘を経て、良質な木材も、無事に確保された。


テンマ「目標達成! じゃあ、恒例の……採取成功セッション、やりますか!」


カナタ「やりましょう! 今日は六人編成ですからね! 豪華にいきますよ!」


 開けた広間で、即興のセッションが、始まった。


 ギター、太鼓、フルート、ベース、アコーディオン、タンバリン。


 六つの音が、絡み合い、跳ね回り、ダンジョンの岩壁に反響していく。


 白い人型は、タンバリンを叩きながら、リズムに乗って、肩を揺らし、時にステップを踏んだ。


 サンバの時の、あの陽気な揺れ方だった。


『楽しそうww』


『ダンジョン奥地のライブ会場』


『音の反響がホールみたいで良い』


『あいつのステップ、完全にノリノリ』


『幸せな空間だなあ』


 ――その音に、釣られたのは、視聴者だけではなかった。


 セッションの最中。


 広間の奥の暗がりで、何かが、動いた。


『ん?』


『奥、なんかいる』


『モンスターか? 逃げる準備を……』


『いや、待て』


『……何だ、あれ』


 暗がりから、ゆっくりと、姿を現したもの。


 それは、体長二メートルほどの――鳥だった。


 だが、ニワトリでも、プロテイン鳥でもない。


 孔雀のような、長く豪奢な尾羽。


 その尾羽の一枚一枚が、薄く、硬質に透き通り――風に揺れるたび、りん、りん、と、ガラス細工のような澄んだ音を、鳴らしていた。


 全身の羽毛は、淡い虹色。


 歩くだけで、音が生まれる、鳥だった。


『!?!?』


『なにあれ』


『綺麗……』


『尾羽が鳴ってる!? 楽器みたいな音してるぞ!?』


『調べた 該当なし 未確認個体だ』


『また新種か!?』


カナタ「……え。……え!? なんですか、あの子!? 綺麗……いや、それより、あの音!! 聞きました!? 尾羽が、鳴って……!!」


テンマ「静かに! 演奏、止めるな! ……あの子、音に、釣られて出てきたっぽい」


 テンマの読みは、正しかった。


 虹色の鳥は、セッションの音に、じっ、と聞き入っていた。


 首を傾げ、リズムに合わせて、ちょん、ちょん、と足踏みをする。


 そのたび、尾羽が、りん、りん、と鳴った。


 その音が――偶然にも、セッションの調と、合っていた。


『合ってる!!』


『鳥の音が曲に合ってる!!』


『セッションに参加してきてる!?』


『尾羽の音、天然のウィンドチャイムだ』


『美しすぎるだろこの空間』


ウタ「……皆さん、続けて。……あの子と、合わせてみます」


 ウタのフルートが、鳥の尾羽の音階を、そっと、なぞった。


 鳥が、ぴくり、と反応した。


 そして――尾羽を、大きく、広げた。


 りりん、と、和音が、鳴る。


 フルートが、応える。


 尾羽が、鳴る。


 問いかけと、応答。


 人と鳥の、即興の掛け合いが、始まった。


『セッション成立してる……』


『鳥と会話してる、音楽で』


『鳥肌が止まらん』


『これ、歴史的映像なのでは』


 白い人型は、いつの間にか、タンバリンを叩く手を、止めていた。


 静かに、その掛け合いに、聞き入っている。


 そして、掛け合いが一区切りついたところで――そっ、と、鳥に近づいた。


 鳥は、逃げなかった。


 白い人型が、手を、ゆっくりと差し出す。


 鳥は、その手に、頭を、すり、と寄せた。


『!!』


『懐いた』


『初対面で!?』


『音楽仲間だと認識されたんじゃないか』


『さっきまで一緒にセッションしてたからな』


『音楽は、種族の壁を越える……今日二回目の証明』


カナタ「……なんか、あの子の周りだけ、空間が撫でられてるように見えるんですけど……あ、そうか、例の方が」


『そうです』


『今、頭を撫でてもらってます』


『めちゃくちゃ気持ちよさそうに目を細めてる』


 そして、白い人型は、五人の方を振り返った。


 鳥を指差し、それから、五人の楽器を、順に指差す。


 最後に、両手で、輪を作った。


『ん? 何のジェスチャー?』


『鳥と、楽器と、輪……』


『あっ、「こいつも音楽隊に入れてやって」ってことじゃないか?』


『加入の推薦だw』


『マネージャー業まで始めた』


カナタ「え、ええ!? い、いいんですか!? というか、いいのかな!? モンスター……なのかな、あの子は!? でも、あの音は、正直、喉から手が出るほど……!!」


モク「……いい音は、正義」


ヒビキ「賛成〜!! あの子がいたら、うちの音楽、次の次元に行くよ!!」


テンマ「待て待て、飼えるのか? どこで? 誰が?」


 五人が、わいわいと議論を始めた。


 その間、虹色の鳥は、白い人型の隣で、みんなの楽器を、興味深そうに眺めていた。


『飼育問題、再びw』


『前例:坊主'z→あいつの家に委託』


『今回もその流れか?』


『いや、待てよ この鳥、敵対してないし、そもそも……』


『通い、でよくないか?』


『あっ』


ウタ「……ねえ、皆。この子、無理に連れて帰らなくても、いいんじゃないかな。……ここに、住んでるんだし。私たちが、ここに、通えば」


カナタ「……! それだ!! この広間を、セッション会場にすればいいんだ!! 定期的に来て、一緒に演奏する!! それなら、誰も無理しない!!」


『天才か』


『「音楽室に通う」の発想』


『鳥の生活圏を尊重するスタイル、好感度高い』


『ダンジョン五層に音楽室が誕生した瞬間』


 白い人型が、ぱちぱち、と拍手した。


 虹色の鳥も、尾羽を、りりん、と鳴らした。


 賛成、のようだった。


 その日、六人と一羽の、記念すべき初セッションが、日が暮れる(ダンジョンに日はないが)まで、続いた。


 最後の一曲が終わった時、広間には、温かい余韻だけが、残っていた。


カナタ「……最高でした。今日は、最高の日です。素材も採れて、新しい仲間もできて……」


テンマ「あの子の音、録音してあるから、家で解析する。あの音階、再現できたら、新しい楽器が作れるかもしれない」


ウタ「また来ようね〜。次は、新曲、持ってこよ〜♪」


 帰り支度をする五人に、白い人型は、タンバリンを、返そうとした。


 テンマが、首を横に振った。


テンマ「……それは、あんたのだ。持ってけ。次のセッションでも、頼むぜ、タンバリン担当」


 白い人型は、タンバリンを、胸に、抱えた。


 それから、深く、一礼した。


『タンバリン、正式支給w』


『音楽隊の六人目、正式加入である』


『wikiの所持品欄:タンバリン(New!)』


『所属欄も追加だな 「ダンジョン音楽隊(タンバリン)」』


『肩書きが増えていく』


 虹色の鳥が、りん、と一声、尾羽を鳴らして、六人を見送った。


 ゲートへの帰り道。


 白い人型は、列の最後尾で、タンバリンを、シャン、シャン、と鳴らしながら、歩いていた。


 いつもの、肩を揺らす歩き方で。


 心なしか、いつもより、楽しげに。


『楽しかったんだなあ』


『タンバリン鳴らしながら帰るの、遠足帰りの子供かよ』


『今日の配信、ずっと多幸感がすごかった』


『次回のセッション、絶対見に来るわ』


『あの虹色の鳥、名前つけないとな』


『尾羽が鳴るから……「スズネ」とか?』


『いいじゃん』


『次回、命名式もやってくれ』


『ダンジョン音楽隊、次回公演をお楽しみに』

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