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ダンジョン配信に映り込むピクトグラムの怪異になった  作者: 脳タリン


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第27話 これぞ冒険

「はぁーっはっはっは!! 諸君、おはよう!! 冒険の時間だ!!」


 帽子を目深に被り、革ジャケットを羽織った男が、腰に手を当てて仁王立ちしていた。


 背景は、蔦の絡んだ古代遺跡風のダンジョン、通称「遺構」の入口。


ジロー「『トレジャーハンター・ジロー』! 本日は遺構の未踏区画に挑む!! 狙うは最深部の宝物庫!! 過去、辿り着いた者、ゼロ!!」


『出た、自称トレジャーハンター』


『このダンジョン、罠の巣窟で有名なとこじゃん』


『帽子と革ジャン、完全に映画のあの人意識してるだろ』


『意識してるんじゃない、人生を捧げてるんだ』


『実力は本物なんだよな、この人』


『罠察知と回避だけなら国内トップクラス』


『戦闘は逃げ一択だけどな』


ジロー「言っておくが、俺は戦わない! トレジャーハンターの美学は『奪って、逃げる』!! では諸君、行ってくる!!」


 ジローが、遺構へ足を踏み入れた。


 その数歩後ろに――白い人型が、当たり前のように、ついて歩いていた。


『いるw』


『開始十秒で合流』


『検証チャンネルの時と同じ即行合流』


『今日は冒険についてく気だ』


『わくわくしてる歩き方してる』


 最初の通路。


 ジローは、床を見た瞬間、足を止めた。


ジロー「……ふむ。床石の色が、一枚だけ新しい。諸君、これは踏むと矢が出る床だ! 古典的!! だが古典こそ危険!!」


 ジローは、怪しい床石を、ひょいひょいと避けて進んだ。


 後ろの白い人型も、同じ石を、同じリズムで避けて続く。


 ――と、最後の一枚で、白い人型が、わざと、床石を、ちょん、と踏んだ。


 壁から、矢が、飛んだ。


 白い人型は、それを、ひょい、と首を傾げて躱した。


『踏んだwwww』


『わざと踏んで避けたww』


『危険を遊具にするな』


『矢、普通に本物だぞ』


『楽しんでやがる』


ジロー「ん? 今、矢の音がしたな? ……俺は踏んでないが……まあいい! 先へ進む!!」


 次の広間。


 ジローが中央の台座の宝石に手を伸ばした、瞬間。


 ゴゴゴ、と地響きがした。


ジロー「……この音は」


 広間の奥から、直径三メートルの巨岩が、転がってきた。


ジロー「岩ぁぁぁ!!! 知ってた!!! こういうダンジョンだ!!!」


 ジローが、走り出した。


 その真横に、白い人型が、並んだ。


 二人、全力疾走。


 背後から、巨岩。


『並走wwww』


『一緒に逃げてるww』


『定番シチュエーションすぎる』


『白いやつ、走りながらジローの方チラチラ見てる』


『「これこれ、これがやりたかった」みたいな走り方すな』


『楽しそうで何より』


ジロー「はっ、はっ、はっ……曲がり角ぉぉ!!」


 ジローが直角に曲がり、巨岩は直進して壁に激突、粉々に砕けた。


 ジローは、膝に手をついて、荒い息を吐いた。


ジロー「……ふう。危なかった。……ん? なんだろうな、さっきから」


 ジローは、隣の空間を、見た。


 何もない、隣を。


ジロー「……気のせいか? 誰かと、一緒に走ってた気がしたんだが。足音が、二人分あったような」


『気のせいじゃないぞ』


『二人分でした』


『教えてやりたいけど、この人コメント見る暇なさそうなんだよな』


『さっきから一回も画面確認してない』


『命がけだから当然なんだけどな』


 白い人型は、ジローの隣で、同じように膝に手をついて、息を整える仕草をしていた。


 息など、していないだろうに。


『息切れの真似してるw』


『一体感を大事にするタイプ』


『冒険仲間ムーブ』


 探索は続いた。


 水没した通路を泳ぎ、崩れる吊り橋を渡り、毒虫の巣を迂回する。


 そして、細い通路の先で、ジローの足元が、かこん、と沈んだ。


ジロー「……スイッチ」


 背後で、重い音がした。


 振り返ると、通路の両側の壁が、ゴゴゴ、と迫り出してきていた。


ジロー「壁ぇぇぇ!!! 挟む気か!!! 走れぇぇ!!!」


 全力疾走、二回目。


 迫る壁。狭まる通路。


 白い人型も、真横を並走する。


 途中、白い人型は、走りながら、壁と壁の間隔を手で測る仕草をした。


 ――ん、ちょっとまずいかも。


 そして、ジローの背中を、両手で、どん! と押した。


ジロー「うおっ!?」


 加速したジローの身体が、通路の出口へ、転がり出る。


 その直後、壁が、がしゃん! と閉じ合わさった。


 ジローの帽子のつばが、数ミリ、挟まれて千切れた。


ジロー「……あっぶねえええ!! 帽子が!! 俺の帽子のつばが!! ……いや、待て。今、誰かに押されたよな? 背中。確実に、押された」


『押されました』


『あの一押しがなかったら胴体が挟まれてた』


『帽子のつばで済んでよかったな』


『白いやつ、壁の隙間から後から普通に出てきたぞ』


『ぺらぺらだから挟まれないのかよw』


『薄型の利点』


ジロー「……ふ。ふふ。……なるほどな。諸君、どうやら今日の俺には……相棒がいるらしい!!」


 ジローは、帽子を被り直し、にやりと笑った。


ジロー「見えん! 聞こえん! だが分かる!! 二人分の足音、背中を押す手、隣にある気配!! トレジャーハンターの勘が告げている……今日の冒険は、一人じゃない!!」


『気づいたw』


『コメント見ずに勘だけで正解に辿り着いた』


『冒険者の勘、有能』


『白いやつ、隣で腕組んでうんうん頷いてる』


『「相棒」認定されて満更でもなさそう』


 最深部への、最後の関門。


 二つの崖の間に、底の見えない谷が、口を開けていた。


 幅、八メートル。


 橋は、とうの昔に朽ち果てている。


ジロー「……八メートル。助走をつけて、跳んで……届くか? いや、届かせる!! 宝はあの先だ!!」


『無茶だ!!』


『八メートルは人間の跳躍じゃない!!』


『世界記録でも超えられるか怪しいぞ!!』


『やめろジロー!!』


『あ、でも』


『相棒がいるんだよな、今日は』


 ジローは、後ろに大きく下がり、深呼吸をした。


ジロー「相棒! いるんだろ!? 俺は跳ぶ!! 足りない分は……頼んだ!!!」


 白い人型が、崖っぷちに移動し、腰を落として、両手を組んで構えた。


 ――踏み台、ここに用意。


『台作ったw』


『組体操の構え』


『意思疎通できてるww』


『見えてないのに連携が成立してる』


 ジローが、駆けた。


 全速力。


 崖っぷち、白い人型の組んだ手に、右足が、乗る。


ジロー「うおおおおおおお!!!」


 白い人型が、全力で、打ち上げた。


 ジローの身体が、宙を舞う。


 八メートルの谷の上を、革ジャケットをはためかせて、飛んでいく。


 ――届かない。


 放物線の頂点を過ぎ、対岸の縁まで、あと一メートル。


ジロー「(足りな……!!)」


 その時、ジローの襟首を、後ろから、ぐい、と掴む感触があった。


 白い人型が――ジローを打ち上げた直後に自分も跳躍し、空中でジローに追いつき、襟を掴んで、対岸へ向かって、投げ足していた。


 ジローの身体が、再加速する。


 対岸の縁に、指が、かかった。


ジロー「――届いたああああ!!!」


 よじ登る。


 その隣に、白い人型が、すたっ、と着地した。


『二段ジャンプwwww』


『空中で追いついて投げ足すな』


『物理法則どうなってんだ』


『諦めろ、あいつに物理を問うな』


『でもかっこよかった……』


『空中リレー、映画のワンシーンだった』


 ジローは、崖の縁で大の字になって、笑った。


ジロー「はっ……はははは!! 飛んだ!! 俺は飛んだぞ諸君!! いや、飛ばされた!! どっちでもいい!! これぞ!! これぞ冒険だ!!!」


『これぞ冒険!!』


『いいもん見てる』


『今日の配信、ずっと映画なんよ』


 そして、最深部。


 巨大な石の扉を押し開けた先に、それは、あった。


 小さな祭壇の上の、古びた宝箱。


 ジローは、罠の有無を入念に確かめてから、震える手で、蓋を開けた。


 中には――黄金の装飾が施された、古代の羅針盤。


ジロー「……美しい。到達者ゼロの宝物庫、その宝……古代羅針盤。……諸君、俺はやったぞ。いや……」


 ジローは、隣を見た。


 見えない、相棒のいる方を。


ジロー「……『俺たち』は、やった」


『相棒w』


『白いやつ、隣でサムズアップしてる』


『いい冒険だった……』


 帰り道は、行きに解除した罠の道を、二人で並んで歩いた。


 ジローは、上機嫌で、冒険譚を語り続けた。


ジロー「しかし諸君! 完璧な冒険だった! 罠! 巨岩! 迫る壁! 大跳躍! そして宝!! 映画なら満点だ!! ……ただ一つ! たった一つだけ、心残りがあるとすれば!!」


 ジローは、天を仰いだ。


ジロー「……美女が、ついてこないことだ!! 冒険の最後には美女だろう!! なぜ俺の冒険には美女がいないんだ!! いるのは見えない相棒だけ!! いや相棒には感謝してる!! してるが!! 美女ぉぉ!!!」


『wwwwww』


『最後の心残りそれかよ』


『贅沢言うな』


『命と宝が手に入っただろ』


『白いやつ、隣で肩をすくめてる』


『「それは俺の管轄外だ」って顔してる』


『顔はないけどな』


 その時、白い人型が、何かを思いついたように、ぽんと手を打った。


 そして、画面の外へ、すたすたと消えた。


『ん?』


『消えた』


『着替え?』


『まさか』


『いや、まさかな』


 戻ってきた白い人型は――


 スカートの図柄になっていた。


 トイレの表示などで見かける、あの、女性側のピクトグラムの姿だった。


『wwwwwwwwww』


『女性用ピクトグラムwwwww』


『美女(自称)』


『そういうことじゃないんよwww』


『需要と供給が絶妙に噛み合ってない』


『腹痛いww』


 スカート姿の白い人型は、ジローの隣に並び、澄まして歩き始めた。


 心なしか、歩き方も、しゃなり、としている。


ジロー「……ん? なんだ? コメント欄が今日一番の盛り上がりを見せているが……何かあったのか? 俺には何も見えんが……」


『何でもないぞ』


『君の願いは(形の上では)叶った』


『隣を見ても何も見えないのが救いだ』


『いや、逆に見せてやりたいw』


『冒険の最後に美女(ピクトグラム)を連れて帰る男』


ジロー「まあいい! 諸君、本日の冒険はここまで!! 次回、古代羅針盤が指し示す『次の遺構』へ挑む!! 相棒! 次も頼んだぞ!!」


 ジローが、見当違いの方向へ、拳を突き出した。


 スカート姿の白い人型は、しゃなりとした歩き方のまま、すす、と移動して、その拳に、こつん、と拳を合わせた。


『グータッチ(美女)』


『拳が男らしいんよw』


『スカートでグータッチするな』


『次回も同行確定らしい』


『冒険コンビ、結成である』


『wikiの交友関係欄:相棒(New!)』

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