第20話 あーもう、めちゃくちゃだよ
北関東、火山岩ダンジョン、十一層。
その大空洞に、三百を超える探索者が、集結していた。
「各パーティ、配置確認!」
「東班、位置につきました!」
「配信組は後方カメラの死角に入らないように!」
合同討伐作戦、当日。
目標は、この空洞に居座り続ける超大型個体――通称「山喰らい」。
体長四十メートル。岩の甲殻をまとった、六足の巨獣である。
『始まった』
『レイド戦だ!!』
『同時配信、四十枠あるらしいぞ』
『視点切り替えながら見てる』
『総視聴者数、百万超えてるって』
『半分くらいは「あれ」待ちだろ』
『言うな』
『いや、全スレで言われてるんだよなあ』
『「弱小・中堅の配信」「危機的状況」 条件は揃ってる』
『でも三百人いるからな 危機って言えるのか?』
作戦指揮官の声が、拡声器で響いた。
「これより、山喰らい討伐作戦を開始する! 第一波、前へ!!」
鬨の声が、上がりかけた。
その、瞬間だった。
――「「「「「コケコッコオオオオオオオオォォォォ!!!」」」」」
五羽分の鬨の声が、大空洞に、轟き渡った。
三百人が、一斉に固まった。
「「「「……は?」」」」
『キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!!!』
『来た来た来た来た!!!』
『開幕と同時wwww』
『鬨の声を上書きするなww』
『鶏側の開戦宣言』
『しかも声、多くなかったか今』
空洞の入口方向。
高台の岩の上に、それは、いた。
巨大なニワトリ。
――が、五羽。
横一列に並んだその中央、一際トサカの赤い一羽の背に、白い人型が跨っていた。
そして肩には――長い筒を、担いでいた。
『五羽!?!?』
『増えてる!!!』
『一羽じゃない!!』
『繁殖したのか!?』
『拾ってきたんだよまた!! どこかで!!』
『討伐推奨個体を五羽揃えるな!!』
『……おい、それより肩のあれ』
『筒』
『まさか』
『ロケットランチャーじゃねえか!!!!』
『!?!?!?』
『どこで手に入れたんだよ!!!』
『反則だろ流石に!!!』
『ダンジョン内で火器は効かな……効かないんじゃなかったっけ!?』
『ゲンさんの銃の前例があるんだよなあ』
『こいつら(ゲンさん含む)だけ別ルールで動いてない?』
四十の配信画面のうち、高台を画角に収めたカメラすべてに、その姿が映っていた。
視聴者には見える。
現地の三百人には、巨大ニワトリの群れしか見えない。
「お、おい、あのデカい鳥なんだ!? しかも五羽いるぞ!?」
「モンスターか!? 増援!? 敵の増援か!?」
「いや待て、真ん中のやつ……配信で見たことあるぞ。例の、ピクトグラムの」
「はねどりライダーか!! 群れになってる!!」
「本物!?」
現地が、ざわめきで割れた。
指揮官が拡声器を握り直す。
「そ、総員、目標に集中! 鳥は……鳥は、その、多分、味方だ!!」
『指揮官の苦渋の判断ww』
『「多分、味方だ」で三百人を納得させるな』
『作戦書のどこにも書いてない戦力(五羽)』
中央の一羽が、高台を蹴った。
残る四羽が、翼を広げて左右に展開する。
どっ、どっ、どっ、と地響きを立てて、編隊が戦場へ駆け下りていく。
山喰らいの六つの目が、接近する鳥たちを、捉えた。
巨体が、動く。
岩の甲殻に覆われた前脚が、大地を割りながら、先頭のニワトリへ振り下ろされ――
ニワトリは、羽ばたき一つで、それを飛び越えた。
そして、跳躍の頂点で。
背の上の白い人型が、ロケットランチャーの照準を、山喰らいの顔面に、合わせた。
発射。
白煙の尾を引いて、弾頭が飛ぶ。
着弾。
爆炎が、山喰らいの左目を包んだ。
――ギシャアアアアアアアァァァ!!!
四十メートルの巨体が、絶叫と共にのたうった。
『直撃wwwww』
『目に入った!!』
『開幕十秒で左目を潰したぞ!!』
『火器、普通に効いてるんだが!?』
『協会の発表とは何だったのか』
『あいつが使うと効くんだよ、多分そういうことなんだよ』
『理不尽』
「な、なんだ今の爆発!?」
「鳥が! 鳥が何かしたのか!?」
「違う、真ん中の鳥の上だ! 配信見ろ、鳥の上に例のやつが乗ってる!!」
「ロケランだ!! ロケラン担いでるらしい!!」
「らしいって何だよ!! 見えねえよ!!」
『現地の混乱www』
『「らしい」で戦況を把握する三百人』
『スマホで自分の配信のコメ欄見て戦場を理解する探索者たち、新時代すぎる』
指揮官が、拡声器を放り投げそうになりながら、叫んだ。
「こ、好機だ!! 目標は左目を損傷、注意があの鳥どもに向いている!! 総員、突撃いいいい!!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
三百人が、雪崩を打って駆け出した。
戦場は、そこから、混沌の坩堝と化した。
山喰らいの脚を、数十人がかりで攻める班。
甲殻の隙間に杭を打ち込む班。
その頭上を、五羽のニワトリが飛び交い、中央の一羽から白い人型が第二射、第三射を撃ち込んでいく。
爆炎。土煙。咆哮。鬨の声。
そして、時折響き渡る、場違いに晴れやかな五重奏の鶏の声。
『地獄と祭りが同時に起きてる』
『爆炎と血煙と鶏の声(五羽分)』
『まさに地獄だぜ』
『どの配信画面見ても画面の情報量が限界』
『четыре……もう何が何だか』
『海外ニキも混乱で母国語出てるぞ』
山喰らいの尻尾が、薙ぎ払われた。
回避が遅れた一班、五人が、まとめて吹き飛ばされる。
「西班がやられた!! 負傷者五名!!」
「衛生班、間に合わない、距離が――」
その声より早く、中央のニワトリが急降下していた。
負傷者たちの傍らに着地。
白い人型が、背から飛び降りる。
その姿は、空中で、白衣の医者に変わっていた。
『は?』
『今、空中で着替えたぞ』
『フレームアウトしてないのに!?』
『いや、した 今、岩の陰を通過した 一瞬だけ全カメラの死角になった』
『四十カメラの死角を計算して飛んでるのか!?』
『検証班が今日だけで一年分の仕事を抱えた』
医者となった白い人型が、負傷者五人に、次々と手を置いていく。
一人、二人、三人。
「……痛みが、消えた……?」
「立てる! おい、俺立てるぞ!!」
「今、誰かに触られなかったか!?」
五人が、戦線に復帰していく。
医者は、彼らの背中をぽんと押し出すと、指笛を吹く仕草をした。
音は、鳴らないはずだった。
だが、ニワトリには届いた。
――コケッ!!
急降下してきた背に、再び跨る。
その姿は、跨った瞬間、もう医者ではなくなっていた。
『治療班と砲撃班を一人で兼任するな』
『ワンオペすぎる』
『いや待て、よく見ろ』
『ん?』
『他の四羽、勝手に動いてないか?』
そう、コメントが流れた、その時。
二号機と呼ぶべき一羽が、戦場の一角に降り立った。
負傷から復帰したばかりの若い探索者――先日の、新人四人組の、ソウタの前だった。
上空の白い人型が、二号機の背中と、ソウタを、交互に指差した。
ソウタ「……え? え、俺?」
『!?』
『まさか』
『乗せる気か!?』
『ソウタ、抜擢されたぞ!!』
ソウタ「の、乗れって言ってます? これに? 俺が!?」
『言ってる』
『二号機が背中を低くして待ってる』
『行け!! ソウタ!!』
『はねどりライダー二号の誕生だ!!』
ソウタは、震えながら、巨大ニワトリの背によじ登った。
二号機が、跳んだ。
ソウタ「うわああああああああ!!!」
絶叫と共に、ソウタを乗せた二号機が戦場を駆ける。
上空の白い人型が方向を指示し、二号機が山喰らいの死角へ回り込む。
ソウタの位置からしか狙えない、甲殻の裂け目。
ソウタ「こ、ここ!? ここを刺せばいいんですね!? やってやる、やってやるぞおおお!!」
ソウタの剣が、裂け目に、深々と突き立った。
――ギシャアアアァァ!!
『入ったああああ!!』
『ソウタ、大金星!!』
『新人が超大型に有効打を入れたぞ!!』
『デビュー戦から何ヶ月だ? 大出世だよ』
『上空で白いやつが「よくやった」ってサムズアップしてる』
『師匠と弟子』
それを見ていた他の配信者たちが、騒ぎ出した。
「お、俺も乗りたい!!」
「次! 次、俺を乗せてくれ!!」
「鳥さん!! こっちです鳥さん!!」
『取り合いが始まったwww』
『戦場でタクシー待ちするな』
『大丈夫だ、あと三羽空いてる』
白い人型は、上空で少し考える素振りをして――乗せた。
五羽、フル稼働で、片っ端から乗せた。
一号機(トサカ最赤)は白い人型の専用機として砲撃支援。
二号機はソウタら攻撃役を甲殻の裂け目へ運び。
三号機は魔法使いを乗せて上空砲台と化し。
四号機は回復役を乗せて戦場を巡回する救護班となり。
五号機は、なぜか負傷者の搬送を覚え、器用にくちばしで襟首をくわえて衛生班まで運んだ。
『五羽で完全分業してるwwww』
『はねどり交通、路線が五つある』
『搬送専門機までいるのかよ』
『航空戦力と輸送網と救急体制を鶏五羽で確立するな』
『山喰らい側から見たら悪夢だろ』
『どこからでも攻撃が来る しかも幸せそうな鶏の声が五重奏』
『めちゃくちゃだよ』
『あーもう、めちゃくちゃだよ』
一時間後。
満身創痍の山喰らいが、ついに、六本の脚を折った。
大地が、揺れた。
「今だ!! 総攻撃いいいい!!!」
三百人の、最後の突撃。
その頭上を、五羽が編隊を組んで飛ぶ。
先頭の一号機には白い人型と、最後の乗客としてもう一度抜擢されたソウタ。
白い人型のロケットランチャー、最後の一発と。
ソウタの、渾身の一太刀が。
同時に、山喰らいの眉間に、叩き込まれた。
爆炎。
沈黙。
四十メートルの巨体が、ゆっくりと、大地に沈んだ。
一秒の静寂。
そして。
「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」
三百人の雄叫びと。
――「「「「「コケコッコオオオオオオオオォォォ!!!」」」」」
五羽の勝ち鬨が、大空洞を揺らした。
『討伐完了!!!』
『やったあああああ!!』
『歴史的瞬間だ!!』
『総視聴者数、今、二百三十万』
『とんでもないもん見た』
『最後の同時攻撃、映画かよ』
戦場のあちこちで、探索者たちが抱き合い、座り込み、泣き、笑っていた。
その中心で、一号機から降ろされたソウタが、腰を抜かしていた。
ソウタ「……お、降ろされました。……夢じゃないですよね、これ。俺、今日、超大型に、とどめの一撃……」
『現実だ』
『お前がやったんだよ』
『正確には三百人と一体と五羽でやった』
『名誉ライダーの称号を授けよう』
白い人型は、一号機の首を撫でながら、戦場を見渡していた。
残る四羽は、その周りに集まって、羽づくろいを始めている。
それから、白い人型は負傷者の元を順に回り始めた。
白衣に変わり、一人ずつ、手を置いていく。
派手な戦いの後の、地味で、丁寧な仕事だった。
五号機が、その後ろを付いて回り、治療待ちの負傷者を、せっせと運んでは並べた。
『最後はちゃんと治療して回るんだよな』
『ロケラン撃ってた奴と同一人物とは思えない献身』
『どっちも本物なんだよ』
『五号機が患者を整列させていくの、有能すぎて笑う』
『トリアージ(物理)』
全員の治療が終わる頃、指揮官が、白い人型のいるあたり――配信画面を確認しながら、おおよその方向へ――歩み寄った。
そして、直立し、敬礼した。
「……何者かは、知らん。だが、本日の作戦成功は、貴殿と、その、鳥殿……鳥諸君の働きによるところが大きい。作戦指揮官として、礼を言う」
白い人型は、居住まいを正し、敬礼を返した。
例の、西部劇の気取ったやつではなく、今度はちゃんとした、まっすぐな敬礼だった。
五羽も、心なしか、胸を張って整列していた。
『敬礼返した』
『ちゃんとした方の敬礼だ』
『使い分けてるのかよw』
『相手が真剣だと真剣に返すんだよな、あいつ』
『五羽も整列してるの何なんだw』
『躾が行き届いてる』
白い人型が、一号機に跨る。
残る四羽が、その後ろに縦列で並んだ。
三百人が、自然と、道を開けた。
その花道の中を、一人と五羽が、隊列を組んで歩いていく。
誰かが、拍手を始めた。
拍手は、波のように広がって、大空洞を満たした。
五羽が、照れたように、トサカを揺らした。
――「「「「「コケッ」」」」」
そして、一人と五羽は、駆け出し、通路の暗がりへと消えていった。
『行った……』
『大団円だ』
『今日のまとめ:超大型討伐、死者ゼロ、重傷者ゼロ(全員治療済み)』
『死者ゼロって、この規模のレイドじゃありえないんだぞ本来』
『あいつと鶏たちのおかげだ』
『協会は今日の報告書どう書くんだろうな』
『「正体不明の白色人型及び大型鶏五羽の支援を受け」って書くしかない』
『書類が怪文書になる』
『検証班より速報:空中着替えの瞬間、全カメラ確認したが、やはり0.3秒だけ全画角の死角を通ってた』
『計算してやってるのかよ……』
『あいつの謎、また増えたな』
『いつものことだ』
『wikiのペット欄、更新な』
『「ニワトリ(生体)×5」』
『いつの間に四羽増えたんだ問題は未解決のまま』
『多分また「保護」したんだろ』
『協会の討伐推奨リスト、五件分あいつの家にいる』
『切り抜きタイトル、投票の結果決まりました』
『「あーもう、めちゃくちゃだよ」』
『満場一致で草』
あー楽しかった




